「お邪魔しま、す」

「来てくれてありがとう、ナナさん、アーセルさん」

「お言葉に甘えてお邪魔します、マリウスさん」

「ううん、せっかくの誕生祝を持っていきたかったのに、ロベルトが駄目だって煩くて。お祝いなのに、足を運ばしてしまって、ごめんなさい」

僕たちの子どもが生まれて、マリウスさんが見に行きたいしお祝いを持って行きたいと、夫であるロベルト様にお願いしたそうだが、そろそろ臨月になるマリウスさんが心配で外出の許可を出さず、出産したらますます外出できないという事で、じゃあ、僕たちが行くよとマリウスさん宅に来たわけなんだけど。

ロベルト様の転移の魔法であっという間に来れたので、何の手間もかかっていないけど、お宅というのが申し訳ない、物凄い広大なお城だった。

「なあ、ナナ……あのままロベルトさんと結婚していたら、お前この城の奥様だったんだぜ。勿体無い事をしたとか今思っているだろ?」

「そうかもね」

とつい、アーセルには言ってしまったけど……ないない!としか思えない。ごくごく平凡な平民だったこの僕がこんなお城で若奥様をしているとか、ありえないでしょうと叫びたくなってしまう。王都にあって、これほど広大な敷地の中に、お城がいくつもあって……マリウスさんが住んでいるお城はその中でも一番小さな別宅らしいけど、これが一番小さいの???と盛大な疑問になるようなお城だった。だって部屋100個くらいはあるよね……

「ナナさん、これ赤ちゃんにお祝いなんだけど……俺が編んだ靴下と靴と帽子でお腹の子とおそろいなんだ。貰ってくれる?」

「ありがとうございます」

赤ちゃんは転移をしても問題ないので、一緒に連れてきている。今日は温かいけど、せっかくもらったので帽子を被せてみる。可愛い……っ。たぶん、この毛糸とか物凄い高いんだろうな、と思う。

マリウス様は何もかも一流のもので囲まれていた。またそれが似合う。
このお城に住むまでは小さな家に住んでいて、メイドも雇わずに買い物も一人でしていて、貴族の奥様という感じじゃなかったけど、でも明らかに貴族だということは分かるという感じだったけど、今じゃあピカピカすぎて、城下町の僕のパン屋とかにいたら違和感半端ないだろうなあ。

昔から美人で、こんな綺麗な人を見たことがないと一目見た時からそう思っていた。
ロベルト様との結婚が駄目になった時、ロベルト様を寝取ったのがマリウスさんで、一目見て負けたと思った。こんな綺麗な人相手で、勝てるはずが無いって。しかも騎士で、たぶん貴族で、魔力もあって。ロベルト様と物凄くお似合いだと思った。
こんな綺麗な人相手に戦うのも馬鹿馬鹿しいと思って、大人しく婚約破棄を受け入れた。そうするしかなかった。
けど、今じゃあ仲良くお友達付き合いをしているのがなんかおかしいと思わないでもないけど。

そして運ばれてくる美しい茶器に美味しそうなケーキの数々。

「物凄く大きなお城だし、こんな高そうな茶器だし、手が震えそう。マリウス様よくこんなお城に平然と住んでいられますよね」

「……俺も前の家のほうが住み心地は良かったんだけど、せっかく義両親が用意してくれたし……良くしてもらっているし、文句を言ったら駄目なんだけど。もう少し小さいほうが良かったかな」

「ですよね〜俺ももうこの城見た時からびびって。庶民の俺たちには縁の無いようなお城でもうびっくりで。でも貴族のマリウスさんでも、やっぱりこのお城大きいんだ」

「マリウスの実家は侯爵家だから、この家よりも余程家格は上なんだが。ただ、うち成金というか……金だけはあるから、こんなでかくなってしまうんだ。ほどほどにしておいて欲しかったんだけど」

伯爵家だと聞いていたロベルト様の家よりも、家格が上なんだ、マリウスさんは……それはこの美貌だから、当然だろう。

でもどうしてだろう。全然羨ましく感じないのは。だってロベルト様ともし結婚していたら、僕はマリウス様みたいな若奥様できなかっただろうし、貴族のご両親とも上手くできるとは思えない。こんな大きなお城にしり込みをして、すぐに帰りたくなっただろう。

やっぱり身の丈にあった生活って大事なんだな。
お店は借金もないし、家もある。商売も上手くいっていて、利益はたくさん出ている。マリウスさんがこっちに移ってからは、伯爵邸御用達のパン屋に何故かなっていて、今たくさん人を雇っているし、全部上手くいっている。

「あっちの塔も誰か住んでいるの?」

「いえ、あっちは宝物庫らしいけど」

「らしいってことはマリウスさん見たことないの?」

「うん、あんまり興味がなかったし。でも、アーセルさんたちが興味があるんだったら、案内してあげようか。ねえ、良い?ロベルト」

ということで、貴族様の宝物庫にGOとなりました。だって一生に一度のチャンスだし、マリウスさんの生活は羨ましくないけど、見てみたいとは思うし。

キラキラのピカピカーって感じ………だと思ったら????

