可愛いのはどっち? 01
とある夏の日。
久しぶりのオフ日。天気は快晴。

「今年の最高気温です。熱中症にお気をつけください」

今年最高気温って、昨日も聞いたわ!
そんな悪態をつく。せっかくのデートが潰れたのも、早起きする羽目になったのも全てはあいつのせい。





部活後の更衣室。

「やっと明日から休みだ〜。といっても2日だけど!みんななんか予定あるの?」

「名前とデート」

「うっざ。はいマッキーはもう黙ってー。まっつんは?」

はあ?理不尽じゃね?自分は振られたからって。

「特にやることもないし家にいるかな」

「えーつまんない。みんなでどっか行こうよ!」

でた、及川本当そういうとこだよな。

「だーかーら、デートだって言ってんだろ」

「名前ちゃんも一緒に行けばいいじゃん!最初から誘うつもりだったし」

せっかくだしいいじゃん、か
面倒くさい、かだな。後者であってほしい。

「分かった、聞くだけ聞いとくわ」

「やったー!ちなみに金田一と国見ちゃんは強制参加ね」

「えっ、あっ、はい!」

「げ、最悪」

かわいそうな後輩たちよ…

「名前さんが行くなら俺も行きたいです!」

「おい、矢巾。それはどういう意味かな〜?」

「あ。ほら!女子がいたらテンション上がるじゃないですか!」

最近名前に懐いていて彼氏としては気が気でない。
名前も矢巾がお気に入りで可愛がってるし、矢巾も行くなら行くって言いそうだな…

「じゃあ、岩ちゃん、まっつん、金田一、国見ちゃん、矢巾、マッキーはちゃんと名前ちゃん連れてきてね!8時に駅で!」


その日の帰り道、名前に話をしたら即答だった。
1.2年を含めた面子で遊びに行くことはなかったし、矢巾も来るなら。と。矢巾が決め手っぽいのが少しムカつく。

そして冒頭に戻るというわけだ。

家まで迎えに行くため待ち合わせより40分ほど早く出た。
名前の家は俺の家と駅を挟んで反対側で、駅までの通り道というわけでもない。わざわざ来なくていいと言われたが、デートを潰されのだから二人きりの時間が欲しいと思うのが普通じゃないのか?

歩いて20分。待ち合わせ場所の駅を素通りして着いた名前の家のインターホンを鳴らす。

「はーい」

すぐにドアが開いて彼女が顔を出した。

「チェーンくらいかけとけよ、不審者だったらどうすんだよ」

「はいはい、早く行こ?」

首を傾げて上目遣いで手を出す名前。
あー、もう何なの可愛すぎかよ。
よく見ると服もいつものデートと同じくらい気合いが入っているようだ。メイクも髪も。
今日のそれは誰のため?

普段の部活ではマネ業をほとんど一人でこなしてるだけあり、どちらかというと男勝りで後輩から慕われる姉御肌な名前。でも2人きりの時は甘えたりふにゃっと笑ったり"女の子"な部分が多い。

デートモードなのは嬉しいが合流した後はマネの名前でいてほしい。俺のただの独占欲。

そんなことを差し出された手を握ったまま考えじっと見つめていると

「駅までデート、でしょ?」

なんて腕を引っ張られて俺の考えは筒抜けってわけか。

俺の足で歩いて10分、名前の足でも15分あれば着くであろう駅までの道のり。
いつもより少し遅く感じる足。彼女もこの時間が終わるのを名残惜しいと思ってくれてるのだろうか。

たわいもない話をしながら歩けば15分なんてあっという間で駅に着いてしまった。
顔を見合わせてお互いにへらりと笑い繋いでいた手を離す。

「行こっか」

「おう」

余裕を持って出たはずなのに気づけば待ち合わせギリギリ。及川たちを見つけて足を向ける。すでに全員揃っているようだ。

「ごめんね、遅くなっちゃった」

「あれ、2人一緒に来たの?家逆だよね?」

「いいだろ別に、誰かさんにデート潰されたんだから」

「ラブラブで何よりですー」




今日は少し遠出をして大型の遊園地に行くらしい。

一つ空いていた座席に名前を座らせてその前に7人並ぶ。はたから見たら異様な光景だろう。180cm越えのが男7人。いや、6人いるのだから。
当たり前のように名前の正面をキープする俺と、当たり前のように名前の正面に立とうとする矢巾。

「名前さんいつもより可愛いっすね!いつも可愛いけど!惚れ直しました!」

「はいはい、ありがと。矢巾もその帽子すごい可愛いね。似合ってる」

「あざっす!」

目の前に俺がいるのに隣の矢巾と話をする彼女。
先輩後輩だから話すのも当たり前。こんなことで妬くなんてらしくないな。さっきまでは二人の時間だった分彼女を取られてしまった感じがした。

結局現地に着くまで矢巾にとられたまま。
駅からの道も8人いると自然に2人ずつに分かれるわけで。

「なんでお前なんだよ…」

俺の隣にいるのは名前…ではなくて松川。

「なんだよ花巻くんヒドイナー。名前ちゃんまた取られたからって」

「またってなんだよ」

「電車でも矢巾に取られっぱなしだったもんなー?」

「見てたのかよ…お前本当たち悪いな」

「一静くんが慰めてあげよっか?」

「うっせ」

部活の時は気にならないのにオフだとどうしてこうも嫉妬してしまうのだろうか。
全員絶叫系や回転系は平気だったため
ジェットコースター、バイキング、フリーホール、コーヒーカップなどに乗った。主に松川とペアで。
そろそろ昼飯にしようという話になりフードコートに入った。
せめて今だけでも!と思い素早く名前の隣に腰掛ける。おい、松川ニヤニヤしてんじゃねえよ。
隣に座ったのはいいものの正面にいるのは…矢巾。また矢巾。くっついてきやがって、金魚のフンかよ。
俺がイライラしていてるのを察したのか否か。

「マッキーと名前ちゃん何食べる?買ってくるから荷物見ておいて」

「私も行くよ」

「ほらほら。いいから、ね?」

立ち上がった名前を座らせて、こちらを見てウインクをひとつ寄こす及川。いいとこあるじゃん。

「さんきゅ、じゃあ頼むわ」

「はいはい。ちゃんと機嫌直すんだよ〜」

余計なこと言うなよ。と思いながらもう一度軽くお礼を言った。

「機嫌直すって?」

「拗ねてんだよ」

俺の言葉にキョトンとする名前。

「お前と矢巾が仲よすぎて拗ねてんの。全然構ってくれねぇし」

「え。マジで?」

「マジです。今日デートの予定だったのに潰されたし、部活の奴らとなのに普通にデート服着てくるし、可愛いし。その上矢巾に取られるしで妬きまくりなんですけど」

「えっと…?」

明らかに困惑している名前。まあ普段こんなこと言わないしな。

「後半はもっと構ってください」

「わ、分かりました…!」

「あらら〜俺らお邪魔かな?」

ちょうどいいタイミングで及川たちが帰ってきた。

「おー、やっと取り返せたのな」

「まーな、おかげさまで」

ニヤニヤしている松川と、なんか取られたのか?と何もわかっていない岩泉。

「じゃ、飯食うか」




愛しの彼女を取り返したところで。
後半戦と行きますか。


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