「おかあさま、ぼく、しょうらいお嫁さんきてくれないの?」

「え?……」

イリヤはとても可愛い顔立ちをしている。クリクリの目にイアンにそっくりの金髪の巻き毛で、ふっくらとした頬は薔薇色で、誰が見ても将来、凄く可愛い顔になると思うだろう。
ハンサムや凛々しい顔立ちはどう考えても無理だと思う。だってイアンにそっくりだからな。

「誰がそんな事を言ったんだ?」

「いとこのみんなっ、ぼくぼく、もてないの?」

誰だ、そんな酷い事を吹き込んだのは。
確かに辺境伯家の人間はもてないらしいし、年上の従兄弟たちはそろそろそんな現実を知る頃かもしれないけれど、まだ幼いイリヤにそんな現実を叩きつけなくても。

「おかあ様だっておとう様と結婚しただろう? おとう様はすっごくおかあ様のことが好きで、結婚したくて仕方がなかったんだ。イリヤもちゃんと大好きな子と結婚できるよ。心配しないんだよ」

お、たまには父親らしい事を言うな。

だが、お前、あの媚薬騒動がなかったら結婚できたと思っていたのか?
モジモジ君で好きといえない内向的な性格で、人形を愛でることで愛をアピールし、全裸で人形を可愛がっている変態だったんだぞ。エミリオのせいでお前に抱かれなかったら、絶対に結婚していなかった自信はある。

「おかあさま、おとうさまのことが好きでいてくれたの? けぶかくても、だいこんでも、かわいくてもいい? ぼくもおかあさまみたいな人がいてくれるかな?」

「イリヤ……毛深いのはそう気にならない」

イアンの顔には似合わないからたまに俺が剃ってやるが、金髪なのでまあ、男だし……と思うようにしている。これで黒髪だったら大変だよな。王国に多い金髪家系で良かったな本当。

「それに大根だって……気にしないさ」

でかいなとは思うけれど、結婚する前に刺さったからか他の辺境伯家の家の嫁みたいに、大根が嫌だと初夜に逃げ回りもしなかった。普段の性生活でもでかいな、ちょっとキツイなと思うくらいだ。

「可愛い顔は気に入っているしな」

あ、何だかエルウィンの兄みたいなことを言っているけど、イアンの顔は可愛いし、別に夫の顔が可愛くたって構わないだろう。
そう考えるとなんてこんなに辺境伯家の男ってもてないんだ?
性格は可愛いし、モジモジ君だけど妻の言いなりだし、慣れるまで大変だろうしエドガーみたいに大きいの気持ち良いと公言できるほどじゃないけど、まあそれなりに気持ちが良くなれないこともないし。
変態でもないし(いや変態だったけど、イアンが特別と言うか)公爵家の男と比べたら優良物件だと思うけどな。
なんでもてない男の代名詞になっているんだ?

イリヤが可哀想だろう。やっぱり婚約者を決めておいてあげたい。将来、大根だって罵られたって泣いている息子を想像するのは辛い。

「じゃあ、おかあさまみたいなかっこういいお嫁さんがぼくにもきてくれるよね?」

将来格好良くなりそうな嫁を探しておこう。

「考えてみたんだが、やはりイリヤには婚約者を決めておいてやったほうが良いんじゃないか? 今何人か知人の子どもを思い浮かべたが、父親似の嫌な大人になりそうなのしか思い浮かばない。可憐とか美人とかだったら思いつくんだがイリヤの好みじゃなさそうだし。誰か良いのいるか?」

「………好きな子と結婚させてあげたいってあったよね」

「だが、あんな幼い頃からもてないことを気にしているんだぞ? 親として大人になったらどんな迫害を受けるか心が張り裂けそうなんだ」

「僕がお人形つくりをイリヤに教えてあげるから大丈夫。お人形がいれば、僕もグレイに変態だって罵られても平気だった」

いや、反対だろう。お人形があったから変態だって言われても平気だったんじゃない。お人形がいたから変態だと思ったんだ。
お人形がいなければ、俺だってあんなに変態だとは思わなかった。

