隊長の祖父母オーレリー様とアルフ様が王城を訪ねてくれた。
何でもそろそろ何時死んでもおかしくないから、孫やひ孫と過ごしたいそうだ。
俺としては鬼嫁って呼ばれているから、初代鬼嫁と呼ばれているオーレリー様に、態度を治すようにいわれないかとドキドキしていたが時に言う事も無く、ひ孫達を見ていた。

オーレリー様のひ孫が今はここに集まっている。
まず俺の子のルカとサラ。クライス様の子のアンジェくんにジュリス。クライス様が監禁中なので……ユリアは公爵城で乳母に見てもらっていて、アンジェくんとジュリスだけユーリ隊長の出勤の時に俺に預けにくる。
二人ともお母さまに会えないので、幾分情緒不安定でルカやサラと遊びたいというらしいので。まあ、ルカやサラが楽しそうにしているので俺は問題ないが、クライス様は一体何時解放してもらえるのだろうか。
ユーリ隊長にクライス様に会いたいんですが、と言ってみたが、笑顔で当分無理だねと断わられてしまった。

「ルカとアンジェ、サラとジュリスが仲が良いな」

「ええ、ルカとアンジェは同じ城で生まれ育ったので兄弟みたいなものですし。サラとジュリスは同じ年で、エミリオ様の長男ギルバードとも仲が良いですよ」

エミリオ分隊長の家はオーレリー様の実家にあたるそうなので当然顔見知りだ。

「それに、ルカはアンジェ君のことが大好きで。将来結婚したいってずっと言っているんですよ」

「…………え?」

「今は微笑ましいんですけど、アンジェ君は嫌だって言っているんで、ルカは将来振られる事決定みたいでちょっと可哀想ですけどね」

「…………従兄弟で、同じ魔力で、片思い?……」

「ええ。困ってしまいますよね、ってえええ?? オ、オーレリー様大丈夫ですか!!!????」

オーレリー様が失神して意識を失っていた。何で?どうして??

「ア、アルフ様!」

俺が呼ぶまでも無くすぐにアルフ様が駆けつけるとオーレリー様を抱き上げてベッドまで運んでくれた。
俺はオロオロするばかりだった。
もう年だと言っていたから、若く見えてもどこか悪いのだろうか。でも、高位魔力保持者とその伴侶は死ぬ寸前まで若く健康なままって聞いたんだけど。

「大丈夫だ。何かショックなことがあっただけだろう。何を話していたのかい?」

アルフ様はオーレリー様の手を握って、もう片方の手で頬を撫でていた。安心させるように。

「……ええっと。ルカがアンジェ君のことが好きで将来結婚したいけど無理だろうって」

「なるほど……」

困ったようにアルフ様はため息をついた。何故それほど駄目なことだったんだろう。確かに悩みの種ではあったけど、ショックで倒れるほどの事かな?

「ルカとアンジェか……従兄弟同士で魔力も同じほど高い。私の次男でブランシュという子がいる。聞いた事はあるか?」

「なにか、その暗黒に走ったとか噂で……」

「そう……ブランシュも私の甥のジゼルという年上の従兄弟に子どもの頃から恋をしていた。それこそルカくらいの年の頃からだ。ジゼルにその気はなく、魔力も同じだから子どももできない。だから皆がブランシュを諦めさせようとした」

ルカと同じなのか。従兄弟・年上・同じ魔力・相手にその気がない。全て一緒だ。

「結局、ジゼルはブランシュを振って他の男と結婚しようとした。ブランシュはそんなジゼルの魔核を破壊して陵辱し殺した……」

「そんなっ……」

「オーレリーはルカたちに、ブランシュを重ねてしまったんだ。あまりにも状況が良く似ている」

「でもっ! ルカは良い子です! そんな酷い事をっ……あ、すいません」

彼らの息子を非難するような事を言ってしまい、口を閉ざしたが、だが言うまでもなくやったことが酷すぎる。
けれど彼は今生きているのだ。強姦殺人を犯して何故いきていれるのだろうか。死刑になるはずなのに、やはりそんな子でも子どもは可愛いのだろう。公爵家で庇ったに違いない。エイドリアン兄さんの夫アレクシア様のお父さまが、確かブランシュ様だ。そんな狂気の父親を持つアレクシア様と結婚して兄は大丈夫なのだろうか。

「良いのだ。私たちもあんな息子に育ててしまった事を何度後悔しただろうか分かりはしない。オーレリーはとても苦しんだんだ。自分の血のせいで、息子をああしてしまったのではないかとな……ルカは良い子だろう。しかし、大人になったら何をするか分からない。ブランシュもとても良い子だったよ……穏やかで誠実で優しい子だった。だが、愛がブランシュを狂気に駆り立ててしまった」

俺はお腹の中の子に所在無さ気に手を回した。変態だ、陰険だ、と思っていた公爵家の影の部分を知らされて思わず怖気が立ってしまった。
俺はこの国の一番の名家ということくらいしか知らず、何も考えないまま妊娠してしまい嫁いだ。何も覚悟が無かった。
俺の生んだ子たちに、こんな血の運命を背負わせていたなんて。

