「痛いっ」

ひ〜んと泣く少年を見て、生徒たちと教師陣は余りの事に驚愕して固まってしまった。

「おい……まだ授業も始まっていないのに、転んで泣くなんてどこの子どもなんだ」

士官学校ではないが、貴族の師弟ばかり集まるこの学校では将来それぞれ持っている領地を治めたり、国の中枢で活躍する人材の卵たちばかりだ。
間違っても、魔術戦闘の授業で訓練が始まる前に転んでピーピー泣いている子どもがくる学校ではない。

自分で治せないのか?
確かに……どうみても魔力が低い。簡単な治癒魔法ですら使えないのだろう。

「先生……ごめんなさいっ。僕、僕……ドジでよく転ぶんだ」

「今、治してやる」

私は戦闘が得意分野で治癒魔法は簡単なものしかしないが、この学校に入れる生徒なら、簡単な治癒魔法くらい出来て当然なのに。

「ほら、泣くな。もう15歳だろう?」

「はい……せんせー」

涙をぬぐってやると、可愛らしい顔が現れた。稀に見る美形だ。だが、貴族ならこれくらいの美貌は珍しくない。私も見慣れているはずだったのに、その顔に見惚れてしまった。

その日の授業は、魔法戦闘どころではなかった。ハンフリーにばかり目が行ってしまい、ろくな授業もできなかった。ただ、それに関しては何もおかしいとは思われなかった。何故なら、それは私だけではなく、クラス中が同じ気持ちだったからだ。

なんて、できない子なんだろうと。

普通なら、それた攻撃魔法をよけることは、見学中なら容易い。
だが魔法の発動すらろくにできず、見ているだけなのによけることもできず、演習をしている生徒も当てたらいけないと集中できず、何故か立っているだけなのに転ぶハンフリーをハラハラした視線で見ており、誰もが集中できずに授業を終えてしまったのだ。

私がハンフリーを心配してみていたとしても、誰もなんとも思っていなかった。それほどハンフリーはできない子で、ポンコツだったのだ。

「はあ……」

「エクトル先生、ため息なんかついてどうなさったんですか?」

「ええ……あり得ない位できない子がいて、どうやってこの学校に入ることが出来たのか不思議なほどで。そのせいで授業は進まないし、他の生徒達も集中できないんですよ」

「それってハンフリーでしょう? 私の経済の授業でも、可哀想なくらい出来なくて……最近ではもう当てないようにしているんです。座学ではそれで良いでしょうが、実技だとそうはいかないので大変でしょうね」

最近では立たせておくと転ぶので、座らせて見学させているんだが、あんな出来ない子でも自分だけ見学なのに納得いかないようで、僕にもやらせてくださいと主張してくるのだ。やらせてみれば、なにもできず、コテンパンにするのも相手が戸惑って、結局授業は進まない。ハンフリーは泣いているだけだ。

「どうやって入学できたのか不思議でなりませんよ。裏口入学ですか?」

「ああ、エクトル先生は臨時職員なのでご存知ないんでしょうけど、ここは試験はないんです。貴族なら希望者には誰にでも門が開かれます」

私は普段軍に所属している。彼のような経済や語学といった魔力に関係ない教師は公務員試験で入っており、貴族や平民など身分には関係ないが、魔法戦闘のような実技になるとまた話は変わってくる。
仮にも貴族の師弟を教えるのだ。彼らよりも魔力に劣ってはいけないし、戦闘のプロでないといけない。ついでにいうと、貴族に教えるということもあり、ある程度の門閥の出でないと、生徒に大きな顔をさせる危険もある。
ということで、こういった魔法関係を教える職員は軍からエリートが派遣されてくるのだ。私も3年間という縛りでこの学校に出向しているわけだが。

「でも、普通はあんな出来ない子だと、入学させないはずなんですけどね……家の恥になりますから」

「私のクラスだけではなく、他のクラスでも支障が出ているようなんですよ。とても進級させられないと思いますが」

私がいくらハンフリーを可愛いと思っていても、他の生徒の勉強の邪魔になっていることは事実だ。今はまだ授業が始まったばかりでそれほど邪険にはされていないが、こんな状況が続けば間違いなくハンフリーじは排除の対象となるだろう。

「校長先生がハンフリーの父を呼んでこれからの対応について協議をするそうですよ」

まあ、退学だろうなとは思った。ハンフリーのレベルに合わせた学校に入りなおしたほうが本人のためではあるだろう。となると、貴族が通うような上流学校は無理だろう。貴族階級にハンフリーのように魔力の低い子がいないわけではないが、普通は家から出さず自宅学習をさせる。
学校に通うなら、魔力のない平民たちが通う学校に……とは思ったが、平民は魔力がないだけで馬鹿なわけではないので、ハンフリーの学力でついていけるのだろうか。

