「ノーラ……明日でもうノーラとはお別れだね」

「ハンフリー様、そんな寂しいこと言わないで下さい」

明日は卒業式で、僕はもう18歳。成人している。

僕は魔力が弱い。反対に弟は魔力が強く、昔から父は学校を卒業するまで家には置いてやるが、それ以降は自立し、家に頼らずに生きていきなさいと言われていた。
魔力の強い弟に家督を譲ることは、一族で決定しており、僕ではどうすることも出来なかった。
こんな魔力の弱い僕では家を継ぐ事ができないから仕方がないと諦めていたが、一人で生きていけるのだろうか。

絶縁させるとか、放逐されないだけマシだっただろうけど、僕を馬鹿にしている弟のハンスが当主になれば、縁を切られるかもしれない。

だから一人で生きていけるように、頑張って働かなければいけないのに、僕は魔力が低いだけではなく馬鹿だった。学校でも成績は悪く、いくつかの省庁を受けたが全て落ちてしまった。当然軍などは無理だ。
卒業してからどうやって生きて行けば良いか分からない。

「ハンフリー様は頭は悪いんですが、こんなに綺麗に生まれたんです。お嫁にいって旦那様に養ってもらってはどうですか? 旦那様にお願いしてお見合いをするんです」

「お父さまはこんな魔力の弱い嫁を貰ってくれなんて言えないって……」

相手が魔力が高ければ、何人か産めば一人くらいは魔力の高い子は生まれるかもしれない。でも、魔力の低い僕に引きづられて低い子のほうが産まれる確率は高い。だから、僕みたいなのは当然婿にも行けず、嫁にも喜ばれない。

「どなかたか同級生の方で、お嫁に貰ってくれるようなお知り合いの方はいないんですか?」

「い、いないよっ……だって、まだ18歳なんだよ。結婚なんか真剣に考えている友達なんていないもん」

皆、就職先は決まっていて僕だけ決まっていない。でも、まだ働いてもいないのに、結婚なんて考える余地もないと思う。結婚を考えていたって、僕みたいな余り物を貰ってくれるわけない。

「ハンフリー様、ハンフリー様はとても美人なんですから、色仕掛けで迫ってみてはどうですか? 処女を捧げれば、責任をとってお嫁に貰ってくれるはずです」

色仕掛け。もうそれしかないんだ。
僕のお母さまは魔力はそれほど高くなく、お父さまに相応しいお嫁さんじゃなかったって一族から言われているけど、身体で取り入ったんだ。床上手なんだろうと言われているのを小耳に挟んだ。僕は何をやっても駄目だけど、ひょっとしたらベッドテクニックだけは凄いのかもしれない。

「ノーラ! 僕頑張ってみるよ!」

とは言ったものの、魔力の高い同級生たちは、僕が狙っていると『長男だから、ごめん』『両親に反対される思うし』『友達としては良いけど、嫁にするにはちょっと……もうちょっと魔力が高ければ考えたけど』と寝技を試す前に逃げられてしまった。
力ずくに押し倒そうにも、僕は体力も力も無い。魔力がなくても逃げられてしまうし、そうでもなくても魔力の高いクラスメイトたちに寝技をかける暇もなかった。

「ひっく、ひっく……」

今日卒業をしたら追い出されるんだ。僕が何も職業見つかっていないとお父様に頼んでも、男なんだから成人して親に頼るなと、怒られた。

「ハンフリー、卒業式にも出ないでどうしたんだ? 泣いているのか?」

「せ、先生」

クラスメイトに振られた僕は卒業式に出る気分でもなく、教室で泣いていた。
先生は魔法戦闘の授業を教えてくれていた方で、僕は毎回落第点を取って、何度も補講を受けていた。

「出る気分じゃなかったんです」

「卒業できるように何度も補講をやってやったのにか? お前みたいに苦労させられた生徒は初めてだぞ」

貴族ばかりが集める学校で、僕みたいな不出来な生徒は少ない。ここは士官学校ではないが、領地を守るという使命を担った生徒がいるから、魔法での戦闘は重要な科目だった。たいした魔法も使えない僕に、先生は物凄く苦労をしていたのを知っている。

「せっかく卒業させてくれたのに……僕、無職なんです」

「ああ……私も残念に思っているよ」

「お父さまもっ出て行けって。無職で、今夜泊まる家もないのに! 玉の輿を狙って、お嫁さん志望してみたのに、みんな嫌だって言うんだっ」

涙腺が崩壊したように涙が止まらなかった。

「嫁に行こうとしていたのか? それはまあ、公務員試験に合格するよりも確率は高いだろうな」

「でも、でも! 皆断わってっ」

「まあ仕方がないだろう? 18歳の成人したばかりの子どもだ。まだ結婚なんか考えられない年齢だ。ハンフリー、お前は狙うターゲット層を間違えたんだ。もっと結婚適齢期の独身を狙え」

そ、そうか。18歳の同じ歳にターゲットを絞ったのが間違えだったんだ。二十代後半から三十代の方を狙ったほうが確実だったかもしれない。でも、そんな年齢での知り合いいない……

「先生、独身ですか?」

「ああ、婚約者もいない」

「先生、長男ですか?」

「ああ」

長男じゃあ、僕みたいな魔力の低いお嫁さんじゃあ駄目だよね。婚約者もいない独身で、先生は魔法戦闘のプロだから魔力も高いし。格好良いし、お嫁さんに貰ってくれたら嬉しかったのに。

「だが、弟がもう結婚しているし、子どもも儲けている。領地も任せっきりだから、このまま弟が爵位を継ぐという事になっている」

先生は公務員だし、それなりの年収があるはずだ。弟に爵位をあげるのなら、親族も僕が魔力が低くても煩く言わないだろう。玉の輿にはなれないけど、僕を養ってくれるのに問題はないはずだ。

