どうして昨日とはうって変わってこんなに機嫌が良いのだろう、と不思議には思ったが、最近は私の顔を見てはふて腐れたような顔ばかりしていたので、機嫌が良いに越したことはないと思った。

「あのね……昨日言おうと思っていたんだけど。結婚なんかするつもりは無いんだけど、断われない見合いの話が来て……」

「ああ、そのこと。その話なら俺が断わっておいた」

「え?……どういうこと?」

何故ジェラルディンが見合いの事を知っているかという疑問もあったが、勝手に断わっておいたというほうに驚いた。

「母さんの夫は俺が決めるから。見合いなんて必要ない」

「……私を夫をジェラルディンが決める? 子どものくせに何をっ」

私はこの家の当主ではない。まだ父が当主をしており、私を飛び越してジェラルディンが次の当主になることが決まっている。私よりも高い魔力の持ち主ということもあるが、私がほぼ隠遁生活をしていることと、父が健在なうちにジェラルディンに当主の座を渡し確固たる地位を固めさせたいということからだった。
私がジェラルディンの後見人というのは、頼りが無いと思われているのだ。

だからと言って、息子にこんな事を言われる筋合いはない。

「もう俺は大人だ」

「今日18歳になったばかりなのに……いくら成人になったっと言っても、ジェラルディンはまだ子どもだよ」

昨日と今日とで成人になったからといって、何が変わるわけでもない。私にとってジェラルディンは小さな子どもで、例え私よりもずっと大きくなり逞しくなったとしても、私にとってはずっと子どもだった。

「大人だよ。だって俺は昨夜、大好きでとても愛おしい人を抱いてきたんだ」

余りの衝撃で言葉も出なかった。ジェラルディンが誰かを抱いてきた?
最近は何も話してくれなくて、ジェラルディンに好きな子がいるとか、それ以外にも些細なことすら知らなかった。どんな友達といるのか、就職はどうするつもりとか、何も教えてはくれない。話し合う機会もくれなかった。

けれど子どもの頃から、責任の取れないことは絶対にしてはいけないと、愛する人を悲しませるようなことは、特に無理強いをするようなことは絶対にしてはいけないと言い聞かせていたのに。

無理強いしたとは限らないし、そうではないことを祈っているが、婚前交渉をしたことは確実なのだ。

「どうしてっ……結婚するまでそういうことをしては駄目だってずっと言ってきたのにっ! 子どもでも出来たらどうするつもりなんだい?」

自分が私生児として生まれて、私を不幸にしたのではないかと悲しむ良い子だったのに、そんな無責任な事をするジェラルディンに失望を隠しきれなかった。

「子供は間違えなく出来た。でも、ちゃんと責任を取るつもりだから安心して欲しい」

もう子どもができたことが何故分かるのだろうか?
昨日の今日で分かるはずがないのに。

「ジェラルディンっ」

「ああ、母さん。俺、昨夜まで俺の父親って人間を憎んでいた。母さんをレイプして俺を産ませて、なのに姿も見せないから殺してやることもできなくって……最近では、顔も知らないのに俺とよく似た顔をした父親が母さんをレイプする姿ばかり夢に見て、どうしようもなかった。母さんが可哀想で……母さんを抱いたヤツが憎くてっ……まともに母さんの顔も見れなくなっていた」

「ジェラルディン……」

だからずっと私を避けていたのか。
父親の事をこれほど憎悪していたなんて。なるべく嫌いにならないようにしてきたのに。ただ、外部からジェラルディンの耳に入るのを遮る事は完全には無理だったので仕方がないとも思う。

「でも、もう俺は俺の父親を許せる……母さんを18年も一人にしたけど、仕方がなかったんだ。本当は母さんを愛して、ずっとそばにいたかったんだ」

あの男が私を愛しているとは到底思えなかった。だがそんなことに疑問に思うよりも、何故私でさえあの男の正体がわからないままなのに、ジェラルディンは良く知っているかのように振舞うのだろうか。昨日まで嫌悪していた存在を、ここまで意識を変えることのできる、何かがあったのだろうか。

「母さん。俺の父親で母さんの夫になる男の名前を知っている?」

知るはずない。あの男のことで知っていることなんか何もない。
何故あんな男が私の夫になると、この子は言うんだろう。

「ジェラルディンって言うんだ。ジェラルディン……母さんの唯一の男で、母さんの生涯の伴侶になる男の名前はジェラルディンだ」

あの男は自分の同じ名前を息子に名付けさせたのか。そしてどうしてジェラルディンが……それを知っているのか。

「愛しているよ、母さん。俺が母さんに子どもを産ませた。そして母さんの夫になる男だ」

理解できない。ジェラルディンの言っている意味が私にはどうやっても理解できない。

「母さんがくれたペンダント……あれには魔力が込められていて、昨夜俺がどういう存在か教えてくれたよ。そして自分が何をするべきかも教えてくれた」


そう、『前の俺』は絶望していたんだってさ。
この世で一番愛しているのは母さんで、母さんを抱きたくて自分だけの物にしたくて……でも、母さんには夫がいた。
夫(父親)を殺すことは簡単だったけれど、そんなことをしても母さんを自分だけの物にできない。
母さんを抱いた男がいたという過去を消すことができない。
俺は自分と言う存在すら呪ったんだ。自分の半分は憎い男からできているって。

ただ、俺には父親に勝る魔力があり、父親にない独自魔法を持っていた。母さんの母は公爵家から嫁いできた、その血が俺にも流れていて、時を遡ることができた。
そう、母さんがあの男に汚される前の時代まで戻って、俺が母さんを抱けば良いって、凄いアイデアだよな。

