雲が早馬のように翔けて行く。おかげで月が出たり隠れたりと忙しない。
 街道から少し入った開けた場所に十数人、みすぼらしい身なりの男どもが焚き火を囲んでいた。聞き取れる会話から盗賊の類であることが伺える。

「あの金髪野郎、やっぱりデマこきやがったんだ。金目のモノなんざありゃあしねぇ」

「しかし久し振りに商売女以外を相手に出来て、まんざらでもないって顔してますぜ」

 ケラケラと乾いた笑いが起こる。

「銀の髪なんざそうそういねぇ。勿体無い事をしたぜ」

「最期の顔は忘れられんな。例えるなら……」

 盗賊の一人が言い終わる前に、背後からの重い物が落ちた音に振り返った。

「それ以上の愚弄は、この俺が許さん」

 盗賊の一人が転がっていた。
 血溜まりに沈むそれを跨いで、背の高い男がゆっくりと歩み出る。
 一歩、ニ歩。
 焚き火の炎に照らされ妖しく光る剣を手に、ふーっと男は深く息を吐いた。
 盗賊どもは相手が一人だと知るや、鼻で笑いつつ各々が武器を手に立ち上がる。が、その男の纏っている空気の重さに気付く頃には、盗賊どもの首や手足は宙を舞っていた。
 一方的な攻撃は、さながら地獄絵図である。
 いきなりの出来事に対処する間もなく、盗賊どもは一掃されていた。
 彼らの犯した間違いは二つ。
 さっさと逃げ出さなかった事と、そもそもこの男を怒らせた事である。

「気が済みましたか、覚者さま」

 木陰から赤毛の魔女が顔を覗かせる。

「……殺し足りない」

 剣にべっとりとこびりついた血を拭いつつ、息一つ乱さずに男は小さく呟いた。

「なんなら街にメテオでも落として来ましょうか?」

「止めておけ。それでは俺の気は晴れん」

 苦々しい表情で剣を鞘に納める。

「……では、元凶を探しに?」

「たといこれが罠であろうとも、一発ぶん殴ってやらねば気が済まぬ」

 そう言って盗賊団の屍の山を背に歩き出す主を追って、赤毛の魔女は聞こえないように小さく溜息を吐いた。

「……今度ばかりはお前にも活躍してもらうぞ。隕石でも大岩でも好きなものを降らし、頭をかち割ってやれ」

 前を往く男の表情は伺えないが、いつになく険しい顔をしているのは確かであろう。

「よいのですか。いつもなら自ら直接手を下す事の出来ない方法はお選びになりませんのに」

 己の手で討ち、その罪を受け止める。
 いつもならばその理論を曲げたりしないのだが。

「奴だけは別だ。何をしても死なん」

 ぐっと力を込めた拳がわなわなと震えている。
 それは恨み故か、はたまた恐怖故かは己にも計り知れない。

「首を跳ねようが心臓を穿こうが、奴は何度も俺の前に立ちはだかる……赤い竜よりも厄介な相手だよ」

 大元のネタ

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