俺たち夫婦に信頼関係なんかない。そもそも始まりからしてユーリは俺を強姦し、妊娠させ、挙句洗脳して結婚させた。
こんな始まり方で、信頼も何もあったものじゃないだろう。
俺は夫という人間を信頼も尊敬もしていないし、ユーリだって俺という人間を信用していないだろう。何時逃げ出すかわからないから、子どもという存在で縛りつけようとする。

そこには話しあいも妥協も何も存在していなかった。

「ああっ……クライス、本当に綺麗だ。何時でも綺麗だけど、俺に抱かれている時のクライスが一番美しいよ」

ユーリはよく俺の容貌を褒めた。何時も、綺麗な俺の奥様と囁く。けれど、顔以外、ユーリにとって何が価値があるんだろうか。同年代の中では抜きん出いたはずの魔力も、ユーリにかかってしまえば格下以外の何者でもない。じゃあ、ユーリを嫌っている俺の性格が好きなのか?といえば、そんなわけはないだろう。
だからユーリにとって一番価値があるのは俺の顔で、俺の意思も何も関係なく、ただ抱ければ良いんじゃないかと、こうして俺の意思とは関係なく閉じ込められて無理強いをされると、余計に綺麗だという言葉が褒め言葉ではなく感じる。

ユーリのことは愛していなくても、子ども達のために何とか上手くやっていこうと必死だったし、愛せなくても尊敬できる夫でいてくれたら、こんなことにはならなかったかもしれない。

「どんなにお前が美しく思ってくれようが……隊長には見向きもされなかった顔だ。何か価値があるか?」

ユーリの兄の存在を口にすると、途端にその目に憎悪が映った。綺麗だといった顔とはうって変わって冷たい顔つきになる。

「兄さん、兄さん、兄さん……どうしてクライスは何時も何時も兄さんしか愛さないんだ? 兄さんはクライスを愛さないのにっ!……なのに、どんなに報われなくてもクライスは兄さんしか愛さないのか? どうして俺のことは愛してくれないんだ?」

抱き起こされて強引にユーリを跨る体勢を強制される。何度もユーリに抱かれているので花嫁の媚薬の効果はもうほとんどないが、ユーリを深くむかい入れることで、それが快感だと感じることを肉体は拒否できなかった。
ユーリに手を引かれ、深く口を犯される。

「ユーリ……何時も何時もって? 本当に今は二回目なのか?」

俺が隊長を好きになったのは一回だけだ。何故、何時も何時もと言うのか。ユーリの中では何度も体験していることなのだろうか。

「知りたい?」

「本当の事を言えとさっきから言っているだろう? 俺はお前が何を考えているか全然分からない。今が二回目だろうが一回目だろうがお前は関係ないって言うけど、俺は真実が知りたい」

一回目だったら、ユーリが俺のために魔法を使ってくれないことに失望するし、二回目だったら何故こんな現実を作っているのか原因が知りたい。

「じゃあ、俺のをその口で愛してくれるなら話すよ」

「……何なんだ、その条件は」

そんなこと、何度もしているはずだ。俺の記憶の中ではある。ただし、ユーリの制御魔法で洗脳されている時と媚薬で犯されている時の間で、素面でしたことはない。当たり前だ。やりたくない。

「俺には話したって何のメリットもないだろう? だったら何か良いことあってもいいじゃないか? クライスが何の影響下のない今、自主的にやってくれたら話すよ」

この美しい唇で俺のを可愛がってくれたら洗いざらい全部話すという、陰険な夫と言う存在に怒りが爆発した。

「お前は!……俺の気持ちなんて本当にどうでも良いんだな!」

俺が嫌がることと引き換えにするなんて。言いたくないからこんな条件を出してきたのかもしれないが、今はどう考えても夫婦の危機なのに、改善しようとするどころか悪化させようとしか思えないユーリの言動に怒りが抑えられない。

「クライスこそ不思議だね。俺に抱かれるのは平気でも、唇だけは純潔を保ちたいの? 外国では娼婦っていう体を売る商売をしている人がいるらしいけど、身体は誰に抱かれても唇は愛する人のためにとって置くんだってさ……まさかその唇兄さんに操立てでもしているつもりなのか? 正気の時は、まあ成功しているかもしれないけど、実際は何度も俺のを愛おしそうにしゃぶってくれ」

「黙れっ! 何が隊長に操だてだ! もうあんな変態愛していないって言っただろう!! 今は隊長なんてどうでも良いんだ! 問題はお前だろうユーリ!!?? お前のこの態度を問題視して嫌っているんだ! なのに、お前はこの状態を少しも改善しようとしない!!」

改善しなくたって何の問題もないのだと分かっている。ユーリにとってはだ。俺を塔に閉じ込めていたって、俺が離婚をしたいと言い出しているより悪いことは無いだろうし、この状態が続いたって構わないのだろう。俺が嫌なだけだ。
だから積極的に改善なんか考えていないし、俺が嫌おうが何しようが、こうして抱ければそれで満足なんだろう。

