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▼ 私の姪っ子(探偵:萩原?※厳しめ)

!注意!
大分捏造、毛利家(特に弁護士に対して)、ちびっ子探偵に厳しめ。
しれっと生きてる。
自殺する彼の名前は日色さん。
旦那は出てくるものの喋らない。
蘭ちゃんへの叔母の愛が爆発している。

すべて構わないのであれば読み進めてくださいませ。
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私には兄がいる。

その兄は、私が小学生の頃に結婚した。翌年、対面した女の子が、我が愛しの姪っ子、蘭ちゃんである。
兄は正義感に燃える人で、学生結婚したとは思えないくらい律儀でまじめな人だ。
義姉は弁護士になるとかで、私が初めて会った時はまだ大学生だったけれど、きれいな人だと思ったのを覚えている。
ただ、厳しい人なのか人見知りをする人なのか、とても警戒され、あまり話したことはない。兄関係であまりいい思い出がなかったのだろうか。
思いのほかモテていたような気のする兄を思い出す。面倒見いいから、余計にファンを増やしていたのだろうな。お疲れ様です。
さてこの夫婦、親戚付き合いはたまに正月に顔を出してくれる程度で、エンカウント率はそこまで高くない。刑事と弁護士の組み合わせだし、忙しいのだろう。予定のすり合わせが大変そう。
そう言う環境にあって、普段からそうなのか、顔色を窺うことが上手な我が姪の蘭ちゃん。悪癖というか、言いたいことを飲み込む癖があるのに気づいたのは何度目の正月かお盆だったか。とりあえず可愛いし、わがままを言わせたくてちょこちょこかまっていた。

そんな蘭ちゃんが、何故だか公園でぼんやりしている。
うかがう雰囲気は陰鬱そのもの。笑えば花がパッと舞うような天使の姪っ子は、いったいどうしたというのか。

そんな衝撃的な状況に出くわしたのは大学生の頃だ。たまたま公園に視線をやった時に発見してしまった。
とてもいい子なのは知っているし、本来なら家に帰っているべき時間帯。蘭ちゃんをうかがっていた変態には容赦なく110番させてもらって、まずは安全を確保すべく蘭ちゃんに駆け寄った。
アキ叔母さん?と力なく私を呼ぶ蘭ちゃんは相当疲弊している。近づいて下からのぞき込めば、大きな目から、今にも涙がこぼれそうだった。
また、なにかため込んでいるな?しかも今回は超特大級と見た。
会う度に何かを両親に言えず、我慢している愛しい姪っ子。そんな子の我慢をいつも見てきた私は、姪っ子を放っておく程薄情者ではないし、何ならセコムでモンペ予備軍であることを自負している。
今だって苦しいし助けてほしいのに我慢している彼女を、バイト先に連れていくのは私の中で当たり前だった。

バイト先について、真っ先に奥の人目に付きにくいテーブルを陣取る。
バイト仲間や店長は、子ども連れでやってきた私に驚いたようだったが、何かを察したらしく接客してくれた。ホントに助かる。
コーヒーと、無難にクリームソーダを注文する。ここのクリームソーダはおいしいし、クリームソーダ自体、蘭ちゃんの好む物だったとあまり多いとは言えない接触回数の中で記憶している。
改めて久しぶり、と蘭ちゃんと少し話す中で、やはり様子がおかしいこと、どうにも悩みごとのせいでものすごく気分が沈んでいることを理解した。
理解して、私の行動と言えば我が家に連れ込む、その一択である。

どうにも家のことを話したがらない、学校のことも同様である様子。
いつもなら、お母さんが、お父さんが、幼馴染がまた、とかちょっとは話してくれるのに、今日は全く、一切話さない。
どうにもこの三人は、我が姪っ子の地雷を踏みぬいているようなのである。
ならば、この姪っ子が少しでも精神の安寧を取り戻せるように、私は助力を惜しまなければよいのである。
そのためにはまず下準備が必要である。兄に電話だ。
当時はようやっと携帯電話が普及してきた時代。着メロを自分で作成している時代である。カメラ?ついてませんよ。アンテナが伸びます。テレビはもちろん見れません。ホントに携帯電話の通信のためだけのアンテナです。
そんなまだまだ高価な携帯電話を当たり前だが持っていなかったので、店の電話を借りることにした。

