「おい、エルウィン、大丈夫か?」

その日クライスとエミリオはエルウィンが夫である隊長がアホな法令を出したことを怒って、隊長を虐待していないか心配になって王城にやってきていた。
大丈夫かということは、別段隊長を心配してという訳ではなく、エルウィンが怒りすぎていないかと心配してのことだったが。

「え?……おはようございます?」

エミリオとクライスは硬直した。エルウィンだけと思って寝室に入り込んだら、そこには隊長とエルウィンが全裸で明らかに情事後と思わしき格好で、抱きしめられながら寝ていたからだ。

「おい……あのエルウィンが法令を大人しく守ったのか?」
「……意外だが、王妃だから国王の勅令をきちんと遵守しないと……とか思ったのか?」

「エミリオ、クライス。夫婦の寝室に入り込むとはぶしつけではないか? しかもここは国王の寝室でもあるのだぞ」

「はっ……そ、そうですね。申し訳ございません」

何故だか威厳がある隊長にそう言われると普段は滅茶苦茶3人でこきおろしている存在が、物凄く高貴な存在に見えてエミリオやクライスたちを敬語にさせた。

「ではエルウィン行って来る。本当は政務などをせずずっと一緒にいてやりたいのだが」

「俺は大丈夫です。行ってらっしゃいませ、あなた」

どう見ても新婚夫婦にしか見えない二人に「おい、あなたとか言っているぞ」「性根を入れ替えたのか?」「あのエルウィンがか?」と疑問が尽きず、隊長がいなくなってからエルウィンを問いただそうと思っていた二人だったが。

「クライス、エミリオ。しばらくエルウィンと会う事を禁じる。ここから出て行くが良い」

「どういうことですか!?」

「私たちがいるからエルウィンは王宮でもこうやってやっていけているんですよ」

実際にエルウィン一人だったら愚痴を零す相手も頼る相手もいない状況で、ノイローゼにでもなったかもしれないだろう。

「お前達の存在がエルウィンに悪影響を及ぼしていたのだ! エルウィンはこの度の法令で私を受け入れる事を決意し、そうしてくれた! 昨日の夜の甘美なことといったら……だが、貴様らがまた余計なことをエルウィンに吹き込んだら、またエルウィンが悪の道に引きずりこまれてしまう! だから接触禁止だ! 分かったなっ!」

「えっと……むしろ俺たちはこれまでエルウィンにもう少し鬼嫁度を低くするように……たまには隊長の相手をするようにさえ進言してきたんですけど」

「駄目だ駄目だ駄目だ! お前たちは夫を立てるということを知らんっ! もっと慎ましやかで夫を熱愛するような妻ではないとエルウィンの取巻きにはさせられんっ」

「私たちはエルウィンのよき友人であって取巻きでは」

「しかもそんな妻、存在するんですか……?」

「お前の兄マリウスのような貞淑な妻や、私の親友の妻ラルフだ! お前達のように仕方がなく夫の相手をしてやっているんですという妻には用はないっ!」

******

「どうもおかしいよな?」

「ああ、どう考えてもエルウィンらしくない行動だ。あんな法案一つで、隊長に身体を許すか?」

「むしろ、せせら笑って、馬鹿にするほうだよな」

「しかも辺境伯リオンの妻……ラルフ? 私の情報ではエイドリアンから聞いたんだが……ラルフという人は弟よりも凄い鬼嫁で夫を拒否しまくっているらしいと。そのラルフと言う人は私たちよりも余程エルウィンに悪影響のはずなんだが、何故隊長はエルウィンの取巻きにその男を選ぶんだ?」

エミリオやクライスには週2法案は関係ない。夫から週2以上求められていて応じているからだ。だから夫たちもこの法案にそれほど興味もないし重要視もしていない。従って辺境伯と国王が共謀していることは想像もしていなかった。

