後編
「鈴木、災難だったってな。エレベーターに閉じ込められるなんて」
あの事件が起きて、数時間後救助はされたが、俺はお腹を壊して
学校を休んだ。
精神的ショックのほうが大きかったかもしれない。
片瀬は一言も謝らなかった。
俺ももう恨み言を言うのも面倒で、黙ったままだった。
それでもう終わりにしようと思ったが、一応事故報告をしないといけないので風紀指導室に来て欲しいと言われた。仕方がないのでそれだけして終わろうと思った。
「そうですね……最悪でした……」
一応あった事が間違いないか書類を確認してサインをする。
それで帰ろうと思ったら、ドアから数人の生徒と風紀委員たちが入ってきたので、邪魔にならないように横に寄った。
「委員長、この鈴木たちが放課後の中庭で不純同性交友をしていたことろ、現行犯逮捕をしました」
「おいおい、鈴木一派って……鈴木久(ひさし)と、相手は一人じゃなくて、5人かよ。噂には聞いていたがどれだけなんだよ」
「そうです。この鈴木久が相手5人と野外で乱交をしていました。もう、呆れるほかありませんでした」
どうやら捕まった6人は皆、乱交をしていたようで、そこを風紀に捕まって連行されたみたいだった。鈴木久って俺と同姓同名なんだ。漢字は違うけど。俺は鈴木尚史(ひさし)と書く。
「やっと、現行犯逮捕できたか。鈴木、お前のせいでどれだけ校内の風紀が乱れていたか。性病がやけに広がっていたから、誰が広めていたのか探っていたが、原因はきっとお前だろう。ちゃんと性病検査をしたほうが良いぞ、退学した後病院に行け」
名前も知らない風紀委員長らしき人が、鈴木久相手に退学を宣言していた。5人としているところを捕まったら退学になるのは当たり前だろう。鈴木は文句を言っていたが、引きづられていった。
「鈴木も災難だったな。同姓同名だったから、風評被害も甚だしかっただろう? すずきひさしという名前が一人歩きして、誰とでも寝る男って噂が広まったが、鈴木久のほうはあの通り平凡な顔だったから、男をとっかえひっかえしているほうは鈴木尚史のほうだって皆勘違いしていたようだな。まあ、俺たちも勘違いしていたわけだが……鈴木が退学になったから名誉挽回できるだろう。俺たちもただの同姓同名で被害者だって広めておくから安心してくれ」
「……そうだったんですね。どうして俺あんな噂を否定しても否定しても、消えないのかと思ってました」
「まあ……鈴木の場合、ちょっと顔がエロっぽいしな。それで勘違いされたんだろう」
俺ってそんなにエロっぽい顔なんだろうか……
委員長の横にいる片瀬の顔が視界の端に入ってきて、その顔が何故か真っ青になっていることに気がついた。
「じゃあ、俺はこれで失礼し」
「ごめんっ!……鈴木、俺……勘違いをしていて……」
「………何のこと?」
「鈴木と鈴木を」
「分かっているから……もう、どうでも良い」
どうでも良いわけないけど、噂を信じて俺を便所として扱って当然と思った片瀬を許せない。許せないから、謝罪なんか聞きたくなかった。
「おーい、片瀬。お前勘違いをして鈴木ちゃんに何をしたんだよ」
「もしかして強姦しちゃった?」
「違います……強姦なんかされていません」
挿入されたけどあれは欲情処理でもなく、ただ漏れないように排尿したかっただけのことなのだ。俺は片瀬にとって便器で、便器相手に強姦なんか成立するはずない。
「ごめん! 謝っても許してくれないだろうけどっ……ひょっとして……ひょっとしなくても初めてだったんだよな?」
「って、やっぱお前強姦したのかよ」
「違います!!! 片瀬は……俺のこと便所にしただけです。おしっこしたかったのに、便器がなかったから便器にされただけです」
どうでも良いと言いながらも俺は涙が溢れるのをとめることが出来なかった。ただの勘違いであんな目にあった自分がとても可哀想になったんだ。