初めて来たところにちょっとの間とはいえ、一人にするのが申し訳なくて頭を撫でていると、ちょうどよく注文していた品が届いた。ぱちんとウインクするバイト仲間に、滅茶苦茶感謝した。急いでくれたらしい。ホントにありがたい。
姪っ子を見れば、届いたクリームソーダにキラキラした目を向けている。か、カメラが欲しい!!!
だが残念ながら当時はまだ使い捨てカメラがメインの時代のため、もちろん私は持っておらず、心のフィルムにしっかりとその表情を焼き付けたのである。

バイト仲間や店長に軽く事情を話し、兄に連絡を取ればどうにも歯切れの悪い返事をもらった。
一応お泊りに関しては了承をもらったものの、なにか引っかかる。少なくとも蘭ちゃんの悩みに兄が関わっていて、兄もそれに気づいていることは理解した。

「おまたせ」
「アキ叔母さん、これ美味しい!」
「んんん、、、!!、、気に入ってくれてよかった」

電話を終えて、席に帰れば、そこには大天使がいた。クリームソーダが大層お気に召したらしく、一生懸命食べている。
バイト仲間がカウンターから見ていたようだが、その彼自身が姪っ子のプリティさに打ちひしがれる以外特に変な様子はなかったようで、彼女の落ち込んだ気分は大分上昇したらしい。よかった。

それから蘭ちゃんといろんな話をした。
私のぶっとんだ友達の話、大学のちょっと面白い先生の話、近所の猫に、その猫をかまいたいおじさんの話。蘭ちゃんもたくさん話してくれた。
けれども、その話のどれにも兄や姉、よく聞く幼馴染は登場しなかった。

いくらか話をして、すっと間が空いた。
今なら聞けるかな、と思って私は蘭ちゃんに切り出した。

「蘭ちゃん、今日はなんだか元気ないね。何かあった?悩みがあるなら、聞くよ?」

はく、と蘭ちゃんの小さな口が動いて、きゅっと結ばれる。あ、今この子飲み込んだぞ。
ホントに我慢しいだなと、できるだけ優しい声でゆっくりと問いかける。

「ホントはね、それを聞きたくてここに一緒に来たの。
いつもお家にまっすぐ帰る蘭ちゃんが、お家を見ないようにして公園に居たでしょう?
お家に帰りたくないくらい、お家で何かあったんじゃないのかって心配になったの」

大きな目がさらに大きく開かれて、今度はゆがんだ。
きゅっと結ばれていた小さな口は、震えたまま小さな小さな声を出した。

「助けて、アキ叔母さぁん、、、!」

そこから、泣きながらも一生懸命に伝えようとする蘭ちゃんの話を、私は静かに聞いた。
途中、どうにもえづいてしまって話が止まってしまったりしたが、それでも蘭ちゃんは話をやめなかった。
離婚しそうな両親の話。
喧嘩の内容が自分かもしれなくて、家を飛び出した母親の代わりに、父親がしぶしぶ残された自分の面倒を見ている。蘭ちゃんは自分さえいなければと思っていて、でも両親が好きだから離れたくもなくて。
そんな状態の蘭ちゃんに、追い打ちをかけるような幼馴染の存在。
正直聞いていて腸が煮えくり返りそうな気分であったが、それをぶつけるべきは蘭ちゃんではない。
私は表面上穏やかに、内心閻魔顔で蘭ちゃんの話を聞いていたのである。

話したいことを話し終えて、蘭ちゃんがハッとしたように私を見た。大方泣いてしまってごめんなさい、迷惑かけてしまってとか、考えているんだろう。迷惑なんて掛かっていないし、むしろうちの兄がごめんなさいなのだけれど、蘭ちゃんはこんなにストレスを抱えているのに遠慮しいだ。、、、もしかしたら軽度の鬱の可能性もあるが。
何にせよ、蘭ちゃんが謝ることなんて一つもないのだ。

