オーレリー様たちとの話し合いも終わったのでエミリオの城に戻ろうとしたが、兄から家を出ているのなら泊まっていって欲しいと懇願された。

「でも、迷惑では」

「こういう時くらい、兄を頼ってくれても良いんじゃないかな? 俺なんか」

「分かりました。お世話になります」

なんか、最近兄とよく話すようになったからか、兄の性格が良く分かってきた。自分の事を卑下するし、ありえないくらいネガティブだ。
知らなかったわけじゃないから、従兄弟同士比べないように俺の子は連れて来ていない。ただ、俺の子が魔力が高いのは、兄が魔力が低いからという訳ではなく、ユーリが魔力が高いから関係ないと言えば関係ないんだが。アルベルだって充分すぎるほど魔力は高い。ただ、比較対象が間違っているだけだ。

兄はなにくれなく俺の世話をしようとして、ロベルトさんが苦笑していたほどだ。妊娠しているから母性本能が高くなっているからかもしれないが、夫に恵まれていない俺に何かしたくて仕方がないのかもしれない。

「明日、ユーリ隊長のところに行く時は俺もついて行くから」

「マリウス、お前はもう臨月だぞ。何時生まれるかもしれないのに……」

「だって、ロベルト! クライスが心配で家で待っているほうがストレスになるよ。俺なんかいても役に立たないだろうけど……でも、他人がいればユーリ隊長だってクライスに無体はできないはずだし」

「おばあ様やおじい様たちも立ち会って下さるんだろう? だったら流石のユーリ隊長だってクライスに無理強いできないはずだから安心しろ。何だったら俺も行くから」

「でも、俺はクライスの兄なのに……」

「兄さん、ロベルトさんの言うとおりですよ。兄さんは今、子どもを無事に産む事だけを考えないといけないのに、俺のせいで要らぬ心労をかけれません」

ロベルトさんはユーリの直属の部下でもあるし、兄も元はユーリの下で働いていただろうが、アイツは外面だけは良いのであのゲスな性格につき合わすわけにはいかない。

「じゃあ、メリアージュ様をっ」

「こら! 母上なんか投入したらそれこそ収拾がつかなくなるだろう! おじい様たちに任せておくのが一番だ。なんたってユーリ隊長の身内だし良く分かっているだろう?」

「………うん」

それでも納得しがたい目でジッと俺を見てくる。
俺と兄は良く似ているが、こうやって縋るような目で見てくるから、ロベルトさんが兄を甘やかして閉じ込めておきたいって思う気持ちがとても理解できる。

「じゃあ、今夜は一緒にクライスと寝る」

「マリウス、いくら弟だからっていっても、他の男と一緒に寝るのは許可できない」

「俺も、ユーリにばれたらまた嫌味をチクチク言われそうだから、せっかくだけど一人で寝ますよ」

まあ、ロベルトさんも夫としては当然の事を言っているんだけど、さっきから兄の申し出を尽く断っている気がして申し訳なかった。
なので一緒に夕ご飯の支度でもしようと言ったらとても喜ばれたが、実は俺は家事をしたことがないんだよな。官舎暮らしの時は食堂があったし、実家で暮らしていた時は使用人が当然いたし、結婚してからも同様だ。
というか、未来の伯爵夫人なのに兄が食事を作っているほうが珍しいのではないのだろうか。これでも、掃除とか洗濯とかは使用人がするようになったそうなので、食事の支度しかすることが無くって暇だと言っていたが。
ちなみに俺は料理をしたことがなかったが、兄に教えてもらうと普通に手伝いくらいは出来た。兄はもっと練習すればきっと物凄い達人になれるはずと言われたが、子ども達に作ってやるのは良いかもしれないがユーリになんか作ってやる気にはなれないし、そもそも俺は子どもたちを返してもらえるのだろうか。

明日ユーリに会うのかと思うと憂鬱になりながら、眠りについた。

「んっ……」

息苦しい。そう感じて目が覚めた。目を開けると、そこには慣れ親しんだはずの夫の裸体があった。

「な、なにっ……どうして、ここにっ!?」

兄の城にいたはずなのに、周りを見るとここは自室のベッドだった。

「クライス、子ども作ろう? 約束の四人目、ユリアが生まれてまだ日が浅いけど、かなえてくれるよね? 約束だったから」

「な、何言っているんだ!? 離婚したい別居したいって言っているのに、どういうつもりなんだ!?」

俺は眠る前に、ユーリが自由にしていいのは今日までといっていたので、翌日になったら迎えに来るのだと思っていた。それが日付を超えたら勝手に転移魔法で自宅に送還されるなんて思ってもいなかった。しかも、話し合う余地もなく、子作りをしようなんてふざけているのか、この男は。

