「いったいどうして……こんなことになったんだ? ルネ」

ごめんなさい、父上。私も分からないんです。


私には、本来の私には夫がいて、ジェラルディンが生まれて幸せな家庭だったらしい。私の知らない本来の私だ。
だがジェラルディンが私を愛し、夫と言う存在が許せず、自分の父親にも関わらず存在を認めることが出来ず、結果過去を変えて今に至ったらしい。らしい、としか言うことができないのは、本来あったはずの現実を私が知らないからだ。

だから、知らない夫という存在が消えて亡くなってしまったことに関しては何の感慨も無い。

けれど、私を犯した男が息子だったということは、今となっても信じがたい、いや信じたくなかったことだ。それは衝撃と言う言葉では表しきれない。

あの男に関してはもう薄っすらとしか記憶にない。20年近く前の出来事で、ほんの数時間、しかも乱暴されながらのことで、顔をろくに覚えていなければ記憶もしていたくない過去だったからだ。

「母さんは任務の最中で、俺が背後から近寄っても全然気がつかなかった。仕事中の母さんを見れて新鮮な気分だったよ。それで初めは何で連れ去られたか分かっていなくて……そうそう、覚えている? 俺、本当は母さんを気持ちよくして優しく抱きたかったんだ。母さんと初めて結ばれるときはずっとそうしようと思っていたんだけど、ペンダントの前の俺が酷くレイプしないと駄目だって忠告していたんだ。そうしないと、男を怖がらなくて俺が産まれていても別の男と結婚するかもしれないから……男なんか見たくもないほど怖がるくらいに陵辱しろって言われて……だから、処女だった母さんを慣らしもせず貫くしかなかったんだ。母さん痛くて泣いて可哀想だった。でも、母さんの処女を奪えて凄く幸せだった。これから俺を孕ますのだと思うと興奮して……抜かないで10回もしちゃった。覚えている?」

男の犯されたときの詳細なんて覚えていない。何回されたかなんて数えているはずも無い。ただ早く終わって欲しいと、できれば殺して欲しいと懇願したことくらいしか覚えていなかった。

「母さん、最後は殺して欲しいとしか言わなくって……凄く胸が痛んだ。だから現在に戻ったら、今度こそ優しく抱こうって心に決めたんだ。そうそう、最初があんなんだったからキスだけは残しておいたんだ。キスは今日が最初だよ、母さん」

息子は私が覚えていない、あの時のことを詳細に話した。覚えていないこともあったが、ほとんどは私の記憶と一緒で、本当に私を犯した男はジェラルディンだったのだと、理解をした。

過去に戻って自分で自分を産ませることなんかできるのか、私には分からない。確かめようもない。

だが、息子に犯されたことだけはどうやっても違え様もない事実だった。


「私には理解できない。何故、ジェラルディンがルネと結婚したいなど言い出すんだ? お前たちは母と子なんだぞ? 兄弟が結婚できるようになって久しいが、親子が駄目なのは知らないわけではないだろう?」

「親子でも例外的に婚姻を許可されたケースがあるのは知っていますよ。ましてや、俺と母さんは戸籍上は兄弟になっています。結婚するのに特別許可証も要りません。必要なのは当主の許可だけです。おじい様、俺と母さんの結婚の許可を下さい」

「馬鹿な……息子と孫を結婚させる当主がどこにいるんだ。ジェラルディン、ルネはお前を育てるのにどれだけ犠牲を払ってきたか分かっているだろう? ルネを困らせるような事を言うのは止しなさい」

「このまま結婚させないほうが母さんを困らせますよ。二度も私生児を産ませるわけにはいかないでしょう? 母さんの名誉のためにも。まして、今度は陛下のお墨付きもいただけない、生きる権利も貰えないような純然たる私生児いなってしまいますよ」

ジェラルディンの言葉に父は顔を青くさせ私を見た。私は俯いたまま何も言えない。

「ま、まさかっ」

すでに私とジェラルディンとの間に性交渉があったとは夢にも思っていなかったのだろう。それまでの困惑した声とは違った。

「ルネ……どうしてそんなことになったんだ?」

父の問いかけに答える勇気もなかった。私のほうこそ聞きたい。どうしてこんなことになってしまったのか。
息子を制することもできず、息子の言いなりになって、流されるまま関係を持ち続けた。
魔力で勝てなかった、なんてただの言い訳だ。確かに魔力では勝てないが、私は母親だ。息子を諭す義務があったのに、できなかった。負けたのだ。

息子に二度目に犯された後、私は死のうと思った。私は息子と関係を持ち、息子の子どもを産んだ穢れた身体だ。もう生きて行くことなんか出来ないと思った。本当はジェラルディンを身篭ったと分かったときに死ぬべきだったんだろうが、18年遅れてしまったが今そうするしかない。
だけど死にたいと死のうと思ってもジェラルディンが見張っていて、死なせて欲しいと懇願すれば、後を追って死ぬし受け入れてくれないのならジェラルディンのほうこそ死ぬしかないと言われた。

母さんしか愛せない、ごめんなさいと泣いて詫びられ、どうか愛を受け入れて欲しい愛し返せとまでは言わないから、黙って抱かれて欲しいだけだと言われ、私はそれを受け入れた。

こんなことになってもジェラルディンは可愛い息子だった。私が死んだら間違いなく後を追うだろうし、受け入れなければ同じように自殺をすると脅されれば、息子の死を見る覚悟もなく、こんな禁忌の関係を続けてしまったのだ。