普通にアプローチしてくれば、ちょっとは違ったはずなんだけど。

「お前の一族って生と死を司っているから、人形のようなものを作るのも得意なのか?」

「創作系が得意みたいなんだ。僕も頑張れば人形に魂を吹き込めると思ったんだけど」

ああ、蘇生できるし、アンデッド作れるから、擬似魂くらいできるかもな。

ただ俺は息子がダッチワイフ作るの嫌なんだよ。

「やめろ。余計もてなくなる……言いたくないが、お前のお人形のせいで幻滅だったんだぞ。お人形がいたから変態だったんだ。お人形がいなければ、普通にお前の結婚していたかもしれないって言うのに」

「本当!? 僕のこと実は好きでいてくれたの?」

「そんなわけはないだろう。全然好みのタイプじゃなかったわ」

「だよね……」

なんか、辺境伯家って負け犬根性だよな。もてないって思い込んでいるから普通のアプローチができないんじゃないか?
こんなんじゃあイリヤも僕もてないから……って、モジモジ君に成長するぞ……


「というわけで、エドガーさん、イーディス。子ども(イケメン限定)が生まれたらイリヤの婚約者に下さい」

まだ子どもができていない二人に頼んでみた。他の知り合いだと、変態ばかりだし(他の分隊長)兄貴もちょっとだけど、まあどのみち母方に似たらの限定なので、この二人にお願いしてみた。俺よりも上の身分だとなかなかお嫁に来てとは言えないので、イアンの従兄弟と兄嫁にならなんとかお願いできるだろうと思って。

「イリヤ君は可愛いから俺は構わないけど……ただ、当事者同士の話ですしね」

「勿論いずれ破棄してくれても構わない。ただ、婚約者がいれば結婚できないかもしれないというコンプレックスがなくなると思うし、もてないという負け犬根性を持たなくて済むかもしれない」

「母親心かあ。俺も構わないけど……でも、何だかんだ言って、辺境伯家の男性(可愛い)ってちゃんと結婚できているらしいですよ」

「本当なのか? エドガーさん」

「夫のシモンの話だと、リオン様が頑張って纏めているのもあるし……結構、泣き落としが効くらしいんですよね」

イアンは泣き落としなんかしなかったけどな。モジモジして見ていて人形作っているだけで。

「皆見ているだけなんだけど、周りにはまる分かりで……周りが最後にはいい加減にしろって怒るらしいんですよ。もしくは本人がどういうつもりだって問いただして」

まあ、その気持ちは分かる。俺の時もイアンの部下が俺に結婚してあげてくださいと直談判してきたしな。まるでイアンの気持ちを分かってあげていない俺が悪いって言いがかりをつけられたし。
そうやって周りに責められて、仕方がない結婚するかと諦めるのも多いんだろう。

またはストーカーして見ているだけは止せ!と怒ったら、泣き出してごめんなさいとでも言うんだろう。すると怒ったこっちが悪者で、皆から結婚してやれよと同じパターンになる、と。

性格は良いだけだって邪険にできないんだよな。

「そう考えると、モジモジ君な性格も悪くはないのか?」

「そうやって、何とか結婚しているみたいなので、イリヤ君もなんとかなりますよ。俺もシモン様との間にどんな子が生まれるか分かりませんしね。グレイシアさんと同じように悩むかもしれません」

「俺も旦那様みたいに問答無用で誘拐しちゃう子は嫌だけど。操縦法さえ覚えれば、さほど悪い旦那様じゃないので。生まれる子はどんな子でも良いです」

イーディスが産む子は、兄貴や俺の父に似たら最悪だろうけど、大根毛お化けとは呼ばれないだろうからまだ悩みは少ないかもしれない。羨ましい。

「ただ……そうやって、皆から可愛がられて何とか結婚できれば良いんですけど。シモン様のお父さまみたいな方もたまにいらっしゃるようで……」

エドガーの夫シモンの父親は妻を誘拐してきた。
誘拐とは言っても辺境伯家の場合大抵、誘拐するときもモジモジしていて、相手はなんか見られているな……と思っていて、何か用ですかと声をかける。
すると手紙を渡される。

