「しかしっ……記憶喪失のエルウィンを抱いても虚しくないんですか?」

「虚しいものかっ! 記憶は無くとも愛しい私の妻に変わりはない! 大好きだ! むしろ、優しくしてくれてこれ以上ない充実感だ!」

「記憶を戻そうとは思わないのですか?」

「戻して何になるというのだっ!!???」

「それはこれまで培ってきたエルウィンとの夫婦生活を取り戻すことに」

「では、聞くが! 私とエルウィンとの間に何があったというのだっ! 毛虫のように嫌われっ!(´;ω;`)甘い記憶と言えば新婚旅行に行ったときくらいっ! あとは、嫌われ生活のみだというのにっ! そんなもの思い出してくれなくて結構だっ! これからは私を愛するエルウィンと幸せにやっていくので、邪魔をするなっ!」

「しかしエルウィンの気持ちを考えると……」

エルウィンの気持ちだと!?

「エルウィンも苦しんでいたのだっ! 私というエルウィンを愛する夫がいながら、異性愛者ということで愛せない事に長年苦しんでいたっ」

「苦しんでいたか?」
「まあ、時々は……」

「だから、エルウィンは異性愛者でさえなければ私を愛せれるのに、受け入れられると心から望んで、記憶を失ったのだ! いわば、今回のことはエルウィンが望んだから起こったことだっ。例え、この記憶喪失が私の独自魔法によることであっても、エルウィンが望まなければいけないという制約があり、エルウィンが私を愛したいから起こるべく起こったことなのだ!」

「いや、エルのやつ、隊長が恥ずかしすぎて記憶を失いたいって思ったんだよな?」
「そう、それで記憶を忘れないと同性愛者なったところで愛せないから……だよね?」

「エルウィンの記憶を戻して何か良い事があるか!!!!!」

「ない……ですね」

「そうだっ! このままのほうがエルウィンも幸せで、私も幸せでいい事尽くめだっ! 分かったら記憶を戻そうとかするでないぞ!!」

エルウィンの記憶が戻ったところで幸せになれるものは誰もいない。

「でも、もし記憶が戻ったら、エルウィンにどんな目に合わせられるか……」

「来るかこないか分からない未来よりも、今のエルウィンのパイパンのほうが貴重だっ! どうせ、私など……何もしないままでもエルウィンに嫌われているのだ……(´;ω;`)いい目にあって、後でコテンパンに酷い暴言を浴びせられようが、構わんっ! エルウィンに嫌われていることなど私の日常なのだからなっ!」


「……なんか、あそこまで開き直られると……もう、それで良いかって気になってくるよな」
「だよな……それに確かに今のところ誰も被害者いないし…隊長もエルウィンに愛されている今、威厳があって普段の隊長になっているし……」
「被害者と言えば、エルウィンだけど……愛せない夫を持つ異性愛者でいるよりも、今のほうが幸せかもな……」
「俺たちでは、エルウィンの記憶を戻してやることは出来ないし……それに今更手遅れだろうし……」
「手遅れって何がだ?」
「隊長は二回目伝説の人だ……エルウィンはもうきっと……」
「ああ……( -_-)」

という訳で、友人の二人にも見放されたエルウィンは、隊長とラブラブで過ごす事を誰も止めてくれる人はいなくなった。

そして、エルウィンと隊長がラブラブで幸せに過ごしている場面を見て衝撃を受けた人物が一人いた。子どもたちではない。ルカもサラも両親は仲がいいと思っている。ルカはそんな両親に憧れて、僕もアンジェ君とパパとママみたいな夫婦になりたいな、と思っているのだが。最近は未来のママからも何故か粗略な扱いを受けている王太子であった。ちなみにクライスは可愛い甥っ子ではあるが、最近ますます隊長に似てくるルカに、アンジェと結婚させたくないような…と思うようになってきたのである。

そして衝撃を受けた人物とは、そうラルフである。自分と張る鬼嫁と噂高かった、法案が出た際には嫌なら従う必要ないとザル法案の抜け穴さえ教えてくれた王妃が…夫と仲良くしているシーンを目撃してしまったからである。

