ブランシュは婚約者を殺害した時から、友人や親戚、家族でさえ捨てて孤立していた。
親友というものなど無かったが、親しくしている人が二人だけいた。

一人はシリル。もう1つの公爵家の嫡男であり、弟と結婚している近親相姦が当たり前の家の男だった。
階級は同じ公爵家とはいえ、シリルのほうは他家とは絶対に結婚をしないので、僅かばかりの血のつながりもなく年も違う。
どちらかといえば縁があるのはシリルの弟クロードのほうだ。ブランシュとクロードは同じ年で、しかもクロードは兄から逃れるためにブランシュに求婚したほどだ。本来であればシリルはブランシュを毛嫌いするはずだが、二人の間にはある絆があった。

そう、それは『結婚する詐欺』であった。
シリルもブランシュも、相手の事をずっと愛していたが、相手のほうは結婚する気がないのにも関わらず、結婚する振りを続け、二人に期待をさせ、土壇場で無しでと翻した。

シリルはある条件の元、一時的に結婚をし、ブランシュは婚約者を殺害し、自分の物にした。
結婚状態は違えども『結婚する詐欺』の犠牲者であり、二人は仲が良かった。


「うう……クロードが、クロードが……次に子どもができたら、離婚になってしまうから。私は頑張って、なんとか妊娠させないように頑張って夜の行為を」

二人子どもができたら離婚と陛下が約束したので、シリルは次男が出来ないようにそれはそれは気をつけながらエッチをしていた。だが離婚したくないのだったらエッチしなければ良いのに、と思う男はいない。
話を聞いているブランシュとて、エッチできないのだったら生きている意味はないと思っているのだから。

「クロードは大人しくさせてくれているのか? 相当兄との結婚を拒絶していたのに……嫌がらないのか?」

妻に人形のようにされて、それはそれは寂しいエッチしかしていないブランシュから見ると、クロードが大人しくやらせているのは不思議だった。

「クロードは早く私と縁を切りたいんだ。だから次男をすぐにでも作って家を出て行こうと思っている……だから拒否してこないし、兄弟だからか、私たちはとても相性が良いんだ。クロードもベッドの中ではとても感じてくれている……なのに、出て行こうとするなんて」

ブランシュからしてみれば、離婚前提とはいえ、エッチに乗り気で感じてもくれているなんて、親友を辞めようかと思ったほどの衝撃だった。俺とジゼルだって、従兄弟だし相性がよくても良いはずなのに、と。

なのにジゼルはブランシュが抱くと苦しそうに、声を出さずにただ終わるのをジッと待っているだけだ。天井を見上げているか、枕に伏せてブランシュと顔も合わせてくれない。無理に顔を向けさすと、目を閉じて黙っているだけだ。

それだけではなく、何も話してくれない。怒っても良い、軽蔑されても良い。何かしらの意思を示してくれないと、自分が酷い事をしたのに、孤独を感じてしまい悲しくなる。そうされるのが罰だと思っていてもだ

ただ、ジゼルは絶対にブランシュと離婚できないが、シリルは国王の命令の元離婚が決まっている。

「シリル、俺はクロードとシリルがよりを戻すために何でも協力してやるから」

同じ、結婚する詐欺の被害者として、そう申し出た。

しかし、シリルと比べてブランシュの性生活が勝っているとはとても言えない。
ただ、シリルは離婚が待ち受けているので、フィフティーフィフティーくらいのお互い不憫さだと思っている。

「ブランシュ隊長? どうされたのですか? そんなに塞ぎこんで」

ブランシュと仕事以外でまともに話そうとするのはシリル以外、このロアルドしかいなかった。
ロアルドはブランシュの叔父と結婚しているので、たぶんメリアージュがブランシュのことを気にかけてやってくれ、とでも言っているのだろう。

「副隊長、君は……夜の生活は充実しているのか?」

「…………そういうことはあまりお話すべきことでは(ヽ´ω`)ですが、そう悩まれているということは、充実していないのですか?」

「ジゼルとはほとんどできていないんだ……」

「それは奥様が拒否されているからでしょうか?」

「だから、うちの妻は拒否しないんだっ……」

「それは聞いていますが、ですがお話してくれるようになったのでしょう? 笑ってくれるようにもなったと聞いていますが」

一時期口も聞いてくれないと嘆いていたブランシュに的確なアドバイスをしたのはこのロアルドだった。

「話はしてくれるが……妻はとても病弱で」

ブランシュが魔核を破壊したせいで、その弊害でとても健康だったジゼルはもういない。
魔核を破壊すると、ショック死してしまうこともある。それほど重要な身体のパーツなのだ。特に破壊される前の魔力が高いほど、破壊された後の余波は大きい。
ジゼルは今生きているのが不思議なほどなのだ。ブランシュが何時でも魔力を送って、少しでも体調を整えようとしてはいるお陰で、何とか生きているといった状態なのだ。

