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▼ 私の叔母(探偵:蘭視点※厳しめ)

!注意!
大分捏造、毛利家(特に弁護士に対して)、ちびっ子探偵に厳しめ。
しれっと生きてる。
旦那は出てくるものの喋らない。
蘭ちゃんへの叔母の愛が爆発している。
蘭ちゃんから叔母への愛も爆発している。
原作より本作蘭ちゃんは大人しい。新一!!!ではない。

途中、性的な部分をぼやかした表現があります。
といってもプロレスではなく、成長過程でどうしても直面するものです。
ご不快に感じるようでしたら読むのをおやめになってください。

すべて構わないのであれば読み進めてくださいませ。
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叔母さんは、私の理想の女性である。

9つのときに、両親が別居した。
その理由はとある事件のときに判明したのだけれど、当時の私にはまったくわからなかった。
両親が目の前で言い争って、母が荷物をまとめて飛び出していった。それ以降帰ってこなければ連絡もない母に、たどたどしいながらもここ数日なんとか家事をこなす父を見て、私がいなければ、なんてぼんやり思ったのを覚えている。
というのも、目の前で言い争う二人に圧倒されて話の内容を覚えていないのだが、時折「蘭」という自分の名前を叫んでいたのをぼんやり覚えているからだ。
きっと悲しいけれど、離婚の話になって、どちらが私を引き取るかでもめたんじゃないのか。だから母は飛び出して行って、置いて行かれた私を父がしょうがなく面倒を見ているのではないか。
私がいなければ父はもっと自由に好きに生きて、慣れない家事をする必要もなかったんではないのか。
当時の私は昼ドラの再放送も見ていたため、自分はそんな環境に身を置いているのではないのかと、特に理由を聞くこともなく見聞きした内容から思った。結局は違ったのだけれども、当時の私にはそれがすべてで真実だった。

小学校に行って、無難に過ごして、なんとなく家に帰りたくなくて公園に行く。
学校で私がいつもと様子が違うことに気づいた幼馴染は、何で何でとうるさかったが、訊かないでと泣いて怒ったら、とりあえず1日は黙った。こんなやり取りをもう1週間はしている。
訊かないでほしいのに、知りたがりの幼馴染にはそれは疑念の一つになるらしい。
オレに話せないのはやましいことがあるんじゃないのか、と。
なぜ自分の家族の今一番デリケートな部分を、幼馴染とはいえ他人にわざわざ言いふらさないといけないのか。当事者の私ですらうまく処理できていないのに。
せめて落ち着いてからなら話しようがあるものの、こんな状態じゃ手が出てしまう。もともと私は手が出やすいタイプで、それが元で何度も幼馴染と喧嘩している分、こんな時にそんなことをしたくなかった。

ちょっと前まで周囲はこんな風ではなかったのに、この1週間で驚くほど変わってしまった。
公園のベンチに座りながら、ぼんやりと思う。
この変化の中で自分は何もできなくて、ただただ父の負担になっている。
そんな自分が嫌で、先日こっそり料理をしようとしてみたのだが、やったことないために失敗したうえ、気づいた父に大層怒られ、何もするなと言い渡された。
本当に、自分は邪魔にしかならない。

「蘭ちゃん?」

名前を呼ばれた。知っている人だ。ただ、何でここに居るのかわからない。

「アキ叔母さん?」

顔を上げた先には、驚いた顔をして公園の外から駆け寄って来る、私の叔母がいた。
久しぶりに会った叔母は、相変わらずいい匂いがして、暖かい人だった。久しぶり、と笑う顔が、どことなく機嫌がいいときの父に似ていた。
当時叔母さんは大学生だったはずだ。

久しぶりに顔を合わせた叔母は、そのまま私を家から少し離れた喫茶店に連れてきてくれた。彼女はいくつか注文し、すこし私と話したあと、ちょっと電話してくるね、とすまなさそうにテーブルから離れようとした。
その時ちょうど、彼女が注文していたコーヒーとクリームソーダがテーブルに届いた。
このとき彼女が注文してくれたクリームソーダは、今でもお気に入りである。
ごめんね、ちょっと食べてまっててね、と私の頭を撫でた彼女は、慣れたように喫茶店の店員と話してカウンターの奥へ入っていった。
後から聞いた話だが、その喫茶店はバイト先だったらしい。
当時は携帯電話はとても高価なもので、彼女は当然ながら持っていなかった。その為、店の電話を借りたらしい。

電話から帰ってきた彼女と、何気ない話をした。勉強の話、友達の話。彼女の方も、友達の話やなんでもない生活の話をしてくれた。

そんな話のあと、ふと、元気がないね、悩みがあるなら聞くよ、と優しく彼女は言ってくれた。
話そうかためらった私に、お家で何かあったのかと彼女は問うた。公園で家に背を向けるようにベンチに座っていた私に、初めから何かあるのではないかと思っていたのだそう。

