*攻めが最悪な男ですが、文句はナッシングでお願いします。




妻は最初の出産で亡くなった。
わずか2年にも満たない結婚生活だった。通常出産で命を落とすことはない。治癒魔法があれば、治癒魔法が使える貴族は伴侶を死なせたりはしない。

だが妻は魔力回路が出産時に異常をきたした様で、息子を産み落とすと同時に命を失ってしまった。

伴侶を亡くしたら後を追う夫も多いが、子どもがいるので私はそれもできなかった。それに酷いかもしれないが、妻を好きだったが見合い結婚だった私たちはお互い尊敬し、深い信頼で結ばれていたが、死んでも良いくらいお互い愛し合っていたかといったら、疑問が残る間柄だった。これが何十年も連れ添ったのなら、また違ったかもしれないが。

妻に似た息子を育てながら、いずれ息子に渡す領地を管理し、そうやって時が過ぎていくと思っていた。

しかし、息子は5歳になった時、忽然と姿を消してしまった。はじめは魔力を暴走させて、どこかに転移をしてしまい、戻って来れなくなったのかと探していたが、どうやっても息子の痕跡を探す事はできなかった。息子のほうが私よりも魔力が高く生まれたが、まだ子どもだ。痕跡もなく姿を消すはずがない。

では、誘拐をされたのかと、何かしらの要求があるかと待っていても何もないまま、親族が力を合わせて探してくれたが、結局息子は見つからないままだった。

1年、2年、と5年までは何時か戻ってきてくれるかもしれない、と期待していたが、10年が経った頃には、もう息子は生きていないのではないかと諦めるようになった。

妻が寂しくて、私が後を追わなかったから、代わりに息子を連れて行ってしまったのではないかと、この頃は思うようになった。でも、そう思っていたほうが心が平和だった。

私達が見つけ出せなかっただけで、見知らぬ土地で帰る事も出来ず、小さいため生きていく術もなく、儚くなってしまったのではないかと思うよりも、ずっと心が安らいだ。

息子が消えてから10年以上が経った今、再婚をしてはどうかと言う声も親族から聞こえるようになった。
通常再婚を勧められることは少ないが、私の場合、跡取りがいないことや、結婚生活が短かった事などもあり、もう妻が死んで20年近くたつから、再出発を考えてはどうだということらしい。

しかし、中々そんな相手は巡りあえない。この国では純潔が尊ばれていて、死別とはいえ、一度伴侶がいた私と結婚したいという相手はいないし、私も今更再び結婚など考えたこともなかった。


「サージェス、久しぶりだな」

「義兄さん、お久しぶりです」

亡き妻の兄が何故か正式な面会を申しこんできて、不思議に思いながらも断わる意味も無いので向いいれた。一緒に連れている青年がいた。何気なくその青年を見ると、あまりに亡き妻に似ていたので無遠慮なほど見つめてしまった。

「ああ、クリストフを紹介しよう。私の甥で、弟にとっても甥にあたる」

「どうりで、妻に良く似ているんですね。妻が蘇ってきたかとびっくりしました」

「はじめまして、クリストフです。伯父からよくお話を聞いていました」

ただ、妻には似ているが妻より魔力がかなり高く、がっしりとした長身だ。おそらく軍人をしているのかもしれない。

「息子が生きていたら君くらいかな?」

「まだ死んだと決まったわけじゃないだろう」

「もう15年も行方不明なんです。あの子は頭の良い子だった。生きているんだったら、帰ってきてくれていると思います……今は、妻があの世で一緒にいてくれていると信じています」

「……サージェス、君はまだ子どもをもう一度手にするチャンスはあるんだ。今のままでは生きる屍のようだ。クリストフを今日連れて来たのは、クリストフとの見合いのためだ」

「えっ?……でも彼は」

見合いの話は何度か貰ったが、皆、私よりも魔力が低い男ばかりだった。だが彼は明らかに自分よりも魔力が高いだろう。

「初婚だし、君よりもかなり若いが、妻を娶るよりも婿を貰ったほうが、新たな人生を踏み出すのに良いだろう? クリストフは長男ではないから婿に出るのに何の問題もない」

「し、しかしっ……クリストフ殿はお幾つなんですか?」

新たな人生と言う時点では、確かに夫から妻になるというのは、余りにも逆すぎて新しいといえるかもしれない。けれど突然の事に戸惑うしかない。しかも妻の甥と言うことは相当若いはずだ。