「調子の良いときは読書ができるほどだが、一週間のうち半分以上寝込んでいるし……抱くと、すぐ調子を崩す。俺は怖くて、ジゼルを壊して殺してしまうんじゃないかと……でも、ジゼルに触れたくてたまらないしっ」

ようは禁欲生活は耐えられないということなのだ。ブランシュはまだ若い。しかも新婚ともなれば、毎日ハッスルしまくってもおかしくないだろう。お互い軍人ならやりまくってやりまくって仕事に支障をきたすほどやりまくるものだ。
そういう夫婦を見てきているので、ブランシュは自分の余りの回数の少なさと、若い肉体を持て余して、しかしそれを妻にぶつけては死んでしまうので、ジレンマに苦しんでいるのだ。

「具体的にどれくらいの頻度なのでしょうか?」

「ジゼルが具合の良い時を見計らってなので、何ともいえないが……一週間に一度くらいで…しかも、一度抱くとグッタリするので、たった一回で打ち止めだ」

新婚で一週間に一度しかも一回はきつすぎるだろうとロアルドは思ったが、一週間に七回、しかも絞りつくすまでとどちらがマシだろうとロアルドは真剣に悩んだ。

「隊長、一回では不満なんですか?」

「……」

「不満ですよね。わかります(本当は分かっていません)……でも、奥様がいてくれるだけで幸せじゃないんですか? いなかった時もあったでしょう?」

「あったが……いれば欲が出てしまう。もっと抱きたいって……抱き潰してしまうほど、激しく抱き合いたいと思うが……そんな事をしたら本当に抱き潰して死なせてしまう……」

「そうですね。愛する人が側にいれば欲が出てきて当然です。ですが、それで奥様に負担をかけてしまっては本末転倒でしょう? 奥様は拒否をして一回なのではなくて、奥様の体調から見て、その一回で限界なのでしょう? なら、他人と比べても仕方がありませんよ。勿論、若い隊長には酷でしょうが……」

「そうだな…」

「あと、奥様が罪悪感を抱いてもいけないので、奥様の見ていないところで自慰をして解消するしかありません。あとは、その一週間に一度だけでも抱けるということに、感謝をして下さい。奥様が亡くなったら、どうしようもないんですから。ほら、隊長のお父君、アルフ様はうるう年に一回じゃありませんか。それに比べたら隊長は週に一回もできるんですよ」

ブランシュはうるう年の子である。父は4年に一回で、自分は週1できる。父の約200倍はできる計算である。(365×4年÷7日=208)
そう考えればとてもできているような気はするが……

「奥様の健康が一番ですよ。あまりがっついて、余計嫌われたくは無いでしょう? 一緒にいるだけでも、幸せなりませんか?」

幸せにはなる。ジゼルが死んでいる間の3年、、触れ合うことも出来なかったと思えば、生きて同じ部屋の中にいるだけで感謝しなくてはいけないはずだ。

「ジゼル……ただいま」

おかえりとは言ってくれないけれど、こちらに顔を向けてくれて目線でおかえりと言ってくれている様だった。
それだけでも胸が高鳴った。ジゼルが生きて、ブランシュだけのためにいてくれている。勿論監禁しているからだが、何でも良い。ジゼルがいてくれるだけで例えようもないほどに幸せを感じられた。

「今日は気分が良さそうだな……顔色が良い」

昔の健康な身体とは比べようも無いほどに弱ってしまったジゼルは、ほとんどベッドの住人だ。今日は調子が良いみたいで、本を読んでいた。ブランシュがいない間は寝ているか本を読むくらいしか時間を潰せないだろう。
家族も友人も幸せも…恋人も健康な身体も、全て奪った結果だ。それでも、何度思い返してもブランシュは全てをもっていて自分を拒絶したジゼルよりも、こうして何も出来なくなったジゼルを選ぶ。こんな体にしてしまったことを申し訳ないとは思うけれど、後悔はしていない。

