*時系列ではメリ様出産後になります。
「ロベルト、あのね」
楽しそうにその日あったことを話すマリウスは可愛い。目に入れても痛くないほど可愛いが、大半が母のことなのが玉に瑕だ。
いったいどうしてこれほど母に懐くのかが不思議だ。
「今日、メリアージュ様とお買い物に出かけたら、お似合いの夫婦ですねって言われて」
「………そうか」
「格好良い旦那様だって褒められて」
「………嬉しかったのか?」
「うん!……生まれ変わったらメリアージュ様の妻になりたい」
これは怒るべきなのか? それほど母を慕ってくれていると喜ぶべきなのだろうか?
「……俺は?」
「え?」
「だから、マリウスが母上と結婚したら俺はどうなるんだ? 生まれ変わっても俺と結婚したくないのか?」
怒ってはいけないと、笑おうとしたが、つい声は冷たくなってしまう。
マリウスは完全に俺のことを忘れていたのか『あっ』と驚きの声をだした。
「勿論、ロベルトと生まれ変わっても結婚したいけど……でも、できない」
「おい!」
「だって!……無理矢理結婚してもらったんだから……今の人生で物凄い幸せを貰ったから……来世ではロベルトに本当に好きな人と結婚して欲しい」
最近はロベルトの妻と言う身分を素直に受けとっていたのに、まさか今世限りと思い込んでいたなんて。勿論来世で前世の記憶があると限ったわけではない。だが、生まれ変わりは確実にあるのに。実際に、自分の妻の前世が危険に曝されたときに、助けに来たという話を聞いたことがある。時間を遡ってくるので、当然あの家での出来事だが。
「メリアージュ様の妻になれれば、ロベルトは子どもとして生まれてきてくれるだろうから……ロベルトが他人で生まれてきたらきっと俺は来世でも恋をするから……だから、子どもだったら絶対に無理だから……適わない恋をしなくて済む」
「あのなっ」
言ったほうが良いだろうか。本当は最初からマリウスを愛していたと。
でも侯爵のせいで結婚できなかったから可哀想なナナを利用して、マリウスを貶めて、何もかもなくさせたと。
ここまで頑なに無理矢理寝取ったから、子どももできたから仕方がなく俺が自分の側にいてくれるのだと何時までも思わせておくのは余りにもかわいそうだ。
いっそ言ってみるか?
しかし、何をいっても頑ななマリウスは信用しない気がする。
本当はずっと愛していたと言っても、嘘だと思い込むだろうし、例えばマリウスの父侯爵に結婚の申し込みに行ったが駄目で諦めてナナと結婚することにしたとする。証拠だって有る。侯爵に申し込みに行ったことは、聞けば明らかになることだが……父では俺を庇っていると信用されないだろうし、侯爵がマリウスの利になるような証言をするはずない。それに今更侯爵に会わせるのも負担になるだろうし。
全部正直にぶちまけても、結局信じてもらえる可能性は低い。俺がナナすら利用した過去を知られても良いし、軽蔑さってされないだろう。ただ、マリウスの中の俺像から言って、俺がそんな事をするはず無い、マリウスのために嘘をついているだけと思い込まれるだけだ。
理路整然と言ってみても、何をやってもたぶん信用されないのは、俺の行いが悪かったのだろう。
あの時は、マリウスが俺に性行為を強要したということが重要だった。侯爵にマリウスと縁を切る、はっきりとした罪が必要だった。
マリウスに迫られて、実を俺も好きだった、という訳にはいかなかった。そしたら結局今までと変わらない。侯爵はやはり俺とマリウスを結婚させなかっただろうし、やはりどう考えてもあの時、真実を言う訳にはいかなかった。
「じゃあ、俺は来世でナナと結婚すれば良いのか?」
「う、ん……」
「ナナはアーセルと結婚して幸せそうなのにか? 二人はお似合いだろう?」
「そうだけど……」
「俺はアーセルからナナを奪えば良いのか?」
「………」
俺は好きな人と来世に結婚しても良いと言いながらやはり嫌なのか、それともナナとアーセルを引き離す事が嫌なのか。難しそうな顔をして俯いていた。
「それに、母上はあんなに父上のことが好きなのに、マリウスは間に入って父上から母上を奪うのか?」
「そんな! そんなことできない!! メリアージュ様はあんなにお義父様のことを愛しているのに!!!」
とんでもないとばかりに首を振った。じゃあ、何で母上と結婚したいんだ? と、聞くと家族になりたいからと言う。じゃあ、妻じゃなくても良いだろう。そもそも母親になって欲しいのなら普段からお義母様と父上を呼ぶみたいに言えば良いのにと言うと、メリアージュ様にもそう言われたけど、お母様と呼ぶと実の母親を思い出すから嫌だと……父は良いのか?
「じゃあ、母上と結婚するのは無しだろう? 父上が可哀想だよな?」
「うん…」
「俺もナナと結婚するのは無しだろう? アーセルが可哀想だからな」
「………うん」
「じゃあ、俺は誰と結婚すれば良い?」
「………」
自分とは言わずに、涙を浮かべてまた俯いている。
「そんなに母上が好きなら、母上たちの子どもとして生まれてくれば良いだろう?」
「でも、それじゃあロベルトと兄弟になっちゃうけど……」
「兄弟だって結婚できるように陛下がしてくれたから、構わないだろう? 俺はマリウスの兄か弟になって……いや、マリウスよりも先に産まれてずっと守ってやりたいからやっぱり兄が良いな。来世では子どもの頃からずっと幸せにしてやりたい。母上と父上と俺に愛されて生まれてくれば良い……だろう?」
来世ではあんな人でなしの両親から生まれて欲しくない。俺が生まれた時から甘やかしてやりたい。
「大人になったら俺はマリウスと結婚する。良いだろう?」
そんな未来があったらきっと素晴らしいだろうけれど、俺がそんなの……という顔をして、頷けないでいる。
そんなマリウスをベッドに投げ込んだ。
「あっ……ロベルトっ」
「マリウス……快楽に弱いくせに、俺がいなくて来世で我慢できるのか?」
酷いとでも言う様に、涙ぐんだ。他人の妻に用はないけれど、マリウスは絶対にエロい身体をしている。こうやって抱き潰してやれば、何でも言う事を聞く。優しく抱かれるのも好きだけど、少し乱暴に抱かれるのも求められている気がして好きみたいだ。
「マリウス、俺は嫌だよ。マリウスが俺以外に抱かれるのは……例え来世だとしても許せない。だから俺にしておけ」
乱暴に突き上げると、もう意識が朦朧しているのか、何度も頷いた。きっと意味は分かっていないだろう。
そして抱かれ疲れて気を失うように眠ってしまった。そんなマリウスを胸に抱きしめて、今日何度も愛していると言ったが、相変わらず愛されていないって思うんだろうなと、少し胸が痛んだ。何度も愛しているって言うのは好きだし、構わないが、愛されていないと思い込むのはやはり可哀想だ。
「マリウス、本当に愛されているって実感してもらえるのは……来世まで待たないと無理なのか?」
可愛い可愛い俺の奥さん。俺がマリウスのことを愛していないって言われるのは、こんな俺でも傷つくんだけどな……まあ、自業自得か。
END
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