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▼ お見合いした後の話(探偵:降谷※どむさぶ注意)

「なんです?その幽霊でも見たような顔は」

父の思惑により結婚した。

籍だけ淡々と入れて、書類の整理をして。新しい家に今まで私の部屋にあった仕事関係の物を運び入れ、片付けて。
バタバタの1ヶ月だった。
その間、私は私の夫になった人に片手で足りるほどしか会っていない。
帰って来てはいるのだろう。草臥れたシャツやスーツが洗濯かごに時折入っているし、クリーニングに出しておいた衣類が減っていたりする。

時々、冷蔵庫の中にある明日の仕込みをつままれている。
もう、と思うものの、つまみ食いはつまみ食いだからこそ美味しいという事実については、私にも覚えがあるので許している。
そもそも温かい出来たてを食べることが出来ないのだ、経過くらいつまむのは許そう。忙しい相手に、これ以上のムチは要らないだろう。

夕飯については一応用意はしている。
勿論一悶着あったが、彼が食べなかった日は私の次の日のお昼ご飯になるのでごり押しした。
私も仕事にかまけて食べないなど不摂生していたので、実は最近体の調子がいいのは彼には内緒だ。
勿体ないだろうと彼は言う(たまにメモ書きが残ってるのだ)のだけれど、既製品の均一的な味って、忙しい身の上だと案外心に刺さるのだ。
身体的にも精神的にも、思いの外追い込まれる。
確かに、私の料理は既製品ほど美味しいとは言えない。
けれども。少なくとも、あの何となく哀しい味はしない。
ちょっとでも一息ついてくれたなら。
祈りながらご飯を作る。

「あ、、ああ。すまない。起きていたのか」
「居眠りをしてしまったのですよ。ちょっと前に起きました」
「そう、だったのか」
「ふふふ、帰ってきたら電気がついてるのが慣れません?」
「、、ああ。すまない」
「もう、謝ってばっかりです。そもそも今半分くらい意識落ちていますね?今日で何徹目?」
「落ちてない。まだ起きてる。まだ3徹目だ」
「まだじゃなくて、もう、ですよ、それ。ご飯は、、」
「食べな、」

ぐううー。

食べない、と言おうとした彼は、高らかに主張したお腹をさっと押さえ、ばつの悪い顔をしてそっぽを向いた。
3轍ヘロヘロの状態でご飯まで食べない気だったとは。いくら彼が頑丈でも今度こそぶっ倒れる。
笑うよりも呆れるとはまさにこの事だ。
いっそdom寄りswitchとして、commandを使ったらよいのだろうか、、、?
、、、納得しないでdropするかも。
しょうがない人だ。
零れる小さな笑みをそのままにして、横目でこちらを軽く窺う彼に、怒っていないこと、失望していないことを伝える。

「食べてないですね。
なら、今から温めてしまうので、その間にお風呂へどうぞ。
さっき上がったばっかりだから、まだ温いですよ」
「あ、ああ」

怒ってない?と目が訴えるので、怒ってないよと薄い頬を撫でると、ホッとしたようにすり寄ってくれた。ダイナミクスの方も、少々不調をきたしているようだ。
また、睡眠不足とおそらく栄養も足りていないせいで、久しぶりに触れた彼の肌は少しかさついていた。
無理しすぎだと思うの。

「お風呂で寝ちゃだめですよ?」
「む、寝ない。まだ起きている」
「はいはい。そういうのがフラグです。ああ、そうでした」
「ん?」
「おかえりなさい、零さん」
「、、、ただいま、アキ」

思い出して言葉をかければ、はにかんだ笑顔と一緒に言葉が返ってきた。

政略婚だったけれど、悪くないかもしれない。

そんなことを、やっぱりお風呂場で寝てしまった旦那さまをどうにかこうにか引っ張り出し、そのまま私の服を離してくれない旦那さまの手により、為すすべなく布団に引きずり込まれながら思った。
長いって?だがしかし事実なので。
翌日、昨夜の失態をセルフで思い返し、狸寝入りをする自分の目の前で顔を真っ赤にして恥ずかしがる旦那さまであり自分のダイナミクスのパートナーを見て、それは確信に変わるのである。
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