で、俺が母さんに俺を産ませれば良いんだ。

「だから、あの時母さんを犯した男は俺だ……昨夜、過去に戻って母さんを抱いてきたんだ」

私は頭を振って拒絶した。私をレイプした男がジェラルディン? そんなこと有り得ない。

「そんなことあるわけがっ……だって、あの男は私をっ……酷く陵辱したっ……あんなふうにっ、あんなことをジェラルディンがするはずが無い!!!」

反抗期だったジェラルディンだが、それでも私を嫌っていたとは思えない。私に、私のジェラルディンがあんなことをするはずがない。

「ごめん、母さん……凄く酷いことをした。でも仕方がなかったんだ。過去には長い時間存在することができない。数時間しか俺には猶予が無かった」

過去に戻るのと、過去に時間を戻すのは似ているようで異なっている。

過去に時間を戻すのは、その魔法の使い手が生きている時間のどこかに時間を戻す。その世界ごと生きている人間全てごと戻すので、戻した時間までリセットしてやり直すことができる。

一方過去に戻るのは、魔法の使い手一人しか戻ることができない。そして自分が生きている時間に戻ることはできない。世界に同じ人間は存在できないからだ。したがって自分が存在しない過去にしか戻れない。

「俺が、俺を産ますために過去に戻ったんだ。母さんを身篭らせたらすぐに、現在に戻らなければならなかった。できれば残って、母さんの夫として俺を育てたかったけど、時間軸のせいで無理だったんだ。だから母さんを一人残していくしかなかったから、酷く抱くしかなかった。そうしたら母さんは男を怖がって、他の男と結婚しようとか、愛そうとか絶対に思わないはずだから…俺が大人になるまで待っていてくれるはずだから」

だから酷くレイプするしかなかったと、本当は優しく抱きたかったんだと、そう息子のはずの男が囁いていた。
ペンダントは18年前の母さんに渡して来たんだと、せっかく貰ったけど俺の手元には数時間しか残らなかったけど、俺も同じように魔力を込めて、18年後大きくなった俺に渡る様にしておいたと、誇らし気に語っていた。

「だから、やり直そう。今度は、ちゃんと愛し合うんだ……俺も辛かったんだ。母さんをあんなふうに抱くしかなくって……母さんが泣いて、殺して欲しいと言うのをどんな気持ちで聞いていたか…分かって欲しい」

分かるはずない。それ以前に、この話は全て嘘だと言って欲しい。
こんな荒唐無稽な話が真実であるなんて、ありえるはずがないのに。

ジェラルディンはあの男に似てただろうか。私を犯してきたばかりだと言うジェラルディンは、本当にあの男と同一人物だというのだろうか。

「愛しているよ、母さん」

ジェラルディンは呆然としている私を抱き上げて、まるで花嫁のように恭しく扱い、ベッドに降ろした。

そして私の服を脱がしていった。私はそれを力の入らない手で押しのけるが、全く意味を為していなかった。

「……どうかしている。頭がおかしい…」

「分かってる。母さんを愛しすぎて、狂ってしまったんだ。どうしようもなくて、過去を変えて母さんを傷つけてでも、母さんを俺で染めたかった」

「……私はジェラルディンの母親だよ」

「どうでも良い。禁忌? 近親相姦? もう俺は禁忌を犯してきたんだ。これ以上、踏み込んで行けない領域なんかあるはずがない」

過去に戻って時間に干渉をする結果、現在に戻ると、できるだけ現在に影響が出来ように修正される。
ジェラルディンが過去に戻って、母を犯し身篭らせた結果は、ルネには夫はいなくなり、存在すらもなくなっていた。
ジェラルディンにとって一番不都合が無いように、そして現在に影響が出ないように修正されていくのだ。
従って、ジェラルディンは本来父親であった存在を消滅させており、今更近親相姦だとか、禁忌だとかそんなものはどうだって良かったのだった。

「嫌だっ…もう、無理だ。もう二度としたくなかったのに、もう二度とあんなことはないと思っていたのに……しかも、息子となんて」

逆らう術なんかない。18年前も無力で黙って犯されるしかなかったし、私には何もできることなんかない。
だけど、それでも…息子だと分かって抱かれるわけなんかにはいかない。例え18年前、この息子に抱かれていたとしてもだ。

「何も言っても、どんなに嫌がっても、母さんの未来は、俺の妻になって、今度こそ俺の本当の子どもを産むことだけだ。今度こそずっと側にいる。18年も放置なんて二度としない。身篭っている間も俺が母さんを守るし、子育ても俺がする。だからほら、呼んでくれ。母さんの夫の名前だ……ジェラルディンと」


END

「お父さま〜お願いがあるの」

「何だい?」

「幼稚園のね、リース君と結婚のやくそくをしたの。でもね、ちゃんと家同士のお約束にしておいて欲しいから、お父さま、リース君のお父さまにお願いして?」

「そうか、リース君が好きなのか」

「うん、大好き!」

「良かったよ……もし、お母さまと結婚したいなんて言い出したら……」

消すしかなかったかもしれないけど、リース君が大好きだって言う息子は、俺も大好きだよ。俺とルネの大事な大事な息子だからね。




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はい、サイコパスができあがりました。
息子×父はあっても息子×母は一穴一棒主義のせいで手が出せませんでしたが・・・
一穴一棒主義の元、結果こうなりました。
うちの読者様なら何でもOKと思い、禁断の領域に手を出しました。

何か一言いただけると励みになりますw



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