さて、別にラルフは一族の妻として伯爵夫人として一族を纏めるという意味で、ローワンの口ぞえをする気になったというわけではない。ただ、なんとなく、できれば好きな人と結婚してくれれば良いのに、くらい思っただけである。
某王妃を見習って、余計なおせっかいをしようとしたわけではない。
「あなた……」
「どうしたんだ?」
「あの……ローワンさんにお昼、お会いしたんです」
「ローワンと?」
「あの、ローワンさんを好きに結婚させてあげて欲しいんです。ローワンさんにも好きな人と結婚する権利ありますよね?」
「私も、好きな相手がいるのなら連れて来いと言ってある。現時点でローワンには心に決めた相手はいない。何時までもローワンのような逸材を自由にさせておくほど、我が一族は相手に恵まれているわけではない。ワーロンもこの辺境伯家に生まれたのだから、役に立ってもらわなければいけない」
「でもっ」
「何も好きな男と引き離すわけではないんだ。本人がどうしてもという男がいるなら考えてやるがそうではない。ラルフ、私は何でもラルフの言う事を聞いてやりたいが、一族のことは別だ。私は辺境伯家の当主としてやらなければいけないことがある。放っておいたら、辺境伯家は簡単に滅亡してしまう」
少し大げさだが、可愛い顔だけではなく、その股間の大きさ毛深さだけで異端の一族である。それに加えて、公爵家のように相手に嫌われてもグイグイいけるだけの男気?があれば良いだろうが、揃いも揃って内気で、モジモジ君なのである。相手から有りえるわけないアプローチを期待して待っている乙女君たちばかりなので、リオンがどうにか嫁を見つけてやらないと、確かに滅亡しかねない観はある。
しかしラルフは一応一族の末端だったが、それほど付き合いもなく、次期当主の花嫁に望まれたのにも関わらず断った。そして今も大して一族と付き合いはない。だからこれほど先細りしやすい(けど、遺伝しやすい)一族だという認識が薄い。
「リオンは自分だけ好きに結婚をしているのに、ローワンさんの人権は認めないんですね……」
だから、リオンがローワンの結婚を無理強いするように見えて冷たい当主なんだと思ってしまうのだ。
「ラルフ、何でも君の自由にして良い。だが一族のことに関しては余り口出しをしないでくれ。私はラルフの願いなら何でもかなえてやりたくて、そのせいで自分を見失っては当主として失格になってしまう」
「でも、俺が妻なら……妻のささやかな願いくらいかなえてくれても良いんじゃないんですか?」
そう、リオンだってなんだってかなえてやりたい気持ちはある。だが前回ラルフの願いをかなえる約束をし、年に二回にされてしまったせいで、たやすくラルフの願いをかなえてやるわけにはいかなくなってしまったのだ。
「ラルフが私の願いをかなえてくれるなら、考えないでもない」
「……リオンの願い? 何です?」
「そう……年に二回を、せめて月に二回にっ!」
「嫌です」
まったく躊躇も考慮もせず、ラルフは言い切った。
「か、考えることすら無しなのか?」
「考えても良いですが、余計軽蔑させるだけですよ」
「ローワンのことは?」
「自分を切り売りしてまで、ローワンさんを助けようとは思いません」
ラルフは本当に性欲がない。夫の性欲の強さが理解できないのだ。
だが自分を切り売りしたくはないが、ローワンのことを助けてあげたいと余計思った。
何故なら、こんな性欲の強い一族に嫁に残すのが可哀想になってきたからだ。
「それにリオンは嘘つきです」
「なっ! 私は嘘などっ!」
「ご兄弟三人で、股間の大きさを隠し通そうとしていましたよね? 本当は絶対にノミネートされるほどだと思うのに、目立たないようにやり過ごそうとするなんて、卑怯です」
「ひ、卑怯だなどとっ! そもそも、こんなものは見せびらかす物ではないし、比較するべきものではないのだ!( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)」
「そうかもしれませんが、俺に『対した物でもないし、陛下に勝てるはずがない』などと言っておきながら、兄弟達に口止めをしていますよね。実は一位になるかもしれないと危惧している証拠です!」
「だとしても、比べようがないのだから我が一族は過大評価されていると主張するっ!( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)濡れ衣だっ! もう、股間の大きさのことなど考えてはいけないっ!」
「濡れ衣だと主張するんだったら………王妃様が、温泉に招待してくれました。前回のお詫びも兼ねて、ぜひ一緒にどうかと………辺境伯家と一族と公爵家と王家の方々が勢ぞろいする滅多にない機会だそうです。これを機会に、誰がナンバーワンか決着をつけましょう」
「け、決着などつけたくないんだが( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)」←ナンバーワンになるのを恐れている。
「恐れ多くも、王妃様のご招待を断わるんですか?」
「し、しかしっ! ラルフに、私以外の裸を見せるわけにはかないっ! だから、結局決着などつけようがっ」
温泉などの公共施設は、一般用に未婚者+既婚者(夫)は一緒に入ることが出来る。だが、既婚者(妻)は一般用に入ることは出来ない。一般市民なら妻専用風呂だし、貴族なら妻用専用風呂か、家族風呂(夫とイチャイチャする)に入る。
だからラルフはどうやっても夫たちの裸を見比べることはできない。
「そうですね……俺も見たくはありませんし、ローワンさんに判定をしてもらおうと思います」
ここにいないローワンは勝手に判定者にされてしまったことに……( ;∀;)リオンではないが涙目だった。
「ローワンは一応嫁入り前でっ…」
「嫁入り前と言っても、未婚者なので皆さんと一緒に温泉にはいる分には問題はありません」
ローワンは勝手に嫁入り前の身体にされているが、辺境伯家から見たらローワンは嫁しか考えられないだけであって、別に夫になっても良い。だがローワンも、子どもの頃からお嫁さんになるんだと言い聞かされ、また過去自分のように可愛い顔で生まれなかったハンサム系の辺境伯家の子どもは必ず嫁になっているので、もう諦めて嫁になる気ではいた。だが、その嫁入り先が実家なのが嫌なだけだ。
「それで、もしリオンが一番だったら……ローワンさんを好きに結婚させてあげてください」
「そ、それくらいだったらっ」
「それで、俺に嘘をついたことにもなるので年に二回を、4年に一回にしてください」
「いやだっっ!!!!!!( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)」
そう、この展開こそ、最もリオンが恐れていた事だった。自分のでかさのせいで余計嫌われて、回数を減らされる事をこの世で一番恐れていたというのに……( ;∀;)( ;∀;)( ;∀;)
最早、リオンは自分よりも隊長が大きな事を祈るしかなかった。
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