「ジェラルディン、今週も実家に戻らないのか?」

「ああ……」

戻っているのは母さんだけだ。母は実の両親とすら疎遠にし、俺を育ててくれていた。
俺を産むことは祖父母も認めていたらしいが、母は両親に合わせる顔がないと思ったのだろう。田舎の城で使用人もほとんど使わず、母だけで俺を育ててくれた。

幼い頃は何故と思うこともあった。私生児という言葉は知っていても、何故母がそうなったかはよく分からなかった。

だけど今はもう知っている。

綺麗で可愛い母さん。大人なのに子どものような純粋さを持っていて、俺を産んだのだから男を知っているはずなのに処女としか思えないような潔癖さを持ち続けていた。

「母親が寂しがっているんじゃないのか?」

「だろうな。でも何時までもお母さんっていう年でもないだろ?」

「まあ、そうだけど。ジェラルディンところは母一人子一人だろ? たまには戻ってやれよ」

母さんが俺が帰らないことを寂しく思っていることも分かっている。帰って子どもの頃のように何でも話して、甘えて見せればきっと喜ぶだろう。分かっているが、できないこともある。

母が好きだ。母を愛している。

勿論実の親子だって分かっている。この気持ちが許されない事だってことも。

許されないのは世間、にではない。倫理とか言うどうでも良いものでもない。

そう、許されないのは母にだ。母はこんな俺の気持ちを理解してくれないだろうし、許してはくれないだろう。

子どもの頃から母さんだけが好きで、幼い頃はそれで良かった。でも思春期を迎えた頃から、ただ大好き、だけでは済まされないようになった。精神的だけではなく、肉体的にも母を欲するようになってきたのだ。

一緒に眠ることなんか無理だし、同じ屋根の下にいたら過ちを犯さないではいられないだろう。

だから距離をとりたかった。寮から戻らず、母が寂しがっているのを分かっていて無視を続けていた。

母は凄く愛しいし、優しくしてあげたいのに、そうできない衝動をどうにもできない。

被害者だと分かっているのに、俺以外に抱かれた母を許せない。どうしてやすやすと俺の父親だと言う男の言いなりになってしまったのだろうか。母をレイプした男は当然許せないが、俺以外に抱かれた母も理不尽にも許せないでいた。

俺が大きくなるのを待っていて欲しかった。無理だと分かっているのに。俺という人間は母が父にレイプされてできた存在なのだ。その男なしに俺という人間が存在することはない。

「アマリエル……俺は過去に戻ることができるようになったら、母を助けに行きたいんだ」

今はまだ魔力が未熟で、過去に戻ることができない。けれどもっと大きくなれば、大人になれば可能だということは分かっている。
母が強姦される前に戻って母を助けてあげたい。

「そんなことをすれば、お前の存在が……消えてなくなることはないか」

「なくならないのかっ?」

したいけどできないと思っていたのは、母を助けたら俺という存在が消えてなくなると思ったからだ。母を助けたいが、俺が消えて亡くなってしまっては元も子もない。

「……時を遡るときに、施術者が消えてなくなることはできないって聞いたけどな。というか、現在に戻ったときに、過去を修正した際に『できるだけ自然に現在も修正される』らしいぞ。つまりは、施術者にとって一番良い形で現在が修復されてある、ってことらしい」

「じゃあ、俺が母さんを助けたら?」

「母親を助けた結果、お前の父親が存在しなくなる。だけど、そうしたらお前が生まれないことになるから……自然な形で、お前の父親として相応しい人間が父親として配置された現在に戻るんだろうな。つまり、お前の母親は強姦されず、普通に結婚をしてジェラルディンを産んだということになるんじゃないか?」

母を助けたは良いが、他の男が父親として、母の夫としているなんて結局何も変わらないどころか邪魔な人間が増えている。

「俺が……」

もし俺が過去に戻って……父の代わりに母を抱いたら。一番自然な形に修復されるとしたら……母を抱いた人間は俺だけになり、俺が俺の父親と言う事になる。

そんなことは可能なのか?