「え? ここ……が宝物???」

「のはずなんだけど……ねえ、そうなんだよな? ロベルト」

「そのはずなんだけどな……何なんだこれは」

「エプロン?……ブリーフ?……ブラ? 前掛け????」

どう見ても使用した後だと思われる、エプロンやブラやパンツ(当然男物)が展示してあり、特にたくさんあるのが前掛けだった。
色取り取りの前掛けが、所彼処に………

「……ここはたぶん……母上の宝物庫に改造されているような……」

「ロベルト、どうしてメリアージュ様の宝物庫にパンツとか前掛けとかがあるんだ?」

「マリウス……世の中には知らないほうがいいこともある。たぶん、本当の宝物は端の塔のほうに移されたと思うから、あっちに案内をするよ」

と一旦謎の宝物庫から出ると、何かが降ってきた。巨大なクレーターが地面にできて、隕石なのだろうかと驚愕していると、クレーターの中央から前掛けをかけた全裸の男が這い上がってきた。

「お義父様っ大丈夫ですか?」

「父上……また母上の逆鱗に触れたんでしょう?」

「何もしていないんだっ……ただ、メリアージュ様が余りに夜活発なので、マリウスを見習ってお腹の子のためにも大人しくして下さいと言ったら……問答無用で前掛けをっ……(ヽ´ω`)」

どうやらロベルト様のお父様らしい前掛け全裸の男性は……あれ? なんか昔短期でパートにきてくれていたロアルドさんに似ているような??

「100メートルくらい落下してきたよな……普通死ぬよな?」

「だよね……」

「この浮気者があああっ!!!!!!!!!!!!!!!! なに、マリウスにお前の全裸を見せているんだっ!!!!」

「メ、メリアージュ様っ!!!(´;ω;`)  でも、メリアージュ様が私をここまで飛ばしてっ」

「言い訳は無用だっ!」

とボコボコにしている、おそらく奥様らしい、とてもハンサムな男性が。

「メリアージュ様っ! お義父様は前掛けをつけてらっしゃるので全裸じゃないですよ!」

「え? そこ? っていうか、殴るの止めないでいいの? 死んじゃうと思うけど」

「え? 全然大丈夫だよ。だっていつもの恒例の行事だし、メリアージュ様は妊娠中なので、たいした力出せないから外国まで飛ばすこともできないから。とはいってもお義父様丈夫だから、外国まで飛ばされても何時も無傷だし」

え? そういう問題なの? 
丈夫だからって……っていうか、庶民だったら絶対に死んでいるのに。って、これが日常なの?



「お前は美人の嫁に何時もデレデレしやがってっ! この浮気ものがっ!」

「もう前掛けは許してくださいっ」

「これで許してやると言っているんだっ! 大人しく言う事を聞けっ! まだまだ使用前の前掛けは山のようにある!」

尻に引かれているレベルじゃない、夫婦……あれがロベルト様のご両親。
ひょっとしたら僕の義理の両親になっていたかもしれない方々………

「凄いご両親ですね……」

「うん、凄く素敵なお義父様とお義母様だよ。凄く良くしてもらっているんだ」

マリウスさん……あの様を見て、感想はそれなんですか?
明らかに今、虐待と言うか陵辱されにいく夫を見たような気がしたんだけど。気のせいなのかな……貴族様の夫婦喧嘩ってあれが普通なのかな。だとしたら僕はやっぱり貴族様の世界は合わなかったってことなんだよね。

っていうか、貴族様でも、あれで死なないの????


「アーセル……僕、本当にアーセルと結婚できて良かった」

「ああ、俺もお前がこんな所に嫁に来たら……祝福してやりたくてもきっと出来なかっただろうよ」

僕は今日、とても幸せを感じた。マリウスさん、ロベルトさんを寝取ってくれてありがとう。



ロアルドはその生き様で、嫁になるかもしれなかった男を幸せにした。

ただし、本人は妻を愛していても、妻に前掛けをかけられ陵辱されるのは好きではなかった。だがこれがメリアージュ様なのだからと、妊娠中の妻を慮って耐え抜いた(ヽ´ω`)妻の理不尽なやきもちは何時ものことだからと……前掛けを締めながら。



「メリアージュ様、何故メリアージュ様は前掛けがそんなにお好きなのですか?(ヽ´ω`)」

ちなみに夫は知らない。先祖代々の宝物庫が、前掛け置き場になっていることを………


3日後




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