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▼ 杖を振ったらゴリラが出た(クロスオーバー:探偵×魔法)

※魔法と探偵のクロスオーバー。
うろ覚え知識で書いておりますので、そんな雰囲気でお楽しみください。
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エクスペクト・パトローナム。

基本的には対吸魂鬼用の呪文で、己の守護霊を呼び出すことができる。
人によってその姿は様々だが、基本的には動物の姿とされ、鹿、犬、カワウソ、魔法生物としては不死鳥なんかも現れる。
不死鳥は食えないジジイでお馴染みの校長先生だったから、いろいろ常識から外れた人ならば、動物以外を呼べるのかもしれない。

さて、なんでこんな話をしたかと言うと、私の守護霊がなんだかおかしいからである。

手しか出てこない。

いやホントに。手だけ。しかも人間の。
あれ?一応人間も動物だからあり?…あれ?
正直ライオンとか、夢見てドラゴンとか出したかった。

その手だけの私の守護霊くん。
何故「くん」なのかというと、明らかに男性の手でごついからなんだが、その守護霊くんはどうにもどこかに突っかかっているせいか、うまく出てこられないらしい。
この間例によって手だけ出てきてしまったときに、何かを外そうともがいていたから間違いはない。
ただその甲斐あってか、次に呪文を唱えた時には、腕まで出てきた。これまた逞しい腕だった。

この何かに突っかかってうまく出てこれない私の守護霊に関しては、当時呪文を教えてくれた先生方も首をかしげていた。
が、手だけの状態でも問題なく効果が発揮されていたので気にしないことになった。
私としても、しっかり効果を発揮して守ってくれるならば問題はない。

他の人の守護霊たちは呪文を唱えればさっと現れて、体当たりだったり、形にならずともビームとして伸びたりするにも関わらず、私の守護霊くんは呪文を唱えるとにょきっと空間に生えた後、必ず拳を振りかぶって物理で語り合う。
一応魔法なので拳は関係ないはずなのだが、機能や効能に関しては正しく作用している。
機能的には問題はない。大切なことだ。
なので、私の守護霊変なんだよね、程度の些細な相違点なのだ。

さてさて、変なのはもしかしたら私が前世持ちであることが関係しているかもしれない。
二次元がとても盛んな前世で、私がそちらに足を踏み入れた時代はオタクに人権がない時代であった。
擬態は息をするのと同じように行っていたよ。
閉心術がとっても得意なのは、たぶんこのせい。
心の中のちょっとやばい妄想とか妄想とか妄想とかが、他人様の目にしかも無理やりさらされるとか、下手な拷問よりも的確に心を抉りにいく。
たぶんパソコンを赤の他人に見られる程度には。
支部に常駐すれど、それは表に出しても大丈夫な奴だけを出すので、、、えげつない奴はそっと胸の内に秘めるのです。思うだけはタダだしセーフ。思うだけはね。外には出しちゃダメ。閑話休題。
のちのちアニメ、ゲーム系のライト層が広く浸透し、グッズをちょこちょこ所持していても受け入れてもらえる環境にはなったものの、身持ちがディープであることには変わりないので、アニメは好きだけど二次元何それ層に擬態していた。
ちなみに推しは推しでもちろん好きだが、正直、作中キャラクターが幸せであればノマでも薔薇でも百合でも夢でもなんでもござれの雑食であったので、そのディープ具合は下手な地雷持ちよりも酷かったかもしれないと自分でも考察している。あ、でもバッドエンド系とリョナはちょっと苦手、、、。

そんな前世を持つ私。
当然この世界のことについて詳しく知っているだろうと思いきや、実は申し訳程度にしか知らない。
前世で同世代の人間に知らない人間はいないだろうと思われたポッターについて、私は未履修だった。のでチートも何もない。
重版を何度も重ねた原作は、私が訳文感覚の強い書籍が苦手なせいで未履修。
原文は、前世で英語なんて言語は知らない言語なので読めないし、実写映画はテレビのチャンネル付けたら途中からなんだか流れているからちょっと見た程度。
この状態で後はオタクの情報網で骨組み程度のふわっと知識だ。
こんなもの、この世界を生き抜くためには命綱にすらなりはしない。