校長から同席して欲しいと頼まれ、校長室に向う途中でハンフリーが近寄ってきた。

「先生……僕、退学になるの?」

「ハンフリー、誰もそんなこと言ってないだろう?」

「だってだって、お父さまが呼ばれたって! ハンスは僕が馬鹿だから、家に閉じこもって恥を曝すなって言うし! お前なんかもう退学だってっ」

ハンスと言うのはハンフリーの出来のよい弟だ。調べた結果そうとう性格の悪い弟だが、成績も魔力もそれなりに高い。ハンフリーは弟に馬鹿にされて育ったのだろう。だから自信のなさそうな顔を何時もしている。

「ハンフリー、弟のいうことなんか聞かなくて良い。だがな、先生は思うんだ。ハンフリーにあった学校は他にもあるかもしれないって」

「ここじゃなきゃ嫌なんだ! だってお父さまが卒業した学校だもん!……僕は馬鹿だけどっ、お父さまの跡を継げないけど、せめて同じ学校を卒業したいっ!」

馬鹿なりに自分の立場は分かっているのだろう。相応しくないと分かっていても、最低限のプライドはある。

「分かった、先生に任せておけ。お前を卒業させてやる」

「本当!? 先生、大好きっ!」

そういって無邪気にハンフリーは抱きついてくる。

ハンフリーは15歳だ。まだ手は出せない。私の股間よ、大人しくしていてくれと、今までにない忍耐力を試させられた。



「エクトル先生、遅かったですね。今、子爵とお話をしてハンフリー君は退学ということに」

ハンフリーの父は子爵で、私の実家は伯爵家だ。校長は子爵に退学して欲しいと頼むために、この学校で一番爵位の高い家の出である私に同席をして欲しかったのだろう。

「待ってください。ハンフリーは卒業したがっています」

「先生、私もそれは分かっています。いくらお前には無理だと言っても、どうしてもここに入学したいのだと言って聞かず、泣いて頼むので私ももう……現実を見れば退学する気になると思ったのですが」

「確かに実力は足りません。ですが、だからといって見捨てるのは可哀想です」

「だがエクトル先生、ここにいることはハンフリー君にとってもマイナスにしかなりません。ここまで他の生徒と実力が違うと、口さがない子から虐めにあう可能性も」

「あれの弟も同じです。ハンフリーを馬鹿にし、同じ家族として見てもいません」

「子爵、お尋ねしますが、ハンフリーの将来をどう考えているのですか? 子爵家の当主になるのは無理でしょうし」

ハンフリーの当主にしたら、子爵家が潰れるだろう。

「おっしゃる通りです。跡はハンスに継がせ、ハンフリーは……充分な財産を持たせて独立させます。あの魔力では、嫁に出すことも適わないでしょう」

普通の見合い結婚ではお互いの魔力の釣り合いが重視される。子爵家の出で魔力が高ければ、伯爵家や侯爵家とも縁組は可能だろうが、ハンフリーの魔力では男爵家ですら見合いは断わるだろう。
だがそれは魔力を見てだけで、ハンフリーほどの器量の持ち主なら、魔力が低くても構わないという男は出てくるだろう。

「だが、失礼ですが彼では……騙されて財産を毟り取られる可能性も」

「それを私も心配はしています。私の生きている間はきちんと監督し不自由させるつもりはありません。だが、死後……ハンスではハンフリーを守ってくれるのは無理でしょう」

「子爵、提案があります。ハンフリーは卒業したら私が夫として守ります。在学中も卒業できるように私が手助けをします。だからハンフリーの望みどおり卒業をさせて下さい」

「し、しかし……先生のような方にハンフリーを貰っていただければ、こんなに素晴らしい話はないでしょうが。あれは、とても伯爵夫人など務まりません」

「大丈夫です。既に弟が結婚しており、弟に伯爵家を継がせます。一族に煩く言わせるつもりは有りません。校長先生、私のクラスでもハンフリーは補講ということで、私が一対一で面倒を見ます。他の生徒に面倒はかけさせませんし、孤立もさせないようにします。未来の夫なので当然の配慮です」

「なんと感謝したら良いか分かりません。私が死んでも、ハンフリーは先生のような伴侶がいれば何も心配ありません。できたら、先生に婿に入っていただきハンフリーは慣れた実家で暮らして貰いたいのですが。伯爵家よりも家格が落ちるので、本来だったら伯爵になるはずだった先生に子爵になれというのは失礼ですが」

「ですが、優秀な弟君がいらっしゃるのでは?」

「あれは優秀ですが性根が腐っています。他に候補がなかったので、ハンスしかいないと思っていましたが、先生という方がハンフリーの伴侶になっていただけるなら、ハンスに跡は継がせません」

