私はそのままその少年のイチモツに見惚れながら、何故か湯着を着せられ風呂に入れられた。甲斐甲斐しく世話までされ、息子よりも年下の少年に世話をさせる屈辱は……
「セイレス、お前……結婚を考えている相手がいると聞いたが?」
「は? 何のことです? 一体誰からそんな噂話を聞いたんですか? そんな予定はありませんし、父上のような手のかかる人がいて結婚なんかできるはずがないでしょうに」
そうか、やはり私のようなお荷物がいるからセイレスは結婚できないのか。
考えて見れば当たり前だろう。私のような醜聞ばかりある父親がいて、金もかかる。
セイレスの性格から考えて、私を置いて嫁に行くことなど考えることもしないだろう。
やはり母親のほうについていかせたほうが良かっただろうか。しかし、母親も私と同様金をせびるだろうし、どっちについていかせても良い事はなかっただろう。
「は? ルクレチアはどこにいるか、ですか?」
「あの少年がルクレチアという名前かどうかは知らないが…毎回私を補導する士官学校の少年だ」
あの少年に会いにきたが、生憎何処にいるかは知らず、憲兵隊支部(私が牢屋に入れられる場所)まで聞きに来ていた。
「それだったらやはりルクレチアでしょう。今日は研修ではないので、学校で授業を受けているのではないでしょうか。士官学校の場所はご存知ですか?」
「ああ、知っている」
私を風呂に入れたあの場所だろう。金もないのでテクテクと歩いていくと、もうすぐ士官学校の側という所の森辺で何か音がした。
「なっ、な、何をやっているのだっ!?」
「なにって、水浴びですよ。マラソンの授業があったので、暑くって……ところで、こんな所に何か御用ですか?」
「そ、それはだなっ……セ、セイレスの結婚のことでっ…そ、相談が」
水辺の煌きと相まって、少年のアレがさらに神々しく見える。私は目線を逸らそうとしたができない。
「ああ、兄のことですか? どんな相談ですか?」
少年、ルクレチアは何も着ないまま、堂々とこちらに歩いてくる。服を着てくれと言いたかったが言葉に出来ない。
この国の貴族は全裸でも堂々とするものなのだろうか。人と話すときも全裸で良いのか?
しかし少年は水浴びをしているのだ。今も岸辺に来ているが、まだ足の半分は水に浸っているし、水浴びを邪魔しに来た私が、服を着ろというのも勿体無い気がするし。
「以前も聞いたが……私のような存在がいると、君の兄君はセイレスとの結婚を躊躇するのだろうか?」
「どうなんでしょうかね? 兄がどうこういう以前に、息子さんのほうが問題じゃないですか? あなたと言う問題児がいては、いくら兄が求婚したところで、迷惑をかけるとか、あなたを一人にしておけないとか言い出して、辞退するほうではないでしょうか?」
その通りだろう……セイレスは私がいると、私を優先して自分だけ結婚しようとは思わないだろう。婚家にも迷惑をかけるかもしれないと、結婚を受け入れることもしないだろう。
それに、元妻の問題もある。セイレスが玉の輿に乗ったと知ったら、今度はセイレスの夫を脅迫するかもしれない。
問題は少年の兄ではなく、セイレス側にあるのだ。私と、元妻。この2つが解決し無ければセイレスを嫁に出せない。
「だからね……貴方が片付けば、息子さんも安心して結婚できるのでは?」
その通りだ。私がいなければ…
「貴方には、父親や夫という役目に似合いませんよ」
その通りだ。私なんて役立たず、夫になんかなるべきじゃなかったし、父親というよりもただのお荷物にしかすぎない。
「だから、お嫁さんになるべきなんですよ」
その通りだ…えっ?
「な、何をっ!」
「貴方みたいな人は夫に甘やかされて、家から一歩も出さないくらいに愛されるべきなんですよ。そもそも貴方のような人が男を抱こうと思ったのが間違いなんです。貴方は抱かれて愛されるべき存在だったんですよ、セリア」
な、なぜ、少年が私の名前を知っているのだ? 補導を何度もされたからか?
それに、私が嫁?
「貴方は僕の」
「な、何を言っているのだ! わ、私は公爵でっ! 嫁になどと屈辱的な事をっ!!!」
生まれた時から一人息子で私が跡継ぎを儲けるしかなくて、私は好きでもない妻たちを多数娶らなければいけなくてっ! 嫁になるなど、考えたことも無ければ、そんな権利も無かった。
この国と同様、跡継ぎが妻になるということは、無能の烙印を押されたも同様なのだ。私は惑うことなく無能だったが。
少年はそんな私に少年の兄の結婚の邪魔になるから、邪魔にならないように誰かの嫁になって出て行けと言いたいのだろう。こんな私の嫁になってくれ面倒を見てくれる者などいるはずもなく、だったら妻として夫に面倒を見てもらえと、そう言うことなのだ。
私にだってプライドがある。愛してもいない男の妻になどなれない。
少年に言いたことだけ言って、泣きながら帰ってきた。いい年をして泣いてしまったのが悲しい。
どうせ、お嫁さんになるのなら……あの少年の…何を馬鹿な事を思っているのだ私は。セイレスよりも年下のまだ未成年の少年のお嫁さんになりたかったなど。
けれど、どうせ結婚をしなければいけないのだったら…あの少年の妻になりたかった。
私など少年から見れば実の両親と変わらないか、それよりも年上かもしれないというのにだ。こんな年寄りにお嫁さんになりたいと言われたら、驚くどころか気持ち悪がられるだろう。純潔を尊ぶ国だ。数多の妻と関係を持っていたとされている、素行の悪い私に思われるなど迷惑この上ないことに違いない。
どうせ抱かれるのだったら、あの少年のような男らしい物に抱かれたかった。
「父上、何泣いているんですか? また補導されたり、振られたりでもしたんですか?」
「……セイレス…」
私がいなくなったほうがお前のためだといっても、優しいこの子のことだ。私を捨てたりはしないだろう。
「そろそろ結婚を考えてはどうか? できれば金持ちの夫をだな」
「はいはい、そんな素敵な旦那様が見つかればいいですね」
セイレス、お前のようないい子が息子として来てくれて私は幸せだったよ。私には勿体無い息子だった。
お前のために最初で最後にしてやれることは、これだけだ。
「呼び出して何の用だよ、セイレスの給料日まで金は無いって言っていたくせに」
この元妻だけは、残しておいてはセイレスのためにはならない。
金を渡すところを見られては、私が元妻を金で買おうとしたと思われ何度も補導をされていたが、それが今役に立つだろう。妻を殺しても、痴情のもつれだったと思われるだろうし、セイレスも納得するだろう。
セイレスのために殺したと思われなくて済む。私の怠惰な生活ぶりが初めて役にたったといえるだろう。
「な、何をするんだよっ!」
私の殺気(魔力)を感じたのか、いつも強気な妻が怯えだした。元妻よりも魔力が高い。散々詰られていたが、力勝負になれば私も妻に勝てるのだ。
「死んでくれ、私もあとを追うから。私たち二人がセイレスのためにしてやれる、最後の親孝行だ」
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