「僕、身体を鍛えてくるっ!」

普段、アンリはユアリスを溺愛しており、何でも我がままを聞いてきた。
なので、身体を鍛えてくるというユアリスの突然の宣言もとくだん反対せず、生暖かく見守っていた。

「僕のほうがメリアージュよりも魔力が強いんだからっ! 今度は僕が、メリアージュはもう死んでいるっ!って宣言してやるっ!」

王子として、蝶よ花よと育てやれたユアリスはプライドが人一倍高く、夫の婚約者だったメリアージュにデコピン1つで追いやられたのを許せるはずが無かった。
ちなみにメリアージュ本人は忙しい! と、けんもほろろにユアリスを追い返そうとし、夫を犯しながらデコピンをユアリスにお見舞いしたのだった。

「僕のほうが強いんだからっ! 僕のほうが強いんだもんっ」

そしてユアリスはメリアージュが結婚退職するまでいた部隊に潜入をした。メリアージュ以上の強さを手に入れるためにっ。

「はぁはぁはぁっ……も、もう、無理っ」

「そこ、たった500メートル走っただけで何が無理だっ! あと95.5キロも残っているんだぞっ!!!」

「腹筋500回だっ! 何3回でダウンしているんだっ!」

「僕、王子だったんだもんっ! 軍に入っていた時も、アンリ様のお嫁さんになるための花嫁修業だったんだもんっ!! これ以上腹筋したら、お腹割れちゃってアンリ様に可愛がってもらえなくなっちゃうよっ!!!」

ちなみにアンリの秘書官として軍に入ったのは、花嫁修行ではない。公爵家と王家を橋渡しをする役目だったが、ユアリスの中ではアンリと結婚するまでの腰掛になっていた。

「え?……あの新人、アンリ隊長の奥様?」

「ユアリス元王子殿下だぞっ……ど、どうする?」

「いや、しかし自分から入隊してきたんだし……でも、500メートルしか走れない、腹筋は三回しか出来ない。腕立て伏せは全く出来ない……懸垂なんて言うまでも無いって…いったい」

騎士には公爵家の跡取りですら、一般騎士から始まり、厳しい訓練をつむ。王家の王子や王族も同様だ。
秘書官ではなく、通常の騎士として入隊すれば、出世は一般人よりは早いだろうがそれでも特別扱いは無い。
ハードな訓練は当たり前なのだが、このユアリス様はポンコツ同然だった。

「魔力は高いのに……」

「使い方を分かっていないんだろう……あの体力の無さ……」

「打倒メリアージュとか言っているけど、どうやったって副隊長に勝てるわけないよな……」

普段はアンリのためにその美しさを維持するためだけに、努力するユアリスである。
ただの王子だったら扱くところだが、第一部隊隊長アンリの妻である公爵夫人だ。下手に正体がわかってしまった以上これ以上扱くとアンリの逆鱗に触れかねないと、及び腰になってしまっている。

「おい、ロアルド。お前何とかして来いよ」

「そうですよ分隊長! ユアリス様を追い払ってくださいっ」

「何で俺がっ?」

「だって打倒メリアージュって王子言っているんだぞ? 副隊長の夫で、アンリ様の義理の伯父のお前が責任を持って処理するべきことだろう!」

と全てをロアルドに押し付けたのである。

「……あの、ユアリス殿下…その、殿下は騎士には向かないので、もう訓練は止めましょうか?」

「僕だって、筋肉ムキムキになったらアンリ様が嫌がるから、やだよっ!」

「じゃあ、止めましょうか」

「でも、でも! それじゃあ、メリアージュに勝てないっ!!!! あれ? どこかで見た顔……」

「はい……私がメリアージュ様の夫のロアルドと申します」

ユアリスが決闘にメリアージュの元を訪れた際、メリアージュはロアルドに乗っかっていたので、当然ユアリスとロアルドは顔を合わせている。

「……ふんっ! メリアージュはアンリ様から君みたいな夫を選ぶなんて、随分レベルを下げたんだねっ!」

「そうですね。本当そう思います」

「何それ! 確かに真実だけど、怒らないの? アンリ様ほど素晴らしい方はこの国にはいないけど、そんなことを言われて悔しくないの!!??」

「いえ、どうやってもアンリ様には勝てませんしね。張り合うのが馬鹿馬鹿しくなるほどです……何時も私も思っていますよ。メリアージュ様は公爵家の方でご親族の見て育ってきたので、私なんかをどうして選んだんだろうって……でも、メリアージュ様の私への愛は確かなので、永遠の謎にしておこうと思っています」