―――
僕は誘拐貴族です。
貴方に恋をして、貴方を僕の国に連れて行きたいので、ご家族とお別れをして来てください。
―――

みたいな手紙を渡されるそうだ。
この手紙は誘拐しに行く辺境伯家同士に用意されている定型文だったりする。
本当はもっと、色々書こうとしていて失敗するので要件だけにした簡潔文だったりする。

貴方に恋をしました。僕の国に来て欲しいです。みないな、許可を得るタイプだと断わられるので、すると強引にいけず話が進まないので、断わるのを許さない丁寧な文にしてみたのだ。

すると大抵誘拐貴族に逆らったら国が滅ぼされると、泣く泣く家族にお別れを言うのだ。しかし、お別れを言わせてもらえるだけ幸せだと後で気がつく。大抵は有無を言わせないので、突然家族がいなくなり、生死も分からず、誘拐貴族に攫われたのかもしれないと思うだけなのだから。

しかしシモンの父の場合は。
この手紙を渡したところ、家族と別れを許可されているのを訝しがり、

『まさか……誘拐貴族は誘拐貴族でも、大根貴族じゃないだろうな? 百歩譲って、誘拐公爵なら許すが……大根毛貴族ということはないよな?』

『ご、ごめんなさい! 大根貴族です!』

『私は、毛深い男が大嫌いなんだ! 可愛いくせに毛深いなんて有り得ない!! 国が滅ぼされようが絶対に一緒にはいかない!!!』

とシモンの母は拒絶したが、シモンの母の周りの人間が彼を生け贄に差し出し、どうぞ連れて行って下さいと裏切ったのだった。辺境伯家の一族は誘拐はしてもそれは丁寧に連れ去るし、家族に賠償金を置いていく。一度も国を滅ぼしたこともないのだが、誘拐公爵と大根貴族との差は他国は分かっていない。誘拐貴族は誘拐貴族だろうと恐れているので、シモン母は自分の意思で嫁ぐことはなかった。

そしてシモンを産んだが、毛嫌いは治らず、シモン父は毛を好きになる魔法を生み出し、今は仲良くしているそうだ。
ただし、毛を好きになるだけなので、息子といえども会えなくなった。

「どうやって夫婦生活していたんだ? 辺境伯家の男は強姦しないだろ?」

「シモン様いわく、エッチする時は全身の毛を剃っていたしていたそうで。その時は毛はなくても大根には変わりなかったので、何度も土下座をしながらさせてもらっていたそうです……だから、俺が毛を剃ってくださいと言った時、酷く傷ついたみたいなんです。母に罵られた時のことを思い出して、やっぱり毛があると愛されないと思い知らされたと思ったみたいで。今はオートチャージで毛を剃る魔法をかけてくれているんですが、俺は必要ないですって、最近は断わっています」

「じゃあ、毛だらけでエッチしているんですか?」

毛だらけエッチって……なんか物凄いマニアックなプレイみたいじゃないか。

「あのな、イーディス。毛だらけエッチって……別に普通のエッチだろう。兄貴よりもちょっと毛深いだけだ」

その毛深いのとエッチしている俺がものすごくマニアックな人間だと思われるような差別発言だぞ。

「俺はシモン様の顔が可愛ければそれで満足なので、最近毛深いのもギャップがあって可愛いと思うようになって来ました。毛もふさふさして気持ちが良いですよと言うと、シモン様凄く嬉しがるんです」

お、俺はそこまでマニアックにはなれない……愛って凄いな。

結局、毛があっても愛される可能性はあるし、たぶん結婚もできるのでイリヤのことはそれほそ気にしないでも良いのでは?と終わってしまった。
エドガーの毛への愛で最後閉められて、脱力してしまったので、何だかもうイリヤの将来を気にしているのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。

「ねえねえ、グレイ……あの」

「はいはい、今夜したいんだろう」

時々剃ってやるが、何時もではないのですぐイアンはフサフサになってしまう。ただまあ、金髪なので金髪の毛が生えた子犬と思えば……

大根なのも慣れれば……

「あっ……グレイ、そんなことまでしちゃっ」

「気持ちが良いっ、んっ」

前から思っていたんだが、夫の癖に喘ぎ声が煩いぞ。ひょっとしてもてない原因の一番の理由は喘ぎ声が夫の癖に煩い事じゃないのか?
と思うようになってきた今日この頃だったりする。




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