「セシル、ただいま」

「おかえり、エミール」

両手一杯の薔薇の花を持って帰ってくれるのは子どもの頃から変わらない。
エミールは何時も小さな体が埋もれるほどの薔薇の花束をセシルに持ってきてくれて、大好きおじ様と言ってくれたものだった。
あの頃の幼い笑顔が大好きで、勿論薔薇も好きだったが、あどけないエミールが自分を喜ばそうとする姿が堪らなく可愛かった。

その甥がいまや自分の夫になるなんてあの頃はどうやって想像できただろうか。

「君は、昔から変わらないよね。こうやって薔薇の花を何時もくれる」

「子どもの頃からセシルの笑顔を見たくて、貢いでいたんだ」

「あんな子どもの君に貢がれても、好意なんて分からなかったよ」

勿論、甥であるエミールに好かれているのは知っていた。兄弟がいなかったエミールにとって兄のように慕ってくれていると思っていた。けれど、将来自分と結婚したいと思い詰めているような感情だったなんて、どうやって気がつけというのだろうか。初めて貢いでくれたのは5歳の時だったのに。

「可愛い甥っ子に、子どもまで産まされるとは思っていなかった?」

「そうだね……君の子を産むなんてね」

エミリオとエルシア。二人も甥の子どもを産むなんて、普通では考えられない人生だった。

けれど、エミールがこんな私とでも結婚できて幸せだっていうから。エミールが幸せなら私も幸せなんだ。色んな物を犠牲にしてしまったけれど。兄は一生許してくれないだろうし、エミリオも手放して一生実の親だとは名乗ることはできない。エミリオが良い夫を迎えて、幸せだということだけが私にとって救いだ。

そして唯一自分の手で育てる事が出来たエルシア。ずっと産むつもりは無かった。エミリオを手放しておきながら、今更また自分の子どもを育てる事などできるはずないと思っていた。エミリオに申し訳が立たなかったからだ。けれど、エミリオも兄も許してくれた。

「俺たちの孫ももう3人もいるしな」

「また一人増えそうだけどね」

エルシアも結婚して、かなり年上の妻を迎えた。エルシアも愛する人と結婚してもらって嬉しい。

「こうなる運命だったんだ。俺のセシル」

可愛いかわいいエミール。もう可愛いって歳じゃないけど。でも、ずっと可愛い甥っ子で、そして夫でもある。

私は君が幸せなら幸せなんだと思っていたけれど、君が一緒にいてくれるから、幸せなのかな?


(今頃になって甥に恋をしていることに気がつく、セシル)




さて、息子が幸せそうだと思っているセシルのために、夫であるエミールは最大限の努力をした。

「……セシルに似たのに……どうしてこうなったんだ?」


と自問自答をしてしまうが、自分の血筋を引いてしまったせいだろうと諦め、セシルが聖母のようなら息子が野獣というかただの変態でも構わない。ただし、妻には息子が変態だったと知られるわけにはいかなかった。
あれほどエミリオに申し訳が無いから産めないと、泣いて、そして苦しんだセシルに無理矢理エルシアを生ませた責任があった。

というわけで、エミールは弟(息子)からお尻タイムを楽しんでいた息子を実家から引き取り、こんな歳なので今更処女を奪われたから責任とって結婚なんか必要ありませんと、固辞するダニールを有無を言わせず結婚させ(勿論エルシアの猛アタック&猛お尻タイムの成果もあり)事を収めた。
しかし、それだけでは事は収まっておらず、ダニールには一人息子がおり、邪魔だと思ったエルシアが同じく尻フェチ仲間に襲わせ、お尻監禁をされていたのを知り、義理の孫になるタイラント(ダニールの息子)を救出ではなく『そんなに尻が好きならさっさと結婚して、合法化でお尻タイムを楽しんで跡継ぎを作って、嫁(ダニール)に残してきた家のことで苦労させるな』と説得して、エルシアの尻フェチ仲間とタイラントは無事結婚し、跡継ぎを頑張って作ってもらう事となった。

息子はまだ若いため、尻を楽しむことしかぜず、人(タイラント)を陥れるが後始末がなっていなかったため、父親が全ての後始末をすることとなったのだった。

「セシルのためだ……」

「おかえり、エミール。どうしたの? 凄く疲れているみたい」

「ああ、セシルただいま。エルシアの結婚の準備が忙しかったんだ」

妻の儚げな笑みを見るたびに、結婚できた喜びで幸せに満ち、息子が変態だったとしてもどうでもよくなる。
どうして顔は一緒なのに、息子はタダの変態にしか見えず、セシルはこんなに儚い美しさに満ちているのだろうか。

さっきも、エルシア宅を覗いたら、帰宅早々お尻タイムを楽しんでいる息子夫婦を発見し、顔が自分に似てくれたほうが良かった。あの顔でお尻タイムをしてくれるなと、頭が痛くなったのだが、セシルを見ると全然似ていない、こんな穏やかで美しい人は自分の妻一人だと思える。

「そう。私が何も出来なくてごめんね。この家、私の実家なのに君に全部任せて」

「それが結婚の条件だったんだから当たり前だろう? セシルと結婚できたんだからこれくらいなんでもない」

「疲れているならマッサージでもしてあげようか?」

「セシルを抱かせてくれれば、疲れなんて消し飛ぶんだけど?」

「……もうっ」

薔薇よりも赤くなって恥らうセシルは、幾つになっても可愛らしい。

「愛しているよ」



(そんな父親の苦悩を知らない変態息子)



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