勿論、子どもたちを連れて行かれることには抗議をした。
ユーリが可愛がる以外に真面目に子守をするわけはないし、どう考えても俺が戻って来るように人質として確保されたのだ。
アンジェもジュリスも父親を慕ってはいるが俺といる時間のほうが多いし、ユーリに連れて行かれる際に不安そうな顔をしていた。両親の不仲の雰囲気を子どもながらに悟ったのかもしれない。

ユーリも子ども達を連れて行くと言えば、俺が別居を撤回して一緒に戻ると言うと思ったのかもしれない。ユリアはまだ乳飲み子だ。ほんのわずかな時間でも離れるのは辛い。だからこそユーリは俺と子ども達の分断を狙ったんだ。

「完全に人質にされたな」

「陰険にもほどがある」

俺の抗議なんか聞こえないように、子どもたちを一瞬で連れ去ってしまったのだ。俺を見る目もあんなふうに冷たい目線で、これまであんなユーリは見たことはなかった。

「今夜は私を信頼してくれたのか、クライスを預かることに同意したが、何時までもここにいるわけにもいかないだろう? どうするんだ?」

エミリオを信頼と言うよりは、エルウィンのところとエミリオを天秤にかけてエミリオのほうがマシだと思っただけだろう。

エルウィンの所は、自動的に隊長がついてくるし、隊長はどうやってもエルウィンの味方になるからな。その点、エミリオの俺の友人と言っても、公爵家の一族だ。考え方も公爵家の一族のことをよく分かっている。一方的に俺の味方にならないと考えてのことだろう。

「そうだな。取りあえず子どもたちを取り戻したい」

「そう簡単に返してもらえるとは思わないがな。だってアンジェたちを盾にすればお前が言う事を聞かざるえないことは、あいつが一番良く分かっているはずだしな。そのために、せっせと子作りしていたんだろ」

「……そうだな」

「お前が怒るのも分かるが、うちの一族はそういう男ばかりだぞ。クライスなんかはかなり自由にさせてもらっていたほうだと思うし、早いうちにユーリの元へ戻ったほうが良い」

「お前は俺の友人じゃなかったのか?」

「クライスの子どもの頃からの友人としてアドバイスしているんだ。公爵家の男から逃げ切れた妻はいない。例え、歴代で最も魔力が強い公爵夫人のクライスとはいえ、不可能だ。お前がユーリを嫌っていることは分かっているが、さっさと戻ったほうが平和だぞ」

そうなんだろうな、とは思う。俺がユーリに勝てることなんか何も無い。
もし離婚できたって両親の元へ戻るわけにも行かないし、退役させられていたから無職だし、子どもたちは公爵家の跡取りでもあるから絶対に俺に渡すことは無いだろう。

「あのなもし離婚できたらとか考えている、その仮定が間違っている。絶対にユーリは離婚しない」

「もうちょっとよく考えて、結婚すれば良かった……けど、正気に戻った時にはもう結婚していたしな」

「まあ、たった一つ方法が無いわけでもないけどな。今更だけど、ユーリが禁忌魔法を使っていたと訴えるんだ。お前が正気ではなかったと証明できれば……婚姻無効になるだろうし、ユーリは処刑される」

俺だってその可能性があることを考えなかったわけではない。だけど、幾つも問題があって諦めているた。

「訴え出るにしても最終決断をするのが兄である隊長で、しかも俺にはユーリが禁忌魔法を使っていた証明はできない。そんな状況で隊長が弟を処刑させるわけないし、婚姻無効になったら、子どもたちは私生児になってしまう……」

結局ユーリの思うがまま、子ども達を盾に取られて、俺は何も手段を講じることはできない。全てアンジェやジュリスやユリアを犠牲にしないと俺は自由にはなれない。子どもをたくさん作っておいてユーリはさぞご満悦だろう。

結局、俺の味方になってくれる人なんかいないだろう。エミリオも俺の事を思って忠告してくれているが、主家に逆らってまで俺の味方になるわけにはいかないだろうし、まあこれは当主としての当然の考えだ。

エルウィンみたいに鬼嫁になれたらな。ユーリ相手じゃ、鬼嫁にもさせてくれないだろうが、ユーリが隊長みたいだったら俺ももっと楽な結婚生活を出来たかもしれない。

「結局、俺はどうすれば良いんだろうか? ユーリも嫌で、でも子どもたちも手放せない。でもユーリは許さない。味方はいない。四面楚歌だな……」

結局俺が我慢するしかないんだろうか。




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