「先生……僕をお嫁さんにしてくれませんか?」

「ハンフリー」

「先生断わらないでっ」

僕の名前を呼んだ先生は、きっと断わるんだと思った。

「断わったら、校長先生に先生にエッチなことされたって訴えちゃうから! 先生は首になるか僕と責任とって結婚するしかなくなるから、どうせなら合意で結婚して!」

僕はこれくらいしか考えられなかった。先生にエッチなことをされたと訴えて責任を取ってもらう。今二人っきりだから、卒業式にでないで先生に処女を奪われたって言って回るんだ。そうすれば……

「そんなことをしたくて良い、ハンフリー……教師と言う立場では、お前に手を出すわけにはいかなかったがもう卒業だ。喜んで嫁に貰うよ」

「本当っ!?」

「ああ、本当は卒業式が終わったら、正式に父君にお願いしようと思っていたんだ。逆プロポーズされるなんて不甲斐ないな」

「それって、先生……僕のこと、好きなの?」

「こんなに出来の悪い子はいなかったが、出来の悪い子ほど可愛いって言うだろう? 愛しているよハンフリー」

僕の就職先が決まった!
でも、でも。先生の気が変わったら僕の宿がなくなってしまう!
今ここで処女を奪ってもらって、既成事実を作らないと。だって、僕馬鹿だから、先生の気が変わったら困る。

「先生……僕を好きなら……僕を先生のものにして?」

「今夜、父君にあいさつに行くよ」

「そうじゃなくってっ! 僕を抱いて?」

「ハンフリー、婚前交渉はいけないことだと教えただろう?」

「だって!!! お父さまにだって見捨てられるんだもん!! 先生だって、気が変わって僕を捨てるかもって怖いんだもん!!」

「そんなことをするわけないだろう。じゃあ、今すぐ父君に挨拶に行って、その足で婚姻届を出しに行こうか? 初夜は今夜だ。すぐに婚姻届を出すから、それなら心配ないだろう?」

「うん」

離婚できないもんね! 僕一生先生に面倒を見てもらうんだっ!

お父さまに先生にお嫁に貰ってもらう事になったと説明したら、先生のおうちは僕の家よりも爵位が高くって、お父さまは喜んでいた。両家で話し合った結果、先生の弟が跡継ぎになって、先生が婿に来てくれることになった。弟が地団太を踏んで悔しがっていたのが物凄く嬉しかった。ざまーみろ。

「先生、ありがとう。僕、先生のお陰でお家に残れたし、路頭に迷わずにすんだんだ。お婿さんに来てくれて、嬉しい」

「もう結婚したんだ、何時までも先生はよしてくれないか?」

「えっと……」

ノーラは旦那様とお呼びしたら良いんですよ、と教えてくれていたな。

「旦那様」

「ハンフリー、愛しているよ」

めでだしめでたし★★
で終わる所だが。



そして迎えた初夜。

「いやあああ、ノーラ!! 助けてっ!!!!!!!!!!」

そんな悲鳴は聞こえないし(防音魔法で)聞こえたとしても良くできた侍女ノーラは助けに行ったりはしない。

「ノーラ酷いよ!! 何で昨日助けてくれなかったの?」

「初夜とは怖いものですよ。ですが、誰もが通る道です」

「そんなことないよ!!! 誰もがあんなに旦那様のちんこ大きいわけないのに!!!! ちんこ入ってきて僕死んじゃうかと思った!!!」

「死んでないので大丈夫です」

「次もあんなことされたら死んじゃうよ!」

「死なないって言っているでしょう!! ハンフリー様は旦那様のお陰で、この家の跡継ぎを生む権利を頂いたのですよ。それをありがたいと思いこそすれ、ちんこが大きいからと喚き散らして。貴族階級では旦那様くらい普通なんです!! 大きいほど魔力が高いので仕方がないのです!!その証拠にハンフリー様は小さいでしょう!!!!」

確かに僕は小さい。そうか、魔力が高いと大きくなるんだ。とお馬鹿なハンフリーは信じた。嘘ではない。貴族階級の夫になる魔力の高い男性は皆大きい。だが魔力の高い身で妻になった男性は、別にそれほど大きいわけではない。だが、ハンフリーは馬鹿なので侍女の言う事を信じた。

「旦那様のお陰だから、魔力が高いから……そのお陰で僕はここに残れたから。ちんこが大きくても仕方がない」

と、ぶつぶつ自分に言い聞かせている坊ちゃまを侍女ノーラは見ていた。だがお馬鹿なだけあって、言い聞かせても実際に旦那様のブツにご対面すると、逃げ出すのは恒例行事になっていた。旦那様が結婚前にハンフリー様に手を出さずに、結婚してからと手順を踏んだのは、こういう事態を避けるためだったとノーラは予想した。教室で先に手を出していれば、ちんこでかいから結婚しない!となっただろう。

「もうすぐ慣れますよ。段々痛くなくなってきたでしょう?ハンフリー様」

「お尻が割れそうだった」

「割れません」

「こんなにたくさん中出しされたらすぐに妊娠しちゃうよ!」

「それが目的でしょうに」

毎朝エグエグと泣くハンフリーを慰めるのも仕事ならば、旦那様にこんな忠告を言うのも仕事だ。

「旦那様、ハンフリー様はまだ子どもなので、見せないように努力をしてください。見なければあそこまで怖がりませんから」

「すまない」

「それから! まだハンフリー様は子どもで母になる覚悟ができていないので、中出しはほどほどにして下さい! 魔力の差があるからすぐに身篭ってしまいかねませんので!」


こんなことをするのも侍女の仕事だったりする。

それは高給取りではないとやってられない仕事だ。


END




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