ひな祭り……雛人形をしまわないでおくと婚期が遅れるという言い伝えがある。
この世界では、雛人形をしまわないでおくと、嫁に行かなくて済むという言い伝えがあった。
メリアージュの若き日、兄アルフと父はせっせと雛人形を全国各地から収集していた。
ちなみにどうでも良いことだが、外国では美人で魔力が高い子が生まれると、魔よけのように雛人形を配置し、あの国から誘拐貴族が来ないように祈るのが三月三日の習慣だったりする。
「メリアージュがお嫁に行かないように、山ほどの雛人形を用意しなくてはっ!」
「だが、アルフ……お前はメリアージュとアンリを結婚させるつもりなのだろう? 嫁に行かせないのと矛盾するが」
「いいえ!母上!……アンリと結婚は嫁に行くことになりません! メリアージュはこのまま家に残るからです!」
「そうだそうだ!」
メリアージュの父と兄は絶対に他家に嫁に行かせないつもりだった。
「……だが、アンドレ。俺の家もな王族だったし俺も魔力は高かった。誘拐貴族にさらされない様にと、それはもうたくさんの雛人形を用意してあったよ、子どもの頃からな。しかし、結婚式の日にお前に誘拐された。誘拐貴族どころではなく誘拐公爵本人にな。だから雛人形に効き目はない!」
メリアージュの母は結婚式の日にお婿さんになるはずが、勝手に参列していた誘拐公爵によって誘拐されその日のうちに花嫁に変身させられていたのだった。
「確かに、義母上の境遇を考えれば、雛人形には何の効力もない気が……」
「は、母上は特別だったんだ〜〜〜〜〜だって相手が父上なのだから!!!!!」
まあ、確かに雛人形よりも誘拐公爵のほうが遥かに強力そうで、そんな呪力?などはじき返してしまうだろう。
「そうだ! 雛人形よりも私の愛のほうが強力だっただけであって、雛人形がメリアージュに効かないとは限らない!!!!!!!」
と泣き喚く二人を無視視して、妻たち二人の会話は続いた。
「義母上は妻になる予定の方を愛していたんですか?」
「それはまあ……相手には申し訳なかったが、子どもの頃から決められていた婚約者で……何の不足も無かったから一緒になることになっただけだった。勿論、大事にするつもりだったが……あの後どうなったんだろうか。俺がいなくなって、良い縁談に恵まれたなら良いが」
「どうなったか知らないんですか?」
「アンドレが教えてくれると思うか? だいたいが俺は10年は花嫁の塔にとじこめられていたし」
そう、これほど嫉妬深く心が狭い夫がいないというほど有名なのが公爵家だ。妻の婚約者だった人の行方など教えてくれるはずも無い。
「でも、愛していたら別れが余計辛かったと思うから、それはそれで良かったと思う。アンドレに誘拐されてもそれほど悲壮感を感じなくて済んだしな」
「花嫁の塔に閉じ込められていてもですか?」
「まあ、誘拐された時俺の人生は終わったなと思ったが……アンドレが意外と操縦しやすかったのもあってな」
「まあ、義父上はアルフと似ていますからね……」
エッチをネタにすれば何でも言う事を聞くのだ。
ちなみにオーレリーの脅し文句は『うるう年も無くすぞ』だった。
鬼嫁は初代オーレリー様と決まっているが、実は花嫁の塔の中で夫アンドレを虐めまくっていたのは誰にも知られていない。
「誘拐された日に名前も知らないまま強姦されたわけだが」
「そういえば何で義父上は義母上の結婚式に参列なんてしていたんですか? 国同士仲良くしていたってわけでもないでしょう」
誘拐ばかりしている国なので、外交的に友好国はいない。別に参加したいと言えば断わられないだろうが(怖がって)、少なくてもオーレリーが見ている限りアルフが他国の結婚式に参列したのを見たことが無かったわけで。
「……そう言えばそうだな。おいアンドレ、何で俺の結婚式にいたんだ?」
「それは……美人の花嫁がいると噂に聞いて、私の運命の人かもしれないと見に行ったのだが……私の運命の君は花婿だったわけです」