爵位などどうでも良かった。弟に伯爵家を譲るのは、ハンフリーを嫁にと連れて行ったらハンフリーが辛い思いをすると思ったからだ。
子爵家もどうでも良いが、ハンフリーは慣れた家で暮らせたほうが幸せだろう。
魔力が低い子は家族の中で辛い目にあっている場合が多いが、ハンフリーは少なくとも父に愛されている。

私とハンフリーの婚約は成立し、卒業後結婚ということで進路も決まった。校長も、就職する必要もないので、花嫁修業という名目で卒業させる事に同意した。要するにいくら馬鹿でも何か職につくわけでもないので、多めに見るということだ。
ハンフリーのクラスメイト達にもハンフリーは卒業後私と結婚するので、馬鹿だろうと授業についていけなくても温かく見守ることと通達した。
一番、皆の邪魔になる実技の授業は、私のアシスタントということで笛を吹かせたり、タイムを計らせたりさせ、放課後簡単な魔法の授業をマンツーマンでやらせた。

「せんせー、ありがとう。先生のお陰で、僕、卒業できそうなんです」

「ハンフリーが頑張ったお陰だろう?」

「でも、公務員試験全部落ちそう」

それは落ちるだろう。ハンフリーの魔力では軍は無理なので、魔力の関係ない部署を受けたようだが、誰もが受かるはずないと思っていた。
子爵は私との婚約が整った段階で、ハンフリーに卒業後の進路は嫁入りだから安心しなさいと言おうとした。だが私が止めた。

馬鹿なくせに何故か独立心があり、彼なりに頑張って働いて自立しようと思っているらしい。これで親が纏めた縁談があると知ったら、結婚なんか嫌だと逃げるかもしれない。

なら、全ての試験に落ちていく場がなくなって、自分から結婚したいと思うように、好きにさせてやることにしたのだ。どうせ、全部の試験に落ちてしまうだろう。子爵も卒業後は無一文で放り出す予定と、言わせてある。

「落ちちゃったら、僕……」

「ハンフリー、大丈夫だ。何があっても先生がついている」

案の定、全てに落ちたハンフリーは卒業式に泣いていた。
侍女からもう嫁と言う永久就職しかないと言われているハンフリーは、結婚しかないと思っているはずだ。

「先生、僕と結婚してっ」

「勿論だ……愛しているよ、ハンフリー」

三年間見守るのは非常に長かった。だが、18歳にならないと手は出せないので、卒業までの言う区切るは調度良かったのかもしれない。

しかし、処女を奪ってと連呼されるのは……我慢するのがとても厳しかった。だが、数時間の違いだ。きちんと結婚してもう逃げれないようにしてから、私のものにするのが一番確実だ。

「せんせっ……怖いよっ……」

あれほど自分から処女を奪ってくれと言ったくせに、いざ初夜になると怖がって震えているハンフリーは可愛い。

「大丈夫だ、先生に任せておけば。ずっとそうだっただろう?」

先生から旦那様に呼び方を変えたくせに、ベッドの中では先生と癖のように呼んでくる。背徳感があってゾクリとするほどの快感だ。

「そんな大きいの無理っ……ひ。やだやだっ」

「大丈夫だ、先生の赤ちゃんを産みたいんだろう? 先生も頑張って魔力の高い子を産ませてやる」

元々非力というのもあるが、生徒と教師と言う関係にあったせいだろうが、直前には怖がって何時も逃げ出していても、ベッドの中では先生の言う事を聞く良い子だった。

「ほら、もっと足を広げなさい」

「もう、お腹が一杯ですっ…」

「お嫁さんのお仕事は、お腹に先生の物を入れておくことだ。先生が仕事から戻ってくるまでベッドで大人しく待っていなさい、良いね?」

しかりやり過ぎると侍女からクレームが来て、私も少し反省をする。
普段は甘えてくるのに、夜になると大きいから嫌だと逃げだそうとするからつい責め立ててしまう。

「旦那様ごめんなさい。旦那様は魔力が大きいから、ちんこも大きいんだってね。僕がんばって我慢するよ。でもハンスは魔力高いのに小さかったから、僕……そんな比率の法則があるって知らなかったの」

馬鹿な子ほど可愛いというし、実際お馬鹿なところも可愛いと思っている。
夜も、騎乗位だと受精率が高くなると言うと、頑張ってやるよと泣きながら乗っかってきてくれたし。

だが、私に出会えなかったら、ハンフリーお前はここまで馬鹿でどうやって生きていったのか。騙される人生しかなかっただろう。だからお前は一生私に騙されて大切にされて生きていけば良いんだ。

「先生の大きすぎて、お尻割れちゃうっ」

もともと尻は割れているんだ。そこは裂けちゃうって叫ぶべきだろうが……可愛いので、割れちゃうで許そう。




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