「お前はそれで良いんだろう!!?? 俺がどんなに苦しい思いをしようが構わないんだろう? どうせ好かれようがないから努力もしないんだろう?……でも、本当に俺の気持ちがどうでも良いんだったら……心底軽蔑するし、こんな状態が続くなら死んだほうがマシだ。俺のほうが魔力が低いからって死ねないとは思うなよ……お前には勝てなくても死ぬくらいはできる」

ハンストしても良いし、自傷をするだけですぐに治せるがユーリにとっては痛手だろう。本気で死にたいと思ったら、魔核を体内から壊してしまえば良い。魔核は外部からの衝撃には非常に強いが、逆に体内からは容易に壊すことが出来る。

俺の本気が伝わったのか、僅かに目を細めるとユーリは呟いた。

「終わったら話すよ……」

これまで動かずに俺の中にいたままだったユーリは、俺の中に精を吐き出すと俺に上着をかけて抱きしめてきた。抵抗はせずにそのままユーリの胸におさまる。やっと話す気になったのだから。

「俺は生涯に一回、時間を好きな時まで巻き戻すことが出来る……けど、何の勝算もなく巻き戻すことはできない。だから、これもまた人生で数回しかできない未来視を使って、俺とクライスの未来を見てみた」

俺はね、自信があったんだ。クライスが俺を愛してくれなかったのは順番が悪かったんだろうって。
兄さんよりも先にクライスに会っていれば、クライスは絶対に俺を愛してくれただろうって思っていた。

「……俺もそう思ったことはある。お前に先に会えていたら……愛せたかもって」

この未来視をする前に、他にも何度か未来視をしたことがあったんだ。クライスをどうやったら手に入れれるかって。どんな未来視でもクライスを俺の物にはできた。けれど心は手に入らないままだった。
だから俺はクライスに愛されるために過去に戻りたかった。だから『過去に戻って兄よりも先にクライスに会えていたら』と条件付けをして未来視をしてみたんだ。

そうしたらクライスは俺と結婚をすることに同意をしてくれた。他の未来視のように無理矢理手に入れなくても、クライスは自分の意思で俺と結婚する気になってくれたんだ。まあ、そこには他には誰も愛する人がいなくて、結婚を拒否する理由が無くて、俺の熱意に負けたというのが大きな理由だったみたいだけど、それでもクライスは俺と結婚するのを嫌がらなかった。俺の愛情を受け入れてくれた。ここまではとても大きな成果だと思ったよ。過去に戻る価値があるって。

けれど結婚式の日、クライスは初めて兄さんに会った。俺の兄だって紹介されて、クライスは俺じゃなくって兄さんに恋に落ちた。俺はすぐに分かった。結局、どんなに時を戻しても、会う順番を変えてみても、クライスが恋をするのは兄さんにだけだって。
クライスは結婚初夜、兄さんを思いながら俺に抱かれた。そして俺の妻として過ごしながら兄さんだけを思っていた。
俺の子を妊娠しても、ほのかな恋心は兄さんのもので、決して身体は俺を裏切ることはなかったけど、心は永遠に裏切ったままだった。

「最悪だろう?……一生に一度しか使えない逆行魔法を使っても、何をしてもクライスは兄さんしか愛さない。兄さんに会わせないように閉じ込めておくのも考えたけど、それじゃあ今と変わらないし、時を戻す意味が全く無い。戻したって兄さんしか愛さないんだったら、クライスだって戻す意味が無いだろう?」

俺は……どうして隊長しか愛さないんだろう。ユーリと初めて会った頃はもう隊長が好きだった。だからユーリを身代わりにしたく無くてユーリからの求愛を断わったけれど、決してユーリに悪い印象を抱かなかった。真面目で高潔な青年だと思って、愛せないのを申し訳なく思ったほどだった。ユーリを愛せたらよかった。せめて隊長よりも先に会っていたらきっと好きになれていたんだろうと何度となく思った。
だけど、何をしても俺は隊長を好きになるのだと言う。

「どうして……話してくれなかったんだ? 時を戻したって無駄なことを。二度目なんて嘘をいう意味がどこにあったんだ?」

「どうして?……言いたくなかったんだ!!!! 何をしたってクライスは兄さんを愛するなんて、言いたくなかった!!! どんなに誠意を尽くしても、愛を希っても、クライスのために何をしたって!……愛されないなんて、言葉にしたくは無かったんだ……」

「ユーリ……お前」

え? 言葉が震えている? 俺の胸に顔を埋めているユーリの顔は見えないが、胸が濡れているのを感じた。まさか泣いているのか?

「何で愛してくれないんだ? クライスが愛してくれるんだったら、時なんかいくらでも戻すのに! でも、愛してくれないから……しない」

俺の痛いほど抱きしめて、泣き顔は見せないが、間違いなく涙を流している。あの傲慢なユーリが?

「愛してくれないクライスのために、努力なんかしない。何をやっても嫌われるんだから……こうやって閉じ込めておく他ないんだ」

こんな目に会わされて泣きたいのは俺の方なのに、何でお前が泣くんだ。




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