「……僕だって僕だってっ! どうしてアンリ様がメリアージュじゃなくって僕を選んだのか自信が無いよっ!」

「私のメリアージュ様も素晴らしい方ですが、ユアリス様だって」

「僕なんか魔力が高いだけの張りぼてだよ!!!……戦闘能力は無いに等しいし、爆発させて国を滅ぼすことくらいはできるだろうけど、メリアージュみたいな戦いはできないしっ……メリアージュよりも馬鹿だし……王子だって身分だけは高いけど、公爵家のほうがずっと権勢があるし!!! メリアージュに勝てるところなんか何も無いのにっ……この前だってデコピン1つで負けちゃったんだもんっ」

メリアージュみたいなカリスマ性もない。
ただアンリ様に愛されているしかない僕とは違う。メリアージュは夫を縛り付けておくだけの力がある。僕にはアンリ様を縛り付けることもできないのに。

「メリアージュ様も、コンプレックスの塊のような方なんですよ。私が可愛い子が好きだとずっと思っていて、自分が可愛くない事にずっと気にしていらっしゃるんです。たぶん、ユアリス殿下のことを羨ましがっているんじゃないかな?」

「僕の事をメリアージュが?」

「そうなんです……あんなに凛々しくて素敵な方なのに」

このロアルドって男は凄くメリアージュのことを分かっている。誰よりも深く理解していて、メリアージュを受け入れている。

「だからユアリス殿下もそんなにメリアージュ様を気になさらなくても構わないんですよ。自惚れじゃ無いんですが、メリアージュ様……私以外に興味がないので」

「……メリアージュも男の趣味だけは良かったんだね」

「え?」

「もう騎士になるの止めるっ! メリアージュが羨む美貌を損ないたくないからっ……アンリ様の可愛い奥様をしているもん」


\メリアージュなんかに/
 \泣かされてないもんっ/
\アンリ様のせいだもんっ/


こうして、メリアージュへのライバル心は失わないまま、決闘など直接関わることは止める事にしたユアリスだった。決してメリアージュに泣かされたからじゃない。


ただ、平和になったアンリ夫妻とは別に……
夫へのストーカーを常にしている妻は、夫が浮気をしているシーンを見逃すわけが無く。

「よくもユアリスに男の趣味は良かったと褒められて、デレデレしていたなっ!!!!!」

「デレデレなんかしていませんっ!! (´;ω;`)見ていらっしゃったのなら分かるでしょう! 宥めていただけですっ! 今怒るならどうして邪魔してくれなかったんですか!」

「これでも穏便に済ませたんだっ! アンリの大事な妻をめためたにしたら流石の俺でも命は無いかもしれないからなっ! だから後でお前にお仕置きしてやろうと決意したんだっ!……相当嬉しかっただろう? ユアリスは従兄弟のセシルと張る、国内で最も美しい男と評判だからなっ!」

「た、確かに美しい人ですがっ(´;ω;`) 俺の趣味では」

「趣味ではないなんて嘘をつくなよっ! ユアリスはお前の趣味ジャストだろう! ……だがこれを裸の上から着るなら許してやろう」

「こ、これは……前掛け?」

裸エプロンならぬ、裸前掛け??!!

ど、どうしてメリアージュ様はこんなマニアックな!(´;ω;`) 

裸前掛けにさせられて、台所で散々搾り取られたロアルドは、最後まで怒りの解けなかったメリアージュにやっぱり美人の嫁が良かったんだろう!!!!
と殴り飛ばされ、隣国で前掛けが取れた姿で発見されたが、いつものように無かった事で処理をされて、裸で帰ってきてまた更にお怒りの奥様に襲われ……

3日、軍に復帰できなかったという……(ヽ´ω`)

END




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