未来の司令塔
青城のマネージャーを始めて3年目。
可愛い後輩もいっぱいできた。
特に最近のお気に入りは…
「名前さん!おはようございます!今日も可愛いですね!」
「はいはい、ありがとう」
矢巾秀。2年生のセッターだ。
ベンチ入りはしているけれどレギュラーにはあと一歩ってところ。
毎日きゃんきゃん言いながらついてきて犬みたいでとても可愛い。
マネージャーは私一人だけだから仕事がとても多い。中でも一番大変なのはドリンク。濃度調整もそうだが運ぶのが一番労力を使う。
「名前さん、手伝いますよ」
そう声をかけてきたのは今私の中で話題の矢巾。
「ありがとう。練習は?」
「ちょっと不調で…」
ははん。そういうことね。
「逃げてきたんだ?」
「別に逃げたわけじゃ…!」
「私でよければ話聞くけど?」
「……はい」
「じゃあとりあえずこれ持って。ほら、行くよ」
ドリンクを運び終えると休憩時間になった。
体育館外の人気のない場所に二人で腰を掛ける。
「で?どうしたの?」
「あの…」
まだ2年になったばかりだというのに、来年のことを考えて不安になったらしい。及川がいなくなったらあの場所に自分が立つことになる。自分には後釜なんてできない。
彼の口から出てくる言葉は普段の明るさからは考えられない後ろ向きな言葉ばかりだった。
「あと1年しかないのに、俺どうすれば…」
「まだ、1年もあるんだよ?確かに今の矢巾じゃ及川の代わりなんてできない」
そんなの、当たり前じゃん。
「えっ」
「でも1年もあるんだから。アドバイスもらえるのも今のうち。しっかり背中見てたくさん吸収しな。それと、弱音吐いてる暇あるなら練習。努力は裏切らない。うちの主将見てればわかるでしょ?」
「……はい。ありがとうございます」
「今しかできないことやればいいと思うよ」
そう言って彼を見るとスッキリした表情をしていた。
「名前さんに相談してよかったです。練習戻りますね!また話聞いてください!」
「私でよければいつでもどうぞ、頑張ってね」
嬉々として戻っていった矢巾に私も嬉しくなった。
「名前ちゃん矢巾に何いったの?休憩前とまるで別人なんだけど」
「ちょっとしたアドバイス?色々抱え込んでたみたい」
「なんで名前ちゃんなの?!相談なら俺にすればいいのに矢巾も水臭いな〜」
あんな相談、及川にはできないと思うけど。
「ほら矢巾私のこと大好きだから」
「納得いかん!」
プンスカしてる及川を放置して矢巾を見るとさっきとは本当に別人のように気合の入った顔で練習に励んでいた。
これからも期待してるぞ。未来の司令塔。