アルフの逆行魔法は、できるだけ現代にあまり影響がないように修正されていた。
母は結局、結婚式当日逃げ出し、俺の告げた名前の男、父に会いに行き、俺の言葉が真実だったと分かり結婚を取りやめたということになっていた。
一目、父を見て俺の言葉が嘘偽りなかったことに気がついたのだろう。そして父と俺の記憶よりも早く結婚をしていたが、俺が生まれた日には変わりはなかった。
母からは、過去に戻って自分を止めてくれたことにお礼を言われた。あのまま結婚をしていたら取り返しのつかないことになっていたと。閉じこもって俺にすら会わないような日々だったので、こんなに穏やかで幸せそうな母を見たことはなかった。
だが変わったのは母の運命だけだ。勿論、母が殺した人たちの運命も変わっただろう。
しかしブランシュは母が殺そうと殺すまいと、ブランシュの運命は変わらなかった。当然だろう。過去に行ったのはブランシュを変えるためではなかったし、もともとブランシュは母の行いを知らない。母の過去が変わろうと変わるまいと、ブランシュは変わりようがないのだ。
アルフと約束したとおりにブランシュのことを許した。ブランシュのことは諦めた。あれでもブランシュは幸せなのだから、親がどうこういうことはもうできない。
結局、俺は、俺のことが信用できなくて、アルフを素直に受け入れられなかっただけだ。
アルフは俺のためだけに、一生に一度しか使えない魔法を使ってまで、俺の心労を癒すために動いてくれた。
なら、もうこんな歳になってしまったが、ここまで俺のことを愛してくれるアルフを、きちんと受け入れるべきだろう。
俺も愛していると………言えるはずがない!!!!!
どの面を下げて、本当は一目惚れだったんだと、何十年もたって、子どもを二人も作って、孫まで出来たのに言えるんだ?
そんな恥ずかしい事を言えるはずがない。
せめてアルフが……俺の気持ちに気がついてくれれば……本当は私のことを愛しているんだよね?と聞いてくれれば、頷く事ができるのに、アルフは鈍感にも、好きになってくれるはずがない(´・ω・`) と思い込んでいる。
俺に纏わりついて、ずっと一緒にいるのに何で気がつかないんだ、この鈍感男が!
それは……稀代の鬼嫁と親戚で恐れられる俺だが、普段は別に怒っていないし、アルフにも優しく接している……つもりなのに。
なんかもう言わなくても、アルフもこの歳だ。察してくれるだろう、そのうちにきっとと思いながら、言えないままずるずると時がたっていってしまった。
アルフが楽しみにしているうるう年に一回も、俺が気がついているんだ。アルフは時を戻してやりまくっていると。
(´・ω・`)ノ゚・:,。゚・:,。★゚・:,。゚・:,。☆
一度時を遡ったせいか、記憶にはないが、巻き戻されているという感覚だけは感じるのだ。
せこいことをしているのが分かっているので、呆れて回数を増やしてやろうとか、そういう気もなくなってしまって……
もうお互い年だし、もうこの年代になると通常はセックスレスでしないと聞くし……
「お母様、なんか物凄く自分に言い訳をして、愛しているって言わなくても良いと思っているのでは?」
「……メリアージュ、あのな」
「昔は俺もお母様と兄上は仲が悪く、お母様は兄上のことを嫌っているのかと思ってましたけど、そうじゃないと最近分かりました……」
「……お前でも気がつくのに、アルフのやつは」
「いえ、あれで気がつけって無理でしょう。うるう年に一回しか性交渉を許可せず、夫婦生活を終わりにすると言って逃げ回り、それで愛されていると分かれって、どう考えても無理ですよ。愛が微塵も感じられません」
それはお前のように夫を束縛しまくり、全てを管理していれば、言葉がなくても誰が見てもメリアージュは夫を愛していると分かるだろう。
俺もメリアージュのように素直になれれば良かった。
メリアージュのように最初から、アルフのことが好きだと言えていたら、違う人生があったのに。
俺はメリアージュのことを愛している。自分の息子同然だったし、母の血を引いているアンリやブランシュと違って、純粋に愛する事ができた。幸せになって欲しかったし、もしメリアージュのような子が息子の伴侶になってくれたら、息子達も道をあやまることはないだろうと思って、メリアージュに本当に子どもになって欲しかった。
「恥ずかしいのは分かりますよ……俺だってロアルドに中々自分の気持ちを言えなかった。けれど、手に入れるためなら何でもしないといけなかったので、俺は愛している事を隠しませんでした。お母様、それほどお二人に残されている時間はないのでは? だったら素直に最後は生きてください」