「二十歳になったばかりです。ちゃんと軍で仕事もしています……貴方の夫として不自由はさせません」

「いや、そういうことではなくて。君ほど若くて血筋も正しかったらいくらでも良い縁談があるだろう。こんな倍以上年上で、君の伯父の夫だった男と結婚なんてしなくても」

「それは初めからちゃんと言ってあるんだ、サージェス。それでもクリストフはどうしても君の婿になりたいと言って仕方がなくてだな……」

「覚えていないでしょうか? 昔、お会いした事があるんですよ。貴方は、僕を貴方の息子と間違えました」

クリストフは息子にも良く似ているように見える。従兄弟なのだから当然だろう。息子が姿を消したばかりの頃は、それこそ精神的におかしくなるくらい探した。探して探して……皆からもう止めろと言われるまで止めなかった。あの頃の記憶はそれほど無い。
その頃この青年に会ったとしたら、記憶が無くても仕方がないだろう。

「それは……もうしわけないことをした。きっとあの頃の私は少しおかしかっただろう? 君に何か失礼な事をしていなければ良いが」

「いいえ……やっと見つけたと、貴方は僕を抱きしめて離してくれませんでした。帰ってきてくれたんだなと、とても嬉しそうに笑ってらして。両親が僕を貴方から引き離したとき、貴方は……泣いていました。もう離したくないと……だから、僕は言ったんです。貴方の息子としては側にいられないけれど、大きくなったら結婚してずっと側にいてあげるよって……」

「そ、そんなことがあったのか。恥ずかしいな……」

そんな子どもの頃の約束をかなえにこの青年はやってきたのか。律儀と言うか…

「だがそんな子どもの」

「子どもの戯言だなんて言わないで下さい! 僕はその時から貴方と結婚して守ってあげたいと思っていました。貴方の夫になるためにたくさん勉強しました。当主の座は貴方でも僕になっても良いように領地経営の勉強もかかしませんでした。貴方を守るために魔法も磨いたし、全部貴方の夫になるためです。子どもの戯言だなんて言わずに、僕の初恋をかなえてくれるために、僕と結婚をしてくれませんか?」

私は、再婚だというのに20歳も若い青年を夫として迎えるなんて、親族や友人達になんて思われるだろうか。しかも亡き妻に良く似た、甥に当たる青年だ。そう思うと容易には返事が出来なかった。

だが通常であればこんな馬鹿げた話、すぐに断わるべきだろう。しかしできなかった。
何故ならクリストフが真剣であるのが分かったし、私も一目見て、妻に似ているからではなく、何故かずっとクリストフのことを待っていた、そう感じたのだ。
馬鹿げた直感かもしれない。だけど、どうしてもクリストフの情熱を拒否できず、結婚する事になった。

再婚なのと、余りにも急だったこともあり、身内だけで結婚式は執り行った。友人達に知られるのは恥ずかしいのもあるし、クリストフを見てなんて思われるのか分からず怖かったのもある。妻に似た夫と結婚するなんて正気ではないかと疑われるかもしれないと。

「ごめん……こんな簡素な結婚式で。君は初婚なのに」

「気にしないで。サージェスと結婚できれば、僕は何でもいいよ……愛している、サージェス」

「私もだ……」

私は幸せだった。妻に先立たれて、息子を亡くし、全てを失ったかと思った。

「私は……分からないけれど、君をずっと待っていたような気がしたんだ。君との結婚の約束を覚えていたのかな?」

「運命なんですよ。僕とサージェスが結ばれるという……僕はきっと、生まれた時から貴方を待っていた。こうして手に入れるために……」

短い間とはいえ、結婚していた。だから私のほうがクリストフをリードしなければいけないと思っていた。けれどいざ初夜ともなると、抱いた経験があっても抱かれる立場になるととてもクリストフをリードすることなんかできなかった。けれど何の問題もなかった。クリストフは情熱的に私を欲しがってくれた。

「ああっ……いたっ」

「痛いですか?……すいません。でも我慢して下さい。この痛みは貴方が僕の物になったという痛みで……一生覚えていて欲しい痛みなんです。貴方はもう僕の物だサージェス……僕の妻……なんて愛おしいんだ。この日のために僕は生きてきました。貴方から離れた日の痛みも、今日のためだったんです」