すっと席を立って、びくびくしている蘭ちゃんと目線をあわせる。
形のいい頭をよしよしと撫でて、そのまま彼女を抱きしめた。

「話してくれて、ありがとう。よくがんばったね、蘭ちゃん」

ぽんぽんと背中をたたいて、安心させるように頭を撫で、そのまま包み込むように彼女を抱える。
ぎゅっと力いっぱいしがみ付いて、火が付いたように泣き出した彼女に、とても辛かったんだなと悲しくなる。

今回のことは蘭ちゃんは、本当に大人に巻き込まれただけなのだ。
兄と義姉の、大人のわがままだ。子どもは親を選べない。まさにそんな体験を今、この子はしている。あの二人が今回の大罪人である。絶許。
もうちょっと蘭ちゃんの目につかないところでやるとか、ちゃんと二人で説明するとかないわけ?何の説明もなく放ったまま、義姉に至っては連絡もなしとかふざけているんだろうか。
子どもだから理解できないとなめてないだろうか。こういうことに関して、子どもはとっても敏感なのに。毎度思うんだがなんで両親であるあの人たちはこの子の状態に気づいていないのか。いい子ちゃんなのはこの子の防衛本能だ。柔らかい心を守るための。
子どもが自分たちの都合いい事をするということはそういうことだ。なんで大人が子どもに気を使われてるんだ。

幼馴染くんも幼馴染くんだ。探偵気取りでちょろちょろと。
話せないのはやましいことがあるからだって?人間だれしも話したくないこと話せないことの一つや二つあるんだよ馬鹿タレが。
今日のパンツの色は何色ですか?なんて聞かれて馬鹿正直に答える人はほとんどいないだろ。初恋の人はだれ?なんて本人目の前にして答える人間はどれほどいるのか。
自分に話せないから、それはやましいことであるなんて、思い違いもはなはだしい。
何よりそれが一回で済めばよかったものの、ここ一週間ずっとであることが私的許せない重要ポイントである。
泣いて嫌がる私の愛しの姪っ子ちゃんを、ここぞとばかりに追い詰めにかかったのだ。許さんクソガキ。

落ち着くまで蘭ちゃんをいっぱい泣かせて、そのあと蘭ちゃんを私のお城に連れ込んだ。
実は今日はバイトのシフトが入っていたりしたのだが、私たちが奥で話している間にこっそりと店長が札をOPENからCLOSEにしていてくれたんだそう。
あの子のケアを優先してね、だそうだ。店長マジで好きです。既婚者だけど。

私のお城ことアパートの1室には、拾い猫がいる。いつの間にかついてきて、部屋に上がり込んでからなし崩しで飼うことになったお猫様だ。猫好きだからいいんだけどね。
賢くて優しいこの猫は、連れてきた蘭ちゃんに警戒するのではなく、所在なさげにしている彼女に、まるで構っていいのよと言うように一鳴きして、お腹を晒してアピールした。
蘭ちゃんも私と同じくその可愛さにほだされたらしく、おずおずと構いだし、もこもこの体に触れてぷわっと花を飛ばした。お気に召したようで何より。

それから幾分顔色のよくなった姪っ子と、夕飯を食べながら作戦会議という名の話し合いをした。
蘭ちゃんはこんな目にあっても両親が大好きで、傍に居たいらしい。
でも、もし、もしもだけれど二人がいらないって言ったら一緒に住んでもいい?なんて夕飯の最中言うもんだから泣きそうになった。
そんなこと言わないと、二人がそこまでろくでなしになったもんだとは思いたくは無かったが、その言葉には頷いておいた。
私が引き取る、というのは最終手段にしたい。
何だかんだ親元から離すのは、子どもにとってどの程度影響を及ぼすかは未知数である。
ただ、いまだにあの二人を親として慕っている蘭ちゃんにとって、親元から引き離すのはプラス面よりマイナス面の方が強いと思われるのが現状だ。

