「ジゼルっ……愛している」

「んっ…」

王城の一角にある恋人達の憩いのスポットで、長身で誰もが認めるようなハンサムな若い男性が、美しい青年を抱きしめ口付けを繰り返していた。美しい青年を大木に押さえつけるように抱きしめながら、飽きることがないかのように何度も情熱的にキスを捧げていた。

「愛してる、愛してる……ジゼル」

「ブランシュっ! そこまでだ」

ブランシュと呼ばれた青年がジゼルの上着から胸に手を入れようとしたのを、口で制した。ブランシュは名残惜しそうな顔をしながら、ジゼルの言うとおりに大人しく従った。

「ジゼル……早く結婚をしたい」

「まだ、時じゃない。分かっているはずだろう?」

「分からない……」

「ブランシュ、お前は分からないんじゃなくて分かりたくないだけだろう? ちゃんと将来のことは話し合ったよな?」

「でも……早く一緒になりたいんだ。俺の気持ちを分かっているだろ?」

「……分かっているよ。だけど、ちゃんと形式を踏みたいんだ。ブランシュは良い子だろう? 先祖みたいに俺の気持ちを考えないで、一方的な思いを押し付けてこないって約束したよな? お前がちゃんとした大人になるまで待つんだ」

親を交えて約束したことだった。
ジゼルに嫌われたくないブランシュはその約束を辛抱強く守っていた。

「分かった……」

捨てられた子犬のような表情でブランシュはジゼルにそう答えた。そんなブランシュにジゼルは頬にキスをすると、仕事だからと去って行った。

ブランシュも仕事があるため、宿舎に戻った。


「ジゼル隊長と良い雰囲気だったんじゃない? ブランシュ」

「イブ……覗き見とは趣味が悪いな」

「だって分隊長、あの広場を独り占めしていましたよね? 私たちだって使いたかったのに、ジゼル隊長との逢引だと結界張りまくって入れないようにするし。ルール違反ですよ」

部下や同じ分隊長をしているイブがからかう様にブランシュに声をかけていく。
特にイブは年上で、兄弟のように育った伯父のメリアージュの親友なので、ブランシュとも幼い頃から良く見知った間柄だ。

「さっさと結婚して欲しいですよ」

「何で結婚しないの? 何の問題もないだろう? 君たち従兄弟同士だし、両思いなんだし、すぐにでも結婚して良いはずなのに、もう何年も婚約者のままなんだろう?」

ブランシュだってとっくの昔に結婚をしたかった。
幼い頃から恋焦がれてきた年上の従兄弟ジゼル。
父の弟の次男だが、叔父の結婚が早かったのと、ブランシュは両親が結婚してから10年近くたって生まれたせいもあってジゼルとは8歳も違う従兄弟だった。
初めてブランシュがジゼルにプロポーズしたのは5歳の時。ジゼルは13歳で笑ってなかったことにされた。8歳も歳が違うと、子どものように接してきた。それは今も変わらない。
20歳になったばかりのブランシュと28歳のジゼルでは社会的な地位も違うし、もう大人になったのに5歳の子どものように今も扱われる。

「ジゼルがせめて自分と同じ隊長にまで俺がならないと、結婚できないって言うんだ。両親も伯父上たちも夫が格下の階級ではジゼルも夫と見れないだろうしって言うし」

元々、ジゼルからは年下すぎて恋愛対象じゃないし、弟のようにしか見えないからと何度も断わられた。貴族階級でブランシュたちのように上位魔力保持者なら8歳くらい年齢さなどそれほど珍しくないのにだ。
他の男にも目を向けてみなさいと、やんわりと諭されもした。だがブランシュにとってジゼル以上に愛せる存在なんか絶対にいなかったし、運命の恋人はジゼルだと幼い頃から確信していた。
ブランシュの熱心な求婚に両親と叔父夫婦とジゼルとで話し合った結果、ブランシュが同じ隊長にまで出世したら結婚をする、ということに決まったのだ。

「まあ分からなくもないね。ジゼル隊長もプライドがあるだろうし、年下の従兄弟と結婚するんだったら、せめて同じ階級くらいになってもらわないと、っていう気持ちも分かるし。でも、あと何年かかるのかな? 20歳で分隊長っていうのも早い出世だしね」

ブランシュは公爵家直系の次男だ。魔力も高く、家柄も申し分は無い。出世も誰よりも早いだろう。贔屓ではなくそれだけの実力があったし、この国の最終兵器とも言われる魔力の家系だ。公爵家の人間と言うだけで、他の貴族よりも早く上にいける。
だが20歳で隊長は流石にありえない。頑張ってもあと3〜4年は無理だろう。

「あと何年も待たないといけないなんて……我慢できるんだろうか」

「我慢するしかないでしょ? だってジゼル隊長、たぶんブランシュのことを好きじゃないでしょ?」

「……ブランシュは俺のことをちゃんと好きでいてくれている!!」

「うん、分かっているよ。弟に対する好意ってやつだろうけど。だから両思いなんだろうけど、ベクトルが違うんでしょ? ブランシュは肉欲があって、ジゼル隊長は好意だもんね。たぶん、ブランシュの熱意に負けただけだろうけど、でも結婚してくれるって言うんだから、ちゃんと約束を守らないとね」

分かったような口のきき方をするイブを殺したい衝動に駆られた。言われるまでも無く、ジゼルがブランシュを愛していないことくらい分かっていた。
18歳の時に婚約をしてくれたのも、ブランシュの絶対に諦めない不屈の愛情に根負けしただけだということも分かっている。
だけど、ジゼルは他に好きな人間もいないし、ブランシュのことを可愛がってくれていた。夫にしても良いくらいには好かれているはずだし、事実そう約束をしてくれた。
勿論ブランシュはジゼルに愛して欲しかった。同じくらいまでと贅沢は言わない。ブランシュの愛の1%ほどでも愛してくれたらと願う。だけど、それが無理でもあと数年後にはジゼルは妻になってくれるのだ。
ブランシュを受け入れて、子どもも産んでくれるはず。それだけで充分だと思っていた。

ちゃんと受け入れてくれている。ジゼルと温かい家庭を築けるはづだ。

そうでないから、抱きしめさせてくれないはずだし、キスだって嫌がるはずだ。ジゼルは嫌がっていない。

早く、早く、ジゼルを自分だけの物にしたい。何度も愛して、早く自分の妻だと言いたかった。

その日は少し先だが、だが確実に訪れる未来のはずだった。

少なくても、そうブランシュは信じていた。ずっと……




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