「エルウィン、ただ」
「鬱陶しいのであっち行ってください!」
この恐妻は、夫が政務から戻ってくると、そう言い放って夫を遠ざけるのだった。
勿論子どもたちの前では、エルウィンも隊長を鬱陶しがることは無い。ただ、見ていないところだと途端に邪険にしてしまうのだった。
「エルウィン、ちょっと隊長に対して最近、粗雑過ぎやしないか?」
と、友人のエミリオにも注意される始末だった。
「だって、このおなかの子を見てください! 隊長の欲望の賜物ですよ!!!??? 人が魔法で洗脳されているからって好き放題したんでしょう? 本当に、男らしくなくってイライラします!!!!!」
男らしくなく妻に泣かされているのは確かだが、一般的にはエルウィンが鬼嫁過ぎるのだ。ライオンハートだったはずの隊長はもはや見る影もない。
「サラちゃん。ぼくのおかしあげる」
「ギルくんありがとう」
イライラしているエルウィンの横では、エミリオの第一子ギルバードとエルウィンの第二子のサラが仲良くお菓子を食べていた。
仲良く見えるが、あの子悪魔的な祖母の血を引いたのか、サラはギルバードからお菓子を巻き上げているのだが、ギルバードは喜んで貢いでいるので、何度注意しても直らないのである。
3歳の幼児ながら、サラの美貌は際立っているのだ。
「ギルバード、あんまりサラを甘やかしちゃ駄目だよ。同じ日に生まれたんだから、お互い切磋琢磨して」
「おうひさま、ぼくがんばってせっさたくましてサラちゃんのおむこさんになれるようにがんばります!」
「う〜ん………エミリオ分隊長の子だからサラをお嫁に出すのは問題ないけど……たぶん、苦労するよ」
エミリオの子となんてとんでもない!と喚く夫を見ながらそう忠告した。
「鬱陶しいです! 黙って下さい!」
「そう、怒るな。胎教に悪いぞ」
「何でだか分かりませんか、隊長を見るだけでイライラするんです! もう、存在自体にイラつくっていうか、男らしくなく直ぐ泣くし!」
「なあ、確かに隊長は鬱陶しいし、すぐ泣く。だがな、同じく鬱陶しい夫もいる。ユーリを見ろ。あの暑苦しい愛情を一身に受けて、それでも我慢していたクライスを……隊長は泣いているだけでイラつくだけで済むが、ユーリみたいな男を夫にしてみろ。今頃エルウィンはクライスと同じように監禁されて強姦されまくっているぞ」
「……クライス様、大丈夫なんでしょうか? 俺たちこんなところでのん気にお茶会なんてしていないで助けに言ってあげたいです」
「私たちでは無理だ。ユーリを敵にまわしたら殺されかねないし、他に一緒に助けてくれるような人もいないしな。隊長は……動員したら国が滅びかねないから駄目だし」
「でも、クライス様が可哀想です。今頃何されているか」
「まあ、やられまくっているだろうけど。生きているのは間違いないけど、クライスはユーリの愛情で殺されかねないほどの、愛情を一心に受けているんだぞ。そう思えば、隊長の鬱陶しさも……少しは我慢できるだろ? お前、お前に言いなりの隊長が夫で良かったって思えるだろう?」
「イラってしますが……あのユーリ隊長よりはマシですね。スマートなゲスって最近最悪だって思うようになりました。隊長はイラってくる変態ですが……俺ってクライス様よりマシだったんだって、最近やっと納得できるようになって来ました」
「なら、少しは隊長に優しくしてやれ」
少し改心したエルウィンは隊長に仲直りのプレゼント(洗ったばかりのセクシーパンツ)をあげた。
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