そんな話を蘭ちゃんと夜遅くまでして、次の日。
蘭ちゃんを連れて兄のところに乗り込み、実は兄と連絡を取っていた義姉を兄経由で呼び出し、蘭ちゃんの目につくところでお説教を開始した。
普通目につかないところだって?馬鹿者、今回の大罪人はこの二人である。蘭ちゃんは何にも悪くないことを示すためには、このくらい必要なことである。

初めの頃は私が事情を聞くこともあって元気良く噛みついてきた二人だが、蘭ちゃんが自分のせいでと思い詰めていること、もともと我慢しいだったのがさらに悪化し、要らない子なんじゃないかと軽度鬱状態に入っている可能性を示すと真っ青になった。
子どもへの愛情自体は一応薄れていないようなので、さっさと誤解を解いてこいと促した。これで失敗しようものなら、私が蘭ちゃんを引き取り、二度と会わせてやらないと脅しも合わせて。

かくして、蘭ちゃんの両親に対する誤解は解かれたのであるけれど、別居は継続するという結論になったのは納得がいかない。
だがしかし、今また一緒に暮らすようになればこの義姉はまたも同じことを繰り返すだろうし、兄もそれがわかっている様子である。
だからって、子どもにまた我慢を強いたこいつらを、私が許すわけがないのだけれど。回避しようとする努力はないんか、馬鹿者共は。ツンデレも大概にしろよ。
この二人の弁解中に、また蘭ちゃんは言葉を飲み込んだ。
本当に、大人のわがままほど、子どものためにならないものなんてない。

話し合いという名のお説教を済ませた後、私はまたも蘭ちゃんをお家に連れ込んだ。
今後の経済面やらなんやらの展望をしっかり話し合えと二人に言い残し、もちろん蘭ちゃんに見えないように二人を睨み付けるのも忘れないで。
どこまでも自分勝手な二人に業を煮やしたのもある。
正直、手が出なかっただけましなのだ。

蘭ちゃんをお家に連れ込んで、飲み込んだ「一緒に暮らしたい」という言葉を涙と一緒に引き出して、蘭ちゃんと一緒に眠った。
けたけたと寝ながら笑って泣くこの子にとって、現実は悲しいものなのだと、うまくいかないこの世を少し呪った。
おそらく夜驚症と呼ばれる症状。本来なら、彼女の年齢ではその症状は治まるものである。ただ例外として何かしらの強いショック(それがプラスでもマイナスでも)を受けた場合、発症する場合があるのだ。
それほどまでに、今回の事態は彼女の心に傷をつけた。
そっと頭を撫でて、今後の算段を立てる。とにかく、この愛しの姪っ子が現実で笑って過ごせるように、私は力を注ぐことを決意した。
結果的に本来母親がするべき役割を取ってしまおうが、かまうものか。義姉は蘭ちゃんを置いていった。これは事実なのだから。

「守るから、守らせてね、蘭ちゃん」

症状が治まったのを確認してから、温い体を抱きしめて、私も眠りについた。

しばらくして、兄が仕事を辞め探偵業を始めるために引っ越しをするというので、近所の父の持ちビルを推した。
テナント料でどうにか食べていけることを言ったのも私だ。
探偵業を始めるにあたり、まず収入が今より不安定になることは間違いないし、蘭ちゃんの教育費に関してはしっかり話し合っているだろうが、生活費については兄がもつものとして話し合っていない可能性があったため、収入についても口を出させてもらった。
事実、そこのところ詰め切れていなかったらしく、兄にとりあえず腹パン決めておいた。

そんなこんなで近所に引っ越してきた二人。
蘭ちゃんには私の家の道と、バイト先の道を教え込み、遠慮なく来るように口酸っぱく言い含めた。我慢などしようもんなら私が大人げなく泣くという、脅しなのかよくわからない言葉も含めて。ただ、私が泣くという単語は蘭ちゃんにはクリーンヒットだったらしく、それからちょくちょく家やバイト先に現れるようになる。