「離婚とか言っているのはクライスだけだろう? 俺は全くそんなつもりは無いって言っただろう? ちょっとだけ自由な時間をあげただけだよ。それでもまだ悩んでいるみたいだから、赤ちゃんを作ろう? 妊娠していれば何も悩まなくて済むだろう? 俺を愛して幸せでいられるよ? 正気に戻る時間も無いほどに、孕ませ続けてあげるから、安心してくれて大丈夫だ……精神制御魔法もいつもよりもずっと強くかけてあげるから」

「根本的な解決になっていない! どうしてお前は何時も孕ませて解決しようとするんだっ!」

結婚前も妊娠させようと必死だったし、妊娠すれば解決すると思い込んでいた。
今回も話し合いも妥協も、何も使用とせず、ただ何時もの生活に勝手に戻そうとしている。

「もうお前には抱かれたくないっ! どうしてお前みたいな勝手な男がこの世に存在するんだっ!」

「クライス………俺って、クライスを自由にさせすぎたんだな……きっと。歴代の公爵のように、誰にも会わせないで花嫁の塔に閉じ込めておけば良かったんだな、きっと……クライスに自由なんてなく、その綺麗な目が見るのは俺だけで良くって……子どもに会わせないようにして、会いたければ俺を自ら欲しがるように、そんな体にするべきだったよな。今からでも遅くないから、そうしようか。ロレンスたちには花嫁の塔から出て行かせるよ」

本気で言っているのか一瞬疑ったが、この男がこんな場面で冗談を言うはずがない。
今までは俺がユーリの言う事を聞いて、大人しく妻でいたから、ある程度の自由があった。そう痛感した。ユーリは隊長のように妻の言いなりの男じゃない。自分の意思と欲望に忠実なのだから。

「誰かっ」

「誰かって、誰に助けを求めているの? 誰もクライスを助けに来ない。おじい様やおばあ様だって、わざわざ実の孫の幸せを奪いに来ないし、父や兄だってそうだよ。クライスが助けを求めるとしたら、俺にだよ」

オーレリー様たちは仲介をすることは求めれても、こんな場面で助けに来てはくれないだろう。俺とユーリどちらに味方をするといったら当然実の孫のユーリにだ。
他にユーリに匹敵する魔力の持ち主で俺に味方をしてくれる人がいるとしたら、子どもたちだ。とはいってもまだ幼すぎてろくに魔法も使えないし、魔力も安定していない。俺が将来もし自由を求めるとしたら、ユーリの子をできるだけたくさん産んで、俺の味方になってくれるように育て、ユーリから守ってもらえる人材に育て上げることだろうが、子どもたちを俺やユーリの不仲の犠牲にするわけにはいかない。

「お前は……本当に俺の幸せなんか、俺の意思なんかどうでも良いんだな……」

「ああ、過去を修正して、クライスが俺を好きになるようにするってこと? マリウスとそんな話をしていたね。残念だけど、今は、二回目なんだ………クライス、俺はもう過去に戻る魔法を使ってしまっている。アレは一生涯に一回しか使えないから、もう無理だよ」

「……え?」

「ロレンス、今日からここは俺たちが使う。お前たちは実家に帰れ」

二回目の人生の意味を問いただす暇もなく、ユーリは俺を連れて花嫁の塔に転移していた。

「まだパトリック、二人目できていないんだよ。実家には、恥ずかしくって戻れないって言うし」

「なら、公爵家の城のどれを使っても良い。やるよ……俺は今からクライスを花嫁の媚薬漬けにして、ここから出さないつもりだから、お前たちは邪魔だ………ほら、クライス二人きりになれたよ。クライスが悪い奥様だから、子どもたちにも当分会わせるつもりはない。そうだね、四人目ができて、俺の事を愛して堪らないって思えるようになれたら考えてあげようかな?」

ユーリの手には花嫁の媚薬が握られていた。それをユーリは口に含んで、俺に無理矢理飲ませた。ユーリに媚薬は効かない。

「……最低だな」

「最低な男にさせているのは、クライス……君のせいだよ。俺の美しい、氷のような奥様」



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