翌日、エミリオの提案でユーリと話し合いの場を持った。
二人きりだと魔力に物を言わせ、ユーリの言いなりになるのを防ぐため、ギルフォード王子(魔力阻害)とエミリオの立会いの下行われた。

「帰ってくる気になった? アンジェたちも心配しているよ。お母さまはどうしてお仕事でもないのにいないのって? お母さまはお父様のことが嫌いだから、帰ってこないんだ……って言っても良いかな?」

「っ……」

子どもたちには知られたくない。

「知られたくない?……でもこのまま帰ってこないと、言わざるえないよ。お母さまは、子どもを捨てたんだって」

「返せよ!……どうせお前なんて子どもたちのこと愛していないくせに」

「愛しているよ。だって、クライスが産んでくれた子だからね。他の男が産んだとしたら何の愛情もなかっただろうけど、クライスの遺伝子が入っていると思うとね……」

「じゃあ、愛しているって言う子どもたちのことを悲しませるな」

「悲しませようとしているのはクライスだろう? クライスが帰ってきてくれれば、全て円満に事は終わるのに。今なら怒らないし、自由も保障するよ」

まるで俺が一方的に悪いかのようにユーリは振舞っていた。コイツにしてみればそうなんだろう。俺が今までどおりユーリの言う事を聞いていれば万時上手くいくのに、別居したい、離婚したいと言い出し、家庭を壊そうとしているとしか思えないのかもしれない。

「お前達夫婦の円満って、クライスの我慢で成り立っていたんだよな」

「俺だって我慢してきた」

「どんな我慢だよ」

「クライスが俺のことを愛さなくても、側にいてくれるだけで許してやっていたんだ。なのに、俺から離れようだなんて許さない」

「その、側にいることに疲れたんだろ? ちょっとはクライスの意見も汲み取ってやれ」

「……ふうん。じゃあ、どんな望みがあるんだ? クライス」

望みならたくさんある。けれど、この男が聞くとも思えない。

「離婚してくれって言ったらしてくれるか?」

「するわけないだろう」

そもそも離婚は出来ない。そんなこと分かっている。だけど、公爵家ともなれば、法律なんか無視できるだけの力がある。しようと思えば出来ないわけではない。

「別居したい」

「俺が承諾するとでも思っているんだったら、俺と言う男をみくびっているな……俺の愛しの奥様」

「話し合ったって無駄だろう! こいつは俺の意見なんか無視なんだから! 何でも自分の良いようにしかしない!……少しの譲歩もしようとしない! 傲慢で陰険で、全て自分が正しいと思っているっ!」

「正しいなんて思ってはいないよ、クライス。一緒にいるのが運命なんだ。例え、君が狂ったって離すつもりはない」

「お前とは話にならない……」

一切の妥協も、話し合う余地すらも感じさせないユーリに正直どう言っても無駄じゃないかと思う。
だから、俺が言う事を聞いていれば平和だったんだろう。俺も言っても無駄だと分かっていたから、これまで何も言わなかった。
それに俺もこの国の国民だから、ユーリより弱いから仕方がないんだ。一度結婚したし、こんな男でも一生夫なんだろうと、自分に言い聞かせてきた。

「俺が勝手に仕事を辞めさせたのは謝るよ。何なら復帰できるように手配するから。クライスは仕事好きだったからね」

仕事は好きだった。だけど、辞め時なんだろうとも思っていた。何時までもTOPが産休を繰り返して良いわけない。まだ小さな子もいるのだ。仕事に集中できるはずもない。元々副隊長で産休を取っている者はない。俺は例外なだけだった。本来だったら、降格するかすっぱり辞めなければいけないところだったんだ。

「仕事はどうでも良い。どうせ続けられないのは分かっていた。ただな、お前の有無を言わせない俺の意見を尊重しない所に嫌気が差しただけなんだ。今まで何とかアンジェたちのために良い母親でいようと、お前とでも上手くやっていこうと思っていたが、そんな気力がもう無くなっただけだ」

「じゃあ、子どもたちにはどう思われようともう良いんだ? 両親が別居をして不仲で愛していないのに自分達を産んだって、そう思われても平気なのかな?」

そこが俺にとっても一番痛いところだった。仲が良い両親が急に別居をし、別々に暮らしていたら、子ども心にも不安だろう。理由は俺にも話せない。あの子たちの誕生の仕方は、あまりにも理解してもらえないものだからだ。

「……離婚も別居も駄目なら、家庭内別居をしたい。それなら子どもたちも不安に思うことも無いだろうし、表面上は今までどおり仲良くしているように見せて、寝室は別にして」

「ははっ……寝室は別に用意をしても良いけど、今までどおり変わらずクライスを抱きにいくよ。嫌がったら容赦なく犯す」

「ユーリっ!」

「お前な……本当に話し合う余地もないな。親族として、お前みたいな清清しいゲス中々見ないぞ。ほとんどヘタレで泣きながら妻に虐められている一族が多いのに……」

「誠意があるんだよ。俺がどうするかちゃんと知っていてくれないと後で騙したとか言われるだろ? 俺は騙すつもりは無い。離婚も別居も家庭内離婚もありえない。今までどおりクライスを抱くし、何の妥協もするつもりは無い。それでクライスが泣こうが狂おうが構わない。クライス、あと一日だけあげよう。心の準備をして戻ってくるんだよ」

子どもたちが待っているよと、冷たい視線ではなく、一方的に騒いでいる妻を温かく迎え入れる、そんな目で笑っていた。

「勿論、俺が一番クライスの帰りを待っているよ」



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