「心配し過ぎだよ。ブランシュ様みたいに真面目で穏やかな方が、いくら恋敵だからって殺すはず無いよ。それは、よくは思われないだろうけど……」

殺人は死刑と法律に定められているが、愛する人をめぐっての決闘での殺害は処罰されることは無い。
秘密裏にライバルを暗殺ということも噂では聞いたことはある。

ただ、今回のように愛する人の恋人がフリッツのような明らかな魔力の弱い弱者に関しては、適応はされない。
同じ夫になる立場での決闘は正義だが、フリッツは妻になるべき立場で強者が無理矢理奪い取ろうとすれば弱い物いじめでしかない。従ってブランシュとフリッツでは決闘も行われない。許可をされないからだ。

では、暗殺はと言うと、これに関しては俺がブランシュからフリッツを守るほかは無い。

「……フリッツは俺たち一族を甘く見すぎている……ブランシュは、簡単に俺を諦めてはくれないと思う」

どれほどうちの一族が非道の限りを尽くしてきたか、フリッツだって知らないわけはない。そう言い聞かせた。欲しい者のためなら一国でさえ平気で滅ぼすのだと。ならフリッツくらい簡単に壊せてしまう。

「なら! 僕たちは何時になったら結婚できるの? 時間稼ぎしてばかりしてどうなるの? 結局ジゼルは僕を捨ててブランシュ様と結婚するしか無くなるっ!」

それに関しては何時も反論のしようがなかった。俺はどうしたらブランシュと円満に破談できてフリッツと結婚できるのか、方法を考えられずにいた。

「そんなにたくさん予知できないのは聞いてるけど……上手く結婚できる方法を予知できないの?」

回数制限のある、予知ができる。人によって決まっている。俺ができる予知は二回までと分かっている。
その二回を使ってフリッツと結婚できる術を探ったこともあった。

「……やってみたこともあった。けど……同じ一族に使うには制限がありすぎるんだ。特にブランシュくらい濃い血族で魔力も高いと予知が妨害される。結局、分かった事は何もなかった」

これが格下の一族だったらそれなりに未来が予知できたかもしれない。だが相手はブランシュだった。同じくらい高い魔力を持つブランシュ相手では、何も見えなかったのだ。

ならと思い、フリッツに関して予知をしてみたが……これもブランシュが関与しているせいか、見えることはほとんどなかった。

「なら、ちゃんと話し合うことはできないのか? 今まで他に結婚したい人がいるってはっきり断った事なかったんだろ? だから、ちゃんと断われないままになったんでしょう? ブランシュ様に真実を打ち明けて欲しい」

「だから、そうしたらフリッツの命が」

「試してみてもいないのに、決め付けるなよ! 話してみればどうなるか分かるじゃないか! 少なくても僕はこのまま進展がないまま、ブランシュ様とのラブシーンを見せ付けられるよりはずっと良い!」

「フリッツ!」

「それとも、ジゼルは僕を守る自信もないのか? ブランシュ様と同じくらい強いはずなのに?」

ブランシュと俺のどちらかが強いか? と聞かれれば、分からないと答えるしかない。魔力量は同じほどだ。ただ、それぞれ生まれ持った独自魔法は違う。だいたいどんな魔法を持っているかは想像はつくが申告しあったわけではないし、絶対的に有利な独自魔法を持っていられたら勝てないだろう。
ただし、俺にはブランシュよりも8年の積み重ねた月日がある。ブランシュより魔法の使い方は優れているだろう。負けることは無いと思う。

「……同じほどの魔力があっても守りきれるとは限らない。特に、ブランシュがフリッツを殺すことだけに全魔力を集中されたら……俺でも対抗しきれるかは……」

「ぐちぐち考えてばっかり無いで実行してよ! 僕、ジゼルがこの硬直状態をどうにかしてくれないなら、別れるしかないと思っている。結婚できないまま時間が過ぎていくなんて耐えられないよ。いい加減、どうにかして」

俺は優柔不断にしかフリッツには見えないんだろう。
フリッツという将来を誓い合った恋人がいながら、ブランシュという婚約者がいる。しかも、この硬直状態を積極的に解消しようともしていない。

もう何年も待たせてしまっている。別れたいと言われても仕方がない。
ブランシュと婚約する前に勇気を出してフリッツがいると言い出せばよかったが、何をされるか分からないという不安があり、ブランシュと婚約を受け入れてしまった。

