「赤ちゃんも母体も問題ありませんね。順調に育っています。では次回は10ヶ月検診に起こし下さい」

「はい」

マリウスはアルトを連れて貴族専用の赤ちゃん検診施設にやってきていた。貴族専用となっているのは、貴族は魔力の高い子どもが多く、平民とは違って貴族だけ起こりうる病もあり(魔力回路系の病気など)平民とはまた違った検診も必要であるためだ。
そしてアルトの半年検診であり、特に問題もなく六ヶ月を迎えることができた。
アルトはロベルトに良く似ており、アルベルと差別するつもりはマリウスにはなかったが、また違った可愛さがあり溺愛していた。祖母のメリアージュもアルトがお気に入りであり王子様のようにチヤホラされて育っている。

「アルト〜さあ、帰ろうか。あれ?……」

同じように検診を受けにきただろう母子が廊下の椅子に座っていた。それだけならマリウスも気にしなかったが、老化をしないことが多い上級貴族でも明らかに若く見える母親が気になったからだ。

「あの……気分でも悪いのかな?」

その母親は子どもを抱いて俯いていた。顔色も酷く悪く見えたので思わず声をかけてしまったのだ。

「大丈夫です…」

「でも顔色が悪いよ。何か赤ちゃんにあったのかな?」

青年は俯いていた顔をマリウスにむけた。その顔を見てマリウスは思わず息を呑んだ。青年、いや少年と言っても良い彼は、マリウスの母に良く似ていたからだ。とは言っても下級貴族だったマリウスの母に比べて、華やかであり、貴族然として高貴さが生まれ備わってあったし、似ているが母よりはずっと整った顔立ちをしている。明らかに別人ではあったが、母の面影があった。

怯みそうになったが、ただ似ているだけで年齢も明らかに違うのだ。自分から話しかけたので逃げ出すこともできず、相手の返事を待った。

「赤ちゃん……体重が少ないって言われたんです」

「個人差があるからね。でもみる限り健康そうだし、問題ないように見えるよ」

「平均よりも100gも少ないって言われたんですよ!……僕なんかが母親だからちゃんと産めなかったんだ」

100gって……マリウスが見てもその赤子は特別小さいとは思わなかったし、100gくらい個人差と片付けても良い範囲なのに、とは思ったが、ひょっとしたら嫁ぎ先で辛く当たられているのかもしれない。
子どもが満足に育っていないといびられているかもしれないと、つい心配してしまった。

「あのね…そんなに気にしなくても。旦那さんや義理のご両親に責められているの?」

マリウス自身は義理の両親がとても良い人たちで、もっと早くから交流がもてたらと後悔したほどだったが、実家の両親たちのような人たちがこの少年の義理の両親たちだったら、何とかしてあげたいと思った。

「いいえ……」

「ちょうど同じ月齢の子がいるママ同士なんだから、何でも話して良いんだよ。えっと何歳かな?」

「19歳です」

若いなあ、と思った。きっと卒業してすぐ結婚して、すぐ子どもができたんだろう。
本当だったら幸せ絶頂期なはずなのに、何だか物凄い暗い顔をしている。

「俺、マリウスって言うんだ。この子はアルト、同じ月齢だからお友達になれると良いな」

「ハンスと言います。この子はレオンです……友達か……俺に似ないといいけど」

その言葉にマリウスは何かを感じた。この子は自分に自信がないんだと。自分に似たら子どもに友達ができないような子になってしまうのではないかと気に病んでいるのだと。

絶対に婚家で虐められている! マリウスはそう思った。

「あのね、せっかく同じ年の子がいるから仲良くなれるように、今から一緒にお茶でもどうかな? ハンス君の家で」

「え?…」

「あ、迎えの馬車がきたから一緒に乗っていこう?」

目を白黒させているハンスを無理矢理のせると、強引にハンスの城に向わせたのだった。


ハンスはどうしてこうなったと言う気持ちで一杯ではあった。
検診に来たら物凄い綺麗な男性に声をかけられ、反論の出来ないまま強引について来られてしまった。帰ってくださいと言おうにも、貴族は年齢不肖なことが多く、外見からは年が分かりづらいがいまだ19歳のハンスよりは確実に年上だろう。おまけに爵位も分からない。
レイダードの家は侯爵家なので大抵の家よりかは格上だろうが、もともとハンスは子爵家という零細貴族出身だ。失礼があってはいけないと思い、反論らしい反論もできないままになっていた。

不審人物にはついて行ってはいけない、と言うのは子どもの常識だが、ハンスはもう子どもではないし、マリウスも行動は変わっているが不審人物とは程遠い。可愛いと有名だった兄よりも格上の美貌を持っており、どう見ても上級貴族の妻にしか見えないのだ。

「あれ? この城って……ミレイさんのとこの?……じゃあ、ハンス君はレイダード君のお嫁さんなのかな?」

「え? はい……」

「ハンスにい様お帰りなさい!」

「おかえり、ハンス……あれ? マリウス君?」

「お久しぶりです、ミレイさん。検診でハンス君と一緒になって、どうせなら子ども同士仲良くなってもらおうと思って、お茶でも飲みませんか、って」

「そうなんだ。すぐお茶の用意をさせるね。ハンス、マリウス君の父と私の父が従兄弟同士なんだ。だから子ども同士もちょっとだけだけど血が繋がっているんだよ。仲良くなってくれると嬉しいね」

