さて、辺境伯家といえばモジモジ君たちである。なかなか自分の気持ちを告白できず、そのせいで婚期が遅くなっているが最近改善されつつある。やり手の当主リオンのお陰だ。
「よ、ようこそ?……ジョエル様…辺境伯様」
皆から、ジョエル様を食事に誘えよと言われ、どうしようと悩んでいると、周りが『セイレスがジョエル様をお食事に誘いたいって言っています』と、勝手に言ってしまい、何故か僕が手作りでもてなすことになってしまい、今日夕食にジョエル様だけではなく、呼んでもいない辺境伯閣下まで同席しているのだ。
「では、結納金はこれくらいでいかがです?」
「ほう…流石王国でも有数の名家だ。よし、セイレスを嫁に、いや、もうひとつ愛人をだな」
「ち、父上! いい加減にして下さい!…といいますか、結納って一体?」
「では、君はその気もないのに、ジョエルの心を弄んだとでも言うのか? 食事に招待をする=結婚をしたいということだろう?」
え?
まあ、皆はジョエル様を狙いといったけど、けど、だからといって食事に招いただけでいきなり結婚?
僕がジョエル様を弄んだことになるのか?
「え? ですが、食事くらいで」
「君は、この国の生まれではないからか知らないかもしれないが、デートや食事は最早結婚前提だ。翌日にも結婚してもおかしくはない。基本的に我々にはお付き合い期間と言うものは無い。すぐにでも結婚だ。ジョエルを誘ったということは婚姻を申し込んだも同じことだ。このまま結婚しなければジョエルは弄ばれ、他の誰とも結婚できないことに」
え?
でも、僕ももうこの国民になって、それなりになるし…食事に誘っただけで結婚というのも、ありえない気がする。
それとも貴族社会はそういうものなのだろうか…
「でも……ジョエル様のお気持ちは…」
回りは僕とジョエル様が結婚すればいいって言うけど、たしかに滅多にない縁ではあるし悪いことはないが、食事に誘われたからといって結婚するジョエルの気持ちが分からない。
「問題ない。そもそもジョエルはずっと君に恋をしていたんだ。君に求婚(食事に誘う)されてどれほど喜んでいたか。純粋なジョエルを振るなんてことはしないだろうね?」
「え?……ジョエル様が僕の事を? でもそんなこと一言だって」
そもそもこの場に来て、一言もジョエル様しゃべっていないよね?
勝手に辺境伯様が話を進めていっているけど、肝心のジョエル様は俯いて、リオン様にまかせっきりだ。
「ジョエルは…いや、わが一族は恥かしがりやでね。なかなか自分の気持ちを言えないのだよ。だからこそ、当主である私がこうしてジョエルの気持ちを代弁するためにやってきたというわけだ」
なるほど…どうしてこの場に辺境伯様がいるのか、何となく理由が分かったような気がしないでもない。
でも、本当にジョエル様が僕の事を?
「ジョエル様、辺境伯様がおっしゃっていることは本当なんですか?」
「……」
コクンと頷くが無言だ。
「僕のことが好きだったんですか?」
また頷くが無言……
「僕と結婚したいと思ってくださっているんですか?」
また頷くが…
「あの……気持ちは嬉しいのですが、何も言ってくれないと…僕も不安です。もし結婚してもこんな様子で何もしゃべっていただけないようでは……」
いや、ジョエル様、普段はしゃべるよね。上司なのでよく話すほどではないが、それでも仕事のこととか、おはようございますとか、お疲れ様でしたとか。なのに、今日は声も聞いていないぞ。
「普段は話すから心配はない! だが、求婚だけはできないのだ! 分かってやってくれ……わが一族の宿命だ」
そんな大げさな……
「ジョエル様……理由は分かりました。けど、僕も一生を添い遂げるとしたら、やはりジョエル様ご本人からお気持ちを聞きたいです。こんな大切なことなのに、人を通してで決めてしまうことなんてできません」
そうか、きっとみんなが言っていた身体的に不自由があるってこのことなんだろうな。
それはそうだろう。ある日突然ご当主がやってきて、結婚の事を言い出して相手は黙っているだけなんて、良い気分じゃないだろう。僕はジョエル様のことを知っているけど、よく知らない相手だったら、そんな人と結婚しようとか思わないだろうし。
「…あ、あのっ」
あ、やっと話した。
「あ、あの……その」
「ぼ、ぼく」
10分経過。
「もう良いだろう! これほどの結納金があるのだ! 黙って嫁に」
「父上は黙っていて下さい! ジョエル様、僕は何時間でも待っていますから、ジョエル様のお気持ちをジョエル様自身の言葉で語ってください」
「ぼ、僕っ」
ボンっと突然僕の目の前に手紙が…ん?
