「グレイシア分隊長……相談に乗ってください」

「何だ?」

部下の一人が深刻そうな顔で、どうか相談に乗って欲しいと懇願してきた。勿論部下の管理も上官の役目なので断るようなことはしない。

「仕事のことか?」

「いいえ、プライベートのことなんですが。宜しいですか?」

プライベートなことならと、職場にあるカフェに誘い席についた。騎士は1,000人いるので官舎や食堂があるここは小さな1つの町のようになっている。

「その……お見合いの話が来て。それが勿体無くも辺境伯家の方とのお話なんです。グレイシア分隊長はイアン隊長と結婚されているので」

イアンはああ見えて名門中の名門辺境伯家の三男だ。現当主の弟にあたる。

「その男がどんなやつか知りたいのか?……心配しなくても、性格は皆良いぞ」

性格は素直で言う事を良く聞く。可愛らしい子犬のようだ。
ただし、内気でモジモジ君で、片思いをしながら相手からの告白を待つ乙男ばかりで面倒といえば面倒な一族だが。

「いえ……私みたいな弱小貴族には勿体無いお話でどうしたら良いか分からず、ご相談に」

「別にあの家、家格には拘らないだろ?」

名門の男じゃないと駄目とか言うわけでもなく、好きになったら誰でも良いよという感じだし。俺の家は辺境伯家の嫁になるのに問題のない家柄だったが、長男の嫁は没落していて、次男の嫁も貧窮していたそうだし。こういっちゃあなんだが、三男の嫁の俺が一番家格が上という始末だ。けど、誰も反対しなかったそうだし。

「……でも、色々怖い噂を聞いて……怖くて。グレイシア分隊長はよく隊長と結婚する気になりましたね」

一般兵士は知らないかもしれない俺たちの結婚秘話を思い出し、結婚する気もなかったが、仕方がなく……とはいえず、俺だってあんな変態と結婚する気にはなれなかった。
だって考えてみろ。自分そっくりのダッチワイフを大事にしている俺より可愛い顔をした変態で、全裸で毛達磨になっている男なんて対象外だろ?
まあ、今となっては可愛い子犬を飼ったと思うようにしているが。

「怖い噂って何だ?」

「その……性器が物凄く大きいとか」

「それは噂じゃない。あの一族は大根のようにでかい」

「ひっ! よ、良く結婚しましたね」

まあ、初めての時は媚薬でおかしくなっていたからな。イアンの巨根を怖いと思う間もなかったし、初めては気持ちが良かった。だからだろうか。あのサイズを怖いと思うこともなく結婚生活を送れたのは。初夜に何の覚悟もなくあのサイズに会ったら、怖気づいていたかもしれないだろうな。と言いつつも普段からイアンは股間を開放していたからサイズは知っていたが勃起時は流石に見たことなかったからな。

「それに私よりも可愛い顔で」

「それは仕方がないだろ。辺境伯家のトレードマークだし、慣れれば可愛い顔もかわいいぞ」

「そ、それに物凄く毛深いって」

「まあそうだが……嫌なら剃れば良いだろ?」

「でもっ! 大根がああ! 大根がああっ! 私には耐えられそうもありません!」

「なら断われば良いだろう?」

「ですがこんな弱小貴族の身でっ!」

「別に気にしないぞ。あそこの家は断わられるのを前提に見合い話をあらゆる家に送りつけているからな。もてないから少しでもチャンスを求めているだけだ。そこまで嫌だったらイアンを経由して断わってやろうか?」

「ほ、本当ですか!!?? ありがとうございます!」

なんか本当にもてない一族なんだな。イリヤの将来が危ぶまれる。婚約者を決めてやろうかと思っていたが、イアンが反対するしな。

「というわけで、部下の見合いを潰してくれないか?」

イリヤを抱きながら家族団らんの場でそう切り出した。

「良いけど……そんなに真剣に嫌がらなくても良いのにね。どうせ見合いしたって、99%の確率で成立しないのに」

「やっぱりもてないからか?」

イリヤの未来が……

「う〜ん。そういうわけじゃなくって……一番初めの段階で、身分が違いすぎるって断わってくるし、見合いが成立しても今度はこっちから断わるんだよね」

「それは何でだ?」

「好みとか?……やっぱり運命の人じゃないからじゃない?」

「もてないと嘆いているくせに贅沢だな」

だからもてないんだろ?
もてないくせに断わるなんて贅沢な。

「おかあさま〜カブカブが死んじゃったの」

イリヤが最近森で取ってきたカブトムシの世話をしていたら、その中の一匹が死んでいるのを発見したようだ。

「そうか。寿命かな? イリヤ、生き物には決められた命の長さが………え?」

さっきまで確実に死んでいたカブトムシ(カブカブ)が床を這っていた。あれ? 違う固体か? とも思ったが、他に死体が見当たらない。

「あれ? 死んでいたのは気のせいなのか?」

「イリヤ、そうむやみに魔法を使っては駄目だよ。カブカブは死んだんだから、お墓に埋めてあげないとね」

イアンはどういうことか分かっているようだったが俺は理解できない。死んだカブカブが動いているのはイリヤの魔法のせいなのか?