「ジゼル……」

たまには話してくれるようになったが、それでもほとんどは無言だった。だから表情で何を考えているかを見るのが得意になった。
ベッドで起き上がって本を読んでいるジゼルの後ろからそっと抱きしめた。熱は無い。

「食事にするか? それともお風呂に入ろうか?」

勿論全てブランシュがする。食事は転移で取り寄せても良いし、魔法で出しても良い。すぐにできる。そして風呂はブランシュがジゼルを入れてやる。一緒に入るわけではない。勿論ブランシュとしては一緒に入りたかったが、欲求不満のブランシュではジゼルと一緒に入ったらすぐに勃起をしてしまう。こんな醜い欲望を毎回毎回ジゼルに見せ付けるわけにもいかないので、勃起しているのが一見して分かりにくい騎士服のままジゼルを風呂にいれてやるのだ。

「食べてから、風呂に」

「分かった、すぐに支度をするから」

ジゼルはこの塔の部屋から出れない。だから、ジゼルの好きなものを大陸中から瞬時に取り寄せて、何でも好きなものを食べさせる。動かないせいもあって、酷く小食になってしまったので、栄養が高いものを中心に何時も用意をしている。

そして風呂にも、王侯貴族(ブランシュは紛れも無く王侯貴族で金持ち)でさえ、簡単には手に入らないような香油や石鹸でジゼルを磨き上げる。

「ジゼルの髪は綺麗だ」

乾かせたジゼルの銀髪に近い薄い金髪を、何度も何度もくしを通した。騎士だった頃とは違い、短かった髪を長く伸ばさせている。全てのジゼルのケアが終わると、そっとベッドに降ろした。ジゼルは文句を言わずされるがままだった。

きっとこのまま押し倒しても何も言わずに身を任せてくれるだろう。嫌だとも言わない。勿論抱かれたいとも言わない。

でも、三日前にしたばかりだ。勿論ブランシュは毎日したい。24時間愛し合いたいほどだ。激情のまま激しく抱きたいけれど、死から目覚めさせたときに感情のままに抱いたら、ジゼルは翌日からずっと寝たきりになってしまった。もうそんなことはできない。
今日だって体調は良いが、抱いたらきっとあした熱がでるだろう。ブランシュがすることは全部ジゼルの負担になる。
だから、ジゼルのために、週1という一線を越えてはいけないんだ。超えたいけど、駄目だ。
ロアルドがいったじゃないか。すべては奥様のためって。
この欲望を耐えて耐えて耐え抜くことが、俺への罰だって。

そう、勃起しないようにジゼルではなく、ロアルドの顔を思い浮かべた。

勃起するな、勃起するな。したらジゼルを抱きしめられない。抱きしめて勃起したものを当ててしまったら、ジゼルに嫌われる(もう嫌われています)

そう、ロアルドは言ったじゃないか。自慰をして誤魔化せと!

「俺も、風呂に行って来る」

そう、風呂場(脱衣所)にはジゼルがさっきまではいていたパンツがあるじゃないか!
こ、これで欲望を発散して、ジゼルを抱くのはあと4日我慢しないといけない!

ジゼルのパンツを握り締めて、ジゼルを実際に抱くときはそれはもう傷つけないように、激しくするといけないから、ジゼルの中に入ってもほとんど動かず、ジゼルが慣れるまでずっと動かないようにして(そのお陰で早漏の名は免れている)慣れたら、ゆっくりゆっくり動く。しかもジゼルの体力を考えると、長くもできず、挿入が一回なら愛撫を長くしようと思っても出来ない。体位は疲れないように、正常位しかしない。できるのは一回の挿入と、あとは抱きしめてイチャイチャ(ブランシュだけ)くらいだ。
だから、パンツを持っての妄想は、実際では無くないことをたくさんしてみた。
バッくからガンガンに突いてみたり、騎乗位をしてみたり、ジゼルにお口でして貰ったり、5回くらい連続でしてみたり、はめっ放しで寝てみたり。もうやろうと思っても絶対に出来ない。
ああ、俺はどうして誕生日の初体験の時にやっておかなかったのだろうと、後悔を何度したことだろうか。あの時は、あの男のために俺をあやつろうとしたから、ジゼルはきっと俺が望めばあの晩なんでもさせてくれただろう、と。
だがブランシュは初回から盛りまくっては嫌われるかもしれないと、それなりにセーブしていたし、ブランシュ自身も初心者だったため、しごく全うなことしかできなかった。今思うともうあんなチャンスはない。

