うるるさまからの頂き物

〈あったかいのはいつも〉



ピンポーン。

訪問を知らせるチャイムの音が鳴り響いて、それと同時にベッドで寝転んでいた
体は跳び起きた。慌ただしく部屋から出て階段を駆け降りる。
一直線に向かった玄関のドアを開けるとそこには白い息を吐きながら立ってる人
がいて。オレの顔を見るなり、その人は柔らかく微笑んだ。





今日は休日で、本来なら一日部活部活になる筈の日で、この時間に家にいるなん
て考えられないような日。
でもオレは今家にいて、しかもここには大好きな人も一緒。何でこんな嬉しい状
況になってるのかというと、それは急遽部活が休みになったから。
理由は昨日から降り続いた雪のせい。今日はもうちらほらしてる程度だけど、グ
ラウンドは使えたものじゃない筈だから。

早朝から電話でそんな連絡があって、オレはすぐさま飛鳥さんに電話をかけた。
偶の休日。部活も何もないホントに休みの日。だから今日一日オレと一緒にいて
くれないかなって思って。そしたらオレん家に来るっていうから、オレはうきう
きしながら待ってたってわけ。



「ほら、電話で言ってた肉まん」

「えっ?買ってきてくれたんですか?」

飛鳥さんが脱いだコートを受け取ってハンガーにかけてたら後ろからそう言われ
て、振り返ってみると飛鳥さんの手にはコンビニの袋。

「お前が食べたいって言ったんだろ」

「やった!ありがと飛鳥さん!」

確かに電話した時肉まん食べたいなーなんて言った気がする。だってほら、無性
に食べたくなる時あるじゃん?
でもまさかホントに買ってきてくれるとは思ってなくて、何気なく言った一言を
ちゃんと聞いててくれた事に嬉しくなりながら袋を受け取ったら飛鳥さんは優し
い顔して微笑んでくれた。

手にしたまだあったかいそれ。何かこれって飛鳥さんの気持ちみたい。そんな事
を思うと更に嬉しくなる。
なんかすごい飛鳥さんに抱きつきたい気分。とか思って実際に抱きつこうとした
ら既に目の前に飛鳥さんはいなくて、ベッドの前にすとんて腰を下ろしてた。つ
いでに言うと一緒に買ってきたらしい缶コーヒーを開けるところ。

えっと何?すでにくつろぎモード?

「ちょっと飛鳥さん何やってんですか!」

「ん?お前も飲むか?」

お前のもあるぞってさすが飛鳥さん。

…ってそうじゃなくて!何一人でくつろいじゃってんですか。オレのこの抱き付
きたい衝動は一体何処に持ってったらいいわけ?



今まさに飲もうとしていた缶コーヒーを飛鳥さんの手から取り上げて近くにある
ローテーブルの上に置く。
突然のオレの行動をぽかんとしたまま眺めている飛鳥さんの真っ直ぐ投げ出され
た足を跨いで、更に怪訝そうな顔をするその顔は無視して脚の上にちょこんて乗
っかった。
そのまま顔を近付けながらセーターの裾を掴んだらはっとしたように慌てて、片
方の手でオレの手を押さえながらもう片方の手でオレの胸を押した。

「こら、何やってんだお前」

「何って、分かんない?」

「分かるから言ってるんだろ。やめろ」

「えー、何で?」

「肉まん冷める」

「後であっためる」

「それ…ちょっと急いで来た意味なくなるだろ」

「急いで来てくれたんだ?」

「…お前が待ってるかと思って」

手を出そうとしては押さえられ、その手をかいくぐってまた伸ばしたら更にまた
押さえられる。そんな攻防を何度も繰り返した手を、オレは思わず止めてしまっ
た。
それにつられてかオレの手首を掴んだまま飛鳥さんの動きも止まる。急にぴたっ
と動きを止めてしまったオレを不思議そうに見る。
その顔を見たら、何でだか勝手に全身から力が抜けた。

「…うん、待ってたよ」

この会話の流れから行くと飛鳥さんが言ってるのは多分肉まんの事で。
確かにそれを待ってなかったって事はないと思うけど、確かに食べたいって言っ
たけど、でもそれはオレの中では既についでの存在になってたんだよ。だってホ
ントに買って来てくれるなんて思ってなかったしさ。
だからそうじゃない。オレが待ってたのはそれじゃないんだよ。

「飛鳥さんが来るの、すっごく待ってた」

そう言って笑いかけたらちょっと驚いたみたいな顔して、丸くしかけた目を伏せ
ながらそうか、と小さく呟く。目線を逸らすのはもしかしてちょっと照れたから

ああもう、やっぱりオレ…飛鳥さんに抱き付きたくて仕方ないんだけどどうした
らいいの?



手首を掴まれたまま止まってた腕を動かしたら、飛鳥さんの手からは力が抜けて
するりと解けていった。だからそのまま頭を抱え込むように腕を伸ばす。
後ろから回した手のひらで包み込んだ肩。伝わってきたのは、ひんやりとした冷
たさだった。

「お前の手、あったかいな」

オレの肩口に顔を埋めたまま飛鳥さんがぼそりと呟く。脇に下ろされてた腕が背
中に回って、やんわりとオレの体を引き寄せる。
背中に触れる手のひらも、やっぱりちょっと冷たい気がするな。

「オレの手気持ちいい?」

「まぁな」

「じゃぁもうちょっとこのままいてもいい?」

「…仕方ないな」

返ってくる返事はそっけないんだけど、その代わりにオレを抱き締める腕の力が
ぎゅって強くなる。ぴったり胸をくっつけて肩口に頬を擦り寄せる。

自分の顔が緩むのが分かった。


こういうとこホント…好きだなぁ。


その態度も仕草もホントに愛しく思えて、オレの方からも飛鳥さんをぎゅっと抱
き締め返した。



手があったかいのは心があったかいからなんだって、そんな事を昔どこかで聞い
た気がする。
それが本当だとしたら、オレの手があったかいのは飛鳥さんのせいなんだと思う
よ。だってオレの心ん中をあったかくするのはいつだって飛鳥さんなんだから。

いつも傍にいられること。笑い合えること。こうして抱き締め合えること。

一緒に過ごす時間がオレの胸を満たしてくれる。幸せにしてくれる。飛鳥さんと
いるといっつも心がぽかぽかするんだよ。
だからね、飛鳥さんの心はオレがあったかくしてあげたいんだ。
オレと一緒にいる時は、飛鳥さんもそんな風に感じてくれてたらいいんだけどな



出来ればそうでありますように。


そんな事を願いながら、大好きで堪らない人のこめかみにそっと触れるだけのキ
スをした。
















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