レイダードは無意識に魔法を使っていた。いったい何時までその効力があったか分からないけれど、制御できるようになったらきっと止めていたのだろう。だから魔法の効力が無くなっても、両親は僕を嫌っていた。だから魔法のせいばかりではなく、僕のことを嫌っていたんだ。それは全部僕の性格のせいだろう。

「レイダード殿の魔法の効果が無くなっても、私たちは変われなかった。ハンスを性根の腐った人間だと思い込んで、私たちは何も悪くないという思いを変える事ができなかった。ハンス、お前がそうなったのは……そんなに自分の事を嫌っているのは全部私たちのせいだ……頼むから、そんなふうに言わないでくれ」

僕のを底意地の悪い人間としか思っていなかった父が、そういって頭を下げる。レイダードの威光は凄いな。子爵家の人間なら侯爵家の人間の頼みを断われないだろう。レイダードにこういって謝るように言われたんだ。

どこまでがレイダードの影響か僕には分からない。
凄く幼い頃には優しくしてくれたこともあった。
両親のハンフリーへの偏愛はレイダードのことも影響があったのも、きっと事実なんだろう。
そのせいで僕をより嫌いになったのもきっと事実だ。

だけど魔法が解けた今も、過去のこの家で暮らしていた時期も、彼らは僕を嫌っていた。
今更両親が真実を知らされて反省したとしても、何か変わるだろうか。
きっと、自分達がしてしまったことが客観的に見て平等さに欠けていた時がついたとしても、今更僕をハンフリーと同じように愛せるわけはない。

「僕を……ハンフリーと同じように愛せますか?」

そう聞くと、ハッとした様に、思いも寄らないことを聴かれたかのように両親は驚いていた。

「答えなくても良いです。無理だって分かっていますから」

「そんなことはない! きっと、やり直すことがっ」

「無理です……僕はもう子どもじゃない……今更、愛されても、過去には戻れないし……信じられないし、贖罪の気持ちで僕を愛そうと努力することなんか必要ないです」

「まだ遅くはないだろう! 一からやり直そう? きっと元に戻れるはずだ」

「無理ですよ……」

魔法のせいでも良い。僕を嫌っていった両親を、魔法のせいだからと許す。
ああ、やっぱり無理だ。やられが僕に向けてくれるらしい愛情を全く信じられないし、もらったところで困る。
彼らは贖罪の気持ちから、僕を無理矢理愛そうとし、きっとできないで苦しむだろう。

万が一、僕を愛せたとしても……やり直すことなんか不可能だ。

「貴方達も可哀想な人たちですよね……こんな出来の悪い息子を、真実を知ったばかりに愛そうとしないといけないなんて。いっそ、レイダードから聞いた話を信じないで、僕を嫌ったままでいれたほうが幸せだったのでは?」

編に今更罪悪感に目覚めるからややこしくなるんだ。
レイダードは、彼の母親の告白が悪いほうにしか向かなかったのを分かっていたくせに、こんなことをするんだ。

こんな罰の悪そうな両親の顔を見るくらいだったら、嫌われていたままの方がましだった。

レイダードは馬鹿だ。僕が両親と和解すれば、僕が死にたがらないと思ったのかもしれない。だからここに送り込んだのだろう。
けど、今更なんだ。今更、両親が自分達の態度が魔法のせいだったと、魔法のせいにして反省して、僕とやり直したいといってくれたって、素直にやり直そうだなんて思えるはずもない。

どういうつもりでここに連れてきたのか、ぶん殴りたい気分で一杯だった。


両親は僕とハンフリーと差別していた事について、理路整然とレイダードに説明されれば、自分達が間違っていた行動をしていたと気づいたらしく、反省とハンフリーに会わない様にしてくれていたようだったが、両親がいるだけで僕は苛立ってしまう。
気を使われているのは分かるけれど、僕にとっては冷たいままだった両親のほうがよほど気が楽だった。
何くれなく世話をしようとする様は、滑稽なほどだった。
僕を好きなわけでもないのに償いのために、奔走している。ある意味両親は可哀想なんだろう。
真実僕のことが嫌いだったとしても、レイダードから僕を嫌う魔法をかけていたといわれれば、自分達が魔法のせいで間違ってしまったのだと思い込まなければいけないのだから。

「……本当に良いんです。僕のことは放っておいて下さい……朽ち果てたほうが良いんですから」

そう言うと母は泣く。父は困ったような顔でいる。僕も困る。

三人とも困り果てている。今更なかの良い親子ごっこなんかできるはずもないのに。

僕は両親となるべく顔を合わせていたくなくて、できるだけ寝て過ごしていた。
お腹の傷は全く残っていないのに、何時まで経っても回復しないようで、凄く眠かった。

そして目が醒めると大嫌いな顔があった。

「………ハンフリー、どっか行け」

「やだよ!……先生から聞いたんだ……ハンス、赤ちゃんが死んじゃったから、優しくしてあげなさいって」

「お前がか?」

笑わせるな。コイツに優しくされたって嬉しくないどころか腸が煮えくり返る。

「お前、僕に何されたかおぼえていないのか? 僕に殺されそうになったんだぞ? そこまで記憶力が悪かったのか?」

エクトルも仲が悪い兄弟だって分かっておきながら、僕とハンフリーを二人きりにさせるなんて何を考えているんだ?

「ハンスはまだ魔法使えないし、大丈夫だもん!……僕ね、また赤ちゃんできたの」

コイツは魔力が低いからできやすいんだろ。ポコポコと何人も産めば一人くらいエクトルに似るだろう。

「あのね……ハンスが赤ちゃん欲しいなら僕の赤ちゃん時々かして上げるよ」

馬鹿なコイツらしい思考だ。僕が子どもを失って可哀想だと思うから、兄らしく上から目線で、僕にかしてやろうと思いついたんだろう。ついでに言うなら、殺されかけて怖い思いをしても、鳥頭だからそれほど覚えていないのか気にしていないのだろう。
僕は子どもなんか要らないから子どもがいなくなって清々しているけど、悲しんでいるような母親に向ってそんなことを言ったら余計傷つけると分からないのだろうか。まあ、分からないんだろうな馬鹿だから。

「もう、消えろよ」

「あのね、ハンスの旦那様ってちんこ大きい? 侯爵家の若様だからきっと大きいんだよね? 先生と同じくらいかな?」

「おい」

なんでここでまたちんこの大きさなんだ? ふざけるな! また殺されたいのか!!!

「僕ね、先生のことは大好きなんだけど、エッチは好きじゃないんだ。先生の大きすぎるんだよ。レイダード様とのエッチも痛い?」

「出て行け」

レイダードの大きさなんて知るか! 僕はアイツなんか見ないようにしているし、それは視界の端に入ってくるが、平均以上とか比べようがないし、僕と比べれば……

「レイダード様がおっきければすぐに赤ちゃんまたできるよ」

「………出て行け!!!!!!!!!!!!!!!!」


もう駄目だ。

帰りたい。




ハンスに帰りたいといわせるハンフリーは偉大かも
ハンスにとってハンフリーはある意味、生きる糧なのかもしれないw



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