そして私は二人に家事や料理を教え込んだ。
兄は凝ったものはできないものの、人並みには料理ができるようになり、蘭ちゃんは目覚ましい進化を遂げた。彼女のグラタンは教えた私よりも美味しい、彼女の得意料理である。
毎日彼女と時折兄も含めて買い物に行き、一緒に料理を作って、宿題を手伝い、彼女が寝るまで一緒に居る。
お弁当が必要な日にはお弁当を作って持たせてやり、テストで100点をとった日には滅茶苦茶褒めて彼女の好物を作ってお祝いした。
習いだした空手も、大会には必ず応援に行って、送迎が必要で兄が行けない時には私が車を出したりした。

そう言えばあの時蘭ちゃんを追い詰めた探偵気取りの幼馴染には、ひざ詰めでお説教をした。
原因はあの二人だけれど、泣いて嫌がる蘭ちゃんを悪者にしてまで問い詰めるなんて、まして自分は正しいことをしていると盲信しているところからして許せないところであるので。
デリカシーが無いうえに、過ぎた正義感や善意は悪なのであることをこんこんと話した。
正直、隠された悪意よりも、正義感や善意で言う理想や言葉の方が、それが本人的に善であるが故に人を容赦なく傷つけるし、また言う本人はもちろんそれが悪いこととは思っていない、傷つく方がおかしいと思っている節があるので厄介で性質が悪いのだ。
曰く、余計なお世話ってやつである。
また、蘭ちゃんの言いたくない部分を、自身でも持て余すほどの好奇心を満たすためだけのエサにしたことは、しっかりと、しっかりと!指摘させてもらった。
蘭ちゃんが好きなのはわかるんだけど、このままだと嫌われる一直線だということも忠告し、しっかり釘を刺してやる。
それ以降問い詰める、という行動は少なくなったようだが、当社比、というやつである。ただ蘭ちゃんが、あまり喧嘩しなくなったからよかったと、ホッとしたように言っていたので、この行動は蘭ちゃんにもプラスになったようでよかったと思う。
まあ、自分のモンペ部分が顔を出しているのは自覚済みなので、おとなしい限りは幼馴染くんも蘭ちゃんともども庇護対象としてかまい倒している。
彼も中学生になってから、両親がアメリカに行くっていう暴挙をかまされているので。
もちろん、彼の不安定さは、蘭ちゃんの精神状態にも影響するのが一番の理由だ。

大学を卒業して就職をしても、私は蘭ちゃんと関わることをやめなかった。
蘭ちゃんの家からほど近いところに引っ越し、当初よりはべったりではなくなったものの、同じように構い続けた。
勉強も見たし、進路相談だってした。成長するにつれてやって来る、女性としての性徴や心の変化については、蘭ちゃんの友達である園子ちゃんも一緒によくよく話したものである。
さてそんなこんなで大事な時期を迎えた姪っ子であるが、私も大事な時期だった。

結婚したのだ。

お相手は警察官である。出会いやらなんやらは割愛。
そもそも旦那と結婚するとは思ってなかったうえ、しょっちゅう別の女の子を甘やかして甘やかされているのを見ていたせいか、浮気されてるもんだと思っていたので、さりげなく言われていたらしいプロポーズは何回断ったのかわからない。
これならば!と、指輪の入った小箱を物語のように開けて見せられた私が、すんっとチベスナ顔になってパタムと閉じたのは旦那のトラウマだそうだ。旦那もよくよく心が折れなかったものだと感心する。
そもそも浮気されていると思ってたのに、なんで付き合ってたんだろう。まあ今幸せなので些細なことだが。

さてその旦那や旦那の友人とエンカウントするたびに、思春期に入った姪っ子の異性への理想が爆上がりしているのも気づいてはいる。
思春期にこんなスパダリどもに会ったらそりゃ理想も高くなるわな。松田さんとかぶっきらぼうだけど綺麗な顔をしていて、かつ気遣いやらエスコートは素敵だし、伊達さんも厳ついけど中身は一番のスパダリであるし。