私は今度こそ話した。
話している途中で、どうにも涙が出てきて泣いた。つっかえつっかえで、要領を得なかったはずなのに、彼女は根気よく私の話を聞いてくれた。
泣きながらようやっと話し終えた時、叔母はゆっくりと席を立って、泣いてしまって迷惑をかけたと怯える私と、目線をあわせて頭を撫でてくれた後、ぎゅうと抱きしめてくれた。

「話してくれて、ありがとう。よくがんばったね、蘭ちゃん」

ぽんぽん、と背をたたいてくれる手や、頭に添えられた手が優しくて、体を包む久方ぶりの誰かの体温が暖かくて、柔らかくて、ふんわりと優しい匂いがして。とっても、安心した。
火が付いたように泣き出した私を、叔母はずっと抱きしめてくれていた。

そこからは、叔母が強かったのを覚えている。
喫茶店から出た私は、そのまま叔母の家に転がり込んだ。当時飼っていた叔母の猫は、世代交代しながら途切れることなく叔母の家にいる。
私を喫茶店に連れて行った叔母は、あのとき父に電話して私が叔母の家に泊まれるようにしていたらしい。
夕飯に叔母の手料理を食べながら、私たちは作戦会議をした。翌日学校が休みなのをいいことに、割合長く起きていたことを覚えている。

作戦会議の翌日、私の家に着いた叔母はあれよあれよと父を丸め込み、連絡がないと思っていた母と渡りをつけた。
約1週間ぶりに会った母に、昨日たくさん泣いたのに、また涙が出てきて困った。そこで私は両親がちょっと喧嘩して別居することになったことを知る。
離婚するから私が邪魔になったんではないの?と聞けば、誰が言ったんだ!?と二人してすごく怒っていた。
そんな両親に叔母が怒っていたけれど。

離婚ではなく、ただ距離を置きたい。
わがままでごめんねと二人に謝られたから、みんなで一緒に暮らしたいという願いを、口に出さずに飲み込んだ。

後にその飲み込んだ言葉は叔母にしっかりとばれ、飲み込んだことを怒られた。
そういえば親戚の集まりで忙しそうだからと、甘えること、わがまま言うことを我慢していた私にしっかりと気づいていたのは、父や母ではなく、いつもいつも叔母であったのをそこでようやっと思い至った。

ちゃんと別居であると私が認識してからしばらくして、父は警察をやめ、探偵として事務所を構えるために、父と私は叔母の家に近いビルへ引っ越した。
詳しくはよく知らないが父の実家の持ちビルの関係もあったそうだ。が、当時の私は叔母の近くに住めるだけで単純に喜んだ。
後から聞いた話だが、叔母がそこに住めと父を説得したらしい。近くにいれれば、何かと助けられるからと。事実、風邪をひいたときや、父の依頼の関係で家を長期間空けるときなど、助けてもらった。
そして叔母は、大学卒業後さらに近くに引っ越してきてくれた。

今の家に引っ越してきてから、叔母は父と私に家事を教えた。自宅に乾燥機がきたのも、叔母がないと困ると教えてくれたからだ。
事実、後に習い始める空手の道着は梅雨や秋雨など雨の時期にはなかなか乾かなかったし、近くにコインランドリーも無いため重宝した。
家事と一緒に、料理も教えてくれた。
食材の選び方、包丁の握り方、出汁の取り方など、基本から私に合わせて教えてくれた。おかげで我が家のお味噌汁は叔母の味だ。父曰く実家とは違う味らしい。

叔母は大学を卒業して就職しようとも、傍にいてくれた。
空手の大会には欠かさず来てくれたし、授業参観も見に来てくれた。進路の相談にも付き合ってくれたし、その中で知りたがりの幼馴染の、困った猪突猛進具合も幾分軽減されるように誘導してくれたりもした。
そのことがきっかけなのか、幼馴染は話したくないことがあれば前のように聞いては来ないし、それどころかただ傍にいてくれるようになった。
私は何でも問い詰められることがなくなったからか、手が出ることが減った。必然的に喧嘩も減って、いいことだらけである。

さて、そんな叔母だが、初めの頃は私たちにつきっきりだったが、私が上手く母と連絡をとれるようになるにつれて少しずつ距離を開けた。
それでも前述のとおり、母より近い位置にいる。

女性としての性徴がきたときも、真っ先に頼ったのは叔母だった。学校で教育は受けていたものの、どうしたらいいのかわからなくて、パニックになって電話してきた私をなだめてくれた。そしてその日赤飯を炊いて、喜んでくれたのを覚えている。
ちなみに父にはそれでわかったらしく、後に私がそれで父が知っていたとわかった時、ちょっとだけ複雑だった。
が、口に出さなくてよかったので、助かったことも事実である。

叔母さんは今、米花から離れたところに住んでいる。
私が高校1年生のとき、財産整理の関係で、売るに売れない山を一つもらったんだそうだ。そこにある元は別荘だったという家に、彼女は引っ越した。一応東都ではあるものの、どの路線でも駅から遠く、車でないと難しい位置である。
私がバイクなどの移動手段を持たないせいで、なかなか会いには行けないが、叔母は仕事で米花に来ることがあるので二週に一度くらいで顔を合わせている。