「辺境伯家に聞きに行くか? エルウィンの変貌の理由を知っているかもしれないし」

「っていうか、お前出産したばかりでこんなことしていて良いのか?」

「ギルフォードが面倒を見てくれているし、少し気分転換をして来いって言われているんだ。それに今帰れって言われてもエルウィンのことが気になって帰れん」

「しかし……辺境伯家にはツテがないしな。どうせ隊長が緘口令を敷いているだろうし……よし」

クライスは長男であるアンジェを連れて、甥であるルカの元に行った。

「あ、アンジェ君! 遊びにきてくれたの!」

「お母さまが連れてきてくれたんだ」

「ルカ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なに、クライスまま?」

「ママ、ちょっと変だよな。何があったかルカは知っているか?」

「………」

『知っているなルカは』
『ああ』

「ルカ、クライスままに教えてくれないか?」

「パパに……誰にも内緒だよって」

「そうか………アンジェ、ルカはお母さまに嘘をつくんだって。ルカみたいな嘘つきと結婚はしては」

「ママ、記憶喪失なんだって!!!! パパに内緒だよって言われたんだけど、ママ、パパのことを忘れちゃったんだって……でも、病気だからしょうがないからママのことをせめちゃ駄目だよってっ……」

「そうか……ありがとうルカ。正直に教えてくれて」

「クライスままっ! ぼく、アンジェくんのお婿さんにしてくれるよね! ちゃんと言ったから!!(´;ω;`)」

「エミリオ……どうする?」

ルカのお婿さんにしてくれる?攻撃を無視して、エミリオに向き直った。



「記憶喪失か……何でそうなったんだ? 昨日セシリアの顔を見に来てくれたときは普通だったぞ」

「隊長が、エルウィンとエッチするために記憶を消したのか?……だとしたらエルウィンを救出してやらないと」


******
「どうしたんだ? 陛下、なんだか今日は物凄く神々しいような」

「そうだよな。なんか威厳があって眩しい位だ」

元々隊長はそういう人であった。カリスマ性があり、尊敬され、行動力、魔力、誠実さ、何もかもが完璧な男であった。そう……結婚するまでだ。というかエルウィンに出会うまではというべきだろうか。

「隊長! お話があります!」

「エルウィンが記憶喪失だろうですね! 記憶を消去してまでエッチしたいだなんて、なんてゲスな男なんですか! エルウィンの記憶を戻してくださいっ!」

「貴様らっ、どこでそれをっ!」

「ルカが吐きましたよ。なんせ、俺はルカにとって未来の義理の母親ですからね。俺がアンジェを嫁にやらないと言えば、一秒もしない間に父親を裏切りましたよ。そういうところ、父親や叔父にそっくりですね。流石卑怯な公爵家の男達だ。隊長も、エルウィンには誠実だと思っていたのに残念ですよ」

「さあ、記憶を戻してくださいっ!」

「私はエルウィンの記憶を消してはいない! どうしてだか分からないが、記憶を失っていたのだっ!」

そう、私がエルウィンにいつものように一生エッチをしないと言われ泣いていると、エルウィンは私のような夫を持って不幸せだと、いっそ同性愛者になって今までの記憶を全部失って私を愛したいと言ったのだっ!
すると次の瞬間、エルウィンは私に関しての記憶を全部失っていた。

『エ、エルウィン! どうしたのだと言うのだっ』

『俺の名前エルウィンって言うんですか……?でも、そんな気がします。たぶん貴方は、俺の大事な旦那様ですか?』

『そうだ! その通りだっ! 私はエルウィンの愛しい愛しい大事な愛する夫だ! それだけ覚えてくれればよいのだっ!』

『はい、俺もそんな気がします。旦那様』

『だ、旦那様っ( ̄TT ̄)・:∴ブハッ そ、それも良い、良いがっ。できれば旦那様ではなく、あなた、と呼んでくれると、凄く良いっ!!!』



『はい、あなた』

「とこういう訳なので、私は何も悪くないっ! エルウィンが突然記憶を失ったのだっ」

この悪の枢軸の二人は私を悪いというが、私は何も悪くないのだ!