「……分かった。ブランシュに言うよ」

「何時? 何時言うか約束して」

「……ブランシュの誕生日までに。一週間後、ブランシュの誕生日パーティーがあるんだ。その時に言う」

仕事の合間ではなく、パーティーの後おそらく二人きりになる時間がある。その時に言おうと思って、そう口にしたが、誕生日の日に婚約破棄を言い出すのは可哀想だと思いなおしたが、フリッツがあと一週間だねと念を押されると、やはり別の日にとは言い出せなかった。

ブランシュの誕生日に婚約破棄をする。俺は酷い人間だろう。ブランシュは強引に婚約を推し進めたが、決して悪い人間じゃないし、俺も嫌いではなかった。従兄弟で年の離れたブランシュを可愛がっていた。ブランシュの悲しむ顔を見るのは辛い。

「ジゼル。婚約者のパーティーでそんな暗い顔はよせ」

「メリアージュ……仕方がないだろう。俺は最低の人間なんだから」

メリアージュは叔父だが年下のため敬称をつけない。メリアージュも年下だが俺が甥に当たるので呼び捨てにしている。
メリアージュは直系のわりには魔力は少ないほうなので、アンリの婚約者となっている。が本人たちには全くその気はない。俺としてはメリアージュはブランシュと結婚をしてくれれば良かったと思っていたが、ブランシュ本人がずっと俺の事を好きだと言い続けているのでそんな話も出なかった。

「お前達のことがどうなるか心配だが、俺はもう公爵家を出るから、お前の相談にものってやれなくなる。だから、ブランシュとのことをどうするか決めておいてくれ」

「え? もう出るのか?」

「ああ、今夜が初夜だ。アイツに婚姻届にもサインさせた」

俺とフリッツのことは誰にも言っていないことになっているが、メリアージュだけには相談をしていた。自分だけで溜め込むことができなかったからだ。メリアージュは口が堅いし、客観的に物事を言ってくれる。
そんなメリアージュも愛する人が出来、無理矢理結婚まで持ち込み、今日一族を無断で出て行くことになったようだ。

「凄い行動力だな……お前が羨ましいよ」

「俺たちの性だがな」

支配欲が激しい血はメリアージュにも受け継がれている。実際にメリアージュも悩んでいた。愛している彼が欲しくて、縛り付けたくて仕方がなくて、手に入れてはいけないのではないかと、ずっと躊躇をしていたのを知っている。

「だが、俺はもう決めたんだ。アイツを俺のものにすると。お前はどうする?」

「俺も……今夜ブランシュにちゃんと真実を告げると決めてきた」

そう言うとメリアージュは微かに顔を強張らせた。

「反対なのか?」

「俺はお前達みたいに予知をできないから、何も未来は見えないが……その選択は間違っている予感がする。お前のためにならない、気がするんだ」

「……だろうな。俺もそう思う」

俺の中の全てが、そう予告をしているようだった。あえて魔法を使わなくても俺のこの選択は、やってはいけないことだと示唆しているのを全身で感じ取っていた。

「俺は、可哀想だがお前はフリッツと別れてブランシュと結婚すべきだと思う。お前と別れればブランシュは正気を保てないだろうし、何をするか分からん……狂った一族の男は抑制が効かない。お前もフリッツも滅茶苦茶にするぞ? このままブランシュに真実を知らせなければ、お前は愛する人とは結婚できないが、穏やかな幸福を手に出来るはずだ。ブランシュは良い夫になる」

「分かっている……」

「お前を愛している」

「知ってる……」

でも何度も考えて別れを告げることを選んだんだ。

「ごめん。俺の事を思って言ってくれているのに……俺は結局メリアージュの心配の種のまま、ここを去らせてしまうな。でも俺はお前の事を心配していないよ。お前はきっと上手くやれる……公爵家の血を強いていても、この支配欲で相手を壊したりしない。だから安心して嫁に行け。俺とブランシュのことは心配するな」


メリアージュは最後まで俺とブランシュのことを心配して、ここを去って行った。彼が幸せになったことは間違いないだろう。
俺はブランシュもフリッツも不幸にしてしまったが、メリアージュの幸せを見届けれたことだけは感謝していた。


実際に見たわけではなかったが、メリアージュが幸せになれないわけはない。
彼と俺と、未来をわけたのは何だったんだろうか。
今も分からない。お互いに愛を求めただけなのに。

「ジゼル、メリアージュと仲良くしてないで俺にも構ってくれ」

「ブランシュ」

抱きしめられた腕は決して嫌いじゃなかったんだ。別の意味でお前を愛していたんだ。
ただ愛の方向が違っただけだった。




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