正直、何年の何月何日にこれこれが起きてどうのこうのとかいう覚え方は私には無理なので、そんなものである。
私は社会の歴史は年月日覚えられなかったが、関連事件の無駄な雑学は覚えられるタイプの人間なのだ。
前世チート?知らない子ですね。成績は普通に真ん中だ。
ついでに寮はアナグマ。元現代日本人ですもん、平和に生きたい。
寮のみんなは本当に人が良くて優しくて、学生時代の人間関係は常春の様に穏やかに過ごせた。素晴らしい。

とりあえず、そんなあやふや前世知識で得したのは、厨房の場所を覚えていたことだ。
在学中に存分に利用した。厨房の屋敷しもべたちが和食を作れるようになったのは私の功績。今回イギリスの地で生まれたために、日本料理におけるだしを使ったあの味が恋しくて恋しくて、どうしても食べたかったからだ。
対して、歯がゆい思いをしたのは、必要の部屋の位置を頭をひっくり返しても思い出せなかったことだ。ここを思い出せたら学校でもオタク活動できたはずなのに、残念だ。

さて、そんな学生時代を過ごして無難に卒業、就職できた私は、就職先の都合で再びホグワーツに舞い戻ろうとしている。単にお使いなんだけれど。

就職してしばらく、ありがたいことに忙しく過ごさせてもらっていた私は失念していたのだ。
自分の世代には主人公達がいなかったし、薬学の教授に初恋拗らせマンことスネイプ先生がいたことで安心してしまったこともいけなかった。

上司の頼み事で荷物をホグワーツまでデリバリー中、まさかの吸魂鬼に襲われたのだ。

あからさまに狙いが上司の荷物であり、届け先が校長だったことから、あっ、これヤバイやつやと勘がチョロチョロし、かろうじて頭の隅にかすめた直近の時事ネタを思い出して確信した。

今のホグワーツにはポッターが居る。

校長による英雄作成計画と、闇の帝王()による厨二病感染計画のど真ん中。今からデリバリーのために向かおうとしている先は、その最前線、激戦区であり爆心地。
確信したら行きたくなさすぎるし、忙しさにかまけてついうっかり安心していた自分に軽く絶望する。

特に私は真面目に安心してはいけなかった。
なぜならマグル産魔女だから。私はほぼ生粋のマグルの家系に、彗星の如く現れた魔女である。
闇払いと死喰い人の戦争が本格的に始まれば、イギリス本土に留まり続けることはマグル産魔女、魔法使いにとって危険しかないので、是非とも母の故国、私の心の祖国日本に可及的速やかに向かいたい。
ちなみに家族はすでに日本に居たりする。
いつかそこに暮らしたいなと長年言い続けてみたら、先に行って基盤を整えておくね、と卒業と同時に言われたのだ。
すでに就職先も決まっていて、強制1人暮らしになった私に、ご飯の問題というありがちな問題が立ちはだかったのは苦い思い出である。そもそも就職決まる前に教えてほしかった、、、。
そんな家族の待つ日本に、是が非でも、今すぐ、向かいたい。こんな戦争区域であり、狩猟で狩られるウサギのごとく、見つかれば即死の地域からは早く離脱したい。
その前に、この吸魂鬼から無事に逃げおおせなければならないのだけれど。

ぐるりぐるりと私の周りを浮遊する吸魂鬼は、私が隙を見せないか、飛び掛かる隙を今か今かと待っている。
上司の荷物は、どこから見ていたのか上司のフクロウくんが持って行った。方向がホグワーツだったから無事に届くことだろう。はじめからそうしろよ。
フクロウくんが離れた後も吸魂鬼は私の周りをぐるぐるしているので、体のいい囮に使われた自覚をようやっとする。
ちくしょう、辞表叩きつけてさっさとトンズラしてやるクソ上司!!
心の中で悪態をつき、杖を構えつつも、どうやってこの場を打開しようか頭をフル回転させる。一体だけだったらば迷わずあの拳で語り合う守護霊くんを呼び出したものの、複数体いるからタチが悪い。
そもそも吸魂鬼とのエンカウントなんて、砂漠で砂金を見つけるくらいあり得ないことだったんじゃないんですかね、先生。滅茶苦茶いますよ勘弁して。

