サイコパス(笑)クリストフサイドの話です。
偽りと真実の愛  が受けいられなかった方は、読まないで下さい。





サージェス、僕が今までの人生で一番辛かったときは、そう貴方から離れなければならない時だった。

僕はたぶん母の腹の中にいた頃から、貴方が特別な人だと分かっていたのだと思う。
詳細な記憶は持っていない。赤ん坊だったから。でも、僕を腹の中で育んでくれている人が邪魔だということは分かっていた。
僕の未来にこの人は必要ない。サージェスと過ごすのに邪魔だと分かっていたんだと思う。
僕を出産する時に、たぶん、何かをして、いなくなってもらった。

それから僕はサージェスにとって、宝物になった。大事な大事な……

サージェスは僕が笑うと笑ってくれた。とても僕を愛してくれた。僕もサージェスを愛していた。

一生離れずに側にいたい。

けれど、僕はサージェスの大事な大事な、息子でいてはいけない、とふと思った。どうしてだが分からないけれど、このままではサージェスとの未来は無いんだって。

だから、僕はサージェスから離れるしかなかった。

でも大丈夫だよ。必ず迎えに来るからね。

サージェスが僕を探す声が聞こえたけど、僕はサージェスの元へは帰らなかった。


僕の新しい人生を始める先はもう決めてあった。叔父夫婦の元だ。僕に良く似た従兄弟がいたので、消えてもらった。僕は子どもの頃から安定して魔力が使えた。普通の子どもだったら、不安定でよく暴走をさせてしまうようだが、僕は違った。
ただ良く似た従兄弟だったけれど、瓜二つという訳ではないし、魔力の高さも違う。両親が見たらすぐにばれてしまうだろう。

けれど、従兄弟の死体を見た叔父夫婦は精神の均衡を崩してしまって、僕が簡単な暗示をかけただけで僕を息子だと思い込むようになった。

こうして僕は、叔父夫婦の元でクリストフという新しい名前で人生を始める事になった。

サージェスは相変わらず僕を探していて可哀想だった。僕も側にいてあげたいんだよ……離れるのは僕の心も死んでしまうほど辛いんだ。親戚中にサージェスは息子の捜索を頼み、僕を僕だと分かって泣き崩れた。やっと見つけたと抱きしめて離してくれなかった。

僕もこのままサージェスと帰りたいよ。でも、それは今じゃ駄目なんだ。もう少しだけ待っていて。もう少し。

サージェスとずっと一緒にいられるようになったら迎えにいくからね……

18歳になった頃、僕はサージェスを迎えに行きたかった。
僕はもうとうに何故幼い頃、本能に従ってサージェスの元を離れたのか分かるようになっていた。あのまま側にいたら、僕はサージェスと結ばれることは出来ない。僕はサージェスの側にいるだけじゃなく、その全てを手に入れたかったんだ。5歳の頃は肉欲と言う物が分かっていなかったけれど、たぶん本能でかぎ分けたんだと思う。
サージェスの側から離れないと、一生サージェスを本当の意味では手に入れることが出来ないぞ、と。

僕の性の目覚めはサージェスで始まり、今もサージェスを思ってする。

サージェスは僕の物になり、僕はサージェスを抱く。
そうそのためだけにサージェスから離れたんだ。あのまま離れなかったら、ずっと側にいたらサージェスは絶対に僕を受け入れてくれなかっただろう?
勿論無理強いをすることは簡単だ。でも、そんなことをしたら優しくて弱いサージェスは狂ってしまうかもしれない。そして正式に伴侶となることは不可能だ。

だからね、僕は僕と言う存在を消すしかなかったんだ。

もうサージェスを迎えにいける年齢になったけれど、あと2年待とうと思う。そうじゃないと、サージェスが外聞が悪いとは成人になったばかりだからとか言われかねないからね。

そして唯一僕の正体を知っている伯父に紹介されるという形で、サージェスとの見合いの場を設けてもらった。
伯父は一族でも僕の次に魔力が高く、入れ替わった僕に気がついてしまった人だった。でも子どもの僕でも殺せるような魔力だったし、こうして利用価値があると思って生かしておいた。家族の安全を仄めかせば、伯父は操り人形には調度良い人だった。

サージェスと結婚したいからと言えば、頭が狂っているとか、精神異常者だとか、悪魔の所業だとか、色々言われたけど気にしていない。

だってサージェスを手に入れれるなら何て言われたって、何とも思わなかった。

サージェスはちゃんと僕が特別な存在だって分かってくれていた。ずっと僕を待っていたような気がすると、僕と一緒に入れて凄く幸せだと言ってくれた。

僕もだよサージェス。この日のためだけに辛い15年を過ごしてきたんだ。

僕は夫としてサージェスの側に永遠にいるし、サージェスが先に死んだら一緒に死ぬから、安心して。絶対に一人にしないよ。

「本当に良かったのかい? クリストフ……赤ちゃんの名前を、これで……」

出生証明書に記載をしながら、サージェスはまだ悩むようにその名前を記入するのを戸惑っていた。

「勿論」

「でも……前妻との間にできた子の名前をなんて……普通は嫌だろう?」

「そんなことないよ。サージェスがどれほど彼の事を愛していたか知っている……この子に、その子の分まで愛を込めて育ててあげたいんだ。サージェス」

サージェス、僕は貴方と結婚できてとても幸せだ。でも、たった一つだけ悔いが残るとしたら、あなたが僕のためにつけてくれた名前を、一生呼んでもらえないことだ。貴方が最初に僕のためにくれたプレゼントなのに。

だから、僕らの子にその名前をつけて、貴方に僕の名前を呼んでもらっている気分に浸りたいんだ。

ああ、勿論この子は僕の全身全霊をかけて愛するって誓うよ。元々僕は伯父に子どもを作らないなんて約束を守るつもりは無かったし。それにサージェスに僕の子どもを産ませて、初めてサージェスが僕色に染まったっていえるだろう。

「義兄さんにも見て欲しかったな。この子を……あんなに突然病死してしまうなんて」

「仕方がないよ。でも伯父さんはサージェスが幸せで、きっととっても嬉しいと思うよ」

僕もサージェスがサージェス似の子を産んでくれてとても嬉しい。僕似だったらいけないってわけじゃないけど、サージェスに似たほうが可愛いに違いないし。

「うん……そうだよね」

ああ、サージェス……あなたは何て可愛らしいんだろう。僕の言う事をすべて信じて、僕を愛しているという貴方が堪らなく愛おしい。僕が産ませた子を愛おしそうに抱きしめるあなたはまるで聖母のようだ。

もうこの世には誰も知る人はいないけれど、聖母のようなあなたが、知らないうちに大罪を犯しているなんて誰が想像できるだろうか。

でも大丈夫……僕は一生あなたに告げるつもりはないし、あなたは一生僕の腕の中で守られて生きていけばいいんだ。





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