死に方は毒を飲むことにした。刃物で自傷など痛い思いをさせたくないからだ。眠るように死にたい。
そう思って二人で毒を煽った。
それで終われると思ったいた私は甘い人間だったのだろう。
「……んっ」
「意識が戻ったか? リーナ」
目が醒めたらこの世で最も会いたくない男が目の前にいた。
「な、なんでっ……私は死んだはずでは?」
「3日待つとは言ったが、何の監視もしないはずはないだろう? こんな馬鹿な事をするといけないと思ってリーナの身に危険が迫ったらわかるようにしておいた。毒は即効性だったせいで、間に合わせなかったが」
間に合わなかったということは私は死んだのだろう。でも生きている。いくら公爵家の男とは言え、死んだ人間を蘇生することはできないはずだ。
「なぜ、生き返っているか不思議か? ほんの少し間に合わなかっただけで、リーナが息を引き取った数秒後にここにやってきた。俺は5分だけなら何度でも時間を戻すことができるんだ。だから今後死のうと思っても無駄だ。死んだ瞬間、時間を戻るだけだからな……おかげで余分な物まで死んでなかったことになってしまったが」
そうだ、妻は?と慌てて周りを見渡すと一緒に死んだはずのベッドの上で放心したようにリーナとジゼリアを見ていた。
「リーナ、俺はそんな難しいことは言ったか? 俺の妻になるしかないと言っただけだろう? 三日も心の準備をする時間も与えたのに、やったことは俺からあの世に逃げようとすることだけか?」
難しいことか?
当たり前だろう。リーナにとって人生の伴侶は妻だけで、リーナの気持ちを考えもしないジゼリアではない。
自分には穏やかでありきたりの生活が相応しいのに、ジゼリアではそれはできない。
「死んで逃げれると思ったのか? 無駄だ……何処までも追っていくし、逃がしはしない。さあ、リーナ離婚届にサインをするんだ。そこの男も、さっさとサインをしろ」
もう死んでも死なせて貰えない。
「い、嫌だっ! いくらジゼリア様が公爵家の方だとて、僕たちを理不尽に引き離すことなど許される訳はないっ!……僕はリーナと今生で永遠の愛を誓ったんだ! いくら強要されたって絶対に離婚はしない!」
「……理不尽? いいや、リーナが俺の妻ではないことが理不尽なんだ。お前みたいな何の力も無い男がリーナの何に相応しい? 力も無いくせに、俺に逆らえるのか?」
「僕は到底ジゼリア様には魔力は勝てないけれどっ! けど、国に認められたリーナのただ一人の妻だっ!」
駄目だ。そんなふうにジゼリアを煽っては。
妻の言うことは正論だ。正論だが、正論は力には勝てない。
だって誰もリーナたちを助けてくれようとはしなかった。力にひれ伏せと、命令すらされた。
離婚できない、姦通は罪だ、強姦は死刑だなんて形だけの物だ。力があれば、何をやっても許されてしまう。弱い者は助けを求めることすら許されない。
「離婚をする気はないと?」
「しない! 僕はリーナの妻だ! 殺したければ殺せよ! 僕は殺されても離婚する気はないっ!」
もう何も言わないでくれと、妻を諭したかった。口を塞ぎたかったが、妻に手を伸ばすこともできなかった。
伸ばそうとする手をジゼリアに掴まれていたからだ。
「離婚しないのなら殺そうと思っていたが……ここでお前を殺せば、きっと永遠にリーナに憎まれるのだろうな。分かった。そこまで愛し合っている夫婦を無理矢理離婚させるわけにはいかないな……そしてリーナのために殺すわけにもいかない」
リーナは驚いてジゼリアを見上げた。諦めてくれるのかと。
妻の顔を見ると、リーナと同じように驚き、そして喜びを顔に出した。
「ここで仲睦まじく、一緒に暮らせばいい」
そう言った瞬間、リーナの城の寝室から見知らぬ部屋に転移していた。
「え?……」
「俺の城だ。ここで夫婦で離婚したくなるまで何時までもいるば良い」
言われた意味が分からなかった。ジゼリアの城で、離婚したくなるまで一緒に暮らさせる?
そこに一体何の意味があるのか。諦めたがジゼリアを虚仮にした形になるので、ここで軟禁するということなのだろうか。
「強引に引き離したりはしない。自分達の意思で離婚したくなるまで俺は待ってやろう」
例え、軟禁されたとしてもその言葉通りだったとしたら、それほど不幸ではなかっただろう。
これまでと同じように、二人で平凡にこの部屋でだけ生きていけばよかったのだから。
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