「息子が倒れた?……迎えに行きます」

「エミリオ、どうしたの?」

「また……ギルバードが学校で倒れたそうだ」

「ええ? これでもう何度目? 最近のギルはどうしたんだろう?」

士官学校に入って、寮にいるため最近のギルバードは家に滅多に帰ってこない。
長期の休みはまだだし、たまに連絡が来るが元気そうなのに、何故か頻繁に学校から息子が倒れたという連絡が入ってくる。
すぐ元気になったので来るほどのことではないと言われていたが、何度も貧血で倒れるので医者に見てもらって欲しいと先ほど校医からの連絡だった。

「生まれてから病気らしい病気なんかした事なかったのに……何でこう貧血で倒れてばかりいるんだ?」

ギルバードは顔はギルフォードに似て儚い美人という感じだが、身体能力も父親似で、運動神経にも優れていて丈夫だ。
何で15歳になって親元を離れた途端に病弱になるんだ?

私も同じ士官学校に行っていたが、栄養管理も問題がないし、上級貴族ばかりが通う学校だ。生徒の管理はきちんとしてくれている。

「とりあえず迎えに行こう。検査をさせないと」

迎えに行くと、保健室でギルバードが寝ていた。

「サラ王子、息子についていてくれたんですか?」

「うん……心配だったから」

「ありがとうございます。今日は連れて帰りますので、どうかお部屋にお戻り下さい」

「……僕もついていったら駄目ですか?」

「サラちゃん、大丈夫だから。すぐに戻れるから、先に部屋に戻っていって」

おい、何ですぐ戻れると約束するんだ。精密検査をしないといけないのに。

「サラ王子に心配かけたくないのは分かるが、最近のお前はおかしいだろう。早く城に戻って検査をしないと」

「大丈夫です! 僕は元気なので、検査なんか必要ありません!」

「いや必要だろう! 顔色も真っ青だし」

我が子ながら美しい顔をしているので、今にも儚くなりそうだ。薄幸の美人に見える。

「ギルバード、母上に心配をかけるな。お前が倒れたと聞いて、しかも何度もだ。親に心配をかけるなと言っても無理だよ。精密検査をして問題がなければ、すぐに戻っても良いから」

「だって本当に何でもないんです! 僕は健康そのものです!」

「その顔色で言っても、信用は得られん! 信用して欲しいんだったら検査をして健康だって証明しろ!」

それはな、お前はギルフォードに強姦されて出来た子だが、それでも可愛い子だ。心配するなと言うほうが無理だろう。
親の手元を離れたばかりで、まだ未成年だ。

「本当に大丈夫なんです! 原因も分かっています」

「じゃあ、何が原因なんだい?」

「それは………」


ギルバードは我が家の跡取りだ。我が家は公爵家の分家であり、爵位も高い。王族の血お引いており、ギルバードの身分はこの学校でもそれなりのものだ。
したがって、王子サラが入学する時に、ギルバードがサラの騎士として認められ、サラ王子の付き添いを常にしていたという。

「ギル……僕お風呂に入れない」

「え? どうして?」

寮はどれほど身分が高くても、平等に扱われることとなっている。公爵家の跡取りだろうが、王子だろうが、集団生活を身につけて、軍に入ったときに自分のことは自分で出来るように教育されるのだ。
従って王子だろうが、共同風呂で集団で入るのだ。

「……僕ね……まだ、生えてこないんだ」

「……え?」

「だからね……恥ずかしくて、皆と一緒にお風呂に入れないんだ……どうしようギル」

「サ、サラちゃんっ…!!!!!」


「まさか、それで鼻血を噴出して貧血になったと言わないだろうな……」

「……そのまさかです」

「………」

「でも、これで倒れるの初めてじゃないだろう? 何で毎日倒れているんだ?」

「だって、サラちゃんが、皆と一緒にお風呂に恥ずかしくては入れないって言うんで、僕が見張りに立って、皆と一緒に入れないようにサラちゃんだけのお風呂タイムを作るんです! でも、サラちゃんは無邪気に一緒に入ろうって言うんです!!!」

「まさか一緒に入ったわけじゃないだろうな?」

息子のことは信用している。信用しているが……パイパンと知っただけで鼻血を噴出している息子のどこを信用しろと言うんだ?
一緒にお風呂に入ってはいけないわけじゃない。だって共同風呂だからな。
だが二人きりともなれば、何が起こっているか誰も目撃していない事になる。まさか15歳同士で間違いを犯したら……
隊長が激怒してギルバードの命はないに違いない。