「イアン、一体どういうことなんだ?」

「うんとね……僕らの独自魔法ってどんなのがあるか知っている?」

辺境伯家の独自魔法か?
そういえば聞かないな。
同じ開国の名門、公爵家は時間系魔法や精神に関与する魔法、予知過去視などそうそれはそれはありえない独自魔法をたくさん持っている。けれど、そういえば辺境伯家は特に聞かない。

「………毛を4時間ごとに自動カットする魔法とか、毛に欲情する独自魔法があるとかは聞いたことはある」

なんか全て、毛関係だったし、開祖の名門に相応しい独自魔法とは思えない。毛を自動カットして一体何になるんだ?
国を興す時に毛なんか関係ないだろ?
開祖の時、他にもたくさん貴族になった仲間はいたらしいが、開国の名門とされているからには何か理由があるはずなのに、役立つ魔法が何も無い。毛、しかないっていったい……

「それは……毛に欲情するのは、一族皆に欲情しちゃうから廃棄決定がされた魔法だし」

「ならお前の一族は自動カットしかないのか? それでよく開祖の名門になれたな」

「イリヤのカブカブね、イリヤが動かしているんだ……」

「はあ? まさか、生き返らすことが出来るのか? 蘇生魔法なんか公爵家でもできないだろ?!」

というか、大陸中探してもそんな独自魔法持っている一族はいないだろう。

「いや、イリヤはね……使役っていうか。アンデッド化してカブカブを使役しているんだ。僕たち辺境伯家って実は生と死を操る事ができるんです」

アンデッド化!!??
それも聞いた事が無い特性だろう。

「それって……死体なら何でも動かせるのか?」

「はい……だからね。開祖は死体を操れたから、勿論死んだ人間の遺体もそうだし、魔獣もだし……死の軍隊を作り上げて、この国の開国に役立ったらしいです」

「それは確かに凄い能力だな……戦場で転がっている死体が戦力になるんだったら無敵じゃないか」

「色々、制限はあるんだけど。こう、僕らの全毛を使って操るんで」

そこで毛かよ! 毛の総長さ分しか操る範囲がないとか、毛の本数だけしか死体を操れないとか、らしい。
だからか、だからか!!!
この前、結婚式で兄弟同士で結婚していたけど、次男が跡を継ぐらしい。何で長男じゃないのかと思ったが、辺境伯家でハンサムに生まれると魔力が低い傾向にあるだけではなく、毛が濃くない。そのせいで、こういう独自魔法を操れないらしい。だから跡を継ぐ権利がハンサムにはないらしい。逆に可愛い系が毛が濃いので、というより毛が濃いほど魔力が高く、独自魔法を操るのに長けてくるらしい。

「恐ろしい能力だな……」

「うん……アンデッド軍隊を作れるって怖がられるから秘密にしているの。けど、有事にはちゃんと使うよ」

可愛い顔をしてアンデッド軍団(しかも毛の本数まで作成可能)を操れるのか。毛の本数って何万本だ?人体には毛の本数はそれくらいあるんだろう?

「蘇生もできるのか? 蘇生ができるんだったら、もう他家から死んだ人を生き返らせてって懇願がくるんじゃないのか?」

「けど、蘇生に関しては物凄い制限があるんだ。一生に一度しか、たった一人しか蘇生できないの」

そうか、一人なら大事な人を蘇生するために取っておきたいだろうな。だからこれも秘密なのだろう。知れ渡ったら蘇生して下さいと泣き喚く人たちで辺境伯家の周りは一杯になってしまう。

「あとね、一親等までの親族か。交わったことのある人しか駄目なんだ。だから親か子ども、または奥さんしか蘇生できないから………余計な期待を持ってもらっても困るから、内緒にしているんだ」

「そういうわけか。だから毛の魔法くらいしかお前ら一族は有名じゃないんだな。生と死を操れるなんて知れたら……っていうか、妻の俺にはちゃんと話しておくべきだろ!!!!!」

「だってだってっ。アンデッドを作れるなんて知られたら、結婚してくれないかもしれないって思ったんだもんっ!僕のこと怖いって思われたらっ」

「秘密にしていたって、子どもが成長していけばばれるだろう……今日みたいに突然死体が動いたほうがびっくりするんだがな」

「だよね……ごめんなさい。でも、全員が全員こういう独自魔法使えるわけじゃないし。イリヤにも僕が制御の方法を教えます………だから、僕を捨てないで下さいっ!」

土下座されても。確かに独自魔法には驚いたが、そんなことが理由で今更捨てるわけにはいかないし。

「はあ……なあ、お前も蘇生できるのか?」

「やったことないけど、一回だけできるって本能が分かるんだ」

「そうか、じゃあ俺がイアンよりも先に死んだら蘇生してくれるか?」

「うん、うん! 絶対僕グレイを生き返らせるよ!! その後は一緒に死のうね」

お前が先に死んだらどうするんだ? 俺のほうが年上といっても一歳だけだしな。一緒に死ぬ魔法をかけていたら、俺が先に死んだらイアンも死んでしまうので蘇生魔法を使う暇が無いだろうから、たぶん一回蘇生魔法を使ってから、一緒に死ぬ魔法をかけるしかないだろう。けど、まあ、イアンが先に死んだら、きっとあの世でクーンクーンと泣いて待っている気がしないでもないので、俺も跡を追ってやるか。

「そうだな……死ぬときは一緒が良いかもな」

可愛い愛犬の面倒は飼い主が最後まで責任を持ってみないといけないしな。

しかし、この可愛い顔で死の軍団を操るのか………毛で。

意外性の塊、辺境伯家だな。





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