「蘭ちゃんこれあげる。旬ものだし、早いうちに食べてね」
「わ、こんなに。いつもごめんね。ありがとう、アキ叔母さん」
「かわいい姪の喜ぶ顔が見たい叔母心ってやつよ」

今日はポアロで女子会しましょと言ってやってきた叔母は、今年30歳になった。もう三十路ねーと黄昏ていたが、正直三十路で2児の子持ちには見えない。

私が中学生の頃、叔母は結婚した。それから長女、長男と産んでいる。旦那さんは警察官で、とてもかっこいい人だ。叔母の子どもたちも、すごくかわいい。
叔母の家庭はとても暖かくて、たまにお家にお邪魔した時には申し訳ない気分になる。
その度に叔母の子どもたちに目ざとく見つかり、私の方がかまい倒され、最終的に私と叔母の子どもたちとまとめて叔母に抱きしめられるのだ。旦那さんがいるときは、叔母さんの後ろから旦那さんが追加される。
その旦那さんは一つ下だというが、容姿的には叔母の方が年下に見える。

「蘭さんそちらの方は?」

席につく前に注文していた品、クリームソーダとコーヒーを出してくれた安室が、叔母さんに興味を持ったようだ。
ふふん、この人はね。

「私の叔母です。昔から、とても良くしてくれていて。叔母さん、お父さんに弟子入りしてる安室透さんだよ」
「初めまして、蘭の叔母です。貴方が弟子入りしたのは私の兄でして」
「これは、初めまして。毛利先生にお世話になっています、安室透といいます」
「叔母さん、安室さんすごいんだよ!」

これまでの安室の話をすると、叔母はにこにこしながら聞いてくれる。

「そんなに褒めてくださって、照れますよ、蘭さん」
「あ、すみません、話しすぎていましたか?」
「いいえ、そんなことは。寧ろそんなに覚えてくださっていたんですね」
「いえ、そんな。私たちがご迷惑をかけてることが多いですし、むしろいつもすみません」
「謝らないでください。お世話になっているのは僕の方ですから」

にこにこして、ごゆっくりとカウンターへと消えていく安室。視線を叔母に戻せば、叔母はふふふ、と片肘ついて頬笑んでいる。なんだろう。

「蘭ちゃん、新一君より安室さんの方が好き?」
「え?うーん、、、安室さんの方が私に興味なんてないんじゃない?」
「そんなこと。、、、あれ?彼いくつなの?」
「確か、叔母さんの一つ下だよ」
「、、、旦那といっしょか。一つ下は美形の集まりなの?」

でも伊達君は違ったしなーと言う叔母。伊達君とは伊達刑事のことだ。確かに、年相応、というかちょっと厳ついお顔だったなと思い起こすが、叔母の旦那さんのお友達とかいう松田刑事も美形の部類に入るので、叔母の認識は間違いではないような。

「それに、新一はそういうんじゃないよ」
「まあ、それについてはホントはどっちでもいいんだけどね。蘭ちゃんが傷つく結果でなければ問題はないし。まだ帰ってこないんだっけ?」
「そうなの。心配なんだけど、大丈夫だーってたまに連絡が来るくらいで」
「そっか。新一君、目の前に集中しすぎて身内を忘れるタイプだから、連絡くるだけましなのかもね」
「そうなの?」
「だと思うけど。ああいうタイプは好きなものを追い求めて突っ走るんだけど、釣り上げた魚にエサをやり忘れて逃げられる人が多いね。しかも何分顔がいいから、言い寄られてチヤホヤされてばかりで、自分から追いかけるのはへたくそと見た」
「、、、なんだか分かるような気がする。ちなみに旦那さんは?」
「あの人はチャラいから。エサあげすぎて本命なのに信じてもらえないタイプ」
「なるほどー」

ぶふっと店の奥から何か聞こえた。なんだろう?

「あ、いけない。お夕飯の準備しなくちゃ」
「ああ、うちもそろそろしなきゃ」
「蘭ちゃん一緒に食べる?」
「ううん、今日はみんな帰って来るの。、、、お母さんも。また今度でいい?」
「おや、よかったねえ。そういうことなら全然。手伝わなくて平気?」
「うん、ありがとう叔母さん」

お会計はいつの間にやら済まされていて、ありがとうとかごめんなさいとか言っていると、子どもは甘えるものよ、と頭を撫でられた。
またね、と最高の笑顔で颯爽と帰っていく叔母。
お店の前で見送っていたら、安室さんが出てきた。今日はもう上がりなんだそうだ。

「そう言えば、あの方のお名前を聞きそびれました。なんていう方なんですか?」
「叔母さんたら、名乗ってなかったんですね。
叔母さんは、萩原アキって言います」

私の叔母であり、憧れで、理想の女性ですよ。
そう言って、私は安室さんに笑いかけた。
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