そんな理想男性を見てしまった我が姪っ子だが、結婚してから接触するのを遠慮するそぶりを見せた。しかし、逃がさないとばかりに旦那と一緒に構い倒したので、距離感はそれほど遠くなってはいない。
結婚後、年子での出産もあったが、かまい倒した成果が如実に表れていて、実は兄夫婦よりも、もっと言えば双方の両親よりも先に姪っ子が子どもたちを抱っこした事実がある。ちなみに流石に一番目は旦那。
その子どもたちも姪っ子が大好きなので、遠慮して家に来ない選択肢は浮かばせることはない。
旦那と一緒に子どもと姪っ子をまとめて抱きしめるのが、我が家の幸せである。

そんな状態で続いてきた姪っ子ちゃんと関係であるが、姪っ子が精神的に大分安定してきたのをきっかけにちょっと遠くに引っ越しをした。
高校生になった姪っ子は、母譲りで綺麗になった。
相も変わらず微妙な位置を保ち続けている義姉に関しては、ムカつく以外の言葉は爆死してくれない?ぐらいしか出てこない程度には嫌いであるが、容姿が兄に似なかったのは喜ばしいことなので我慢する。兄はごついのだ。
しかしてすこし遠くに引っ越したものの、ちゃんと必要な時に手を貸せる程度には信頼関係は築いたつもりだ。私が近くにいなくなってから、義姉は姪っ子との接触を増やしているようだが、そんな程度では揺るがないし、そもそも遅い。
実際、些細なことであっても電話はよくよくかかって来るし、二週に一度はお茶会だったりお出かけだったりをしている。

今日はその二週に一度のお茶会である。場所はなんとなくポアロ。
旦那の友人が事情があってバイトをしているところである。今度旦那とその友人たちを連れてくるつもりなので、ちょっとした偵察でもあったりする。
入ってすぐ注文してから席について、そういえば、とご近所さんからもらった旬のお野菜の入った袋を、蘭ちゃんにおすそ分けする。

「蘭ちゃんこれあげる。旬ものだし、早いうちに食べてね」
「わ、こんなに。いつもごめんね。ありがとう、アキ叔母さん」
「かわいい姪の喜ぶ顔が見たい叔母心ってやつよ」

うれしい、と笑う姪っ子に私もうれしくなる。
暗い雰囲気で落ち込んでいたあの小学生は、もう高校生になって、以前より明るく笑うようになった。
当時大学生だった私が、結婚出産をしてもう30歳になるのだ。
時が経つわけである。
うふふ、と笑っていると、ポアロの店員の男性が注文した品、クリームソーダとコーヒーを持ってきてくれた。
その彼は、今度予定している訪問の獲物であるが、旦那の友人だけあって、じっと見てみなくてもイケメンである。ていうか若い。旦那より年下、のような。

「蘭さんそちらの方は?」

あんまり見すぎていたのか、興味を持たれたようだ。

「私の叔母です。昔から、とても良くしてくれていて。叔母さん、お父さんに弟子入りしてる安室透さんだよ」
「初めまして、蘭の叔母です。貴方が弟子入りしたのは私の兄でして」
「これは、初めまして。毛利先生にお世話になっています、安室透といいます」

私立探偵という安室。事情があるのは知っているが、ホントに弟子入り先はうちの兄でよかったんだろうか。
浮気調査とか身辺調査とか足で稼ぐ系の調査依頼ならまだしも、事件とかの推理系になれば途端にポンコツになるので、いまいち参考にはならないと思うのだが。最近大きくなった名前の後ろに隠れるだけなら、全然目減りしない盾にはなるけれど。
ニコニコと初めましてを交わしていれば、キラキラした姪っ子の目が私に向いた。その姪っ子の周りには目と同じくキラキラしたものがぴょこぴょこ飛んでいる。

「叔母さん、安室さんすごいんだよ!」

これまでの安室の話を姪っ子はキラッキラしながら話してくれる。正直安室より、うちの姪っ子が可愛すぎてやばい。安室のことを、本気で尊敬しているようだ。

「そんなに褒めてくださって、照れますよ、蘭さん」
「あ、すみません、話しすぎていましたか?」
「いいえ、そんなことは。寧ろそんなに覚えてくださっていたんですね」
「いえ、そんな。私たちがご迷惑をかけてることが多いですし、むしろいつもすみません」
「謝らないでください。お世話になっているのは僕の方ですから」