流石にアマリエルに聞くわけにもいかない。母を愛していて、母をレイプした男が許せないから、母を俺以外に抱かせたくないから、過去に戻って母をレイプしに行こうと思うなんて、正気の沙汰とは思われないだろう。
頭がどうかしているという以前に、人間失格だと軽蔑されるだろう。

だけ俺は誰かに後ろ指を指されたって、犬畜生と同じだと罵られたって、母を俺以外の男に抱かせるわけにはいかない。

母さん、感謝しているよ。俺にこういう力をくれた事を。


成功するかは自信がなかった。下手をしたらもっと母を過酷な運命に陥れる可能性もある。たった一度だけしか過去に戻れない。過去に戻り母を抱き、俺を身篭らせないといけない。たった一度でそれを為し得るのか、だが俺に一番良い形で現在が修正されるとしたら、成功しないはずが無い。

そして18歳の誕生日前日。18歳になったら過去に戻り抱いてこようと決めていた日の前日に、母は俺の父親だという男からのペンダントを俺に贈った。
それを見て思わず頭に血が上った。

母は、ひょっとしたら俺の父親という男を愛していたのではないかと。そうでなければ何故俺を産めるんだ?
どうしてレイプされて産んだ俺なんかを愛し育てることができたのか。
それはひょっとしたらレイプではなく合意の上だったとしたら?
何か事情があり、結婚することができなかったので、レイプされたことにしていたとしたら?

母が誰かを愛することなんか許せない。

母さん、貴方が愛するのは俺だけで良いんだ。


******
母であり妻であるルネが子どもに母乳をやっている姿を見て、どう見ても聖母のようにしか見えない。
ルネにとっては自分の子であり孫でもある我が子で、俺にとっては息子であり弟であるルイーズは先月生まれたばかりだった。

可愛そうで愛しい人だ。

昔も今も、自分が望まない運命を受け入れるしか術がない人だ。

戸籍上は兄弟になっているので、結婚するのになんら差し障りは無かった。ただ、戸籍上はそうでも皆が実の親子だということは知っている。当主である祖父も、この母も抵抗したが、結局は俺の意思を曲げることなんか誰にも出来なかった。

前の俺も、現在の俺も結局は考えることは同じで、手に入れるためなら過去を変えようが、母を地獄に落とすような思いをさせようがどうでも良かった。ただ俺一人だけの物にしたくて、他の誰も見て欲しくなくて犯したのだ。

「あんなに産みたくないと言っていたのに、結局可愛がっているんだな……ルネ?」

「……私の子であることには変わりないから」

「まあ、そうだよな。俺だってレイプされたのに可愛がって育てたんだ。そんな可愛い俺が産ませた子なんだから、可愛くないはずないよな?」

俺の時はレイプされた父親不明の子で、ルイーズは実の子に無理矢理孕まされた子だ。

それでもこの人は、それを拒絶することもできず、生まれたら生まれたで結局は愛おしむことしかできない。

「さあ、そろそろルイーズばかりに構っていないで俺も可愛がってくれ」

そう耳元で囁くとビクりとルネは震えた。ルイーズを取り上げてベビーベッドに戻すと、ルネを抱き上げその横のベッドに横たえた。
ルイーズの横でその母を犯す。凄く背徳的だろう。

「こうやって俺もルネの母乳を飲んで大きくしてくれたんだろ?……母さん」

「……そう呼ばないで」

赤ん坊の頃の俺も飲んでいただろう乳首を弄びながら母に囁くと、母は母さんとは呼ばないで欲しいと懇願してきた。

どう取り繕っても事実は変えられないのに、息子に抱かれていると思いたくないのだろう。母さんと呼ばれる事を酷く嫌う。

「ああ、ルイーズが大きくなったら俺が母さんなんて呼んでいるのはおかしいからな……夫としてちゃんとルネと呼ぶよ」

息子としても夫としても受け入れきれていないだろうけど、母はルイーズのために俺を息子ではなく夫として接する事を選ぶしかなかった。

「ルネ……俺の子を身篭っているルネは凄く神々しくって可愛かったし、俺のものにできたって感じられて嬉しかった。また子どもを作ろう。何回でもルネを孕ませたい」

イヤイヤと幼子のように首を振る母に構わず、貫いて何度も精を吐き出す。泣いて嫌がるが、ルネには逆らうだけの魔力なんてない。

「大丈夫…俺の時は一人で子育てさせてしまったけど、今度は俺も手伝うから。ルネは可愛がるだけで良いんだ」

泣いても俺と母さんの身体の相性は良いよな。やっぱり親子だからだろうか。
この人はレイプされた後遺症で男を受け入れられないかと思ったけど、相手が俺だからだろう。禁忌に震えてながらも、相手が息子という事実に嫌悪しながらも、結局は世界で一番愛する息子だから。
俺が母さん以外愛せない、頭のおかしい息子なんだと叫んで、受け入れてくれないなら死ぬしかないと泣き喚けば。母さんは泣きながら俺を受け入れるために足を開く。そして感じて泣くしかない。

「さあ、ルネ。何人、産みたい?」

END



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