ジゼルを殺して、こんな所に閉じ込めている男が、お口で可愛がってくれる?と頼めるわけはない。

そもそもいてくれるだけで満足するべきだろう、週に一回だって抱いているのに、どこまで贅沢になるんだと毎回反省はするんだが。

「自家発電は虚しい……」

パンツよりも良いものを知っているから、自慰では満足できないのだ。ジゼルを抱きたい。抱きたい。抱きたい……

それでもジゼルを抱きしめても勃起を何とか耐えられるくらいには出して、戻った。

「ジゼル、寝ようか?」

抱きしめるとシャンプーの匂いがして、あやうく勃起しそうになるのを耐えた。

「明日は休みだから、調子が良いんだったら、ジゼルの欲しいものを何でも用意するけれど、何か欲しいものはあるか?」

何でも手に入れて見せる。ジゼルの自由以外は。

けれど、ジゼルは何が欲しいとも言わない。
ブランシュがいない時間、起きていたら退屈だろう。普通ならメイドでもいて、話し相手になるが、ブランシュは他人を一切入れていない。仕事中でもジゼルに人手が必要になったら常に見ていて、瞬時に戻って手助けをしているのでメイドなんか必要ないし、家でできる仕事は極力職場に行かずに、ここで仕事をしている。
だけどブランシュでは話し相手にはならない。一緒にいても世話をしたり抱きしめたり、撫でたりはできるが、ジゼルはブランシュといても会話を楽しむことはしてくれないし、暇つぶしの相手にもならないだろう。

「ネコとか、犬とかはどうかな? ジゼルの遊び相手になるだろう?」

ブランシュ以外の誰も入れたくないけれど、愛玩動物なら我慢できる。ジゼルの寂しさを慰めてくれるかもしれない。

「欲しい? 明日、連れてくるから」

欲しいとはいわなかったけれど、一瞬目が輝いたのが分かった。

「子どもがいたら、もっとジゼルを慰めてくれるよな。俺の子……できないかな」

魔力があるままだったら絶対にできなかった、ブランシュとジゼルの子ども。生まれたらきっとジゼルもこの頑なな態度を解してくれるかもしれない。
そうしたら、家族の一員にしてブランシュを夫として認めてくれるかもしれない。
ジゼルの体力で妊娠させても良いか悩むところだが、ずっとブランシュが付きっ切りなら大丈夫だろう。

「俺の子……産みたくないか? やっぱり……」

ブランシュはジゼルに自分の子を産んでほしいが、ジゼルはきっと産みたいなんで思わないだろう。でも優しいジゼルだから、産んだらきっと可愛いと思ってくれるはずだ。

「………世話できるのか? お前が」

「できる! 何でもやってみせるから! 授乳だってオムツ換えだってするし、えっと、あと何をやれば良いんだっけ? とくかく何でもするから! ジゼルはただ……産んでくれれば良い」

そう言うと、できるはずないだろう。家事一つ魔法で済ませるくせに。というよな表情をしていた。

「する……何でもするから。俺はジゼルのためだったら」

仕事なんかもうしなくて良い。隊長になるのだけが目標だったから。もう隊長職なんていらない。ジゼルとの時間の邪魔になるだけだ。ロアルドにやってしまおう。

「愛している、愛しているんだ。ジゼル……殺してしまうほどに。でももうしないから……俺の子を生んで……夫としてじゃなくても良い。家族の一員として、愛して欲しい」

ジゼルは産むとも、何も言ってくれない。

けれど、良いんだ。当然だと分かっている。

俺のこれからの人生は皆ジゼルに捧げる物で、死ぬ瞬間まで全部ジゼルの物だ。
許しを請うけれど、許されなくても良い。ジゼルのために生きて、ジゼルが死んだら俺も死ぬ。
ジゼルのためだけに生きていく。

だからそのために、この股間の欲望を抑えていかなければいけない。開放したらジゼルは耐え切れないだろうし、余計嫌いになるだろうし、ジゼルの負担になるだけだ。

ジゼル、なるべく勃起しないようにするから……これが俺の罰だから(そうじゃないだろうという母オーレリーの声が聞こえそう)
ジゼルを俺ができるだけの範囲で、幸せにしようと頑張るから。

だから、死ぬまでに一度で良いから。俺と結婚してよかったと、一度で良いから笑って欲しい。




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