にこにこして、ごゆっくりとカウンターへと消えていく安室。その姿を目で姪っ子が追っていることに気が付いて、ふふふ、と片肘ついて微笑んでしまう。

「蘭ちゃん、新一君より安室さんの方が好き?」
「え?うーん、、、安室さんの方が私に興味なんてないんじゃない?」
「そんなこと。、、、あれ?彼いくつなの?」
「確か、叔母さんの一つ下だよ」
「、、、旦那といっしょとか。一つ下は美形の集まりなのか?」

でも伊達君は違ったしなー。あ、でも松田君や、この間引き取ることになった日色君も美形の部類なので、あながち間違いではないのか?あれ、でも日色君は私と同い年だったような。

「それに、新一はそういうんじゃないよ」

苦笑しながら言ってくる彼女に、ホントに恋愛感情はないのかもしれないとも思う。
ただし、静かに育っている分が、なにかのきっかけで芽吹くかもしれないので、それは彼の努力次第である。まあ、あの少年に嫁に出すのはムカつくので言ってはやらないが。

「まあ、それについてはホントはどっちでもいいんだけどね。蘭ちゃんが傷つく結果でなければ問題はないし。まだ帰ってこないんだっけ?」
「そうなの。心配なんだけど、大丈夫だーってたまに連絡が来るくらいで」

ホントにどこで何してるんだろう、と呟く蘭ちゃん。

「新一君、目の前に集中しすぎて身内を忘れるタイプだから、連絡くるだけましなのかもね」
「そうなの?」

きょとん顔の蘭ちゃん。どういうこと?と首をかしげている。
よくわかっていない姪っ子ちゃんに、私はそうだと思うけど、と言いながらコーヒーにミルクを入れ、かき混ぜる。

「ああいうタイプは好きなものを追い求めて突っ走るんだけど、釣り上げた魚にエサをやり忘れて逃げられる人が多いね。しかも何分顔がいいから、言い寄られてチヤホヤされてばかりで、自分から追いかけるのはへたくそと見た」

へたくそ過ぎて失敗しかけたのがあの頃なのだから、前よりはましになっていると思いたいけれども。

「、、、なんだか分かるような気がする。ちなみに旦那さんは?」
「あの人はチャラいから。エサあげすぎて本命なのに信じてもらえないタイプ」
「なるほどー」

ぶふっと店の奥から何か聞こえた。笑われたね旦那様。ちなみに信じなかったのは私である。
その後は何気ない話をうだうだとして、ふと店の奥の時計に目がいった。

「あ、いけない。お夕飯の準備しなくちゃ」
「ああ、うちもそろそろしなきゃ」

何にも気にせず話していたから、大分時間を押してしまっている。

「蘭ちゃん一緒に食べる?」
「ううん、今日はみんな帰って来るの。、、、お母さんも。また今度でいい?」

申し訳なさそうに言う蘭ちゃん。

「おや、よかったねえ。そういうことなら全然。手伝わなくて平気?」
「うん、ありがとう叔母さん」

お会計はさっさと済ませて、それに気づいた蘭ちゃんがありがとうとかごめんなさいとか言うのだが、子どもは甘えるものよ、と頭を撫でた。ありがとう、とふんわり笑ってくれたので、オールオッケイ。
またね、と笑って姪っ子ちゃんと別れる。
別れる間際、最高の笑顔を見せてくれたので、ふとこの数年間の成果がここにあるような気分になった。
空になったクリームソーダのグラスが、ぼんやりと思い起こされる。

車に乗って家を目指す。
まっすぐ育ってくれてよかった。
また笑ってくれるようになって良かった。
安堵して、息を吐いた。

私には兄がいる。
その兄の娘の、姪っ子は、私が大事に育て上げた大切な宝物である。
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