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▼ ずるい人:刀剣 現代 乱藤四郎※成長しています

「乱くん」
「なあにアキちゃん?」

大学のカフェテラス。友達の乱くんと並んで、今週提出のレポートに取り組んでいた。
その乱くんは早々に書き上げてしまい、私を待っている状態なのだが。

「ここちょっとわかんない」
「あーこれはね、こっちの本の解説のがわかりやすいし、レポートに入れやすいかもね」
「ん、わかった。ありがとう」

お代はチョコレートね、とルーズリーフと文献の散乱する机の上、いっしょくたに置きっぱなしになっていたチョコレートを、乱くんはキレイな手で一つ詰まんで、形の良い口の中に放り込む。

少し前、大学の授業にうまく着いていけず、困っていたところを助けてくれたのが乱くんだった。
以来、目が話せないだとかなんだかで、友達になってくれてよく一緒にいる。

乱くんは見た目がとても女性的なのに、時々見せるしぐさがちゃんと男の人だった。いい人なんだけれど、そのギャップにたまにどぎまぎしてしまう。
そのことを前にぽつりと話せば、驚かれた後お礼を言われた。嬉しかったらしい。
なんでも、自分の兄弟達のがモテるから自分は橋渡し役が多かった、とか見た目がこんなだからいい人どまりだった、というのだ。

そう言えば私は“乱くん”と呼ぶものの、周りは男女関係なく“乱ちゃん”と呼んでいる。
そういうところなんだろうか。

ふと思って、さっき貰ったアドバイスを参考にレポートを書き上げたあと、私は改めて乱くんを観察してみた。

乱くんは見た目がこんな、というものの、手入れの行き届いた長い髪は、枝毛なんてなくてツヤ(天使の輪がある!)と清潔感があるし、身長はやっぱり男の人だし高い。
イケメンだけど身長がちょっと低いよね、なんていう現代にありがちな一言なんて飛び出てこないくらいには背が高い。
頭一個分は確実に差がある。私チビだからうらやましい。

顔は女性的だし、話す内容も正直女の子の友達と話してることとあんまり変わらないときもあるけれど、授業中の真剣な横顔はやっぱり男の人でかっこいい。
手だって私のふくふくした手なんかより皮が厚くて、意外とタコがある。
前に剣道してたって言ってたから、剣ダコってやつなんだろう。
努力の証に感銘をお受けた覚えがある。
今はまだ肌寒い季節だからわからないけど、長袖の下はきっと筋肉むきむきなんだろうな。

視線に気がついたのか、乱くんはクスッと笑って何?と聞いてきた。
なんでもないよ。
じろじろと観察してました、なんて本人に言えるわけがない。

「あ、アキちゃん今日は暇?」
「うん。今日の授業はもうないよ」
「じゃあさ、この後お茶でもどう?大学の近くでおいしいカフェ見つけたんだ!」
「ホント?行きたい!」

じゃあ決まりだね、ぱちりと手を合わせて笑う彼は私なんかよりずっとかわいらしい。
早速、と手早く荷物をまとめて、彼のエスコートで大学を出る。
はにかむ彼はどこまでもかっこよくて可愛い。
車道側に行かせないように、さりげなく誘導してくれたのもまたかっこいい。本人に言えば、当たり前だよ、と笑うのだからイケメンである。あれ?私乱くんのこと褒めてばっかりだ。

「お、乱じゃねえか」
「薬研」

たどり着いた先で、藤色の目をしたイケメンに会った。
どうやら乱くんのお知り合いらしい。初めまして、と会釈をしたあと乱くんの背に隠されてしまったので薬研さん?はよく見えない。
パッと見て黒っぽいパキッとした服を着ていたし、聞こえる声からして、乱くんより男の人って感じの人のようだ。
ぼーっとしていたら、もう薬研たら!と乱くんがぷりぷり怒りだした。乱くんの後ろからそっとうかがえば、薬研さんがくつくつ笑っている。イケメンだ。眼福ってきっとこういうことなんだろうな。
覗き込んでいたことも忘れて、ぼけっとしていたら、薬研さんと目があった。