「と、いうことらしい」
「一体どんな風に、花嫁の塔の中で義父上をいびったのかが気になりますけど……」
「オーレリー! 聞いてやるなっ! 私も花嫁の塔の中で、父上が母上にいびられるのを見て忍びなく思ったものだ。だからこそ二人の愛の証のメリアージュが愛おしくて」
「俺はお前が見ている前で、アンドレをいびった記憶は無いんだが? 本当の事とはいえ息子にアンドレの悪口を聞かせるほど恥知らずじゃなかったつもりなんだが?」
「ロージー(次男)が母上に会いたいって夜中恋しがって泣いていたので、一緒に花嫁の塔に会いに行った事があったのですよ……そこで繰り広げられていた恐怖……『この腐れちんこが!』『でかいだけで絶倫なんて迷惑そのものだ! 誘拐公爵じゃなくてデカチン公爵に改名しろ!』とか『入れただけで出すってどれだけ早漏なんだ! 俺のほうが長く持つ!』『二人も子どもを作って3秒しか持たないなんて! 妻を満足させられないなんて夫として失格だ! 俺を国に帰せ!この早漏公爵がっ!』と罵られて、母上にチンコを踏まれている父上を見てしまい……兄としてロージーに見せてはいけないと目を隠してその場を去った苦い思い出があります」
「俺ってどこが鬼嫁なんだ?……少なくてもアルフを早漏だと虐めた覚えは無い。早漏だけどな……」
「俺だって、オーレリーのように回数制限をさせたことはない。アンドレがしたい、と言われれば、させてやった」
「ちんこ踏みつけながらですか?……っていうか、花嫁の媚薬を遣われておきながら良くそれだけ罵倒できますね?」
「花嫁の媚薬は初夜の一回しか使えなかったのだ(´;ω;`) それ以上使ったら、嫌いになると言われて……使わなかったら好きになるかもしれないと期待するようなことを仄めかされて」
仄めかされて、期待したまま、花嫁の塔に閉じ込めていながら、妻に虐められまくったアンドレであった。
その虐めの内容は、早漏という罵声に留まらず、Hが下手、全然気持ちよくならない、一人でしたほうがマシと、散々罵られ、妻を抱いた後に満足できないと嘲笑され、妻にその後一人エッチをされ、中出しした精液で自分の指でしたほうがマシと、見せ付けられたりしたのだ。
エッチが下手で自慰のほうがマシと言われるのは悲しかったが、自分の精液で自慰をし長い綺麗な指で後孔を弄っている妻を見ているのは、一種のご褒美のようであり、アンドレは泣きながら妻が自慰をしているのを見て、その後また押し倒し、下手と言われながら抱くのが日課だった。
「どう考えても義母上のほうが鬼嫁ですね……」
「花嫁の塔に閉じ込められていたから、皆知らなかっただけで、歴代の花嫁も結構夫を虐げている兵がいたらしい(´;ω;`)」
「私は、好きになるかもしれない詐欺に30年騙され、何時好きになってくれるのだろうと期待し続け……花嫁の塔から出してくれたら好きになるかもと言われ、10数年で塔から出したのに……早漏が治ったらなと、また騙され……」
「何でそう、早漏なんでしょうかね? アルフと違って義父上は回数制限ないのに」
何でもできる魔法を持った弊害だとは言われている。
「それでも30年経ってようやく私は許された。今だ早漏だが……」
妻の祖国が他国の侵略に会った時に、夫が祖国を黙って救ったことをあとで妻は人から聞き、恩に着せるわけでもなく黙っていた夫をようやく許したのだ。もう早漏と虐める事も無くなり、その後できた可愛い息子メリアージュをそれは溺愛して育てた。
「そんな可愛いメリアージュを早漏の一族の嫁にして良いんですか? いくら嫁に出さないためと言っても。たくさん婿に来てくれないかという話も来ているし、領地を分けてメリアージュを1つの独立した家の当主にしても言い訳だし」