「……っていうか、その回想で自分のいいようにしているだけで、エルウィンの記憶を戻そうとする行動を何も取っていないですよね」

「心配にならないんですか? 突然記憶を失うなんて……何か呪いの魔法でもかけられたか」

「いや、どう考えても、そのタイミングで記憶を失ったのは、魔法が関係しているだろう。それもおそらく隊長の独自魔法のような気がする」

「濡れ衣だっ!!!!!!!!!!!」

私の魔法は何でも出来るというわけではないのだっ! むしろ自分の欲望に関するような魔法は、一族がどれほど魔法の開発に乗り出そうとも、適わない事が多い。
例えば、私の場合など、すぐにエルウィンを妊娠させてしまうが、孕まそうとしたもできない者も多いし、逆に避妊魔法を習得しようにも、欲望に負けてできないのだ!!!妊娠と避妊は一族のものは上手くないし、魔法薬の開発もできずにいる。
そして一族の悲願の相手に振り向いてもらう魔法など、誰も独自魔法を持ち合わせたものはいない。こんな伴侶に愛される魔法を持たない私たちが(´;ω;`)万能なはずなどない!!!

「そういわれればそうなんですけど……」

「ただ、一族の妻に嫌われる血を脈々と繋いできた隊長が、遺伝と、エルウィンにこれまで虐げられてきた経験がミックスされて、独自魔法を作り出した可能性が高いような気がします。ただ、おそらくこれには、魔法をかけられる側が、心底願ったことでしか反映されない魔法じゃないかと思うんです。これまでエルウィンは隊長を好きになりたいなんて思ったことが無かったから、今までその魔法が発動しなかったけれど、今回はあまりにも隊長が恥ずかしい法案を通したせいで、頭に血が上って、記憶を失って同性愛者にでもなって恥ずかしい隊長の記憶を消して愛せたら、と一瞬思った時に、魔法が起動してそうなったんじゃないでしょうか?」

「それが正解のような気がするな。流石隊長……独自魔法を作り上げたわけですね」

「おおっ! これでエルウィンが病気でも何でもないことが分かったな」

「そういう問題ですか! っていうか、記憶を消された不安定な状態のエルウィンによくも手を出しましたね! 普通は記憶が戻るまで待つでしょう!!!」

「馬鹿なっ!! 何故、待たねばならないのか!!?? エルウィンが自ら、妻なら夜の義務を果たしたいといってきたのだぞ!!! あのパイパンにエッチな下着をはいて、私に脱がせて欲しいと懇願してきたのだ!! そのパンツを脱がせて、脱ぎたてのパンツを貰い、パイパンを舐めて、私の息子を挿入するのこそが正義だ!!!!!!!」

そう、せっかくエルウィンが私を夫だと思っているのだ!!!
どうして大人しく指を咥えて待っていることが出来ようか!!!!

「記憶の無いエルウィンを騙すような真似をして恥ずかしくないのですか??」

「今の状況をきちんと説明をして、記憶が戻るように努力すべきでしょう!! それをたったの数時間、いや数分後に手を出すんですか!!」

「男の風上にもおけない最低な男ですよ、隊長はっ!!!」

「何とでも言うが良いっ!!!」

なんと言われようが構わんっ(´;ω;`)

「お前たちとて知っていようっ! 私が今までどれほどひもじい思いをしてきたかっ(´;ω;`)結婚生活六年目で、特にここ数年はたったの一回しかしておらんのだぞ!!! エッチがしたいと言えばエルウィンに氷のような目で見られ、廊下にだされっ!(´;ω;`)パンツで自家発電でもしてくださいとパンツで誤魔化されっ! 可愛い子どもを持つ夢を奪われっ! この結婚生活で僅かっ五回しかしておらんのだぞっ! そんな私の目の前に清楚で私を夫だと慕ってくれるエルウィンが現れたのだっ!!! ゲスな男と罵られようがっ! 恥ずかしい男だと言われようが、なんと言われようが構わんっ!!! 私は今幸せなのだっ! そして記憶の無いエルウィンと私はやりまくるのだっ!!!!!」




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