「妊娠中に悩ませてしまうような事を聞かせて申し訳なかったね……ただ、そんなに心配しないで欲しい。ブランシュのようなことはそうないだろう。あれは特殊な能力があったせいで、ああなってしまっただけで、通常はやっても監禁くらいだから安心しなさい」

「どうしてアルフ様たちはブランシュ様をお許しになったんですか? 殺人ですよ? 公爵家の人間でも許されないはずなのに」

もしルカがアンジェ君にそんなことをしてしまったら……俺は息子を許してやれるのだろうか。
クライス様やユーリ隊長に合わせる顔がないだろうし、ルカを嫌悪せずにいられる自信はない。
正当な処罰を受けさせるべきじゃないだろうかと悩むだろう。

「ジゼルにはすまないことをしたと今でも思っている……だが、ジゼルの両親とも話し合って公にすべきでもないし、干渉すべきでもないと決めたのだ。そして、可哀想な血に産んでしまった息子を許そうと、妻に懇願をした。酷いと思うだろうが、私は何があっても息子の味方だ。妻が産んでくれた息子だからね……愛しているんだ」

駄目だ……闇が深すぎて、俺みたいな下級貴族では理解できない。

「ありがとうございます……色々教えてくださって。オーレリー様がお元気になられる事を祈っています」

と言うと俺は部屋を辞した。

八つ当たりする相手は隊長しかいないじゃないか!
こんなろくでもない一族に引きずり込んで、俺が産む息子たちを同じ運命にさせて!
俺じゃあ、理解できない! 息子たちを理解してやれないじゃないか!!!

「隊長の馬鹿、アホ!!!!! どうして俺なんかと結婚したんだよ!!!! 訳分からないじゃないか!!!!」

「ど、どうしたのだ? エルウィン」

「ルカがっ! ルカが!!!………ルカが、アンジェ君にブランシュ様がしたみたいなことをしたらっ……」

執務室に突然現れた俺に若干驚いたようだが、たぶん魔法で現状をすぐに理解したのだろう。

「ルカは大丈夫だ! 私たちの子だろう? 決して非道なことはしない。私たちの子を信じてやろう」

「信じてるけど! けど、けどっ! 俺には理解できない!……今のクライス様の現状も理解できないし、やっていること無茶苦茶だ! 俺はこの子を生むことが怖い……」

俺の産む子が、クライス様やジゼルさんみたいな可哀想な人たちを作り出したら。
今までだって心配してきたけど、それは隊長みたいな子になったらであって、殺人まで平気でする子を産む心配じゃなかった。

「エルウィン……ブランシュ叔父には私は会ったことはない。ただ、約束をしよう。決してルカや産まれてくる子たちに、ブランシュ叔父上のような真似はさせたりしない。私がきちんと見て、決して人の道に外れたことはさせないから……私を信じてくれないか?」

「隊長……」

「エルウィンが決して恐れるような未来はないと約束する。私の未来視が語っているのだ……子どもたちは皆、幸せな結婚をする。誰も、ジゼルのような目に合わす子はいない」

「……」

「アンジェもユーリの子だ。ジゼルのような目に合わせないように見守ってくれるだろう。だからエルウィンが心配するような未来はない……安心しなさい」

「……はい」

普段は変態でどうしようもない人だけど、何故かこういうときだけ頼りがいがある。隊長が大丈夫というのだから、子どもたちは人の道を外れたりしない。だって隊長の子だってだけじゃなくって俺の血だって入っているんだ。少しはマトモな子に生まれるはずだろう。

「信じています……隊長。この子を安心して産ませてください」

「ああ勿論。絶対に子どもたちのことでエルウィンに不安な思いをさせたりはしない」

俺は後にジゼルさんが生きている事を知って、会ってみたいと思ったけれど、義兄アレクシア様にお願いしても無理だった。けれどエイドリアン兄さんから聞く限り、お互い支え合って幸せそうに見えたそうだ。アレクシア様のような素敵な旦那様を育てたのだから、本当はブランシュ様はとても善良な方なのだろう。
ブランシュ様はとてもジゼル様を大切になされていて、花があふれる美しいお城で今は二人きり(とたくさんの動物達)と暮しているそうだ。だからアルフ様やオーレリー様やジゼル様のご両親たちも、ブランシュ様の罪を問うのを止めて、ただ見守るだけにしたのかもしれない。

「隊長……俺、隊長は夫としてはどうかと思いますけど、子どもたちの父親としては……尊敬します」

「エ、エルウィン!!」

結婚して数年。初めて妻からの尊敬を勝ち取った隊長は……3人目の子を出産後、エッチを勝ち取ることは出来るのだろうか?
ちなみにエルウィンが期待した一般貴族の常識が遺伝したかは……誰もが言う。父親の変態の血と、母親のパイパンの血が王子たちには流れているのだろうと……将来言われることになる。



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