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▼ 副艦長の話1:SO5 ティファン・ドラクロア

未開惑星保護条約を丸無視し、艦長とアンヌが未開惑星の住人を連れてきてからしばらく。
惑星間移動の待機時間中、フィオーレとミキに誘われ艦内のカフェスペースにてティータイムに興じることになった。
私とて一応副艦長を務める身。本当は今この時もモニタとにらめっこすべきなのだが、艦長の珍しいやる気の言葉に甘え、ここにいるのである。

「ねえ、君はだれかいい人いないの?」
「え?」

手元のカップを両手に持って艶やかに笑うフィオーレはひどく蠱惑的だ。
これでアキより年下なんだから末恐ろしい。
対して思ってもみなかった質問に、アキは普段からは考えられないアホ面をさらしている。手元のマグからコーヒーが今にもこぼれてしまいそうだ。

「軍人だけあって、女性より男性のほうが比率的には高いし、ここの人たちの顔の偏差値も高めだし。いるんじゃないの?」
「顔の偏差値って、、、。もう、フィオーレったら」

確かにこの艦には顔の整った人間が多いが、それはたまたまである。
それにアキは仕事仲間に対して、顔の良し悪しの感想を抱くのは不謹慎だと思っている。自分が整っている方ではないのでなおさら。
つまりはこのようなことで色恋の話に発展するのは困る。

「でも、確かにここの人たちお顔きれいな方が多いですよね」
「お嬢さん貴女まで、、、」

勘弁してくれと思っていると、その一言に反応したフィオーレが頬杖つきながら楽しそうにしだす。
どうやら初心なミキをからかうつもりのようだ。
彼女には悪いが私も乗って、うまくそらすことにしようか。

「あら?ミキったら浮気?」
「違います!それにフィデルとはそんなんじゃなくって、、、!」
「お嬢さん、だれも彼とは言ってないけど?」
「っ!!もう!アキさんたらいじわるです!!」

ごめんって、とむくれてしまったミキをなだめながら、君はとても魅力的だからねと告げる。

「お嬢さん、、、ミキちゃんのファンクラブみたいなのがうちの艦にはあるくらいなんだよ」
「、、、それを言うならアキさんだってここの船?を飛び越えて軍の中にそんなのがあるらしいですけど」

しまった、藪蛇だったか。というか、何だそれは。知らないぞ。

「ミキ、それこの艦の、というかみんなの秘密なんじゃなかったっけ?」
「あ、、。えっとー、、そのー、、、フィオーレさーん、、、!!」

助けて、というミキにフィオーレは仕方ないわねと苦笑し、なにやら顔を突き合わせて内緒話でもするように二人で話している。
ほっぽりだされたアキは、なんとなくその様子を観察してみることにした。
こうしてみると、二人はほぼ正反対のタイプだ。
フィオーレはバラのように艶やかで、対してミキはユリのように無垢だ。いや、失礼だが上品よりは幼いので、秋に咲くコスモスのような素朴なかわいらしさだ。
その二人を眺めながらコーヒーを飲めるのも女であることの役得かと思っていれば、フィオーレが何か言ったのだろう、ミキがボンとでも音がしそうなほど顔を真っ赤にして机に沈んでしまった。
その様子をにやりと笑って眺めるその仕草の放つ色香はさすがというか、なんというか。
年上のはずのアンヌが幼く見えるのだから、彼女の性格がなせる業というところだろうか。
、、、私も年上のはずだけれど、こんな色気は持ってないな、、、。

「ふふふ。自爆しちゃった。まあ、ミキは置いておいて、で?いないの?」
「まだ言うのね。仕事一筋だし、いないよ。
艦長もふらふらしているし、そっちのお守りが大変だから」
「エマーソンにはアンヌがいるでしょ?」
「会議やパーティーになると、アンヌには難しい場面が出てくるの。政治的駆け引きには、あの子は素直すぎて向いてないでしょ」
「言えてる」

エリートさんなんだけど、どうにも抜けていて、ね。
まあ、そういうところがかわいいんでしょ?
そうなんだけど。

「ま、そんな事情もあって、私が先に結婚やらなんやらしたら、艦長のそういった意味での盾がなくなるの。
そもそも、そういう相手を作る気はあんまりないし」
「ふーん。でも好きなタイプとかはいるでしょ?」
「なかなか聞きこんでくるなあ。なんの得にもならないでしょうに。
そうね、、、」

ふむ、とあたりを見渡していると、ちょうど休憩だったのかカフェスペースに入ってきたドラクロアと目が合った。

「、、、ドラクロアとか、割と好みかも」
「へえ、意外。かわいい子が好きなの?」
「あまりかわいいとか言ってやらないでよ。あれでフィオーレより年は上なんだから」
「そうなの?」
「アンヌと同い年じゃなかったかな?まあいいけど。
昔、彼が副官に成りたての頃くらいだったかな、白兵戦で一度私が彼をかばったことがあってね。そこで割と大きな怪我をしたんだ。
私どっちかといえば前衛のタイプだし、怪我をするのはいつものことだから、私を含め誰も気にしてなかったのに、ドラクロアには後々嫌って程怒られたんだ。
自分の身を大切にしろ、ってのが大趣旨だったんだけど。そんな風に怒ってくれる人なんて久しぶりだったから、なんだか感動してね」

それ以来一目置いているよ。

「あと、からかうと面白いからかな」

目が合ったことを不思議そうにしている彼に、笑って少し手を振ってやると、顔を真っ赤にしてからかうなと口パクで怒鳴って、さっと遠くの席に足早に歩いていくのだから、やっぱり面白い。

あの時の剣幕は今はすっかりなりを潜めている。
だが、以前より突っかかりやすくなったのか、以降よくそばできゃんきゃん吠えている。
もしかしたら普段からため込んでいて、その矢先のことだったからあんなに怒ったのかもしれない。
しかし、ほめてやれば顔を真っ赤にしてそっぽを向くので、面白いだけでなくかわいい部下である。

「余程気に入っているのね、彼のこと」

やり取りを見ていたのだろう、とてもいい笑顔だねフィオーレ。

「まあね。優秀でかわいい部下だよ」
「自分はかわいいっていうのね」
「まあ年上だし?中身の年齢なら、ブルネリも上じゃないの?」
「ミキは別として、女はたいていそうでしょ?」
「言えてる」

そういえば君いくつなの?
ブルネリより5つは上だね。

「彼も苦労しそうね」
「悪かったね、こんなおばさんが上官で」
「、、、そういう鈍いところよ」
「え、好意の話?ないない、私に対してとか。年上のおばちゃんになんて興味ないって。
それにドラクロア、この間艦長の紹介で受付のめっちゃかわいい子とお見合いしたらしいから、私みたいな前衛ゴリラじゃなくて、おとなしくてかわいい系の子が好みじゃないの?」
「、、、それホント?」
「ホントだけど、、、なに?フィオーレ顔が怖いよ。
ここのコーヒーおいしくなかった?」
「そうじゃないけど、、、はあ、ほんとに苦労しそうね」
「なにそれ、失礼な」

不服そうなアキをほっぽって、フィオーレは未だウジウジしているドラクロアを焚き付ける方法を考えつつ、頭の隅で彼女に余計な誤解を植え付けたエマーソンをめこめこにしていった。
後日、フィオーレに散々構い倒されたエマーソンがげっそりしていたのは別の話。
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