「どうしてそんなにっ僕の事を嫌うの? 殺したいほど嫌いなの? 僕何にもしていないのにっ」

「何もしなかったから嫌いなんだよ! お前は何か努力をしたか? お前が魔力が低いせいで僕が必然的に当主になることになった! 僕は当主に相応しくなるために何でもしたよ!……寝ずに勉強をしてトップクラスの成績を維持した。魔法の訓練だって血反吐を吐いてやった。領地経営の勉強もしたっ……なのに、誰もその努力を見ようともしてくれなかった。ただ、何も出来ない、何もしないお前を愛して、お前は愛されて当然だと思っていた。そして当主の座を、お前の結婚によって奪っていった事を、当然の事だと思っているだろう?」

僕の努力は何だったんだ?
ただ可愛いだけで愛され、僕はどれほど努力しても褒められなかった。僕の性根が腐っているとしたらそれは皆このハンフリーのせいだ。
両親が、せめて平等に同じように愛をくれていれば、こんな性根にはならなかったんだろう。

いや、他人の責任にしている時点で僕の性根は腐っているんだろうよ。

「ハンスが意地悪するからっ! お父さまだってハンスなんか当主に相応しくないって言っていたもん! 先生のほうが当主に相応しいって!」

馬鹿馬鹿すぎて返事もする気になれなかった。
何を言ってもハンフリーを許す気にはなれなかったが、ここで更に僕の気に障ることを言うとは天才的なアホだ。普通だったら何とか死なずにすむように懇願するだろう。そうするだけの頭もないんだろう。

「そうだな。お前の旦那様のほうが全てにおいて出来が良いから、僕たちが死んだって先生を養子にして親族から妻を娶らせれば子爵家は上手くいくだろうよ。お前のことなんか先生はすぐに忘れるさ」

馬鹿だからハンフリーは僕の言葉を聞いて、先生先生と泣き喚く。
一つ後悔があるとしたらハンフリーと一緒に死ぬということだろう。こんな女々しく煩いやつの隣で死ぬなんて。

「ほら、魔獣がやってきたぞ。僕クラスだったら魔法を使わずに剣でも殺せるけど、ハンフリー、お前ならどうだ?」

剣を持ったら転び、魔法も火を蝋燭に灯すのがやっとのハンフリーが勝てるはずが無い。
案の定、先生先生助けて!と泣き喚いているだけだ。

そしてエクトルが来れるはずはない。行方が知られぬように転移したこともあるし、万が一ハンフリーの身体に守護魔法が掛かっていたらと思いアクセサリー類は外してきた。

「やだ、やだあ! ハンス助けてっ!」

そう言って、魔獣よりもハンフリーに害を為す僕に助けを求めてきた。魔獣の牙がハンフリーに迫っていた。

「やああああっ!!! 血が、血がっ」

ハンフリーは血を見て真っ青になり、腰を抜かして地面に座り込んでいた。そして僕の流した血を呆然と見ていた。
ハンフリーの首に魔獣が喰らいつきそうになった、僕が腕でその牙を受けたのだ。それは決してハンフリーを庇ったわけじゃない。ハンフリーの首に喰らいつかれたら、たった一撃で弱いハンフリーは死んでしまうだろう。それではつまらないと思ったからだ。ハンフリーには長い間恐怖を感じて死んでいくべきだし、先に僕が死んだほうが取り残される恐怖が倍増するかと思っただけだ。

そして僕の血の匂いで、魔獣やたくさん近づいてくるのが分かった。
ハンフリーは余計に悲鳴を上げて魔獣を引き寄せているが笑えた。痛みはそれほど感じなかった。

「し、死んじゃうの? 僕たちっ」

「ああ」


が、突然回りに何十もいた魔獣たちが跡形もなく消え、聞き覚えのある声が上空から聞こえた。

「先生っ!!!!」

「ハンフリー、大丈夫か? 怖い目に合わせてすまなかった」

「先生が来てくれるって思っていたもん! 先生大好きっ! ありがとう!」

エクトルはハンフリーを壊れ物のように大事に抱きしめる傍ら、僕を殺意のこもった目で冷たく見てきた。それはそうだろう。大事な大事な伴侶を、しかも身篭っている妻を殺そうとした僕を許すはずがない。殺されて当然だ。

