「ただいま、マリウス」

「おかえり、ロベルト」



何時見ても俺の奥さんは美人だ。

「今日は何をしていたのか?」

街で親子三人で暮らしていた時は、マリウスの話し相手と言えば俺かナナくらいしかいなかったが、実家の城に戻ってきてからは母(父)や祖母たちに囲まれて楽しそうにしているようだ。
あの母の性格なので、マリウスは気を使うかと心配していたが、実の母親のように慕ってくれている。
まあ、苛烈な生活の母だが、父以外には意外と優しいようだ。いや、あれでも充分父にも優しくしているつもりらしいが、俺はずっと父は母の事を愛していないと思い込んでいた。どうみても父が母に強姦されて無理矢理結婚させられたと思っても無理は無いだろう。

「メリアージュ様とね」

まあ、マリウスの実の母と比べれば、面倒見の良い母は優しく思えるのだろう。俺はマリウスの母には会ったことがないがろくでもない母のようだし。アルベルは魔力が高く生まれた。けれど、今腹の中にいる子が魔力が低かったとしてもアルベルと差別して育てるつもりは無い。マリウスが産んでくれた子だ。どんな子でも可愛いだろう。

「メリアージュ様にね」

しかし同居をしたがっていた父の名前は滅多に出てこないな。母の名前ばかりだ。

「R・M商会のこととか」

「……え? おい、ちょっと待ってくれ。R・M商会がどうしたって?」

母が父に使ってもらえなかったグッツをやけのように売り出したR・M商会の名前が出ていた。

「あの商会、伯爵家のものなんだね。俺びっくりしちゃった……ロベルトの家って本当に手広く商売やっているんだな。領地の経営も商会の運営も全部メリアージュ様がやっていらっしゃるって聞いて、俺もお手伝いをしたくなって」

「いや、その必要はない」

R・M商会……マリウスが俺にとブラを買ってきた、悪魔の商会だ。勿論母が経営していることは知っていた。

「で、でも」

「マリウス。今は妊娠中だろう。もうすぐ子どもが生まれるんだ。うちの家のこととか気にしている場合じゃないだろ。元気な子を産むことだけ考えてくれ」

「でも……メリアージュ様だって妊娠中で……俺も何かお手伝いが」

「マリウスがそんなことをする必要はない」

そもそもR・M商会なんて母が好き勝手にやっている商会だ。何でマリウスが手伝わないといけないんだ。
マリウスは母といるのが楽しいようなので邪魔はしないが、本来俺がいればそれで良いはずだ。外界のことを気にかけるべきじゃない。

「……どうせ……俺なんか。メリアージュ様みたいに領地のこともできないし、商会に運営なんて無理だよな……役立たずの俺がメリアージュ様のお手伝いなんて……出すぎた真似だったよな。ごめん」

出た……マリウスのネガティブ発言が。
俺はそんなつもりで言ったんじゃない。母の趣味でやっているものなんだ。あんな物潰れたほうが平和なのに、マリウスが気に使って手伝う必要なんか全くないんだし。だが、俺の言いようでは、マリウスは母の役に立たないから手伝う必要がないとマリウスには聞こえたのだろう。

「そうじゃないんだ。一番体を大事にして欲しい時期だろう? 商会のこととか気にするよりも、俺の子のことだけを一番に考えて欲しいだけなんだ。そもそもあの商会は母の趣味で勝手にやっていることなんだから、伯爵家の経済母体とはまったく別の次元にあるものだから、マリウスが気にする必要はこれぽっちもない」

「でも、嫁として」

「あのな……俺はそんなに甲斐性ないか?」

「え? そんなことないよ! な、なんで?」

「領地の経営も俺がするべきことだし、今は母がしているが本来当主がやるべきことなんだ。商会も一応母の物だから、受け継ぐとしたら俺だ。俺がやるべきことをマリウスにさせるなんて甲斐性がないって馬鹿にされて親戚中に笑われるぞ」

「でも、メリアージュ様はお義父様の補佐を」

「あれは補佐というレベルじゃなくって、父の実権を奪っているって言うんだ。母はある意味特別で、親戚中も何も言わないが……マリウス、お前の周りで妻が夫の領地や商売を手伝っているような妻はいるか?」

「俺……友達いないから分かんない」

いや、友達はいるだろう。ただ俺が遠ざけているだけで。俺がいれば充分だと思っていたが、最近やりすぎたのではないかと反省している。

「ならクライスならどうだ? 俺と同じようにユーリ隊長もまだ当主の座を継いでいないが、クライスは公爵家の仕事を手伝っているか?」

「……たぶん、していない?」

「そうだ。貴族で、家の仕事を妻にさせるような夫は甲斐性がないと笑われるんだ。妻を大事にしていないって思われる。仕事が許されるのは部隊に所属している場合くらいだな。奥様には城の中で真綿に包んだように大事に大事にするのは、夫としての役目なんだ」

「そうなんだ……」

マリウスは当主としての教育を受けてこなかったし(受けさせてもらわなかった)世間知らずだから、貴族として知っていて当然の、奥様を大事にして(時には監禁して城から出さないのが当然)働かせたりしない。妻に領地の経営や一族の仕事をさせるなんて、夫失格のレッテルを貼られても当然なことを知らない。

「それに俺がブラにトラウマがあると言っただろう?」

「あ? うん」

何でいきなりブラに話が変わったのだろうかと不思議そうな顔をするマリウス。

「昔、母が父を陵辱していて……無理矢理ブラをつけさせているのを見ていて……俺は夫用ブラに酷いトラウマを感じるようになった。だからマリウスにそのブラを売っている商会に関わってほしくないし、できれば俺だけを見ていてくれるのが俺は一番嬉しいんだ」

「メリアージュ様みたいになりたかったのに……」

「マリウスが母上のようになったら、俺は泣いてしまうぞ」

割と真剣に言った。母が嫌いなわけじゃないが……父みたいには決してなりたくない。

「な? 俺だけのマリウスでいてくれ」

「……分かった」

「R・M商会のことじゃなくって、次男の名前を考えようか?」

「今度もロベルトが考えてくれるんじゃないの?」

アルベルの名前はマリウスは俺が考えたと思っているんだが。

「いや、アルベルの時は母が、祖父母がアルベルって名前を贈ってくれたから、つける気はあるかと言われたんだ。俺の時は母が父の名前にあやかってつけたので、今度は祖父母が名前付けたいって強請って来たみたいで。良い名前だからアルベルってつけたわけなんだが」

「そうなんだ。だったら、またおじいさまたちにお願いしようか?」

マリウスは知らない。優しくしてくれる祖父母が勝手にアルベルの婚約者を決めていて、将来物凄い爆弾となることを。


祖父母に丸投げ(祖父母孝行)をしたロベルトとマリウスは名づけに悩むことは無かったが……息子にあんな夫になりたくないとデスられているロアルドは……奥様が産んでくれる第二子の名前に悩んでいた。


「き、決まらない」

と悩んでいるのに、肝心の奥様は自分以外のことに悩んでいるロアルドに憤慨し(構ってもらえないから)



前掛けを強制してくる妊婦だった。



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