「そんな!!! サラちゃんの秘密の花園を覗くんなんて、そんな罪深い事許される訳が!!! 僕は紳士です!!!! 妄想はしますが、妄想だけにおさめています!!!!」

「そうか……その自制心は素晴らしいが……まさか、連日の貧血は妄想のせいとか言わないよな……?」

「エ、エミリオ、分かりきっている事を聞いてはっ」

「黙っていろギルフォード!!! 親をこんなに心配させておきながら、秘密の花園で妄想していたせいで、貧血症になりましたって、アホだろう!!!!!! こんな馬鹿息子を持った覚えは」

「待って! 僕たち約束しただろう? 変態の血筋に生まれても、世間に顔向けできない変態じゃなくって、変態紳士に育てようって!! ギルはその通りになったよ! サラ王子を傷つけないために、鼻血だけで済ませている。素晴らしい子に育ってじゃない? 褒めてあげようよ」

……確かに。誰にも迷惑はかけていない。ただ、貧血で倒れているだけだ。
その内容が、毛が生えていないって知らされて、鼻血噴出で倒れ、それからも秘密の花園で妄想して鼻血を出し倒れていたとしても……自制はされている。サラに襲い掛かったりはしていない。

だが褒めるというのも何か違う気がする。

「そのな……鼻血は出さないように出来ないのか? いくら健康だから妄想が激しくなるといっても、こう毎日倒れていても身体が持たないぞ? 鼻血を出さないように妄想は出来ないのか? 鼻血をコントロールしないと、いざと言うときに、妻に恥ずかしい思いをさせるぞ? 例えば初夜に鼻血を噴出なんて恥ずかしいだろう?」

「サラちゃんが、僕を刺激するようなことを言わなければ何とかなるような気がします。サラちゃんってば、僕に何時になったら生えてくるのかな?とか、僕は何時生えたの?とか、妄想を刺激するような事ばかり言ってきて……生えていない子は好きじゃないよね?とか、好きに決まっているじゃないですか!!!!!!!!!!!!」

「もう良い……お前は鼻血を噴出して死ね」

「エ、エミリオ、良かったの?」

秘密の花園の素晴らしさを語る息子を放置して戻ってきた。

「放っておけ。校医には不治の病なので無視して下さいと後で言っておく」

「でも、ギルが」

「だが聞くがな? 妄想のしすぎで死んだ奴はいるか?」

「いないけど……」

「なら放っておくしかないだろう……はぁ、変態紳士か……」

息子がそんな物になってしまい、少しショックだが、父親がこれなので仕方がないだろう。

「ごめんなさい、僕のせいだよね。僕が変態だったときに作った子だから」

確かにギルが出来たときのお前は酷かった。だが作ったときの状況が何か関係があるのか?

「いや、お前だけのせいじゃない。うちの血筋も相当呪われた変態だからな。変態紳士になっただけマシと思わないといけないかもしれない」

ギルフォードのせいだと言い切れないところが悲しい所だ。

「でも、このまま変態紳士で終わってくれるかな? サラ王子のことが大好きなのに結婚できる希望がないのに……」

「隊長に私が嫌われているからな……あの様子だと絶対に許してくれそうもないからな。その場合変態紳士が鬼畜紳士になったら」

エルウィンの息子に不埒な事をすることなどできないので、その場合はギルバードを我が家で監禁するしかない。
願わくば、隊長が結婚を許してくれれば、誰も傷つかずに済むのだろうが。

「エルウィンに頼むしかないな。ギルが秘密の花園を手に入れるためには、同じく秘密の花園が頑張って隊長を誘惑して許可証を手に入れるしかないんだが……」

そこまでエルウィンが犠牲を払ってくれるか、だが……

頼んだが当然犠牲を払ってくれなかった。

この分だと当分息子の鼻血は止まらないだろう……親子揃って、おそるべき秘密の花園パワーだな。

「本当に放置していて良いの?」

と何度もギルフォードに心配されたが、止める方法が見つからないけれど、妄想できるということは健康体なのは間違いないので、変態紳士のままでいられるのなら放置しかない。というか、いくら息子でも関わりたくない。

私は駄目な母親だろうか?



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