n回目の正直は君の体温
何度目かの合同合宿。

「赤葦さん、好きです」

何度目か分からない告白。

「うん。ありがとう、ごめんね」

何度目か分からない失恋。





「はぁ〜……」

このため息も何度吐いたことか。

「あ〜ら名前ちゃんまたやったの〜?」

「うるさいです。クロさんには関係ないでしょ!」

「赤葦のどこがいいんだか。俺の方がいい男じゃん?」

赤葦さんのどこがいいかなんて。
感情が顔にでる方ではないけどバレーをしてる時の真剣な顔。後輩を見る優しい目。ずっと見ていたからわかる表情の変化。どれもかっこよくて。

「わかってもらわなくて結構です。そういうこと言うから彼女できないんですよ!」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

音駒のマネージャーになって初めての合宿で赤葦さんに一目惚れして、少しずつ距離を縮めて何度も告白したけれど返事はいつも同じで。

「本当こりねぇのな。ま、頑張れよ。いつか報われる」

「なんですか急に、変なクロさん」







試合と試合の間。梟谷と森然の試合。
ああ、かっこいい……。トスを上げる時の手とか動きとか全部が綺麗。
他の人とは明らかに見ている場所が違う私。
音駒の試合中はスコアを取っているため他の試合は見ることができない。
見れるうちに目に焼き付けとかないと!
そう思い座り直して前かがみになった。

「見過ぎ。穴あきそう」

「だって試合見る機会なんてないじゃないですか!ゲームばっかりやってる研磨さんにはわからないですよ!」

「あ、こっち見た」

「えっ!」

「嘘だよ」

「最っ低!」

最近私の赤葦さんへの好意がネタにされてる気がする……。私は本気なのに!



試合が終わって赤葦さんにタオルを渡しに行く。
梟谷マネさん公認なので問題はない、はず。

「お疲れ様です……!使ってください!」

自分から行くくせに照れは隠せなくて、精一杯の好きを込めてタオルを渡す。

「あー……ありがとう。なんか、すごい視線感じるんだけど……」

「え?」

振り向くとそこにはニヤついている野良猫たち。
彼らは茶化さずにはいられないのだろうか。

「早く戻った方がいいんじゃない?」

「そんなに私と話すの嫌ですか……?」

この後は自主練で、私もやることがあるためもう今日は会えない。少しでも長く一緒にいたい。たとえ二人きりでなくても。でもそう思ってるのは私だけなんだ。完全にネガティブモード。

「なんでそう思うの?」

「だって……」

「ほら、保護者たちが待ってるから行っておいで」

両肩を掴まれて体を回された。目の前には見慣れた顔。

「おやすみ」

肩に触れられたことに驚いて突っ立っていると
挨拶とともに頭を撫でられた。
驚きで一瞬固まり、すぐに振り返ったが見えたのは大好きな彼の後ろ姿。


周りの視線もあり、耐えられなくなってその場にしゃがみ込んだ。
今、絶対顔赤い。彼は本当にずるい男だ。
私の告白はいつも笑って謝るくせに。
期待させるようなことして、それでも振り向いてはくれない。

普段なら舞い上がるところだけどあいにく今日はネガティブモード。マイナスな考えしか出てこない。
遊ばれてるのかな。赤葦さんはそんなことする人じゃない、と思ってるけど…。
こんなところで泣いちゃダメだ。
とりあえず部屋に…。
立ち上がったが時すでに遅し。涙がこぼれた。


どうしたの!とか大丈夫?!とか色々声かけられたけど無視して急ぎ足で体育館を出るとすぐに人にぶつかった。

「わっ、すみません……!」

顔を上げて謝るとぶつかったのは赤葦さんで。

「いや、こっちこそごめん。……どうしたの?」

「な、何でもないです。おやすみなさい」

早口でそう言って横を通り過ぎた。はずだった。

「待って!」

腕を掴まれてそのまま引っ張られ、後ろから抱きしめられる。

「なん、ですか?」

「俺のせいだよね」

自覚してたんだ。私のこと弄んでたんだ。
なんて惨めなんだろう。

「ごめん。本当にごめん」

「謝らないでください。惨めになるだけですから」

腕が緩められてさっきと同じように反転させられた。いつもと違う顔。赤葦さんの初めて見る表情。

「そうじゃなくて。ちゃんと気持ち伝えてあげられなくてごめん」

気持ち?気持ちなら何度も聞いた。ありがとう、ごめんなさいって。

「名前ちゃんが初めて告白してくれた時は正直なんとも思ってなかったけど、マネージャー頑張ってる姿とか、俺のこと必死に追いかけてくれてる姿とか見てたらさ」

その先なんて聞かなくても分かる。
嫌でも期待しちゃうじゃん。

「気づいたら好きになってた」

やっぱり。予想通り。

「俺と付き合ってくれませんか?」

予想通りだけど。予想外で。

「本当に私なんかでいいんですか…?」

「もちろん。名前ちゃんがいいなら、だけど」

うまい返しなんてできないし、どう反応していいのかわからない。

「はい。よろしくお願いします」

ありきたりなセリフを吐いて
一歩近づきゆっくり彼の背中に腕を回す。

「赤葦さん、好きです」

「うん。ありがとう」

「続きは?」

「ごめんね、遅くなって。好きだよ」


何度も繰り返した告白は
彼の1回によって終わりを遂げた。
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