あんまりクリストフが私を激しく抱くから、何を言われたか覚えていなかった。だけど、何もかも失った私が、この日、全てを取り戻した日になった。

クリストフに何度も抱かれて、何でもその精で汚されて、でも一人じゃなくなったという喜びで、もっともっと抱きして欲しかった。欲しがって欲しかった。


*******

「サージェス、クリストフと上手くやっているようで安心したよ」

「伯父さん、当たり前だろう? 僕がサージェスを大事にしないはずがないんだから、幸せじゃないはずはない。ねえ、サージェス」

「ええ……義兄さん。クリストフはとてもよくしてくれています。クリストフを紹介してくれたときには、何を言われているんだろうと呆然としましたが……今ではクリストフがいない世界なんて考えられないほどです」

「なら良かった」

「それに、来年には家族が増えるんです。あの子が帰ってくるような気分で、また親になれるのが楽しみでなりません」

結婚式からそれほど日が経っていないのにもう妊娠したと報告するのは恥ずかしかったが、この喜びを誰かに聞いてもらいたかった。きっと義兄も喜んでくれるはずだ。

「……子どもができたのか?」

「ええ、伯父さん。僕とサージェスの子です。来年の春に生まれます。祝福してくれますよね?」

「……勿論だ。サージェス、元気な子を産むんだぞ」

もう私は40歳を超えていて、子どもができるか自信はなかった。でもこんなに早く生まれてきてくれるなんて。
君はみんなに祝福されて生まれてくるんだよ。
短くして逝ってしまった君のお兄ちゃんの分まで可愛がるから……

そう、私は、とてもとても幸せだった。


END

「何を考えているんだっ! 子どもは作らない約束だっただろう!?」

「そのつもりでしたが、駄目ですね。避妊って難しいみたいで、できませんでした」

「……中絶させろ」

「何を言っているんですか? どうして僕が妻に自分の子どもをおろさせるなんて言えるんですか?」

伯父をせせら笑って、相手にしなかった。

「サージェスに罪を犯させるわけにはいかないっ!」

「ははっ……自分の保身のために、僕を紹介してもうサージェスに罪を犯させたでしょう? 一度罪を犯したのなら、一度でも二度でも一緒ですよ。いいえ、別にサージェスは知らないんだから何の罪も犯していませんよ。分からないんですか? サージェスは僕と一緒にいれて幸せなんです。その幸せを壊すんですか?」

この小心者の伯父が言える筈が無い。虚勢を張ったって、真実を隠し、僕とサージェスを結婚させた伯父は、絶対にサージェスに真実をいう勇気などない。自分の家族の安全と引き換えに、義理の弟を売ったのだから。

「伯父さん……命が惜しければ、もうサージェスと僕に関わらないでください。伯父さんを殺す事なんて簡単なんですから」

「母親を殺したように、伯父である私も殺す気か? 母・自分・そして従兄弟も殺して……お前は悪魔だっ!!!!」

「必要があったからそうしたんです。伯父さんも必要がなければ面倒なので殺しませんよ……母はサージェスを手に入れるのに邪魔だった。従兄弟も僕と言う存在があるためには邪魔だった。ただそれだけですよ」

生まれる前から分かっていたんだ。サージェスは本当は僕の物になる人だって。母は邪魔だったけれど、僕と言う存在が生まれるためには必要だったから、生まれるまでは生かした。

サージェス、貴方と離れるのはとても悲しくて、身が引き裂けれる様だったけれど、でももう平気だよ。だってもう全て僕の物になって、全部が本当にあるべき世界に戻ったから。

「……いずれ天罰が下るぞ! お前は、自分の子が怖くないのか? お前がそうしたように、お前はお前の子に殺されるかもしれない」

「はは、本気で言っているんですか? そんな、馬鹿なことを考える赤子なんて僕くらいですよ。サージェスが生まれるのを楽しみにしているので、愛しますよ。僕の子を。それでは伯父さん、長い間ありがとうございました」

サージェス、真実なんてどうでも良いだろう?
真実は誰も幸せにしない。

「義兄さんは?」

「帰ったよ……僕の息子は元気かな?」

「まだ動かないよ。クリストフに似て生まれてきてくれると嬉しいな……」

「僕はサージェス似の子が良いな」

真実はサージェスを不幸にする。
でも僕はサージェスを幸せにできる。

それだけで良い。他には何も要らない。



END
な、なんか読み手を選ぶような話を書いてすいません。
メリバッドエンドっぽいですが、こういう話好きなんです(><)



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