暗黒のブランシュ。それは一族がブランシュに名づけたあだ名である。

一般的にはダークサイドに落ちた狂人とか色々呼ばれているブランシュだ。

何故これほどブランシュが暗黒と言われるのか。妻を手に入れるためにライバルを暗殺するくらいなら誰も暗黒のとは呼ばない。
これまで愛する人を強姦することはあっても、殺す事をした夫はいない。監禁しようが無理強いしようが、愛する人を殺すことだけはしない。これは常識だ。

しかしブランシュは誰もその罪を追求はしないが、婚約者で愛しい人だったジゼルを暴行した挙句殺害した容疑がかかっているのだ。ジゼルの魔力から限りなく容疑者は少なく、状況から見てもブランシュが犯人以外の何者でもない。

婚約者を殺すなんて……しかも身代わりのジゼルと言う男とすぐに結婚しただけでも、頭がおかしいというほかは無く、結婚したのに、妻は放置して自分は婚約者の墓に固執しているのだから、頭がおかしいと思われても仕方がないだろう。


「あの子……もうどうしようもないよな」

ブランシュの母オーレリーは、婚約者ジゼルが死んだ後からの息子の奇行に頭を悩ませていた。

花嫁の塔に誘拐してきた花嫁がいるはずなのに、ジゼルの墓に日参をし、雨の日だろうが雪の日だろうが嵐でもどんなに暑い日でも、墓の前で過ごしている。
朝出勤する前に行き、仕事が終わるとやはり墓の前で過ごす。仕事以外の時間は全て墓前にいるのでは?と疑いたくなる占有率だった。
墓といっても公爵家の墓だ。公爵家の一族の墓ばかりで、他家の人間はいないので誰もみていないと言えば見ていないが、墓の前でジゼル愛しているとブツブツ呟いているブランシュは明らかに異様なのだ。しかも弁当まで持ち込んで墓の前から動かない。

ブランシュはジゼルの墓前に誰かが来るのを酷く嫌い、自分以外が入れないように厳重な結界までひいているので、遠目で息子の奇行を憂えるしかない母なのであった。

「オーレリー、ブランシュのことはもう諦めようと言っただろう? あの子の好きなようにさせてやるしかない」

息子の奇行に心の悩ませる妻に、夫はそう宥めていたが。

「はあああ? 隊長に早く出世をしたいから、裏操作してくれって?」

ブランシュのことはもうあきらめよう諦めようと思っていた母の逆鱗に触れた。

「ふざけるな!!!! ジゼルの葬式以来、一年ぶりに顔を見せたと思ったら、地位のおねだりか!!!??? ジゼルのことを謝罪もせず、のうのうと生きているその厚顔無恥ぶりは何なんだ!!??」

そう母親に罵られてもブランシュは我関せずで、父親に地位を上げて欲しいと交渉していた。

「ブランシュ、まだお前は若い。いくら我が家の人間とはいえ、特別扱いは出来ぬ。ただでさえ、公爵家の人間と言う事で出世は早いほうなのだ。なぜそう急ぐんだ? 真面目に仕事はしているようだが……」

仕事だけは真面目にしているが、それ以外の奇行が目立ちすぎる。
友人たちとも縁を切って、ただひたすらジゼルの墓だけにいる。どう考えても出世に興味があるようには見えないのに、何故か隊長職には固執していた。
両親たちは蘇生魔法には制限があって、生前約束していた事を守らなければ蘇生条件を満たさないなどと知る由もないし、知ったら邪魔するかもしれないと思ってブランシュは沈黙するのみ。
両親たちは何時ブランシュがジゼルを蘇生させるつもりなのだろうと見守っているだけで邪魔をするつもりはなかったが、そこは意思の疎通が取れていないというか、ブランシュが何も話さないだけなのだが。

その二年後、念願の隊長の辞令が来たとき、ブランシュはジゼルの墓石にキスをしてもうすぐだよ、もうすぐだよ、と言っていたのを、誰も見ていなかったが救いだろう。見られていたら暗黒のブランシュに付け加えて墓マニアと呼ばれるようになっていたかもしれない。

そして父親がオネダリに負けず、自分の力でブランシュは隊長になると、元々見せなかった顔をますます見せなくなり、子どもが生まれても連絡もせず、一族の集まりに来いと言っても来ず、孫を寄こして、代理にさせる始末。

「はじめまして、おばあ様。おじい様。ぼく、ジゼリアです。弟はアレクシアです。おとう様が、呼び出しウザイから僕たちに言って来いと言われました」

「そ、そうか。あえて嬉しいよ……ジゼリア、アレクシア……」

孫が生まれていたのも知らなかったのに、二人の孫(しかも一人はどう見ても乳飲み子)を寄こすなんて。孫に責任はないので怒れないが、あのクソ息子!!!!と怒り心頭のオーレリーであった。

しかもジゼリアって名前。普通は長男がアから始まるのに、無視しまくりの名前だし。ジゼルの息子です、というのを強調したくて長男につけたと丸分かりだ。次男に、そういえばアをつけようとアレクシアにつけた感じバリバリだし。

「おとう様が忙しかったのかな? おばあ様、おとう様を随分見ていないから心配なんだけど」

「おかあ様がびょうきなんです。おねつがでていて……おとう様はそいねにいそがしいので、ぼくたちがパーティーに出てめんどうをみてもらえっていわれました」

そうか、添い寝に忙しいのか、ともう息子のことは諦めたはずなのに、どうしてあんな息子に育ってしまったのだろうか。
と諦めモードになろうと思ってもできないオーレリーであった。






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