ちょっとどころではない。マリウスもハンスも知らないが、二人は従兄弟同士なのである。お互いの母親同士が兄弟なのだが、母方との親戚とは縁を切っているせいでこれが初対面ということになる。

「実はハンス君がレオン君の体重が平均よりも100g少なかっただけで物凄く落ち込んでいて、義両親に辛く当たられているからこんなに悩んでいるのかなと思って、押しかけてしまったんです。でも、ミレイさんが義母ならそんなことはないですよね」

「ええ? たった100gのことで気にしていたの? 気にしないでいいんだよ、ハンス。赤ちゃんは個人差があるし、レオンはすくすく育っているよ」

「……でも」

「あのね、ハンス……勝手に産ませたレイダードに責任を取ってレイダードに子育てさせるって言っていたじゃないか。ハンスの代わりに、私たちが責任を持って愛するとも言ったよね? でも生まれてみたらハンスはレオンに掛かりっきりだし……そんなんじゃあ産後うつになってしまうよ。もう少し力を抜いて、ね?」

義母のミレイや義父も面倒を見ると言ってくれたし、レオニードも張り切ってお兄ちゃん宣言をしていた。夫であるレイダードも時間に自由が利くため、育児をすると言ったが、ハンスは結局自分の手からレオンを離す事が出来ず、付きっ切りで面倒を見ていたのだ。
殺しかけたということもあるし、ずっと見ていないと死んでしまうかもしれないと思うほど小さな頼りない存在に、どうしても目がはなせれない。

「マリウス君だって、ほどほどに力を抜いてるよね?」

「はい。夫は仕事で忙しいですが、義両親や義祖父母が育児を手伝ってくれて、夜も夫と仲良くしたいだろうって、よく預かってくれるんです」

「ほら、これくらい力を抜いて子育てしないと駄目なんだよ、ハンス。このマリウス君なんてね、可哀想に。魔力が弱いから長男に生まれたのに、ご両親からいびられて生まれてこなければ良かったのにとか言われてね……ねえ、マリウス君」

「でも、夫の両親がいい方で本当の子どものように可愛がってもらっていますから」

「こんなこと言っているけど、マリウス君はね弟に跡継ぎの座を渡したいから、結婚もするなと言われてね。今の夫君とは家から絶縁されて結婚なさったんだよ。ハンスはね逆に魔力が高くて、魔力の弱い長男を可愛がるご両親に粗雑に扱われてね……原因はうちの息子だったんだけど……うちで可愛がっているつもりなんだけど、罪滅ぼしのつもりなんだろうとか、全然信じてくれないし、頼ってくれないんだよね。自殺しようとするし、目がもう離せないって言うか。ごめんね、マリウス君の個人的なこととか本当なら言うべきじゃないんだけど、ハンスと境遇似ているし。でもマリウス君は今幸せそうだから、ちょっとはハンスもマリウス君のこと見習ってくれたらなあ、と思って」

ミレイは相当はしょっているが、この綺麗な人が相当苦労してきたのは分かった。
ハンフリーと同じ長男で魔力が弱く(しかしどう見てもそんなに弱いようには思えない。ハンフリーは微弱と言っていいほどだったが、このマリウスはかなり強いほうだが)外見は美しいと似た立場だが、ハンフリーはその弱さゆえに可愛がってもらったのに、マリウスは全く逆の立場なんて、家庭が変われば変わるものなのだと皮肉に思えた。マリウスの家にハンスが生まれれば可愛がってもらえたのかもしれない、とふと思ってしまった。

「俺の場合は、メリアージュ様が本当に良い方で……俺、あの人の子どもに生まれたかったって思いました」

「ハンスも私のことをお母さんだって思って欲しいのに、全然甘えてくれないんだよ」

「義母との関係も大切だけど、ハンス君旦那様とは上手くいっているのかな?」

「え?……別に」

「嫌われているんだよ、うちの息子……仕方がないよね。好かれる要素全く無かったんだから」

確かに無理矢理結婚させられたし、子どもの頃から好かれていたが、嫌いだったけれど、ミレイには嫌いとまでは直接言っていないのにと不思議に思った。しかしハンスの態度を見れば誰だって分かる。

「レイダード君のどこが駄目なの? ハンサムでしっかりしていて良い子だったよね? ちゃんと抱いてもらっている?」

「……なっ! し、していません!」

「え? だってもう産後半年経ったのに? 一ヶ月もすればして良いんだよ? あ、そっか。育児ノイローゼなのは、レイダード君とエッチしていないからなんだよ! 欲求不満なんじゃないかなあ」

「え? そうなの? 全然していないの?」

「ミレイさんにレオン君を預かってもらってレイダード君とエッチしてきなよ。身体がリラックスできれば、心もリラックスできるはずだから」

「え……でも、したくないし…」

「え? したくないほど、レイダード下手なの? ごめんね、まだ若いから堪え性がないのかもしれないし、下手かもしれないけど、母親としてアドバイスをしておくから!」

違う……普段のミレイはこんなことは聞かないし、言わない。こんな下世話なことなんか絶対に言わない。ハンスは混乱した。何で?

そう、原因はマリウスである。旦那様大好きなマリウスにかかれば、ストレスはエッチがないせい、となってしまう。

「ほら、レオンを貸して。で、今からエッチをしておいでよ」

押しの妙に強いマリウスとミレイに、四面楚歌に押し入られていたハンスであった。




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