「メリアージュは夫になるとは思えないし!(どう見ても夫になるようにしか一般には見えないが、父の目(兄の目)見るとお嫁さんになるとしか見えない)アンリの嫁しかない! アンリが早漏とは限らないし!」
そうアンリは将来分かる事だが早漏の呪いからは逃れれた数少ない一族だったりする。
「まあ、そうですね。俺も可愛いメリアージュですからアンリの妻になってくれたら本当の親子になるので嬉しいですし」
こうしてメリアージュの父と息子夫婦はアンリの妻にするために、雛人形を飾りまわっていた。
その効力は……
「こうして母上が父上と結婚するのを見ると、雛人形って効果はないですね」
オーレリーとアルフが居候をしている伯爵邸では、三月三日に無数の雛人形が飾られていた。
ちなみにメリアージュのために作られた雛人形を持参したのである。
「アルベルには効果があるかもしれんだろう! アルベルはお嫁に行くのではない! 婿を取らせるんだっ!」
「ユーリ隊長の息子をですか?……俺はあまり気は進みませんけど」
普通にお嫁さんを貰うのは駄目なのかと呟く孫ロベルト。
「メリアージュはアンリと結婚してくれなかったから! メリアージュの孫と私たちのひ孫とを結婚させたいんだ!(´;ω;`)」
どう考えてもロベルトは自分の出自を分かっているのだが、祖父(実際は伯父)は気がついていない。メリアージュに内緒だといわれていて気を使っていたのだが、孫(アルベル)の結婚となるとそこまで気が回っていない。
「なんかユーリ隊長の子どもって物凄く性悪のような気がして、アルベルが幸せになれるとは思えないんですけど」
ロベルトは自分が腹黒いことを棚に上げて、義理の弟のユーリを揶揄った。
「だが、死んだ父上もアンリとメリアージュとの結婚を望んでいたのだ! それができないのなら、その孫たちが願いをかなえてくれても(´;ω;`)」
ロベルトにとって死んだ祖父(アンドレ)は赤ん坊の頃に会ったらしいが当然記憶にはない。そんな祖父の願いなど、とは思わないでもないが。
妻を可愛がってくれる祖父の願いを邪険にするわけにもいかず……家族に恵まれなかったマリウスは実家に戻ってメリアージュに懐き、祖父母に可愛がられてとても幸せそうなのだ。マリウスは父母に恵まれなかっただけではなく、親戚からも邪険にされており特に祖父母からは両親同様、明らかな差別を受けていたらしい。
だから懐いている祖父の願いを無碍に断わるとマリウスが暗い顔をするので、ロベルトも返事が曖昧になってしまう。
「まあ……ひいおじい様(実際は祖父:アンドレ)とおじい様のお願いなので、アルベルが将来従兄弟と結婚したいのなら……反対はしません」
本当は妻からちんこを踏みつけられていた祖父アンドレのことなどどうでも良いのだが……口だけは祖父の満足するように良い、そんなに可愛いメリアージュの子孫と結婚させたいのなら今から産む次男とユーリの息子と結婚させれば良いじゃないだろうか……と、将来本人たちが怖気を持って嫌がる縁組をロベルトは考えた。
祖父母の愛の証であるメリアージュであったが、実は少し違った。
ロベルトが生まれて、その子を抱いていたアンドレは妻にあることを言われた。メリアージュがロアルドに取られたのはしつこく恨んでいたが、やはり孫は可愛いと愛しいメリアージュの子を可愛がっていたのだ。
「なあ、俺ももう何年も生きられるか分からないから言っちゃうけど……お前が俺の祖国を救ってくれたから許して愛したわけじゃないんだ……本当は花嫁の塔にいた頃から、お前の妻も何となく悪くはないな……って思っていたんだが、お前を虐めると泣いて愛しているって叫ぶから……面白くて、とっくにお前の事を好きになっていたって言えなくってな」
だからアルフもロージーもメリアージュと同じ愛の証なんだと、最後の虐めをアンドレにして二人仲良く逝った。
雛人形呪いにも負けずに……
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