「片瀬……お前、処女の鈴木相手に体内放尿って有り得ないだろ!」
「自分でも今……有り得ない事をしたから……反省しているんです!……ごめん、何て謝っても許してくれないよな?」
「もう良いよ!」
「良くないだろ!……そんな傷ついた目でいて、謝ったからもうチャラねってできるわけないじゃないか」
「事なんか何もないから、謝ったんだからもう良いって言ってるだろ! 俺なんか、もう汚れているし、好きな人ができても便所にされたんだって知ったら誰も俺なんかに触れてくれないよ! 一生一人で、孤独に生きるしかない俺の気持ちなんか分かるはずないんだから、もう謝るなよ! 二度ともう謝るな!」
俺は走って、走って、寮の部屋に戻った。
片瀬なんか好きだった自分が、猛烈に許せない。
噂を平気で信じて、ビッチだったら何をしても良いなんて、思い込んでいる性根も許せない。
許せないのに……まだ好きな俺のほうがもっと許せない。
「鈴木……ちゃんと話し合おう」
ドアをノックしながら片瀬が声をかけてくる。無視をしていると勝手にドアを解除して入り込んできた。
「悪かったと思っている……何を言っても、信じてもらえないだろうけど……俺で出来る事だったら何でもするから」
エレベーターの中で俺を無茶苦茶に扱ったときの傲慢な顔とは比べようもない、焦りきった顔をしていた。
「じゃあ、責任とってよ。俺はあんなことをされたからもう恋人出来ないだろうし、馬鹿だろうけど……小学生の時からずっと片瀬のことを好きだったんだ。責任とって俺を恋人にして、幸せにしてくれるか? 何でもするって言うんだったら」
「……え?」
「嫌なんだろう? だって便器として使った俺なんか恋人にしたくないだろ?」
困ったような顔で俺を見ている片瀬は、俺の言った意味を分かっていないようだった。
「いや……でも、あんなことをした俺を恋人にって……」
「どうせ、俺なんかのエロっぽい顔も好きじゃないんだろ……片瀬の好みは清純な子だもんな……」
ずっと好きだったから片瀬の趣味もしっている。俺とは正反対の清潔感のある清純な子が好みなんだ。
「いや、確かに清純派も好きなんだけど……エロっぽいのが嫌いというわけじゃなくって……むしろ好きというか、淫乱タイプも好みっていうかバッチ来いではあるんだけど」
「だったら……試してみてよ。俺でも恋人に出来ないかって……悪いと思っているんだったら、エロいのもタイプなんだったら良いだろ?」
「待ってくれ! ちょっとそれ以上近づかれたら、今度は尿の代わりに精液をお前の中に出しちゃいそうだから、待ってくれっ」
「それでも良いよ……だって、俺の中に出されたのがおしっこだけだなんか、酷い体験過ぎない? だったらちゃんと抱いて、俺の中に一杯出して?」
俺は被害者を前面に出して片瀬の恋人におさまった。片瀬も実は童貞だったみたいで、性の誘惑には勝てずに俺を大事にしないといけないから、初めがあんなのにしちゃったからと言いつつ、俺を何時も抱いていく。
はじめは最悪の体験だったけど、それでもずっと大好きだった片瀬を恋人に出来たのからだ、不幸中の幸いと思っている。
でも最近の俺が不満に思っていること……それは、一番最初の体験が忘れられずに、片瀬に最後に僕の中で体内放尿をして欲しいと思ってしまっていることだ。
でも、あの体験がトラウマになって恋人が出来ないから、片瀬は一生俺の恋人なんだと脅している身では、して欲しいと言うことができない。
どうしたらもう一度してくれるかな……
エレベーターの時みたいに、裏で手を回して、そうせざる得ない状況をもう一度作ろうかな……あの時はただ、二人っきりになって良い雰囲気になれたら良いなくらいにしか思っていなかったけど……でも、思いがけなく片瀬を手に入れれた。
だったら、片瀬がしたいから俺に懇願するって形で実現できるように、またきっとどうにかできるよね。
END