分かっている、分かっている……せっかく、アルフが俺のために母の運命を変えてくれた。こんな長い年月素直じゃない俺を見守ってくれて、愛し続けてくれた男だ。アルフは愛される価値のある、いや、愛されるべき男なんだ。
だけど、今更言えない。
だけど、メリアージュが何度言っても言えない俺に痺れを切らして、和解をしてはどうかとお茶会で提案してきたのだ。俺がメリアージュに弱い事を皆知っている。メリアージュにたしなめられたら、言う事を聞くことも知っている。
だからメリアージュは、メリアージュのために和解を受け入れたと思わせるようにしてくれたのだ。プライドの高すぎる俺のために。
「週一良い?」
アルフがとても嬉しそうに、しても良いと聞いてくる。
「……週一で良いのか?」
「え? やっぱり多すぎる? い、一ヶ月に一回なら駄目?」
今までうるう年に一回だったので、一ヶ月に一回だとしてもアルフにとっては多いと思うのだろう。
そしていきなり週一を申し出て、俺が多すぎると怒っているのではないかと思ったのだろう。
「……今まで何十年も我慢させたんだ……回数制限は……なくても良い」
「え? ほ、ほ、本当に? い、良いの?」
「………ああ」
「嫌なのに、我慢していないかい? 本当は私のことをまだ許して」
「許している!………そもそも、初めからそんなに怒っていなかった……」
アルフは不思議そうな顔をしている。なら何で、90歳になるまで頑なに許そうとしなかったのか理解できないのだろう。
「したいけど、したいけど……もし、オーレリーが嫌なら……一ヶ月に一度で我慢する」
「今まで我慢させたから……老後くらい好きにしても良い」
「でもっ……私を愛していないのに、前みたいに結婚してくれたから愛されいると勘違いをして、オーレリーに嫌われたくない……(´;ω;`)」
「それはっ………」
俺が素直になれなかったから、待望の解禁になったのに、アルフは素直に喜べずに、俺が嫌だったらしたくないと(それでも月一だけど)と言っているんだ。
俺が悪いのに、俺のせいで愛をもらえないアルフ……
「来いよっ」
「オ、オーレリーっ?」
アルフを抱き寄せて、そっとその頬に触れる。
「俺は誰の妻だ?」
「わ、私のです」
「なら、俺はお前のものだろう? 俺は……お前の妻になったことを後悔した事は……ない。お前に、愛してもらえて……大事にしてもらえて、幸せだった」
「ほ、本当に?」
「ああ……お前は俺にとって勿体無いほどの夫だったよ」
「私のことを……少しは好きになってくれたのか?」
凄く嬉しそうか笑顔をするから。あの母の運命を変えてくれた時と同じ、いや、それ以上に。
「………ずっと、好きだった」
「え?……それって、ずっとって何時から? ひょっとして、過去に連れて行った時から?」
「………最初に会った時から……」
「え? 最初から?? え? な、何で??」
お互い一目惚れだったのに、どうして60年以上も放置されていたのだろうと、俺の言った言葉が理解できていないようなアルフ。
「ごめん……何十年も無駄にさせて。でも、今からは……全部、俺をやるよ。だから……老後短いけど、アルフ、俺は全部お前の物だ」
「イチャラブできなかったのは悲しいけど(´;ω;`)でも、死ぬ前に好きだと言ってもらえて……もう死んでも良い」
初代鬼嫁と一族から恐れられ、妻たちからはオーレリー様のようになりたいと羨望された夫婦は……老後、新婚さながらのラブラブ生活をしていて、一族の男達に希望を持たせた。
何十年か我慢すれば、あんなふうに幸せな老後を送れるかもしれないと……
「愛している、オーレリー」
「………俺も」
END
「アルフ様、以前だったらメリアージュ様が私に手出しをしていると邪魔をしてくれたのに、今回はオーレリー様とイチャラブ生活をしていて午後まで起きてこない(´;ω;`)そのせいで、メリアージュ様の暴走が止まらない」
オーレリーとアルフの成就を快く思っていないのがたった1名いた。それは第一子の時は妊娠中、浮気防止に過剰なまでに攻め立ててくる妻との夜の生活を邪魔してくれたアルフがいたが、今は妻とのラブに忙しいため邪魔をしてくれず、やりたいほうだいされているロアルドだけだった。
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