「ハンスが僕をっ、僕をねっ!」

「分かっている……ハンスもただですまないことは良く分かっているだろう。君は賢い子だから」

「その殺意の篭った思念をハンスに向けないでくれますか? 約束が違いますよ」

後ろから声が聞こえて思わず振り向くと昨日卒業式で別れたばかりのクラスメートがいた。

「レイダード……何故」

「彼が奥方がいなくなったと探していて、俺もハンスが国内からいなくなったのが分かったから二人で探していたんだ。俺はハンスに何かあったら分かる魔法をかけていたから、この腕の痛みのお陰でここがようやく分かった」

そんな魔法何時かけられたんだ?
あの時か? レイダードに顎をつかまれて魔力で拘束されたとき。

「……余計な事をっ」

「ハンスを生かしておいたら、これから先もハンフリーの命を狙うだろう。そして一族の当主として妻を殺そうとしたものを生かしておくことはできない」

「……ええ、そうでしょう。貴方は子爵家の当主として僕を殺さなければならない義務がある」

父はもうこの人に当主の座を譲った。正式には罪を犯した僕は典礼省か裁判で裁かれ、死刑を受ける事になるが、普通は当主自ら処罰を下す。これが国内犯罪率ゼロの秘密だ。
だから義兄であるエクトルが僕を殺すことになる。

「僕の死体はここに捨てて行って下さい。子爵家の墓には入りたくないんです……」

死んでさえも家の柵に囚われたくない。死後仲良く両親とハンフリーたちと一緒に眠るなんて冗談じゃなかった。
僕なんかどこかも分からぬ外国の森の中で朽ち果てるほうがお似合いだ。
両親だってそのほうが喜ぶだろう。大嫌いな息子を世間体のためだけの同じ墓に入れるなんて。
いや、同じ墓に入れようなんて思わないかもしれない。可愛いハンフリーを殺そうとした僕なんか、そこらへんに新しい墓でも建てて入れるだろう。だけど、それはそれで悲しいので、やっぱり僕はここに放置されたい。

「そうは思ったが、流石に義父君やハンフリーも君が死ぬことは望まないだろう。ただし、君には死と同じだけの罪を与える必要がある。そこのレイダード殿がハンスを引き取って監督してくれると約束してくれた。ハンス、君はレイダード殿と結婚し、二度と子爵家に近づくことは許されない」

「……罰が侯爵夫人になることだけですか。それは随分と寛大な処罰ですね」

死んだほうがマシだ。

「ハンス、君にとっては寛大な処置だとは私には思えない。ハンフリーをこんな目に合わせた君を生かすのは、私が君の地位を奪ってしまったことも原因の一つだと思うからだ。私はただハンフリーのためだけの子爵家の当主の座を貰い受けたが、そのせいでこのような事件を引き起こす切欠にしてしまったのは、私の責任だ。レイダード殿が君を幸せにしてくれるとは思わないが、この罰で少しでも君が変わってくれればとは思うよ。さあ、戻ろうハンフリー」

黙って見送ると、腕が引かれ痛みが引いた。僕が治さなかった腕の傷をレイダードが治癒したのだろう。

「随分馬鹿馬鹿しいことに協力したんだな……」

「そう申し出なければ、お前に待っていたのは死だったのにか?」

「元々死ぬつもりだった。お前は僕のためじゃなくて、自分のために僕を生かしただけだ」

「それのどこがいけない? 言ったはずだろう? お前は俺の妻になるんだと。こんな場所で死なせるつもりはない」

こいつは僕なんかのどこが良いんだ?
両親でさえ性根が汚い、腐っているとさえ言われる僕だぞ。お世辞にも性格は良いはずないし、ハンフリーみたいに馬鹿だが好かれるような人間じゃない。
両親でさえ愛さないのに、何でこいつは僕に拘るんだ?

ああ、ひょっとしたら征服欲か?
僕がレイダードの取り巻きにも入らず、結婚の申し込みも無視し続けたから、僕を屈服させたいのかもしれない。
それだけなら、結婚する必要なんかないだろう。

「僕は子爵家の当主にお前の従属物になるように言われた。僕の生も死もレイダードの望むままだ。お前が僕に死ねと言えば、死ぬし、足を開けと言われればそうするだけの存在だ。好きにすれば良い……」

僕はさっき死んだも同然だ。死人には何の羞恥心もないし痛みもない。
ここがどこだって構わない。レイダードが驚いた声を上げたが構わず衣服を脱いでいく。

「さあ、やれよ。これが僕に下された罰らしいから、さっさと突っ込んで犯せよ」

最後に着ていた下着を脱ぐと、レイダードに投げつけてそう言った。




マリウスと張るレベルのネガティブハンス



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