僕の大好きなセイレスへ
僕はずっとセイレスが大好きでした。ずっと結婚して欲しかったけど、言う勇気がありませんでした。
リオンになんとかしてもらおうとした、不甲斐ない僕を許してください。
でも、セイレスが大好きです。愛しています。一生幸せにするし、愛し続けます。
不自由はさせません。
だから、だから、僕のお嫁さんになってください。
言えないから、手紙?
どうなんだろう? 凄く僕を好きでいてくれるって気持ちは伝わってくるけれど、できれば言葉で言ってほしかったけど、たぶんジョエル様にはこれが精一杯なんだろうな。
こういう体質なんだろう。みんな言っていたもんな。身体的に問題があるって。だから頑張っても無理なんだろう。
あんまり強制しても可哀想だよな。
「ジョエル様……僕を幸せにしてくれるんですよね?」
コクコクと頷く。
「これからも言葉に出来なくても、お手紙でも良いので気持ちを教えてくれますか?」
コクコクと…
「じゃあ、お嫁さんにして下さい」
パアアと可愛い顔を輝かせるジョエル様。可愛いな……こんな可愛い方が旦那様になるのか。
僕は元他国の出で、ジョエル様に相応しいなんて思っていなかったけど、ジョエル様もこんなだし、もてないそうだし、僕がリードしていってあげれば良い夫婦になれるのかもしれない。僕は父って男の面倒をみてきた実績があるし、父に比べればジョエル様なんか言葉くらいしか面倒はかからないだろう。
「待て! 結納金は納得したが、私にも男を」
「心配なさらないで下さい。セイレスの父君には、彼を嫁に貰う代わりに面倒を見てくれる男を捜しますよ。勿論、夜の面倒までちゃんと見ます。経済的にも、下半身的にも父君には不自由はさせません」
「なら喜んで嫁に出そう。我が家も元公爵家だったのだ。その息子をこの国でも有数の名家に嫁がせるのは、悪くない縁組だろう」
父は悦に入っていたが……辺境伯様が父に宛がった男は……いや、もう父のことは義父に任せようと思う。
そして、あっという間に結婚の日取りが決まり、初夜を迎えることになった。
ジョエル様は求婚だけは手紙だったが、普段はちゃんと会話をしてくれるので特に困ったことはなかった。
こんな素晴らしい方が夫になるなんて、言葉に不自由しているだけなのに、皆見る目がないんだな、とこの日までは思っていた。
「セ、セイレス…僕のこと嫌いにならないでね?」
泣きそうな声で可愛い顔(ただし、初めて夜まで一緒だったので、髭が生えてきている。男だし仕方がないよね)を歪めて、そう僕に懇願するジョエル様。
初夜だからできるだけ暗くはなっているが、互いの顔が見えないほどではなく。
全裸で抱き合うと、ジョエル様のフサフサの体毛が身体に纏わりついて、顔に似合わない体毛の量だとは思ったけれど、ジョエル様も男だしとそれほど不思議に思わず。
しかし、流石に僕の足や太ももに当たるジョエル様のアレの太さは……いや、貴族だし…可愛い顔をしていても男だし。
さっきから僕は男だしと言っているけど、僕のアレと比べると大人と赤ん坊のような。
「ジョエル様、大丈夫です。こんなことで嫌いになったりはしませんよ。こんなに大きいなんて、誇って良いんですよ」
僕の国だったところは、大きければ大きいほど男として誇らしいというのが常識だった。
小さいと当主になれないなんてこともあったという。けど、僕の父上は…母は短小野郎と罵っていたけど。
「僕も旦那様がこんなに大きくて誇らしいです」
「セ、セイレスっ! そんなこと言ってもらえるなんてっ僕、僕、幸せだよ!!」
ちょっと大きすぎて始めは痛かったけど、初夜だし。きっと、何度もやっていれば気持ちよくなれると思う。
こんな可愛くて、大きくて素敵な旦那様を勧めてくれた同僚に感謝しないといけないよな。
END
「おれ、セイレスに感謝されちゃったよ」
「僕も…あとで騙したって怒られると思ったのにな」
「アレ(大根)見てなんとも思わなかったのか?」
「なんでもセイレスの国、巨根ほど男らしいっていう国だったらしい」
「凄い国だな…」
「良い国だよね…僕、みんなに(親戚)に羨ましがられちゃったんだ。大根って呼ばれないで、大きいのを褒められて、エッチも嫌がられないなんて、良い奥様見つけたって…皆もありがとうね」
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