弱腰になったのがいけなかったのか、背筋が冷えたと思って振り返れば、吸魂鬼がすぐそこにまでせまってきていて。
無我夢中になって、あの呪文を叫んだ。

「エクスペクト・パトローナムっっ!!!!!」

唱えた瞬間杖に魔力が宿る感覚がして。

そこで私は、どうにも気絶したらしい。
危機感がない?許して。私も何が何だかわかっていないんだ。
極限状態だったのもあるけれど、あの呪文を叫んだあと私の大して多くない魔力の大半を、ごっそりと杖にもっていかれたことが、ぶっ倒れた直接の原因だろう。
お腹の底から根こそぎ何かを持っていかれる感覚がした後、どうにも力が入らなくて、そのままぶっ倒れた、はず。
その時、何かに支えられたような気がしたけれど。
次に目を開けたのは、腹の底から嘆くような、そんなおどろおどろしい生物のうめきを聞いたとき。

「え?」

目を開けた私の前には、複数体の吸魂鬼相手に、一方的な大乱闘するゴリラ(但しイケメン)がいた。

「は?」

ちょっと信じられない。
見なかったことにして目をこすり、再び目の前に視線を向けても同じことだった。
細マッチョのイケメンが、吸魂鬼(複数体)に対してゴリラしている。
拳を振りかぶっては吸魂鬼に殴り掛かり、拳で足りなければ足が出る。その攻撃にはためらいも容赦も存在せず、ただ相手をひたすらにぶちのめさんと動き続けている。
隙を見た吸魂鬼が、私の存在に近づこうもんなら、目の前の吸魂鬼には目もくれず、驚きの速度で迷いなく飛び掛かって容赦ない鉄槌(グーパンだけどあれはもはやハンマーと同義)をくだし、さわやかな笑顔で私の無事を確認してから乱闘に帰っていく。

正直意味が分からない。
意味は分からないが、この状況下で吸魂鬼に勝ち目はないことが漠然とわかっている。イケメンに対する謎の安心感。

そしてこのイケメンくん、もしかしたら私の守護霊くんではないかと、思うのだ。

吸魂鬼にはあの守護霊くんを呼び出す呪文でしか、今の私には対抗手段がない。
そしてなによりあのイケメンくんの拳の振りかぶり方は、どうにも今まで空間ににょっきり生えていたあの2本の腕そっくりなのだ。
直前には私の魔力をごっそり持っていかれたし、現に吸魂鬼に対して効果を発揮しているようだし。
私の二次元脳(ゴースト)がささやくのだ。あれは私の守護霊くんだと。

現実を飲み込んで消化しようとぐるぐるしている間に、吸魂鬼を追っ払うことに成功したらしく、ふんす、と満足げに息を吐いた守護霊くんが私に向かって歩いてくる。
ようやっととっくりとそのご尊顔を観察して、気づいた事実に総毛だった。別の意味で発狂しそう。

守護霊くん。
前世の推しにそっくりなのだ。

わたしは前世、20年以上連載を続けるとある探偵ものの漫画にハマっていた。
もともとは主人公や怪盗くん推しだったのだが、トリプルフェイスゴリラと愉快な同期達の存在を、そのジャンルから離れた後に認識した結果、沼にドボンした。
一番はトリプルフェイスゴリラ、ではなくその幼馴染くんで、次点に不憫枠カミーユだったけれど。
トリプルフェイスゴリラだって私の推しである。同期組の中では唯一の生存者だったから、出演作品も多いしね。作中で頑張っている姿を応援していました。

その推しに、似ている。

そうこうしている間に、私のところにたどり着いた守護霊くん。
ぐい、と手を取って私を立たせた後、全身をくまなくチェックしだした。
私が目を白黒させている間に、コロコロくるくる私を回して、怪我していないか確認をしているようだ。
2周位して満足したのか、え?え?とされるがままになっていた私を解放し、ぽすぽすと頭を撫でてくれた。え、やだイケメェン(トゥンク)
呆然と高い位置にあるイケメンの顔を見つめ、前世の知識をもって知りえたその人物の名前が、カラカラに乾いた口から零れ落ちた。

「降谷、れい、、、?」

あのハニーフェイスと名高いご尊顔。
私が自分を呼んだことをまるで嬉しいと示す様に、とろりと崩して幸せそうに笑って。
男の人の大きな両の手で、自分より低い位置にある私の顔をすくい上げるようにして包み、私の顔を綺麗な青をもってして覗き込みながら、そうだよ、とゆっくりと口パクで答えてくれた。

控えめに言って死んだ。
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