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▼ 再会して:幕間

あの後。
ポアロでの勤務を終えた相棒は、本当になんの手がかりもない状態で、適当な喫茶店に入って時間をつぶしていた私を見つけ出した。
改めてしげしげと相棒を観察していた私に対し、相棒は感極まる何かがあったのかだぱっと涙を流し始め、私が慌てる一幕があったのは彼の愛嬌というやつであろう、きっと。

所変わって、現在位置は私のお城。
中古で買った、庭付きの戸建だ。
一番近いバス亭が徒歩で40分先という都内にしては交通の便がいまいち良くないのと、そこそこ築年数がいっているためにかなり安く購入できた、正真正銘の私の物である。
それも縁あってのことだから、今生も恵まれている。
、、、本当は相棒を迎えに行くのには身軽な方がいいかと思っていたのだが、他に買い取り手がいないと売り手に涙ながらに言われたのだからしょうがない。
その相棒も、都内で見つけられたのだから結果オーライである。

「和風建築、、」

そして道中涙目で、むしろほとんど泣いていると言っても過言ではなかった相棒が、我が家を見て涙を引っ込め目を輝かせているので、やっぱり買ってよかったと思うのだ。

「この家を建てた方が宮大工さんに本当はお願いしたかったそうだけど、さすがに無理だったからせめて和風ごりごりにしたんだそうだよ。
まあ、それだけだと現代生活じゃ困るから、中は所々洋風だけどね。
さ、入った入った」
「お邪魔します、、、」
「お茶いれてくるから、適当に座って待ってて」
「はい」

リビングに迎え入れれば、相棒はさっそく吹き抜けになって梁がむき出しになっている天井に目を奪われている。
古民家カフェのようと言えば分かりやすいだろうか。リビングは畳ではなく黒っぽい材木を使用した板張りだ。
頭上に露出した梁の、本来囲炉裏の鍋釣りがある場所には竹籠の照明、真下には4人は席に付ける大きなローテーブルがある。冬には炬燵になるタイプである。やはり日本人たるもの外せないと思っているので。
そのローテーブルの周囲にいろんな種類の座布団が置いてあるのは、数年前に私が拾った同居人のせいだ。ふかふかだったり、畳っぽいものだったり、本当に様々だ。

そしてこれらの側に私の安住安息の地、人をダメにする大型クッションが鎮座している。

正直原色チカチカのこれのせいで、和風の雰囲気はぶち壊しである。
ちょくちょく同居人もカラカラ笑うが、その同居人もこのクッションの魔力に引っ掛かっていることを知っているので同罪である。
寝心地がいいんだからいいじゃないか。

天井からようやっと目を離して、物珍しげに室内をキョロキョロするなかでやはりそれが目に入ったのか、スン、とチベスナ顔になった相棒を放置して今度こそお茶の準備をする。
最近お気に入りの茶葉を用意してリビングに向かえば、そこには大型クッションに沈む相棒がいた。

「お茶が入ったよ」
「ん、これいい」
「やばいでしょそれ。展示にたまたま遭遇して即決しちゃった」
「んんん、溶ける」
「そのまま寝る?」
「やだ、起きる。、、、立てない」

腕や足にに力を込めても、ずぶずぶと沈んでいくのがこのクッションである。
つまりどんなに立とうと力を入れても、入れた傍からクッションに沈んでいく。結果、体勢にそれほどの変化がないくせに、各所力を込めているせいで疲れるという、よくわからない現象がおこる。

「私もいつも立てない。転がり落ちるのが正しい起き方なのかねー」

言われてクッションからころんと転がり落ちた後、のっそりと起き上がった相棒は、名残惜しげにクッションを一撫でしてから私の横に並んでテーブルについた。向かい合わせではないのは昔からの習慣だ。

「さて、まず自己紹介といこうか。私は花笠アキ。歳は今26。誕生日が年の瀬の方でね、今年で27になるよ」
「私は、降谷零。ただ、訳あって外では安室透と名乗っています。歳は29です」

お茶を渡しつつ、簡単に自己紹介したところ、相棒の方が年上だと発覚した。
確かに前の時も、私より生きた年数は少し上だったけれど、見た目はこれまで小さかったイメージしかないので、見た目も年齢も上というのはとても不思議な気分だ。

「訳あっての部分は聞いていいの?」
「今は、就いている仕事のためと」

つまりそれ以上は聞いてくれるなということらしい。

「わかった。呼び名は安室さんがよい?」
「、、、できれば、二人のときは零と呼んでほしいです」
「了解、零。じゃあお外では、安室さんか、透くんって呼ぶね」
「ありがとうございます」
「私のことは適当に呼んで」
「主上」
「却下」
「、、、適当にって言ったじゃないか」
「怪しさ満点の呼称をスルーできるほどぶっ飛んじゃいないつもりだけど」

分かってて言ってるでしょう、と言えば、ぐ、と詰まる相棒。

「いいじゃないか、今だって貴女は私の」
「零。ダメだ」
「っどうして」

どうしてだなんて、そんなこと。

「今の私たちは王と麒麟ではないし、もちろん主従関係ではない。
同じ人だ。
何だったら、君の方が年上だから、本来私が君に敬語を使うべきだ」
「!?いやだ!」

嫌々と良い体格の大人がぶんぶん頭を振っているのは、前の生に心が引きずられているせいなのか。
私とは1000年の付き合いなのだから、致し方ないといえば致し方ないけれども。

「そう言うと思って、あの頃と態度を変えなかったでしょうが」
「うう、、」

がっくりと肩を落としながらも、じとっと見てくる相棒に嘆息しながら、大体と続ける。

「私が観念するのが治世500年より後だったからとはいえ、あちらで君とは恋仲だったでしょう。
今生その関係を持ち出すつもりはなかったけれど、君がそんな風なら言うけどさ」

私たちにとっては今更、なのだけれども、言わねばこの相棒はわからないらしいので。
それでも少々小っ恥ずかしいから、ずずずとお茶をすすって、そっぽを向いて。

「あちらでは恋仲になっても、立場上君は私の横じゃなくて必ず一歩後ろに控えなくてはならなかったのに、そのしがらみがなくなった今でも、君は私の横に立ってはくれないの?」
「っしゅ、主上!!」

ちょっと拗ねてもいるので、むすっと不満をぶつけてやれば、相棒は感極まったように抱き着いてきた。
だから、主上って呼ぶな馬鹿者。
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