真夏の昼下がり。
 屋敷中の窓が開け放たれて爽やかな風が通り抜けていく中、三歳程の黒い髪の少年が無邪気に走り回っていた。
 八月の半ばではあるが、この地方は過ごしやすい気温が続く。
 屋敷は広く、端から端まで走り抜けるだけで少年にはかなりの運動量になりそうだが、全く疲れる様子もなく、何が楽しいのか笑顔でずっと走り続けている。
 とととと……とととと……。
 小さな足音がこだまする。
 何人かの使用人に声をかけられるが、少年は意に介さず走り続けた。
 まるで何かを追い駆けているかのように。

 覚束ない足取りで階段を登り切ると、きょろきょろと首を振り、何かを見付けて再び駆け出した。
 二階の廊下もぱたぱたと可愛い足音が駆けていく。
 一番奥の扉の前で少年はようやく足を止めた。
 色褪せた真鍮の取っ手に必死でしがみ付くも、なかなか扉が開かない。
 勢いを付け、小さく飛び上がりながら取っ手を回し、ようやく解放された扉は、風に吹かれて勢い良く開いた。
 少年はコロンと一回転して俯せに倒れたが、すぐにむくりと起き上がる。ムスっとした顔になりつつも、開いた扉から中へと突入して行く。
 その部屋は書斎のように本が積み重なり、何かの書類らしき紙の束もあちこちに置かれている。
 だが、何故か扉を吹き飛ばすような風が吹いているのにも関わらず、それら書類の類いはそよ風に吹かれている程度にしか動きが無い。
 勿論、少年はそのような事など一切気に留める様子もなく、きょろきょろと何かを探すように辺りを見回していた。

 窓の外を眺めていたこの部屋の主がゆっくりと、少年の方へと振り返る。
 すると珍しく息を呑み、驚いたような表情を浮かべながら勢い良く立ち上がった。
 少年が首を傾げる。探し物が見付からないようだ。
 白狼が膝を折り、首を傾げたままの少年を力一杯に抱きしめた。腕の中で少年がもがく。

「ちちうえー?」

 白狼を呼ぶも、腕の力は弱まらない。
 諦めた少年は無心に宙に腕を伸ばす。
 その瞳には、青い蝶が映っていた。



      
 

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