「アキさん?だったか?デートの邪魔して悪かったな」
「薬研!」
「あ、いえ」

怒るなよ乱、と言いながら近づいてきた薬研さんは、カバンから何かを取り出して私に差し出した。
よく見れとそれは、かわいらしいケーキのデザインされたチケット2枚。
なかなか手を出さない私にしびれを切らしたのか、薬研さんは子どもにしてやるようにチケットを手に握らせ、あそこ、と近くの店を指さした。

「俺っちはそこの店でバイトしてるんだ。乱から聞いたんだが行く予定だったんだろ?邪魔した詫びに、そのチケット使って新作のケーキ食べて行ってくれや」

俺っちは甘いものは得意じゃないし、もともとそれは乱にやるつもりだったしな。今日じゃなくても、いつぞや使ってくれりゃあそれでいい。
ニッと笑ってじゃあな、と薬研さんは行ってしまった。颯爽と歩き去る彼は、乱くんとは別系統のイケメンだな。
しっかし良いものもらった、とほくほくと持たされた幸せなチケットを改めて見直した後、しっかりと握る。
ケーキセットだって!素敵すぎるよね。

「乱くん行こう、ケーキが待ってるよ」

手をつないで引っ張れば、恐らく目的だったカフェを目前にして、乱くんはうつむいたまま動かない。

「、、行きたくない」

あれ?
とても暗い声だ。先ほどまでと全然違う。

「?どうして」
「、、、、、アキも、薬研がいい?」
「何が」
「僕より、薬研のほうが好き?」

うつむいていて顔が見えない。覗き込んでみれば、なんだかさみしそうな顔をしている。
さっきまで元気に薬研さんに怒っていたのに、どうしたんだろう。

「なんで?薬研?さん?のこと私よく知らないし」
「、、、チケット、嬉しそうだし」

幸せそうに見えたんだ。いつもそうだ、僕の友達は薬研や一兄達のことが好きになって、僕のことなんか、、、、聞き取れたのはこのくらいだが、乱くんはなんだか鬱モードなのはわかる。
私がチケットを喜んだのが原因?なのかな?
そりゃ嬉しいでしょ。新作ケーキのケーキセットなんだ。

「そりゃ嬉しいよ。甘いもの好きだし。
それに新作ケーキ、苺とかベリー系メインのケーキみたいだよ。
乱くん、この間ベリー系好きって言ってたよね?」
「?う、うん、、、」
「私甘いものなら何でも好きだから、特にケーキに好みとかないんだけど、乱くんが好きなものだなって思ったら嬉しくて。
きっと乱くんの好きなものだから、薬研さんは得意じゃない甘いもののチケットをわざわざ取っててくれたんでしょ?
薬研さんていい人なのね」

ぽかん、とする乱くん。
そのあと顔を覆ってへなへなとしゃがみこんでしまった。

え、私なんか変なこと言っただろうか。乱くん?と呼んでみても反応がない。

しゃがんで覗き込んでみれば乱くんと目があって、アキはずるい、と言われた。
ずるい?ずるいのは乱くんだ。
いつでもかっこよくて、今はこんなにかわいい。
だから私はいつでも、今だってドキドキしている。

だから今日は。

またとない機会のようだしお返しだ。
乱くんは耳まで真っ赤にしてくれて、ちょっと期待していいんだろう。
自意識過剰かもしれないが、どうも薬研さんにヤキモチやいてくれたみたいだし。
うん、期待しよう。
いつもずるい乱くんの頬の赤がひかないように、畳み掛けてやるんだ。
今日の私は意地悪さんになるのだ。好きだって言ってやるのだ。

そう思って一緒にしゃがみこみ、そっとそれを囁いた私が、乱くんに抱き込まれる、なんて逆襲に合うまであともう少し。
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