「父上……許してください」

ただ謝るしかなかった。父も母も可哀想だ。たった一人の息子がレイプされ私生児を産み、今度は孫が母に懸想し禁断の子を身篭ったと言われるなんて。

私がただ謝ることしかできないうちに、ジェラルディンが自分がいかに狂っているか意気揚々と父に語った。父は絶句して、孫を化け物を見るかのように、理解できないように首を振っていた。
だが今更ジェラルディンを諭そうにも、私に罪の子がお腹にいれば遅すぎることは明白だ。父が否と言えないように、後戻りできないまでジェラルディンは言い出さなかったのだ。

「ルネ……ルネが本意ではないのは分かっている。だが……お腹の子を産むのなら、ジェラルディンと結婚をさせなければならない。どうするのだ?」

父はこんな私にも選択肢をくれる。ジェラルディンの時も、生む事を許してくれた。

「……産みます。産んではいけない子だけど……」

ジェラルディンだけを産んで、この子は堕胎するなんて同じ子なのにこの子だけ産まないなんて。私やジェラルディンに罪は有ってもこの子にはないのだから。

「だったら、ルネとジェラルディンはもう親子ではない。分かったな? 産むと決めたからには、ジェラルディンを夫として扱い、息子とはもう二度と呼んではならない。そうできるのだな?」

「……はい」

そうしないと……それだけの覚悟がないと産んではいけない。

「ルネ……どうしてお前は幸せになれないのかな」

「父上……私は…幸せでしたよ」

可愛い息子が、ジェラルディンがいてくれて18年間とても満ち足りて幸せだった。

そして私がどんな目に合おうと……ジェラルディンが幸せでいてくれるのなら……それだけで幸せになれるはずです。



END

「クライス…そんなに泣かないでくれ」

「お前はっ! ルネが! 孫があんな目にあったのに、何で平気な顔でいられるんだ! いくらルネが犯人を捜さないでくれと言ったって、俺はルネをあんな目に合わせたヤツを許せない!」

「分かっているよ、クライスの気持ちは」

「だったらさっさと探し出して、殺せよ! お前ほどの力があれば簡単だし、そもそも孫をあんな目に合わす前になんで回避できなかったんだ?」

「俺はそこまで万能じゃない……ルネは可哀想だったけど、同じ血を引いているとどうしても目が行き届かない。すり抜けていってしまうんだ」

「じゃあ、ルネを強姦したやつは公爵家の男なのか? なら何で余計に責任を取らせないんだ!?」

「それはね……まだ、今はこの世に存在しないからだ。流石の俺でも現在存在しない人間に干渉するのは難しいかな」

ユーリとしては愛しい妻が望むことなら何でもしてあげたいという気持ちは勿論あった。ルネは少しクライスに似ていて可愛い孫だったし、その孫が辛い目に合っているのも可哀想だとも思う。

「存在しないって……他の時間からやってきたってことなのか?」

「まあそんなとこかな?」

「俺は時空関係の魔法はさっぱりだが、お前は過去に干渉ができるはずだろ?! ルネのために、ルネがあんな目にあわないように過去を変えてくれ!」

「俺の可愛い奥さん……クライスのためなら何でもしてあげたいけど、ルネは時の干渉を受けている。この上俺がまた干渉をしたらもっと最悪な形でルネの人生が変わってしまう可能性が高い」

生涯に一度しか使えないから、孫のために使いたくないなんていったらクライスに殺されてしまう。
クライスには何も無いようにずっと守っているし、たいていの一族の男のように生涯一回の魔法を使わないままで人生を終えるんだろうけど、それでも何かのためにこの魔法は取っておきたい。俺が使うとしたらクライスのためだけだ。

それに嘘は言っていない。ルネはもう時の干渉を受けている。俺が強引にルネの過去を変えて強姦事件がなかったことにしても、また干渉を受けるだろう。まだ見ぬその人物は決してルネを諦めようとはしないはずだ。度重なるときの干渉をルネが受ければ、良い結果はない。
このまま見守るのがルネのためなんだ。

「そんな……じゃあ、俺たちがルネのためにしてやれることはないのか?」

「見守ってやろう。今はルネも大変だろうけど、生まれてくる子どものために俺たちが後ろ盾になってやるんだ。大丈夫、俺には分かるよ。ルネは子どもを愛するし、子どももルネを愛して大事にする。今は不幸にしか見えないだろうが、ルネを愛して大事にする夫が現れるんだ。俺たちみたいにたくさんの子に恵まれて、夫に愛されて生涯を過ごす」

その夫が誰なのかクライスには言えないけれど。

「俺たちみたいに、じゃあ……ルネは幸せとは限らないじゃないか」

そうクライスは皮肉を言うけれど、ルネの未来が明るいと知って少し安堵をしたようだった。

「そんなことないだろう? 妻は夫に愛されるのが一番幸せだ。ルネの夫も俺のようにルネを誰よりも愛するはずだ。だからルネは不幸じゃない」

そう、ルネは息子を一番愛しているから、息子が幸せになるために自分が犠牲になるんだったらそれもまた自分の幸せって思える子だからね。俺たちの孫とひ孫はきっと幸せに過ごすはずだよ。
クライスはルネが息子と、なんて可哀想と思うかもしれないから言わないけど。でも、ひ孫も俺が干渉した結果、たった一人で報われない愛で身を焦がしていたら可哀想じゃないか。
公爵家の男はどんな試練があろうと愛する人を手に入れる。それが一族の男だ。俺のひ孫ならそうするべきだ。俺はルネが可哀想だなんて思わない。あれほど愛されれば、それが自治の息子だって本望だろう。

クライスだって分かっているはずだ。愛されるのが幸せだって。だから今、幸せなはずだよね。





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なんか勝手にユーリたんが出張してきましたw



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