「お、王妃様っ…?」

「おお、ラルフか。エルウィンの話し相手に来てくれたのか。私はこれから政務なのでな。エルウィンの相手をしばらくしていてやってくれ」

「はい、陛下。妻と私とで、陛下がいない間の王妃様のお相手をさせて頂きます」

ちなみに隊長は優しいのであった。自分が満たされたが、自分の親友である同じようにひもじい思いをしてきたリオンに幸せを分けてあげたいと思う優しい心の持ち主であった。

「あ、あの王妃様……陛下とあの法案を実行に?」

「法案? ああ、週2法案というのができたらしいですね。でも、俺はそんなものがなくても陛下を愛しているので、陛下が俺を抱きたいのでしたら、何時でも応じたいと思っています」

え? でも何で?
あの頼もしかった鬼嫁王妃様はどこに行ったのだろう?
こんな恋するような目をしていなかったような…?
絶対あんな法案無視って言っていた王妃様は?
夫に応じたくないと思っている妻は俺だけじゃないんだよな、俺よりも高貴な王妃様が夫に応じないんだから俺もいいんだよな。と思わせてくれたのに……

俺も、昨夜、王妃様に言われたように、リオンを拒否しようとして……でも、法案がと詰め寄られて一回は頷いてしまったけれど……けれど、王妃様の顔を思い出して、やっぱり無理と断わったのに。


その王妃様がどうして?

「王妃様……恥ずかしながら、私はずっとラルフに寝所を共にする事を拒否されて久しいのです」

「ええ!!!??? どうしてですか?ラルフさん! そんな残酷なことをリオンさんにしているなんてっ!」

「で、でも……王妃様はそれで良いって」

「え? 俺、そんなこと言ったんですか? どうかしていました! リオンさんが可哀想ですよ! こんなにラルフさんを愛しているのに!」

「分かってくださいますか! 王妃様……私は子どもの頃からラルフを愛していました! ですが、ラルフは幼馴染と結婚したいと言って私を拒絶しました。でも私はそれでもラルフを愛していました! ラルフは重病で……ラルフが幸せなら私以外の男と結婚しても良いと…それでもずっと見守っていこうと誓っていました。ですが、運命の女神は私に微笑みました……ラルフは妻を捨てて私と一緒に来てくれたのです! そしてラルフの病気が治ってすぐに私たちは結ばれ、子どもに恵まれました!」

「結ばれてって……違います! 確かに戸籍上は事情があってリオンと結婚はしていましたが、あくまで形式上のものであって……昔好きでいてくれたことは知っていました。でも、まさかまだ俺のことを思っていたなんて……何も言わないまま、有無を言わさず事に及んで。子どもができなければ、夫婦として生活しようなんて思いませんでした。例え、書類上は夫婦であっても」

「ラルフっ……きちんと君に愛を告げてから抱くべきだった。しかし、分かっていてくれていると思っていたんだ。愛してもいない君を、私の一生をかけて救おうとなんて思わないだろうし、プロポーズしたこともあった。だから、私を受け入れてくれているのだと勘違いをしてしまったんだ。だが、子どもにも恵まれたことだし、夫婦としてちゃんとやり直して欲しいっ」

「でも……」

「それはラルフさんが可哀想ですよ!」

「王妃様っ」

「リオンさん、ちゃんとプロポーズからやり直して、新婚時代をやり直しましょう! 最初が駄目だったので、ラルフさんも拒否をしちゃうんですよ」

「え? そういう問題では」

「もう一回プロポーズして、今日、初夜のやり直しをしましょう! 大丈夫です! 俺が全部プロデュースしますから(^▽^)俺は陛下と愛し合えて幸せなので、幸せのおすそ分けをしたいんです」

「ありがとうございます!王妃様」

喜ぶリオンだが、ラルフにとってエルウィンの笑みはこう見えたらしい。Ψ( `▽´ )Ψ



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